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神と魔王の弟子は魔法使い 〜神喰いの継承者〜  作者: ルド
第4章 弟子の魔法使いは試験よりも魔神と一騎討ち(でも試験荒らしてトップを蹴落とす)
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第44話 勝利の三大法則と融合の可能性(弟子は闇でアイドルの光を喰らう)。

 ──思い出すのは二つの記憶。


『邪魔しないでほしい』

『無理は良くありません』


 ギュッと握られたあの手の感触。

 焦りからひたすら鞭を打ち続けていた俺を止めてくれた彼女。

 家の事を、将来を考える度に襲う絶望。抗うには、魂まで削れるような努力しかないと思った。


 灰になるまで疲れ切れば、何も頭に入って来ない。

 一時でも俺は現実から離れる事が出来ていた。いつしか中毒者のように依存してしまい、彼女たちの声も届かなくなった事もあったが、あの時の俺には使命以外は全てがどうでもよかった。


『俺の事は構わないでくれ』

『貴方の為だけではありません。不安で一杯な彼女たちの為にもです。貴方は分かってません。人は一人で勝手に生きていけない。絶対に誰かを巻き込んで生きていくんです。目を閉ざさないでください。彼女たちの事をもっと見てあげてください』


 彼女からしたら何でもないやり取りだった違いない。

 だが、燃え尽きている事で現実から目を逸らし続けた俺にはそれがとても眩しく見えて、心の奥まで突き刺さる刃になった。


 結局運命は変わらなかったが、絶望を乗り越えた今でもあの時の事はよく覚えている。

 彼女は身に覚えがないと攻撃して来るが、俺は戦いたくない。



 しかし、同時にもう一つの記憶が脳裏に過ぎる。

 異世界のダンジョンで行われたある修業の時の事だ。


『融合のスキルとは驚きだな。スキルとは違うが、オレもよく融合技法を使ってるからな』

『あ、いや、これは多分最初に師匠の魔力を喰った(・・・・・・)のが原因で……て、珍しいんですか?』

『いや、教え易いと思った。弟子に言うのはアレだが、教える立場に向いている気がしないんだよ、オレは』


 真っ白なローブを身に付けた黒髪の魔法使いジーク・スカルス。銀髪の時もあるが、この時は黒髪をしている。


『可能な限りで良いので大丈夫ですよ』

『そこはもっとしっかりしてくださいって言うところじゃないか?』


 ある階層のドームのような修業部屋まで案内された。目的は判明して覚えたての融合スキルを使いこなす為だ。


『融合技法とはSランク技法の一つ。こちらで好んで使っているのは、まぁオレくらいなものだ』

『使い勝手が難しいと?』

『似ているが、少し違う。主な理由は魔力の消費量だ。融合はその名の通り二つのモノを一つにする技法だが、それは一般的に属性魔力と属性魔力、魔法と魔法だ。どっちでもいいが、その二つを同時に使わないと融合技法は使えない』


 つまり燃費が悪過ぎるという話らしい。消耗具合が二倍くらいになってしまう。あちらの世界じゃ奥の手として用意する奴は多いらしいが、師匠のように普通に使っている人はほぼ皆無だそうだ。


『だからか、同ランクの一体化と呼ばれる技法の方が多い。最もこちらは一流の魔法使いの中でもほんの一握りの者達だけだが』


 とそこでまた新しい単語が出てくる。一体化、融合とどう違うのか。


『一体化はその名の通り一つとなる技法。融合と違うのは使い手、つまり使用者の肉体が融合対象となっている事だ。発動されている魔力、魔法、あるいは魔道具などと肉体レベルで同化する技法。融合より人気があるのは消耗具合のコントロール以上にその特異性が大きいが……』


