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色彩魔術師のスローライフログ  作者: シーナアヤ
歌う夏とルーナサの話
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図書館での静かなる戦い

 意外なことに、デルフィナというイルカの幻獣は特別夜行性というわけではないらしい。

 ただ、ヒトと同じくはしゃいで夜ふかしをすることは珍しくないそうだ。基本的には昼間に活動し、楽しそうなことが大好きで、歌を歌い、踊るように泳ぐ。他の種族との交流も好きなようで、話すのも話しかけられるのも歓迎してくれるそうだ。

 サイキリアにある円形劇場は、南方にある国の中でも最も海に近いので、夏の時期には野外オペラを目当てに集まってくるらしい。もしかして昨夜もそうだったのかしら。

 宝飾デザインの画集を返却するついでに、昨夜見たイルカの幻獣について簡単に調べていたのだが、そろそろ別館へ向かった方がいい時間だ。名残惜しいが、幻獣図鑑を閉じて書架へ戻す。今日は教授からいただいた推薦状を活用して、閲覧制限のある魔導書に手を付ける予定なのだ。

 

 目録はカードで管理されている。

 別館の北の壁一面に並んだ、優しい茶色の無数の小さな引き出したち。この中には丁寧に分類されたカード目録が詰まっていて、取り出して書名や概要を眺めるだけでも楽しくなる。

 魔導学研究者のみ閲覧が許される蔵書は、暗褐色の引き出しにまとめられている。どちらかというと、原書や手書きの写本などの資料的価値の高いものがほとんどだ。

 それらのカード目録は、大半が詳細な情報が書き込まれているのだが、中には書名すら一つの単語のみでしか書かれていない目録もいくつかある。

 例えば、契約。鏡。鉱石。境界。


「それらは写さずの本と呼んでいます」


 司書さんに尋ねると詳しく教えてくれた。


「内容はもちろん、タイトルさえ転記できない魔導書になります。古語で書かれている上に、書き写すこともできないので、目録にも断片的なことしか書けないんですよ」

「メモも取れない感じですか?」

「そうですね。読むだけです」

「読み上げて他の人に書き取ってもらうとかは?」

「試しましたけど無理でした」

「本の内容を持ち帰るには、黙読して記憶するしかないのか……」


 私のつぶやきに、そうですね、と司書さんは微笑んだ。

 どんな強力な保護魔術が使われているのかは知らないが、実際に手に取って確かめてみたくなる。とりあえず一冊を請求してみる。もちろん最初は「鉱石」の本だ。

 図書館カードと共に、教授の推薦状とカード目録を司書さんに提出した。カード目録は書庫係の人へ手渡され、その間に手続きが進められる。

 しばらく待つと、思ったより大きめだがそこまでは分厚くない本が出てきた。礼を言って受け取る。

 席へ戻り、机の上に置いて表紙を観察する。かなり古い本だということはわかるが、厳重な保護魔術をかけるほど重厚な印象は持てなかった。雑誌とまでは言わないが、手に取りやすそうなデザインだ。

 試しに、本のタイトルを小声で読み上げようと思ったらできなかった。書き写しチャレンジもあえなく失敗。なるほど、これは強力。写し取る、という行動にプロテクトがかけられる感じだ。

 無駄な足掻きはしない主義なので、大人しく読むことにする。古語と言っても、幸いなことに私の読める言語だった。時折、文法がわからなくなる部分もあったが、なんとか読み進めることができた。

 最後まで読んだ後、改めて表紙を眺める。円状の幾何学模様が大きく配置され、一部が見切れている。長いタイトルは余白部分に小さく書かれていて、視認性が良いとは言えない。そのせいか、専門的な魔導書にも見えない。


「古代幾何学模様なのね、これ」


 見切れた模様は、回帰する生命と呼ばれるものの一つで、いくつもの円を重ねて描かれている。アミュレットのベースとしてデザインされることも多く、比較的見慣れた模様だ。

 私はノートを開き、描かれた古代幾何学模様の種類を記した。書けた。この程度ならメモ書きできるようだ。

 もう一度通して読み、必要な部分だけは頭の中で何度も繰り返して覚える。試験勉強でひたすら暗記してる感覚になる。


 次に「契約」の魔導書を請求した。作者が同じなのか、似たようなデザインの本だった。同じように読み進め、表紙について感じたことをメモして、改めて読み直す。

 こんな感じで頭に入れることにしたのだが、私の脳みそでは一日で読み解けるのは二冊が限度のようだ。おのれ、写さずの本め。

 今日を入れてあと三日。読めるだけ読んでみよう。

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