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20/27

20話 訓練ではない

 13時58分。


 合同訓練は、再開された。


 ただし、それはもう、朝に予定されていた訓練ではなかった。


 訓練センター全体に、目に見えない線が引かれている。


 参加部隊。


 見学者。


 通訳。


 管理官。


 施設職員。


 外部業者。


 その全員が、ただの参加者ではなく、確認すべき対象になった。


 だが、表向きには訓練継続。


 訓練を中止にすれば、相手は目的を達成する。


 混乱を作り、SERTを止め、海外部隊に不安を残す。


 それを許さないために、岡野は再開を許可した。


 そして上原は、訓練の名目を残したまま、現場を実戦に切り替えた。


 訓練棟前の集合エリアで、上原は各チームの隊長格へ説明した。


 米国SWAT系チームのハワード。


 英国SAS関係者のリード。


 米軍特殊作戦部隊のミラー少佐。


 自衛隊側の佐伯二佐。


 そしてSERT。


 上原は短く言った。


「施設内で実弾を所持した不審者を確保しました。現在、追加の脅威が残っている可能性があります」


 通訳が訳す。


 ハワードの表情が変わる。


 リードは目だけを動かす。


 ミラー少佐は、腕を組んだまま周囲の高所を見た。


 佐伯二佐は、すぐに部下へ視線で合図を出した。


 岡野が続ける。


「ここから先は、訓練形式を維持しながら、全区域の安全確認を行います。各国部隊には待機と協力をお願いします。ただし、日本国内の警察事案として、指揮権はSERTおよび警察庁側にあります」