 説明だけでは難しいと思ったか、一旦説明を止める。

 せっかくの修業場なので利用しない手はないと、師匠は魔力を練り出す。体から火のオーラが纏われた。


身体強化・火の型(ブースト・ファイア)だ。そして……』


 纏っていた火のオーラが体の右半分に集中する。と空いている左側から雷のオーラが纏われた。


身体強化・雷の型(ブースト・サンダー)だ。で、この二つを一つにする』


 融合技法が発動された。半々だった二つの属性魔力が混ざり合って一つになる。

 次の瞬間、師匠の体を纏っていたオーラが緋色の雷のようなオーラに変化した。オーラは激しくなって出力もかなり上昇しているようだ。


緋天の皇蕾衣カーディナル・サンダーと呼んでいる。一応言っておくが、触れたら死ぬほど痛い』

『絶対に触りません』

『魔法同士を融合の素材にしたが、別に属性魔力でも同じのように出来る。が、やはり消耗が大きいと覚悟しろ』


 確かに消耗が激しそうだ。師匠の魔力量なら平気だろうが、俺だったら一瞬で空になって枯れ切る勢いだ。


『消耗が大きいのは何も二つの魔法が原因って訳じゃありませんよね? あくまで予想ですが、要するに魔力コントロールが非常に難しいだけとか?』

『そうだろうな。オレの場合抑えるのが難しいからちょうど良くて気にもなってない』


 だが、他の魔法使いにとって鬼畜レベルの消耗。同時に二つの魔法を使用するのはそこまで難しくない。問題なのはそれらを合わせる瞬間だ。雑でも良いように見えるが、実は超繊細なコントロールが必要とされている技法なんだ。


『一体化がまさにそれを証明している。高度な魔力操作が要求され、肉体が対象となっているから技法自体に制限が掛かっていたりする。認められた資格者以外は使用出来ない』


 激しい緋色のオーラが解かれる。

 続けて師匠の体が薄い闇オーラで覆われる。


身体強化・闇の型(ブースト・ダーク)だ。そして……』


 集中と魔力の練度が上がった瞬間、師匠が纏う闇のオーラが濃くなって師匠の肉体と溶け合う。

 一見ただの身体強化の上位版に見えるが、闇色に染まったローブや瞳、濃さが変化した髪や浮き出た闇の模様が違うと言っているようだった。


『これが闇の一体化。他にもあるが、大体こんな感じだ』

『闇と一つになるって感じですね』

『ああ、こういった属性魔力との利点はその属性魔法の大幅な強化、それと肉体的な恩恵が美味しい』


 と言って何処からともなくナイフを出して、スパッと手首を切り落とした──ってオイ。


『まぁ見てろ』


 ジト目になった俺をナイフを持っている手で止めてくる。そうして切り落とされた手首を自然落下したが、黒霧になって切れた部位に戻って生えた。


『オレは今闇と一つになってる。闇に原型はない。つまり物理攻撃は何の意味をなさない』

『いわゆる無敵モードってところですが、光魔法か強力な魔法攻撃を受けたら意味無いんじゃ』

『そうだ。全ての魔法に共通している事だが、魔法同士、魔力同士の対決で勝負の鍵となる要素は大きく分けて三つ』


 生えた手で三本の指を立てる。


『それは出力、操作、特性の三つ。出力は魔力量や魔法力に関係しており、一度に出せる魔法の威力の事を指している。同じ魔法でも使い手によって最大出力は変わってくるからな』


 そこで指は二本になる。


『操作は言葉の通り魔力のコントロール。技法の件で説明したが、結局のところコントロールが出力と同等以上に大事になってくる。出力がデカいほどオレもコントロールし易いが、一般レベルになると雑過ぎて危険になる。威力で誤魔化した事もあるが、どうしても穴が生まれる』


 そして指が一本になった。


『特性とは大きく分けて二つの事を示す。魔力と魔法。使用者の魔力がどれだけ特別なのか、使用中の魔法がどれだけ特別なのか。この三つ目に関しては才能ある無しで殆ど決まってくるから……今説明してもしょうがない』


 だから大事になるのは前の二つだと師匠は言ってくる。

 話は一体化から少し離れたが、出力と操作によって弱点が無さそうな技法も突破出来ると言う事だ。


『融合は何とかなりそうですが、一体化はちょっと難しそうですね』

『まぁお前のコントロールなら消耗を抑えて属性融合が使えると思うが、融合スキルで一体化の真似ごとはどうなるか分からない』


 肉体への干渉はもう少し後になると考えたほうがいい。そう言われて俺は師匠の属性融合を真似て……魔力融合を覚えた。




 ……また話が逸れたか?

