12月編 第3話 謝罪
カーテンを思い切り開ける。
バサっという音とともに太陽の光が差し込み、眩しさが襲い掛かった。
「洋一くん、大丈夫なの?」
心配そうに駆け寄る玲衣と風子に俺は深々と頭を下げる。
「え、どういうことなの?洋一くん、頭を上げてよ」
風子はそう言ってくれているが、俺の気が済まないのだ。
謝らなくてはいけないのだ。
「ごめん、ごめんな。さっきまで冷たく接しちゃって……」
謝るだけでも、心がすごく痛い。どうしてあんなことをしてしまったのだろう。
脳内に流れるのは後悔ばかりだ。
「ううん、いいの。植田さんから何か言われたんだよね?だからそうせざるを得なかった……そうだよね?」
風子の質問に俺は下を向きながら首を横に振る。
植田に何かを言われたことはあっているが、自分を責めてしまったというわけではない。
ただ、俺自身が怖かっただけなのだ。
事件の真相を知ってしまったら玲衣は確実に俺のことを嫌う。
こうなるのかすらもわからないのに、勝手に決めつけてしまったのだ。
俺の被害妄想のせいなのだ。
「違うんだ。植田さんから何かを言われたことは合ってるけど、そのせいで俺自身を責めたわけではないんだ」
「うん、わかってる」
玲衣の発言は俺の予想していたものではなかった。
植田はこの件については話してはならないと言った。なのにどうして玲衣は知っているのだろうか。
「実はね、カウンセリング室の外で話を聞いていたの。お父さんとお母さんを殺したのが洋一くんのお父さんかもしれないって言うことも聞いちゃったの」
俺にとって一番聞かれたくない人にリアルタイムで聞かれていたようだ。
「え、それってどういうことなの?」
風子は今の状況が飲み込めていないようだ。俺と玲衣を交互に見ておどおどしている。
「ごめん、風子さん。ちょっとだけ二人にさせてくれないか?」
静かにコクリとうなずき風子は病室の外に出て行く。
扉が完全に閉まったことを確認してから口を動かす。
「このことについては一切口外してはいけないらしいんだ。だからあんまり大きな声では話さない方がいい」
玲衣は頷く。
「うん、わかった」
「それで、植田さんに俺の父さんが犯人かもしれないって聞いた時、それを玲衣に知られてしまったら嫌われてしまうんじゃないかって思ったんだ。すごく怖かった。それであんな態度をしてしまったんだ。……ごめん」
「大丈夫だよ。でもね、私はそんなことはしないよ。洋一くんのお父さんが犯罪者だったとしても……何か悪いことをしていたとしても、私は洋一くんのことが大好きなんだよ?そんなことで洋一くんのことを嫌いになるわけなないよ。むしろ嫌いになれって言われてもできるわけがないんだよ。私の一番大切な人なんだから」
玲衣の優しさに涙が出てくる。
「……ありがとう」
嗚咽を漏らしながら感謝の言葉を述べる。
「それで、夢の中で風子さんが教えてくれたんだ。俺の父さんはこの事件には関わっていないって。証拠とかはないから植田さんに言っても信じてもらえないと思う」
「それでも私は信じるよ。風子さんが言ってたんだもの、私が信じないわけないでしょ?」
同じように玲衣も夢の中で風子と会話を交わしているのだ。
信じてもらえるだけでもありがたいものだ。
「それともう一つ、風子さんにとってはとても大事なことを夢の中の風子さんは言ってたんだ」
「大事な……こと?」
俺は頷く。
「風子さんの命はもう長くないらしいんだ。夢の中といえども、現実の自分のことは感じ取れているらしいんだ。限界が近いって言ってた」
玲衣は口元を手で押さえる。そんな辛いことを聞けば当たり前の反応だろう。
俺にとってもこれは辛いことだ。そして、信じたくないことでもある。
それは玲衣にとっても同じことが言えるだろう。
「本当……なの?」
『本当だよ』
この声は……。
『今は洋一くんと玲衣さんの二人の脳内に同時に話しかけているよ』
「風子さん、洋一くんが言っていたことって本当なの?」
玲衣はどこにいるのかもわからない風子に話しかける。天井の方にいるのだろうか。玲衣は一生懸命上を向いて話している。
『残念ながら……ね』
「そんな……」
ここで一つの疑問が浮かび上がる。
現実の風子はそのことに気がついているのだろうか。
「なあ、こっちの風子さんはそのことは知っているのか?」
『うん。自覚症状はあるみたいだよ。昔の記憶が徐々に失われているんじゃないかな。もう少ししたらほとんどの記憶を失ってしまうかもしれない』
それはとても辛いことだ。俺も父さんの記憶を失った時はすごく辛かったものだ。なのに風子はもう少ししたら記憶が全てなくなってしまうという。
どれだけ辛く、悲しいものなのかは俺がよくわかっている。
「……てことは俺たちの記憶も無くなってしまうのか?」
『…………』
風子は何も言わずに黙っている。
「なんとか言ってくれ」
「そうだよ。私たちも風子さんに忘れられるなんていやなんだよ」
『最終的には……なくなるね。だから洋一くんのことも、玲衣さんのことも、全部忘れて、自分のことが誰なのかもわからなくなっちゃう』
そんなことはさせない……なんて言えない。
「そうだ、治験を受ければいいんだ」
『いいの。今更治験者が変わったところで私の病気が治るわけじゃない』
「本心は?」
玲衣にはすべてお見通しらしい。
『……たいよ』
今にも泣きそうな声だ。しかし、うまく聞き取れない。
『生きたいよ。洋一くんや玲衣さんと別れたくない。忘れたくないよ』
俺と玲衣はお互いに向き合って頷く。
「それを待ってたよ。俺たちでなんとかしてみる」
「だから風子さん、安心して」
『……ありがとう。二人にかけてみるよ』
そうして俺たちは急いでナースステーションに行こうとして扉を開けた時だった。
「はぁ……はぁ」
そこには血を吐いて倒れている風子がいた。
「風子さん!!」
急いで風子の元に駆け寄った。