 ハワードが言った。


「了解した。我々は指示に従う。ただ、隊員の安全確保のため、自己防衛の権限は残したい」


 岡野は頷く。


「当然です」


 リードが静かに言う。


「相手は、我々がここにいることを知っていた?」


 上原が答えた。


「その可能性があります」


 ミラー少佐が低く言った。


「では、これは訓練ではなく、見世物にされたということか」


 戸張が小声で呟く。


「こっちの台詞だな」


 吉田が横目で見た。


「副班長」


「悪い」


 上原はミラー少佐へ言った。


「見せるものはこちらで選びます」


 ミラー少佐は少しだけ笑った。


「いい」


 14時07分。


 訓練センターは、4つの区画に分けられた。


 訓練棟1と2。


 訓練棟3と地下通路。


 見学エリアと制御室。


 射撃場と外周。


 SERTは全てを直接見るのではなく、各部隊を配置した。


 ハワード隊は外周と車両出入口。


 リードは見学エリアと高所監視。


 ミラー少佐のチームは訓練棟1の安全確認。


 佐伯二佐の自衛隊チームは山林側境界。


 SERTは制御室、地下通路、訓練棟3を中心に動く。


 神崎は全体動線を組み替えていた。


「全員を安全区域へ集めないでください。ひとつの場所に固めると狙われます。各チームごとに分散待機。移動する時は、互いの視線が届く範囲で」


 管理官が頷く。


「分かりました」


 梶原は制御室に入り、端末を3台並べる。


「制御系に監視を入れました。扉、煙、照明、音響、カメラ。誰かが触れば分かります」


 片桐は地下で押収した端末を見ていた。


「プログラムは単純ですが、発動タイミングが嫌ですね。各部隊が訓練棟内へ入った瞬間に煙と扉ロックを起動するつもりだった」


 水瀬が言う。


「訓練用煙でも、閉じ込められれば視界と呼吸に影響します。パニックが起きる」


 真壁が続ける。


「さらに実弾持ちが混ざっていたら、訓練用ターゲットと本物の区別が遅れる」


 吉田が静かに言った。


「相手は、判断の一瞬を奪いたい」


 上原は頷いた。


「だから、判断する前に前提を崩す」


 14時16分。


 制御室に、最初の異常が出た。


 梶原が画面を睨む。


「班長、外周カメラ6番、映像が1.5秒ループしています」


 上原が聞く。


「場所は」


「山林側、射撃場裏。佐伯二佐の担当区画付近です」


 神崎が地図を見る。


「そこは、人が出入りする動線ではありません。逃走より侵入補助」


 上原は無線を切り替える。


「佐伯二佐、射撃場裏カメラにループ。人がいる可能性」


 佐伯二佐の声が返る。


「了解。こちらで確認する」


 数分後。


 自衛隊チームから報告。


「フェンス内側に小型中継器を発見。人影なし。足跡あり。山林側へ続いている」


 梶原が言う。


「中継器は生きています。外部への通信点ですね」


 上原は考える。


 地下に端末。


 見学エリアにカメラ。


 山林側に中継器。


 全てが別々の点に見える。


 だが、目的は同じだ。


 施設を中から見る。


 訓練を外から動かす。


 そして、どこかで何かを起こす。


 岡野の声が入る。


「上原、相手は複数地点を使っている。全てを追うと散らされるわ」


「はい」


「中心を見て」


 中心。


 上原は施設図を見た。


 訓練棟。


 制御室。


 見学エリア。


 射撃場。


 外周。


 その中心にあるのは、施設中央の広場だった。


 午後の総合訓練で、各国部隊が集合する予定だった場所。


 見学者も、管理官も、隊員も、最後にそこへ集まる。


 上原は言った。


「中央広場を確認する」


 戸張が顔を上げる。


「何かあるのか」


「全員が最後に見る場所だ」


 神崎が頷く。


「相手が見せたいなら、そこです」


 14時29分。


 中央広場は、何もないように見えた。


 訓練棟に囲まれた広い舗装エリア。


 中央には訓練用の車両障害物。


 脇には仮設観覧席。


 地面には白線。


 朝から何度も人が通っている。


 だからこそ、異物が紛れても見えにくい。


 上原、戸張、片桐、神崎が広場へ向かった。


 少し離れて、リードと英国チームの隊員2名が高所から見ている。


 ハワード隊は出入口を押さえる。


 ミラー少佐は訓練棟1の窓から広場を見る位置にいた。


 岡野は見学エリアの上段に立つ。


 誰も、中心に集まりすぎない。


 片桐は地面を見ながら歩いた。


「地面に新しい傷があります」


 上原が足を止める。


「どこだ」


 片桐が車両障害物の近くを指す。


 舗装面に、小さな削れ。


 そして、仮設観覧席の脚元に、黒いゴムのようなもの。


 片桐はしゃがみ込む。


「これは……固定具ですね。何かを一時的に設置して外した跡です」