 二つ目の記憶の方が濃すぎて回想シーンが多かった。……話を現実へ戻そうか。


「……っ! 蹴りが上手い。上品で光る蹴りは綺麗だな」

「どんな体の構造をしてるんですか!」


 容赦ない踵落とし(普通なら数週間は意識が飛んでる)。

 腹に数発(肋骨数本、臓器に重いダメージが来ても不思議じゃない)。

 反応出来てないから何十発もくらっている。……途中から殺す気になってない?


 え、召喚したルゥは? とっくに帰ったわ。奴との『一体化』も考えたが、既に幻覚系を使うのはバレている。警戒されて時間切れになったらそれこそ困る。

 銃? 当たる気配が皆無な武器なんて早々に仕舞ったよ。光の空間を破れないか試そうとしたが、発動から解除までが早過ぎて全然試す気がなかった。


「ブッ! 少しは遠慮してくれよ?」

「はぁ……だったら潔く気絶してください! なんで平気なんですか!」


 また未央は光になった。一瞬で右頬に重い衝撃が来る。感触から靴、横蹴りか。


「──ダッ!?」


 威力もなかなか。体がコマみたいに飛ばされたよ。


「はぁ、はぁ……その体、何があったんですか?」

「だいぶ息が上がってる。確かスポーツ系は得意じゃなかったか?」


 返答の代わりにまた蹴りをくらった。今度は的確に鳩尾の部分。槍でも突き刺さった気分だ。


「あー、蹴りばかりならスカートはやめたらどうだ? アイドル家業も大変だな。サービスも大事とは」

「これはただの学園の制服です! それよりも貴方の体は普通じゃありません! 強化も殆ど使わずにどうしたら……」


 隠しているが、かなり疲れている様子だ。奥義級の魔法は万能に近いが、その分膨大な魔力と集中力を消費させる。


「緋奈の指示か? 藍沢の次女に自由なしか」

「まもなく他のメンバーも到着する。今度こそ捕まってもらいます」

「じゃあ、その前に逃げるとしようか」


 バッと起き上がる。警戒を解かないところは流石だが、それじゃあ疲れるだけだ。


「まだ魔力も体力もあります」

「そうだろうな。大した精神と魔力コントロールだ」


 しかし、俺ほどじゃない。

 この程度で動じるようなやわな訓練は受けていない。いや、させてくれなかった。


「が、燃費が悪いな。どうも」


 メンタルの方は最下層の鬼畜な魔王様との拷問訓練で身に付いた。

 魔力コントロールの方は師匠の訓練と相性かな? 感覚的に覚えた。  


「俺ならもう少し改善可能だ」

「言葉はもっと選ぶべきです。奥義に到達出来る魔力すらない貴方が何を語っても妄想にしか聞こえません」

「最もな発言だ。反論はしない」


 けど勿体無いと思う。才能は間違いなく俺よりあるのに。


「じゃあ、妄想の代わりに現実を見せよう。その奥義級の魔法を破ろうか」

「出来るものなら。正直まだあの正月の件は信じ切れてないので」


 証明しろって事か、まぁいい。


「他の奥義魔法に変えるといい。攻略されたらショックだろ?」

「追いつけると? この『光の世界』はそう簡単には破れませんよ?」


 いい加減蹴られるのも疲れた。なるべく相手したくなかったが、仕方ない。


「なら使うといい。次で破ってみるから」

「そうですか。では──」


 刹那、彼女が光になる───直前。


 融合スキルで魔力・融合化を発動。思考が飛躍的に加速させる。光に追い付くほどじゃないが。

 さらに異世界の魔法『身体強化・闇の型(ブースト・ダーク)』を発動。相性が良いとは言えず出力は弱いが、師匠から魔力操作は一級品と褒められた技術力が発揮する。


 ───『同化(・・)


 最後に『融合スキル』の第二権能(セカンド)の能力を使用。

 纏っていた闇が俺の肉体に溶け込んでいき……そして。


「う、うそ……」


 衝撃は来なかった。

 代わりに唖然とした未央の声音と間近で聞こえる。いつの間にか真っ正面で蹴りを放った姿勢で立ち尽くして……。



「擬似・一体化───『暗黒天神の闇詠(ツクヨミ)』」



 髪や瞳は黒というより濃い闇色に染まる。制服にも暗黒の模様が付いて纏っていたオーラがマントのように肩に乗る。魔力量自体は大したことないが、その質や異常なレベルまで凝縮されており、『光の世界』の支配者である未央の干渉を完全に遮断させて攻撃から俺を守った。

