1-1話 猫田なのです!
ご覧いただきありがとうございます!
本作は、魔術師の猫田(※女の子です)と、その仲間たちが織りなす「ダークファンタジー×コメディ」です。
※作品の性質上、ブラックな笑いや軽度の残酷描写・理不尽な展開が含まれます。苦手な方はご注意ください。
賑わいを見せる商店街で、川谷は昼食の食材を買おうと食料品を吟味していた。肉か魚か、肉ならば何の肉がいいだろうか。食のこだわりが強い同居人のことが頭をよぎったが、奴の意見を悉く受け入れていては日が暮れてしまうため無視した。
川谷は長身で赤い髪を持つ凛とした顔つきの美しい女性だった。さらに、平和で戦いとは無縁の商店街にはそぐわない軍服のような服を着ているためそこではひときわ目立っていた。
「やあ、川谷さん。今日はいい魚が入ったんです。一つ買っていかないですか」
川谷が店の前を通りかかると、声が飛んできた。
「魚か。偶にはいいかもしれんな」
「お安くしときますんで……あ! 魚が!」
突然、風が吹いたかと思うと、魚屋が手に持っていた魚が、一瞬のうちに消え失せてしまった。川谷は風が吹き去った方向を見上げ、ため息をついた。ポケットから裸の札を取り出し、魚屋の手に押し込める。
「すまない。うちのあれがまた、盗みを働いたらしい。これで足りるか」
「本当ですよ、川谷さん。あの小娘、うちだけでなく、他の店でも盗みを働いて、ここの商店街の商売人は手を焼いているんです」
「本人はそのつもりはないんだがな。何度言っても金を払ってものを買うという概念が理解できないらしい」
「川谷さん、あんたも物好きですね。いつまであの小娘の面倒を見ているつもりなんですか。どこから来たのかすら分かっていないんでしょう」
「ああ全くその通りだ。言うことも聞かないし、生意気な口を利くわ、協調性はないわで私も苦労している。でも、なかなか面白い餓鬼でな。手放すには少し惜しい」
そう言って川谷は顔をほころばせる。魚屋は川谷の言っていることが理解できず首をかしげる。魚屋からすれば川谷が面倒を見ている子供は手のつけようのない不良少女に見えるのだ。
「まあ、また世話になるだろうから、その時はよろしく頼む」
「またって。か、川谷さんも二度としないようにちゃんと叱っておいてくださいよ」
川谷は返事の代わりに手をひらひらと振った。
◇
「みーちゃあん。今日はこんな大きなお魚をもらってきたのですよ」
とある一軒家の屋根裏部屋で少女が猫を穴が開くほど見つめている。年は十二ほど。短パンオーバーオールの装いだ。薄茶色の毛に金色の瞳を持つ少女は一見、どこにでもいそうな子供だが、奇妙なことにその頭には土鍋がさも当然のように乗っかっている。
少女がいる部屋の明かりは窓から入ってくるものだけで薄暗い。少女は握りしめた魚を猫の方に突き出している。隅に追い詰められた猫はシャーっと威嚇の声を出しているが、そんなことは気にもせず少女は距離を詰める。
「さあ、みーちゃん。こっちに来るのです。美味しいお魚さんですよ」
一人と一匹の間にピリピリとした緊張が走る。両者微動だにせず、睨み合う。しびれを切らした猫のほうが、少女に飛びかかろうとした矢先、バタンと乱暴に扉が開いた。その拍子に驚いた猫は扉の外に飛び出していった。
「あ、みーちゃん」
「あ、みーちゃんじゃないぞ、猫田! 貴様、また盗みを働いたらしいな。何度言ったら、盗みはいかんと理解できるんだ!」
川谷が猫田に吠える。普通の幼い少女なら泣いてしまいそうな剣幕だが、猫田は驚きも怯えもせずに、ジトッとした目で川谷を見上げる。まったく反省の色もない。
「しょちょーが大きい声を出すからみーちゃんがびっくりしちゃったのです。可哀想なのです」
「それもだ。またあの汚らしい野良猫を家の中に連れ込んだな。粗相をしたら誰が掃除すると思って……わあ! こっちくるな! シッシッ」
猫がゴロゴロと気持ちよさそうに喉を鳴らして、川谷の足元にすり寄っていた。猫は川谷に相当懐いているようだった。その様子を見ても猫田は表情を変えない。
「みーちゃんはツンデレなのです」
「おい猫田。現実を見ろ。お前が嫌われているのは明らかだろう。お前、一度でも撫でられたことがあるのか? ないだろう? 追いかけ回すたびに逃げられて」
「みーちゃんはツンデレなのです!」
「どれだけその猫に貢いだところでお前に懐いたりはしな……」
「しょちょーなんか大嫌いなのです!」
猫田は川谷の脇をすり抜け、下の階へ逃げていく。
「あ、こら逃げるな。……はあ、逃げ足の早い餓鬼め」