 神崎が周囲を見る。


「今は外されている?」


「いえ」


 片桐は観覧席の下を覗いた。


「下にあります」


 戸張が低く言う。


「何が」


 片桐は手を伸ばさない。


 ライトを当てる。


 観覧席の下、影の中。


 小型ケース。


 配線。


 ただし、爆発物というより制御ユニット。


「爆弾ではありません。少なくとも、見える範囲では」


 上原が聞く。


「何をする装置だ」


「分かりません。近くにスピーカー配線と照明制御線があります。音響か照明を乗っ取る装置かもしれない」


 梶原が制御室から言う。


「班長、今、中央広場の音響系に不審な待機信号が出ました」


 吉田がすぐに言った。


「音を使う?」


 水瀬が続ける。


「大音量、特殊な周波数、あるいは警告音で混乱させる可能性」


 神崎が言う。


「広場に集まった状態で大音量が出れば、人は出口へ向かう。見学者、隊員、通訳、管理官が混ざる」


 片桐が装置を見た。


「殺傷ではなく、混乱装置」


 上原は頷く。


「今朝から同じだ。殺すより乱す」


 戸張が周囲を見た。


「それで実弾持ちを混ぜる」


 上原は言った。


「片桐、外せるか」


「外せます。ただし、外した瞬間に別信号が飛ぶ可能性」


 梶原が言う。


「僕が受けます。片桐さん、待ってください。偽信号を返します」


 数秒。


 梶原の指が端末を叩く音が無線越しに聞こえる。


「いけます。装置はまだ接続されていると思わせます」


 片桐は慎重に制御線を外す。


 息を止めるような作業だった。


 戸張は周囲を見る。


 上原は岡野の位置を確認する。


 岡野は見学エリア上段から、広場全体を見ていた。


 リードも高所から視線を走らせている。


 その時、岡野の声が入った。


「上原、右奥の訓練車両。影がひとつ増えた」


 上原はそちらを見ない。


 見れば、相手に気づかれる。


 戸張だけが小さく角度を変える。


 訓練車両の陰。


 作業員ベストの男。


 手に、何かを持っている。


 銃ではない。


 細い筒。


 発煙弾か。


 照明弾か。


 男は中央広場へ向けている。


 戸張が低く言う。


「見えた」


 上原は短く返す。


「まだ」


 片桐は装置を外している。


 もし今、発煙弾が撃ち込まれれば、作業が中断する。


 相手の狙いはそれだ。


 吉田の声が無線に入る。


「男の呼吸が早い。訓練された人間ではありません。撃つか迷っています」


 神崎が言う。


「逃げ道は車両裏から地下通路側」


 上原は決めた。


「ミラー少佐、訓練車両右奥。作業員ベストの男。撃たずに止められますか」


 数秒後、ミラー少佐の声が返った。


「Can do.」


 通訳を待たずに、ミラー少佐の部下2名が動いた。


 速い。


 だが、派手ではない。


 訓練棟1の陰から出て、男の視界外へ回る。


 男が筒を構える。


 戸張が正面側で一歩だけ出る。


 男の視線が戸張へ向く。


 その瞬間、米軍側の隊員が横から腕を押さえた。


 筒の向きが地面へ落ちる。


 もう1人が男の肩を押さえる。


 発射はされない。


 男は抵抗するが、数秒で制圧された。


 戸張が小さく言う。


「やるな」


 上原は頷いた。


「プロだ」


 片桐が最後の線を外す。


「装置、無力化」


 梶原がすぐに言う。


「待機信号、維持したまま遮断成功。向こうはまだ生きていると思っています」


 上原は周囲を見る。


「なら、向こうは次を押す」


 14時41分。


 制御室で、梶原が新しい信号を拾った。


「来ました。中央広場音響、起動信号。こちらで吸収。実際には鳴りません」


 片桐が装置を回収する。


 何も起きない。


 広場は静かなまま。


 その静けさが、相手にとっては異常になる。


 梶原が言う。


「起動失敗を確認した相手が、通信を再送しています。発信元……見学エリアではない。制御室でもない。山林側中継器経由」


 佐伯二佐の声が入る。


「山林側、動きあり。2名が尾根方向へ移動」


 神崎が地図を見る。


「尾根に出られると、施設外道路へ抜けます」


 真壁が言う。


「追えます」


 上原は短く言った。


「佐伯二佐、追跡を。真壁、合流。殺傷より確保優先」


「了解」


 山林側で、自衛隊チームと真壁が動く。


 SERTだけではない。


 合同訓練の参加部隊が、実戦の中で自然に役割を分けていく。


 ハワード隊は出入口を封鎖。


 リードのチームは高所と見学者の安全確保。


 ミラー少佐の隊は広場での不審者制圧。


 佐伯二佐と真壁は山林追跡。


 SERTは全体を読む。


 岡野が静かに言った。


「上原。これが向こうの見たかったものかもしれないわ」