 

「ッ!」


 だが、ショックからすぐさま立ち直った未央。

 何かの間違いだと光速の手刀や蹴りを浴びせて来る。さっきまでの俺なら容易く吹き飛んで、痛そうな声を出しながらお喋りで誤魔化したかもしれないが……。


「攻撃が……」

「もう効かないだろ?」


 光の纏った彼女の攻撃は、全て闇と同化した俺の肉体を通過するだけに終わる。

 普通なら最も相反する光なら闇に攻撃が届く筈。魔力量が圧倒的に多い未央の魔法の攻撃が通らない筈がない。


「君の光はもう俺には届かない」

「──ッ!」


 魔力操作が異常なレベルに達して、異常な魔力を宿している俺が相手でなかったら、きっと圧倒したに違いなかった。

 危機感から距離を取ろうとしたが、もう『光の世界』で逃すつもりはない。


「『光の世界への(ライト・スp)……」

「無駄だ」


 手から伸びた闇が獣ように発生する光を噛み喰う。

 奥義級の空間干渉を打ち消して、闇の干渉が彼女を縛り上げて逃げ場を奪っていく。

 そして静かに仕舞っていた銃を取り出す。銀銃が闇に染まって暗黒のリボルバーに変異した。


「あ、あり得ません! そ、そのくらいの魔力で! 私の奥義を破るなんてッ!」

「量じゃない。重要なのは質だ。『幻惑弾(ファントム)』」


 幻覚系統の弾丸が発射される。闇のオーラを纏った真っ黒な弾丸となって、光を纏っていた彼女の体に直撃。

 侵食するように闇のオーラが彼女の光を飲み込んで彼女を包み込む。


「こ、こんなもの! この程度で私が……!」

「無駄だと言った筈だ未央」


 異世界の闇属性はこちら以上に精神干渉に特化している。攻撃にも有効であるが、まどかに頼んで弾丸に込めていた『幻惑弾(ファントム)』にそれの特性も付与させた。するとどうなるか?


「『解術(オフ)』、『解術(オフ)』ッ!」


 必死に飲み込もうとしてくる闇の干渉と幻惑効果から抗っている。悪くないが、今度のはルゥの時とは違う。


「干渉を抵抗するには、強力な魔力か高度な魔力操作が大事。逆に干渉を続ける為には、相手の抵抗魔力か魔力操作の処理スピードを読み取って先回りし相殺するのがポイント」


 もし未央の魔力量が師匠レベルであったら、どうにもならなかったに違いない。アレは領域そのものを超えているから比較するだけ馬鹿げている。


「さっき言ったよな。俺なら改善可能だって。そのくらいの魔力操作なら容易に干渉出来る」


 一体化してないが、専門であるルゥの幻夢を破ったのは見事だ。そこはやはり【魔導師】だと感心させられた。

 一つのみでも奥義魔法を連発してそこまで練度で扱っている。その技量も流石の一言であった。



 ……でも。


「光と闇は時に闇が勝つ時だってある。これはそういう事だ」

「そ──ッッ!?」


 答えてになってない。彼女はそう言いたかったのかもしれないが、会話の続きはなかった。

 全身まで浸食していった闇の属性魔力が彼女の光の属性魔力を完全に飲み込む。体の自由すら利かなくなった引き攣った様子で彼女は立ち尽くしている。


「戦うつもりはなかったのは、恩人だけが理由じゃない。アイドルの君をその顔にさせるのが(・・・・・・・・・)、忍びなかったからだ」


 形勢はすっかり逆転したこの状況。焦っていた彼女の表情が絶望と恐怖のそれに変わるのに、さして時間は掛からなかった。


「ごめんな。未央───『擬似・黒き秘密箱(ブラック・ボックス)』」


 俺は静かに謝罪する。彼女は目で何かを訴えていたが、あえて読み取ろうとはしなかった。

 そして彼女の体を真っ下から出現した暗黒の箱の中へ収まった。

 魔法モノあるあるですかね?

 納得のいく魔法名ルビを考えるのに、すっごい時間かかるの!


 でもなんとかやり切りました。今は燃え尽きた気分です。ちょっと無理あったかな。


 一応アイドルチームとのやり取りは次回で終わりで、次は…………お楽しみ!

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