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#120 黒き神 その2 (カグヤ視点)

「奴ノ胸部ニハ大キナ古傷ガアル。イツドウヤッテ出来タノカハ知ラナイガ、ヒョットシタラ他ノ、ドラゴン、トデモ争ッテ負ッタノカモナ。トニカク、ソコダケ外殻ガ裂ケテ他ヨリ強度ガ落チテイルハズダカラ、狙ウナラソコシカ無イダロウ。ウッカリ踏ミ潰サレナイヨウニ気ヲ付ケロヨ」



 胸部の古傷──それがあの超巨大なアメジスト・ドラゴンの『弱点』だと、エルマーは教えてくれた。



 そして実際に観察してみると、確かに傷跡があった。

 ドラゴンの外殻の色は、顎から腹に掛けては黒ではなく灰色になっており、胸部に入った亀裂から赤い肉が僅かに露出していた。

 そこに強力な攻撃を打ち込めば、外殻を突き破って心臓に達するはず。



 あのアメジスト・ドラゴンは瘴気を克服して巨大化した点を除けば、アンデッドでもなければ変異魔物でもない通常の魔物であるため、心臓を破壊されれば死は免れない。



 こちらに気付かれる前に急所を破壊して、戦闘になる前に仕留める。

 戦わずして勝つことこそ最善。



「いいぞ、そのまま動くなよ……」



 私をその場に置いて、単独で接近したダスクが、五秒と掛からずドラゴンの腹下に入り込んだ。

 ドラゴンの視線は、依然として眼前を飛び回る霊体アンデッドたちに注がれており、懐に潜り込んだちっぽけなヴァンパイアの存在になど全く気付いていない。



「『陰影の穿破(アンノウン・チャージ)』」



 ダスクが繰り出したのは、闇の魔力を纏った剣を跳躍の勢いと腰の捻りに合わせて放つ、武技と重ね合わせた刺突魔法。

 今までの変異魔物やアンデッドとの戦いでも何度か見たことがあったが、今回はその数倍はあろうかという威力だ。



 通常の魔物であったならば、あの一撃で即死、でなくとも再起不能は避けられない必殺の一撃が、狙い違わずドラゴンの古傷へ直撃。



 しかし──



「全く効いていない、か……」



 何かが胸部に当たったことは把握したようで、視線をそちらに向けはしたものの、ドラゴンは何の痛痒(つうよう)も感じていない様子だった。

 傷口が更に裂けることも無ければ、一滴の血さえ噴き出はしない。

 弱点を狙ったダスクの渾身の一撃でさえ、あのドラゴンの前では無意味。



 とは言え、これは想定内だ。

 如何に亀裂が入って耐久力が低下しているとは言え、弱点への一撃で決着が付くなどという都合の良い展開など、私もダスクも最初から期待していない。



「見ての通りだ。次は君の力を借りる」



 一旦戻って来たダスクが、私の腰を抱き寄せる。



「ええ。共に行きましょう」



 うっかり離れてしまわないよう、魔力の縄を編んで互いの腰を結び束ねた。



 今の初撃はあくまで様子見。

 本番はこれからだ。



「『安静の幕板クワイエット・サンバイザー』」



 闇の魔力で構成された障壁をその場に作り出すという、至ってシンプルな魔法だ。

 故に応用の幅も広く、縦向きにして正面からの攻撃に対する防御壁として扱うのが一般的な使い方だが、実は横向きに配置することも可能で、更に言えば空中に浮かべて固定するもできる。



 私を抱えたダスクが空中へ跳躍、落下が始まる前に横向きの『安静の幕板クワイエット・サンバイザー』を私が展開、ダスクはそこに着地する。

 これを繰り返すことで、さながら階段を駆け登るが如く、高所にあるドラゴンの懐まで迅速に接近できる訳だが、足場を形成するだけならダスク一人でも可能であり、そのためにわざわざ私を抱えて行く必要は無い。



「頼むぞ、カグヤ」

「はい……!」



 魔法技術の中には、複数人が魔力を合わせて一つの魔法を発動する『合同魔法』と呼ばれるものがあると、エレノアから教わった。



 私とテルサを召喚した『招聖の儀』もその合同魔法の一種で、上手くすればあのように一人では決して成し得ない強力な魔法も使えるのだが、各自の魔力の相性や発動タイミングといった条件をクリアする必要があるため、熟達の魔術師でも難度が高い高等技術である。

 人間だった頃から鍛錬してきたダスクはともかく、魔法経験の浅い私では成功させるのはまず不可能、故に今回は合同魔法ではなくそれに似通った、私でも簡単に行える技術を用いることにした。



 ダスクの胸にそっと触れ、



「どうぞ。『望月』をお使い下さい」



 ──魔力供与。



 その効果は実に単純で、自分の持つ魔力を他人に供給する、というものだ。



 闇の極大魔力『望月』を持つ私は攻撃魔法を一切使えず、攻撃手段を持つダスクはドラゴンに傷を負わせるには魔力不足。

 ならば私の『望月』をダスクに送り込めば、ダスクの攻撃力は飛躍的に増大、あのドラゴンにも痛手を与えられるはず。



「懐かしいな。昔は弟や仲間たちとこうして魔力を供与し合ったものだ」



 合同魔法は全員で発動した魔法を重ねるものだが、魔力供与は受容者だけが魔法を使い、供与者は魔力を送り込む以外に何もしない。

 魔力供与にも条件はあるが、互いに接触しており、かつ互いの魔力の属性傾向が近くなければならないというもので、私とダスクであればその二点は問題無く解決する。



「この一撃は耐えられるか?」



 ダスクが技の構えに入り、訪れる衝撃に備えて私は身を縮める。



「『陰影の穿破(アンノウン・チャージ)』」



 月の力を得た暗黒の剣先が、龍の胸の傷を捉え、魔境に凄絶な音を轟かせた。

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