第43話 彼が再会したリーダーは『光の魔導師』(弟子は彼女と戦いたくなかった)
『星々の使い魔』のリーダーにして、姫門学園の三年藍沢未央は神崎家側の人間である。彼女の姉が緋奈の使用人兼護衛をしていた。
龍崎刃こと神崎刃の事を知っており、最近では年初めの集まりにも実は参加していた。家で起きた騒動や外の魔物襲来の件も知っている。
それらに龍崎刃が関わっており、彼がやがて神崎家やその周囲に災いをもたらすと警戒されている事も、彼女は知っていた。
「わざわざ来てくれてありがとうございます。未央さん」
「緋奈さん」
高等部のとある教室。
そこで本来いない筈の神崎緋奈と藍沢未央が対面する。
笑顔の緋奈に対して表情が硬い未央。警戒しているようだが、緋奈は気にした風を見せず笑みを浮かべて歩み寄った。
「早速ですが、お返事をお聞きしたい」
「唐突、ですね」
「私も急だとは承知していますが、先方は予想よりも急いでいるようなので、のんびりしていると出遅れて何も出来ませんよ?」
時間は有限と言うが、少しくらい考える時間が欲しい。それくらい重要な案件だった。
「祖父と白坂家の次男、隆二さんの話を偶々聞いたのです。それによると隆二さんは近々兄さんが通う学園から彼を追い出す為に仕掛けるみたいなんです」
「偶々ですか」
突拍子もない話であるが、あの次男ならやり兼ねない。家柄や才能関係なしに神崎刃を慕っていた長男や三男なら考え辛いが……。
白坂家は神崎家と深い関係にあるので、その息子たちとも面識は少なからずあった。
「本気なんですね」
「祖父はそうでもないようでしたが、隆二さんは土御門さんを頼るつもりのようです」
「手を貸しますかね? 土御門、土御門家は……」
神崎家を嫌っている。仇敵のように。龍崎鉄は祖父のみを毛嫌いしていたが。
「土御門鷹海なら乗ってくれるでしょう。彼は家の問題よりも異端者を嫌います」
「それは……」
否定出来ない。真面目なのは前から彼女も知っていた。
「どうやって龍崎刃君を退学させるんですか?」
「さぁ、どうでしょう? それよりも貴女はどうしますか? 乗ってくれるなら、彼女の件も考えますが?」
「……」
頷くしかなかった。
そしてすぐに学園側からも話が来た際、逃げられないと悟る。チームメイトにも話が届いており、彼女にはもう止める術が無かった。
「許してください。刃君」
光系統の『奥義級魔法』を纏った藍沢未央は、炎となって逃走する刃に追い付く。
世界がスローになるほど加速した彼女の蹴りは、ゆっくりと逃げる彼の頬へ届いた。
「──ッ!」
勢いよく地面に叩き付けられて倒れる。
すぐに他のメンバーと俯いて倒れた彼を囲うが……。
「ど、どうするんですか、このあと?」
「どうするって……」
「……」
意外とあっさり済んで困惑するメンバーを無視して、ゆっくりと近づく藍沢。他のメンバーが止めようとしたが、それよりも早く彼の肩を掴んで無理やり体を仰向けに倒すと……。
「何処かで見たと思ったら……君だったか未央さん」
「こんな形での再会。本当に申し訳ありません刃君」
結構な一撃を受けたのに彼は至って普通そうにしている。
その様子に驚いている面々たちと違って、未央は表情を変えない。まるで思った通りと言わんばかりに首だけで会釈した。
「お姉さんは元気?」
「今も緋奈さんのお側にいます」
「そりゃ安心だ。姉妹共に【魔導師】だし、神崎家も藍沢家の未来も安泰だ」
「突然で申し訳ありませんが、捕まってくれませんか?」
早々に話を切り上げて本題に入る。
本当なら退学してくれと言うべきなんだろうが、そこは白坂隆二の役割だと緋奈に言われている。
「貴女が関わってるっ事は春野の件か。よく此処まで入り込めたな」
「そこまでご存じなら話が早い。ある人に貴方を引き渡せば、姫門に戻す事を認めて貰える手筈になってます」
「存じているのはそっちも同じじゃないか? 自分一人じゃアイツは頷かない。霧島楓の存在がある。彼女も転校出来ると?」
断言してもいいが、あり得んと彼は思った。
品格を気にするあの学園が霧島楓を抱え込むとは到底思えない。春野はアイドル活動で有名になっているので戻せる可能性があるようだが、霧島を庇っている限り彼女は戻れない。
「私が説得します」
「出来ないからこうなってるんじゃないのか?」
あれ程のリスクを何度も繰り返してでも霧島を守ろうとした春野が、リーダーの命令一つで霧島を見捨てるのなら最初から騒動なんて起きていない。
「無駄な方法だ。誰がバックにいるか知らないが、手を退くのが懸命だ」
「可能性が少しでもある限り諦める理由にはなりません。さっきの一撃は耐えたようですが、次は耐えれると思わない方がいいです」
刃の言葉を切り捨てるように、全身がまた眩く光り始める。
「そうか……」
仰向けで倒れていた彼は小さく息を吐く。そして……
「やっぱり貴方とは戦いたくないな」
ピンッと手に持っていた弾丸を指で上に飛ばす。
見ていた皆にはそれがスローに見えたに違いないが、未央はハッとした顔で手を伸ばそうとする。まだ魔法が発動し切れていない通常の状態。伸ばした手は遅かった。
弾丸に仕込んでいた初級魔法の『閃光灯』が発動される。
目眩しの光が『閃光弾』として解き放たれた。
「うっ!?」
「ま、まぶしっ!」