「連携ですか」


「ええ。SERTだけでなく、各部隊がどう動くか」


 上原は答えた。


「なら、間違った情報を持ち帰らせる必要があります」


 岡野の声がわずかに変わる。


「どうするつもり?」


 上原は梶原を見る。


「音響装置はまだ生きているように見せている。起動は失敗したが、復旧可能に見せられるか」


 梶原が少し笑う。


「できます。相手から見れば、こちらがまだ装置に気づいていないように見せられます」


 片桐が言う。


「でも実物は外しましたよ」


「信号だけ残せばいいです」


 神崎が理解した。


「相手をもう一度操作させる」


 上原は頷いた。


「操作する人間を特定する」


 14時50分。


 梶原は偽の状態信号を流した。


 中央広場の音響装置は、まだ接続されている。


 起動失敗は一時的。


 再起動可能。


 そう見えるように。


 相手は、反応した。


 通信が山林側からではなく、施設内の別端末から入った。


 場所は、簡易食堂。


 昼休憩で使われた場所。


 今は無人のはずだった。


 吉田が言う。


「人が残っている?」


 神崎が確認する。


「食堂は閉鎖済み。スタッフも移動済みです」


 梶原が画面を見る。


「食堂内の自販機裏。端末が隠されています。ただし、近くに人がいるかは不明」


 上原は言った。


「龍一、吉田、食堂へ。リード、協力を」


 リードの声が返る。


「了解」


 戸張、吉田、リード、英国隊員2名が食堂へ向かった。


 食堂は静かだった。


 昼の賑わいが嘘のように、テーブルと椅子だけが整然と並んでいる。


 自販機の低い稼働音。


 窓の外には山。


 戸張が自販機裏を確認する。


 小型端末。


 バッテリー。


 アンテナ。


 しかし、人はいない。


 リードが床を見た。


「椅子がひとつだけ違う」


 吉田も見た。


 確かに、奥のテーブルの椅子が1脚だけ、わずかに角度が違う。


 誰かが座っていた。


 急いで立ったのではない。


 静かに立ち、戻す時間がなかった。


 吉田が耳を澄ませる。


「厨房側」


 戸張が頷く。


 厨房の奥。


 非常口。


 その手前に、白い調理服の男がいた。


 スタッフではない。


 手にはスマートフォン。


 リードが英語で低く言う。


「Stop.」


 男は振り向き、笑った。


 そして、スマートフォンを床へ叩きつけようとする。


 吉田が声を出した。


「あなたが壊しても、もう遅いです」


 男の手が一瞬止まる。


「何?」


「通信は取っています。壊す意味はありません」


 これは半分本当で、半分嘘だった。


 だが、男は迷った。


 その一瞬で、戸張が距離を詰める。


 スマートフォンを持つ手首を押さえ、肩を壁へ。


 リードの隊員が足元を押さえる。


 男は動けなくなった。


 戸張がスマートフォンを床へ落とさず奪う。


「確保」


 リードが静かに言った。


「Good timing」


 戸張が苦笑する。


「たぶん褒められたな」


 吉田が言う。


「今回は合っています」


 15時03分。


 山林側でも2名が確保された。


 1人は中継器を設置した男。


 もう1人は逃走補助役。


 食堂の男を含め、追加で3名。


 地下で捕まえた2名。


 照明塔の監視役。


 中央広場の発煙担当。


 合計7名。


 さらに朝からの偽スタッフも含めると、組織的侵入は明らかだった。


 だが、中心人物はいない。


 NOISE-00は、まだ遠い。


 梶原は押収したスマートフォンを解析していた。


「食堂の男、かなり近いです。現場指示役。複数端末を見ていました」


 上原が聞く。


「NOISE-00につながるか」


「直接はまだ。ただ、最後に送ろうとしたメッセージがあります」


「内容は」


 梶原は画面を読み上げた。


**SERTは止まらない。連携も崩れない。次段階へ。**


 戸張が顔をしかめる。


「観察報告か」


 吉田が言う。


「最初から、訓練を壊すことだけが目的ではなかった」


 神崎が頷いた。


「こちらの対応を見て、次を決める」


 片桐が低く言う。


「嫌な言葉ですね。次段階」


 水瀬が続ける。


「今回、相手は殺傷を抑えていました。次はどうなるか分かりません」


 真壁が言った。


「海外部隊を巻き込んでも、この程度に抑えたのは、試験だったからかもしれません」


 岡野は静かに聞いていた。


 そして、上原を見た。


「上原」


「はい」


「合同訓練は、今日で打ち切りにはしない」


 周囲が岡野を見る。


 岡野は続けた。


「ただし、明日以降の訓練内容は全て変更。公開予定のシナリオは使わない。相手が観察したものを前提に、違う動きをする」


