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色彩魔術師のスローライフログ  作者: シーナアヤ
歌う夏とルーナサの話
27/58

南の国で夏の手仕事

 広口瓶に半インチほど海の塩を入れる。その上によく洗って水気を拭いたセロリの葉を敷き詰め、また海の塩を入れる。これを何度が繰り返し、瓶に塩とセロリの葉の地層を作る。新鮮なセロリの香りを塩に移すのだ。

 単純作業のせいか、おしゃべりしながら進めていくのであっという間に終わってしまう。


 私は今、南方の都市国家の一つ、トリスカニッレに滞在している。楽しみすぎて、予定より数日早めに移動してしまった。

 大量に収穫されたセロリは生食以外に、様々な加工をする。ピクルスや、加熱したものをトマトソースに入れて瓶詰めにしたり、干して乾燥させたり、なかなか忙しい。

 同じセロリ塩でも、色と風味を強めにするために強い日差しで一日干した葉を粉砕し、塩と混ぜたものも私は好き。スパイシーな香りと鮮やかなグリーンが食欲をそそる。

 セロリ以外にもバジルやズッキーニの保存食作りもお手伝いさせてもらっている。トマトの瓶詰めの他にもこうして私は現物支給品を増やしているのだ。労働は尊い。


「来週からの週末四日間だけでいいのに。本当に働き者ね、テアは」

「やるべきことは終わってますし、お気になさらず。むしろ学びの機会をありがとうございます」


 お給料をもらいながら、プロの方の保存食作りを教えてもらっているようなものだ。感謝しかない。

 午後からは特製のソフリットを作る。こちらは状態固定魔法をかけた冷凍可能なパウチに詰められる。実は私の提案だったりする。

 アイディア料として毎年いくつかお裾分けをいただいているのだが、作業が楽しくてついつい手伝ってしまう。

 伝統的なソフリットは玉ねぎとセロリと人参のみで作られる。リーザさんのレシピだと、割合としては玉ねぎ二、セロリ一、人参一。この三種類の野菜を、メッザルーナという三日月型の両ハンドルの包丁で細かく切ったものを使う。

 これがまた使いやすいのだ。シーソーのように動かすだけで、みじん切り作業が簡単にできてしまう。初めて使った時に感動して自宅用に購入してしまったくらいだ。

 そんなメッザルーナで切った野菜たちを、高品質のオリーブオイルでゆっくりと黄金色になるまで炒めてパッキングする。

 基本のレシピで作られたこのソフリットに、お好みの野菜やハーブや生ハムや赤身肉を追加するだけで各家庭オリジナルのベースソースができてしまう。時短最高。

 来週の下弦の週から来月の水鏡の週までは週末のみのお手伝いになる。短い期間だが、今年はいくつレシピを覚えて帰れるだろうか。


「来月の終わりの週には連合王国へ帰るのよね?」


 できあがったセロリソルトの瓶を数え終えたリーザさんが、確認をするように尋ねてきた。


「はい。グイメハムへ戻る前に寄り道する予定があるんですよ」

「南の領都までなら、うちのアンドレでよければ送って行けるよ。私の相棒が先導するから安心して」

「アンドレちゃん、もう働き始めるんですか?」

「早く一人前になりたいらしいのよ」


 リーザさんの相棒は肝っ玉母さんのグリフォン、サリーだ。農園は旦那さん、サイドビジネスは親友である彼女と事業を展開している。

 二人が共同で運営しているのは、農家の生産物や加工品を直接顧客へ配送するビジネスだ。このシステムは業者以外にも個別配送も受け付けているため、とても人気がある。私も稼いだトマトを食べ尽くした春先からよく利用している。

 アンドレはサリーの一番下の息子で、昨年生まれたばかりの若いグリフォンだ。おしゃべりなサリーとは正反対で口数は少ないが、真面目な性格をしていて、しかも可愛い。


「大人になってサリーを助けたいんですって」

「そんな話を聞くと子どもが欲しくなりますね」

「旦那より先に子どもというのがテアらしいわね」

「魔女ってだいたいこんなもんですよ」


 母がそうだ。

 母と父の馴れ初めと求婚の経緯を初めて聞かされた時は、少し父が気の毒になったほどだ。


「いざとなったら養子縁組という手もありますし」

「お弟子さんを取るわけではなく?」

「母や祖母みたいに、子や孫に愛情を注げたら嬉しいかなって。だけど血の繋がりはあまり重視してないんですよね」

「まあ、うちの子もよその子もみんな可愛いのはわかるわ」


 子どもや小さな者に対して優しい人は憧れる。自分もそうありたいと思うのだが、いい年をして対抗してしまう部分があるあたり、私も未熟である。

 

 本日のまかないランチは、固くなったパンを再利用したサラダ、パンツァネッラ。リーザさんお手製のワインビネガーと数種類の果汁を含んで柔らかくなったパンの食感が面白い。トマトはもちろん、何種類もの夏野菜がふんだんに使われていて、陽射しの強い昼下がりに食べるには最適だ。

 使われている果汁の一つ、レモンは南部のご友人から送られるという大きなものだ。この皮を漬けたエチルアルコールをシロップで割って作るリキュールも美味しい。

 リキュールといえば、リザの祭りで隙きを突いて収穫した青い胡桃と、アルテミシアを漬けた酒も楽しみだ。

 毎日撹拌が必要なので、この旅行にも持参しようとしたらリヌスが預かってくれることになった。ありがたい。

 私が留守にしているひと月の間、瓶を振る係を代行してくれるので、なにかいいお土産を探しておこう。


 リーザさんは自宅用にワインを作っていて、そのワインを使ったフルーツパンチも楽しみの一つだ。ほんのり辛口なロゼワインと、日替わりで使われる色鮮やかなフルーツが目にも楽しくて美味しい。

 これだけ美味しいランチを用意してくれるのだ。午後からのソフリット作りに気合が入る。それに、働けば働くほど高級保存食の現物支給が増えていく。楽しい。

 明後日にはサマーレクチャーの準備とヨランダ様のご実家へ顔を出すために、一度この地を離れてしまう。それまでは思う存分野菜を刻みたい所存でございます。

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