ダンジョン内は太陽はない。洞窟のような岩肌や天井から血管のような赤い線が灯りとなっている。慣れると平気になるが、実は結構暗い。
分かっていた刃以外、【魔導師】の未央ですら一時的に目をやられた。
「今度は追い付けるか未央?」
「っ刃君!」
待ったなし。刃は倒れた姿勢のまま手足からジェットの炎を噴射。二人くらい巻き込んでしまったが、囲われている状態から脱出した。
しかし、その数秒後には未央たちの目も元に戻る。飛んで行く刃を遠目でも捉えた未央が険しい顔で首を横に振った。
「戦わず本気で逃げるつもりですか!」
「み、未央先輩?」
憤りすら感じさせる。普段は凛々しい彼女のそんな表情に動揺する後輩。他のメンバーも同じ気持ちだが、未央は再び光を纏った。
「『光の世界への導き』───先に行きます!」
「未央! 本当に大丈夫なのか」
飛び立つ直前、副リーダーの同級生の女子が皆の不安を言葉として尋ねるが。
「大丈夫です」
振り返らず一言だけ告げた。感情が一切込もっていない……無感情なものだった。
「っ!」
そして意識を逃走している刃へと集中する。
既にかなり離れているが、問題なく探知している。この距離は彼女からしたら何でもなかった。
光となって跳躍した彼女は『光の世界』に入る。彼女の全てが加速した。
その世界は彼女以外の全ての時間が限りなく遅くなる。彼女が速過ぎる為にもっと遠へ逃げていた刃まで、僅か数本の跳躍で追い付いてしまう。
「逃げれませんよ? その程度では」
手足と背中からジェットの炎を噴き出す彼の隣まで並ぶ。
後ろの首元を狙った彼女の鋭い手刀が───ゆっくりと振り返った彼の瞳と目が合った。
「──?」
反応した? そう思った時には振り下ろされた手刀が彼の首へ直撃。
また地面へ叩き落とされて、激しい衝撃で今度こそ意識を刈り取ったと確信した……直後だ。
【くすくす】
頭の中で誰かが笑った。後ろから囁くように。
思わずハッと振り返るが、誰もいない。まだ『光の世界』に入っている。彼女以外はこの領域に入れない筈だが……。
【だ・れ・か・な?】
「ッ!」
また声が後ろから聞こえる。上限が測れない危険な香りがした。
だが、今度は振り返らず一旦瞳を閉じる。
「『解術』!」
【──】
すかさず自身に掛けられている幻術を解いた。簡単な解呪の魔法だが、何かが体から抜けたのを感じて目を開けた。
『まさかその歳で呪解の心得があるなんてー。いやーすごいすごい』
「感心している場合か……」
ぱちぱちと手を叩く黒マントに髑髏マスクを被った少女が一人。女性と分かったのはマントの内側の……羞恥心がないかのような輪郭がハッキリわかる格好が原因であるが。
その隣で呆れてた様子の刃が無傷で立っていた。手元には銀銃が握られている。
「そちらはどちら様ですか刃君?」
「ルール内の助っ人だが?」
『どーも』
灰色の髪した少女。雰囲気と魔力の感じから人間じゃないと直感で理解。世にも珍しい召喚魔法の召喚獣というモノかと納得しかけたが、人型の召喚獣なんて伝説級の魔物と同じくらいレアだと聞いたような気がした。
「構いません。もう見切りました。私が攻撃したのはそちらが用意した幻術の刃君なんですね」
と言って手を向けると少女の方から、また感心したような笑みが見える。
当たりだという事か、僅かなにあった懸念を確信が上書きする。
「攻撃する事が発動キーでしょうか。目視、もしくは目線を合わせただけでもあり得そうですが、そうして私の脳へ直接幻覚の魔力を流し込むといったところですか」
『ご名答ー』
「あっさり認めるなよ」
否定する気ない少女に刃が頭に手を当てる。頭痛か、リーダーの彼女も覚えがある光景だ。何処のチームにも問題児はいるというものだ。
「私が幻覚で苦しんでる間に完全に振り切るつもりだったようですが……どうして戦おうとしないのです」
昔とはまるで別人だ。年初めの時に起きた魔物の件を聞いた時からもう昔の刃ではない。我々───神崎家にとって危険な存在になると認識を改めていた。
「この話が無くても、いずれ私たちの学園と貴方が通う学園は激突します。それがなくても神崎家の闇が貴方を逃がしません。先兵として私と貴方が遅かれ早かれ対峙していました」
そうだ。緋奈や隆二、そして神崎家が龍崎刃を本当に意味で無視しない限り、対決は回避できなかった。
「学園も家も関係ない。俺はただ貴女とは戦いたくないだけだ」
「私が貴方の何だというんです」
どうしてそこまで自分との戦いを望まないのか。特に何かあった記憶もなく、理解できないような顔で問いかけると。
「……少なくとも、貴女はあの時の俺にとって家族を除けば、桜香やミコの次くらいに恩人だと思っているからだ」
真っ直ぐな瞳が戦いの為に歩み出そうとする彼女の足を止めた。
「……私は戦います」
だが、それも一瞬だけ。
歩み始めるとまた体が光り出す。
「戦ってください刃君。出ないと──」
再び『光の世界』に入った彼女は、彼の眼前まで接近して片足を上げた。
「怪我だけじゃ済みませんよ!」
スローで動く彼の頭部に光の踵落としが繰り出された。
急な展開と登場人物になりました。
前にもチラと運転手の藍沢さんの話がありましたが、実は姉妹ともに【魔導師】の超エリート。家柄の影響で今は神崎家に仕えている。
戦いたくない刃がどう乗り切るか……