 ハワードが通訳を介して言った。


「我々も参加していいか」


 岡野は彼を見る。


「危険が残ります」


 ハワードは答えた。


「今日の時点で、我々も標的になっている。なら、途中で帰る方が危険だ」


 リードも言った。


「相手はこちらを見た。我々も相手を見るべきです」


 ミラー少佐は短く言った。


「訓練より、良い訓練になる」


 水瀬が小さく呟いた。


「言い方は不謹慎ですが、理解はできます」


 戸張が少し笑う。


「海外にもいるんだな、こういう人」


 吉田が言う。


「副班長と同じにしない方がいいと思います」


「ひどいな」


 15時27分。


 訓練センターの空気は、朝とは完全に変わっていた。


 初めて顔を合わせた部隊同士が、もう互いの動きを知っている。


 ハワード隊は、SERTが動く前に外周を押さえる。


 リードは、高所と死角を自然に補う。


 ミラー少佐の隊は、制圧時に無駄な衝突を起こさない。


 佐伯二佐の自衛隊チームは、山林と境界を静かに締める。


 それを、上原が中心で読む。


 岡野が上から全体を見る。


 今日、相手はSERTを観察した。


 だが、SERTもまた、相手のやり方を見た。


 殺さず、乱す。


 壊さず、試す。


 恐怖より先に、反応を見る。


 そして次段階へ進む。


 岡野の端末に、警察庁から速報が入った。


 瀬川隆臣の追加供述。


 M-03。


 L-07。


 NOISE-LINE。


 NOISE-00。


 そして、三科耀司。


 彼の名前が、別の資料にも出た。


 元防衛関連企業のシステム設計者。


 数年前に失踪。


 海外企業との関係あり。


 複数の訓練システムと危機管理シミュレーション開発に関与。


 岡野は画面を見て、わずかに目を細めた。


 上原が気づく。


「何か出ましたか」


 岡野は端末を見せた。


「三科耀司。訓練システムに詳しい」


 梶原が横から覗き込む。


「この人、訓練センターの旧システム設計に関わってます」


 管理官が驚く。


「そんなはずは」


 梶原が続ける。


「直接ではなく、下請け企業経由です。名前が薄く入ってる」


 片桐が言う。


「つまり、この施設の仕組みを知っていた」


 神崎が低く言った。


「動線も、制御も、見学エリアも」


 吉田が静かに言う。


「だから“本番で会おう”」


 戸張が拳を握る。


「今日のどこかで見てたかもしれないな」


 上原は画面を見たまま言った。


「見ていたなら、こちらも見せた」


 岡野が頷く。


「ええ。崩れないところを」


 15時46分。


 合同訓練初日は、予定を大きく変えて終了した。


 表向きには、安全確認を含む実践的連携訓練。


 参加者には詳細な説明はされない。


 だが、各隊の隊長格は知っている。


 今日の一部は、完全に実戦だった。


 そして、明日も続く。


 訓練場に入り込んだ影は取り除かれた。


 だが、その影を落とした本人はまだ外にいる。


 夕方の訓練センターに、山の風が吹く。


 各国の隊員たちは、それぞれ装備を確認し、明日の動きについて話し合っている。


 言葉は違う。


 手順も違う。


 だが、目は同じだった。


 危険がある場所で、どう動くか。


 誰を守るか。


 何を止めるか。


 上原は訓練棟の前に立ち、夕方の光を見ていた。


 戸張が隣に来る。


「直城」


「何だ」


「明日、もっと来ると思うか」


「来る」


「だよな」


 吉田が後ろから言った。


「断言しましたね」


 上原は振り返らない。


「相手は、今日を次につなげると言った」


 梶原が端末を抱えて近づく。


「次段階、ですからね」


 水瀬が言う。


「次が殺傷を伴うなら、今日より難しくなります」


 片桐が装備ケースを閉じる。


「爆発物か、施設制御か、どちらもあり得ます」


 真壁が遠くの山林を見た。


「外からも来られる」


 神崎が続ける。


「中にも紛れられる」


 岡野が最後に言った。


「だから、全員で読むのよ」


 上原は頷いた。


 SERTだけではない。


 海外部隊も、自衛隊も、警察も。


 それぞれの強さを持つ者たちが、同じ現場に立っている。


 敵はそれを見た。


 ならば、次はさらに複雑に来る。


 撃つ前に読む。


 突入する前に救う。


 それでも止められないなら、制圧する。


 そして、訓練ではないものが訓練場に入り込むなら、訓練そのものを武器に変える。


 合同訓練初日。


 SERTは、世界の部隊の前で崩れなかった。


 だが、戦いはまだ、始まったばかりだった。


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