第九話(3)
マニラ市警察局 捜査資料(抜粋)
案件番号:MB-202X-10-■■
一、水死体発見の経緯
日時: 十月■■日 午前■時■■分
場所: マニラ湾沿岸・ベイサイドウォーク付近
巡回中の警備員より「海面に浮遊物を確認」と通報。
救助隊が出動し、男性一名を引き上げた。
当該男性は既に死亡しており、死後硬直が進行していた。
現場に争った形跡はなく、衣服の乱れも軽微。
溺死と推定されるが、詳細は検案、解剖結果を待つ。
二、身元照会結果
遺体の所持品(学生証)および指紋・掌紋照合により、以下の人物と特定された。
氏名:ルカ・ニシナ(十七歳)
所属:市内■■■■高校二年
特記事項:非行少年グループ「パサイ・ウェストサイド」構成員・現リーダー
当該人物は、十月■日付に捜索願を受理済み。
学校関係者および保護者への聞き取りにより、本人の行動歴・交友関係を確認中。
三、遺体の状態および不可解な点
検視の結果、死因は溺死と推定。
外傷は軽度の擦過傷のみで、致命傷は確認されない。
ただし、以下の点が不可解である。
(一)右手に「何か重いものを握っていた」痕跡
右手の指に強い圧痕が残っており、重量物を長時間握っていた形跡が認められる。
しかし、現場周辺から該当する物品は発見されていない。
※捜査員間では「何かを掴んだまま海に落ちた可能性」が指摘されているが、現時点で物証はなし。
(二)衣服に他者の血痕なし
事件性を示す痕跡は見つかっていない。
四、関係者供述(抜粋)
供述者:ジョン・ロペス・フェラー(十七歳)/「パサイ・ウェストサイド」構成員・幹部
「ルカは……最近、様子がおかしかったんです」
「誰もいない方向に向かって話してることがあって……最初は冗談かと思ったけど、だんだん本気みたいで」
「袖の下に注射痕みたいなのがありました。けど、問い詰めても何も言わなかった」
「クスリをやってたんじゃないかって、正直思ってました」
「……あいつ、『見えない相手』と会ってたんです。ずっと」
「ルカには……仲の良いやつがいました。マコト・アヅマっていう日本人です」
「気にかけてたみたいで……マコトの話になると、少しだけ表情が変わるんです」
「マコトが死んでからは……正直、あいつはおかしくなっていった」
「……ルカはマコトのことを、ただの友達以上に大事にしてたと思います。だから、マコトの幻覚を見てても……オレは驚きません」
供述内容から、「当該人物が薬物使用により幻覚を見ていた」可能性が示唆される。
五、捜査方針(暫定)
現時点では、
・薬物使用による幻覚
・精神錯乱
・単独での転落
の可能性が高いと判断。
他殺の可能性は低いが、右手の圧痕の原因については引き続き調査を行う。
《捜査メモ:関係性について》
関係者供述より、当該人物は関係者に対して強い執着を示していた可能性がある。
・関係者死亡後、当該人物は不可解な行動を頻発
・腕に注射痕様の痕跡あり
以上より、「関係者の死を契機に薬物使用が進行し、幻覚症状が悪化した」 という線が濃厚。
──なお、この作品はフィクションであり、実際の事件・団体・人物とは一切関係ありません。




