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おはよう世界、さよなら異世界  作者: キャピキャピ次郎☆珍矛
AX
93/125

第93話 運命はきっと鳥に似ている


 橤


 「つまり、この学校は現実では無いって事を言いたいのかな?」

 AAは加賀に問う。端的にまとめるとそういう話になる。


 「そうだね。何度か夢かと思って頬をつねったんだが、めちゃくちゃ痛くてね。」

 「マジであれやる人いるんだね。喩えかと思ってた。」

 「そしてブルーシートの血。何故だろうね、非現実的な事が起きているのに、あまり驚いてない自分に驚いてしまうね。状況を受け入れるのが早過ぎる。」

 「・・・おかしいのは、貴方よ、Mr.加賀。」


 AAは、加賀に銃を向けた。


 「Mr.加賀、貴方こそ何者?」

 「人間だよ。」加賀は顔色一つ変えずに答える。あまりの冷静さに、AAは拍子抜けになった。

 「いやそういう話してるんじゃなくて。」

 「これでも、あの幸助の友達、名乗らせて貰っているからな。この程度造作も無い。」

 「・・・そんなにアイツは凄いの?」

 「彼は超人だよ。自殺から戻ってくる前から、ずっとね。」

 「・・・どういう事?」


 AAは、銃を下ろした。単純に話の興味が湧いたからだ。


 「彼はそもそも有名人なのさ。だから、自殺するなんてあり得ないし、元より虐められたなんてあり得ないんだよ。」

 「・・・?」

 「彼はね、中学生の頃に暴走族を一人で潰した事があるんだ。」

 「・・・ボーソーゾク?ああ、ヤンキーってやつ。不良の族ってことか。」

 「かなり有名な悪い集団でね。警察も手を焼いていた。でも、彼はその腕っぷしだけで全員を病院送りにしたのさ。全身の骨が折れるような怪我をしても、何度でも立ち上がって倒したんだと。で、次の日にはピンピンで学校に登校して来たそうだ。公立中学の中でかなりの問題になったが、あまりにも現実味が無い話だった為、有耶無耶にされた。そこから、エビハラの名前を知らない学生は居なくなった。まさか、この学校に来るとは思わなかったよ。なにせ、生徒全員から恐れられているくらいだから、おっそろしい不良だって噂が絶えなかったからね。」

 「・・・妙に頑丈だと思ったら、そういう・・・」

 「凶暴な人間かと思い皆は避けていたが、入学して間もなくクラスマッチという行事があってね。クラス対抗でスポーツの対決をするんだが、そこで彼は超人的な動きを見せた。コミュニケーションも抜群に取れる気の良い男だって事がそこで判明して、彼を嫌いだと思う人間なんていない位には人望があった。」

 「気持ち悪いくらい主人公みたい。」

 「だからね、彼が自殺したってなった時は、本当に意味が分からなかったんだ。あまりにも非現実的だとネ。しかも虐めの主犯が伊藤。彼なら、簡単に捻り潰せると思うんだがね。そんな訳で、彼から友達認定されるってのは、かなり凄い事なんだよ。だからこそ私は思うのだヨ、何が起きても不思議じゃない、とね。君が銃を突き出しても、もしそれに撃たれて私が死んでも、そういう事だってあると受け入れている。そう思えているのは、一重に彼の存在が大きいのだヨ。」


 「・・・何よ、恵まれてるじゃない。アイツ。」


 AAは、ボソリと呟いた。


 「まぁ、とにかくだネ。ハッキリしておくと、私は君に敵意は無いから、出来れば私を殺さないでくれると助かるな。」

 「そう?もう散々話は聞いたから、潮時じゃない?」


 AAは、加賀に再び銃を向けた。


 「殺意を抑える気は無いか。哀れだネ。君が真に邪悪である事を祈るヨ。じゃなければ、君は死ぬ時救われないだろう。」

 「何が言いたい?」

 「私はネ、持論として思う事があるんだ。たとえ生まれた環境が悪くても、その後比率こそあれ善にも悪の道にも転びうるのならば、人は本来生まれた時から全て決められているんでは無いのかな、とネ。私は施設で育ち、優しき両親に引き取られて今に至る。環境はお世辞にも良いとは言えないが、こうして学年トップの成績を収める男になった。ならば、たとえどんな事があっても、環境のせいにしてしまうのは甘えだと吐き捨てるのは、これは強者の理論なのかな。」

 「私の邪悪は、初めから、って言いたいのか?」

 「そうとも。人を殺さずにいられないのは、誰かのせいじゃない。全て君の弱さだ。」


 AAは、無言で引金を引いた。加賀は無言で倒れ、鮮血と脳漿が飛び散った。


 今更、何も思う事は無い。時間は無い。全てを我が糧としなければならない。こんな男でも、栄養源なのだ。


 ーーーーが。

 加賀は、何事も無かったかのように立ち上がる。脳への銃痕は跡形もなく消え、先程と同じような事を喋り始めた。


 「ーーーまぁ、そういう事なのさ。私は既に死んでいる。だから、死なないんだ。」


 加賀の額に、巫女の存在証明たる、憎き紋章が浮かんだ。


 何故、お前が持っている。


 加賀の背後から、無数の《ナニカ》が表出する。それは、幻獣ヴェイルそのものだった。

 黒く蠢く闇と、目の集合体は、不気味な暴威として映った。鏡写しの自分を見せられているようで、AAは少し怯んだ。


 何故だ。何故、この世界アルファの住人が幻獣と溶け合い、融合しているのだ。

 これは、私の技術。紛れも無く、私が生み出した産物だ。アカシクで成し遂げられなかった事を成し遂げた筈の《混成》を、何故コイツが成し遂げているーーーー?


 溢れ出す黒き流動を跳躍し、《厄具機来プル・ザ・アルファ》を発動し、鎧を纏う。足場に魔力を集めて空を蹴り、距離を取った。


 足場に無数の銃器が覗いている。自分と全く同じ力を、加賀は使用している。


 あれが、他人から見た自分なのか。気持ちが悪い。


 「死んでいるからヴェイルになれるって?そんな無茶苦茶通ってたまるか。」

 AAは雷槍を表出させて、魔力を込めた。空を裂くような雷光が槍先に集い、充填されていく。


 「ーーーいや、正確には、私は生きてすらいなかった。全く、性格が悪過ぎるヨ。そう思わないか?AA。」

 「何故その名を知っているーーー?」

 「やだなぁ、姉さん。僕を忘れたのかい?」


 ーーーー加賀の顔面が、割れていく。

 まるで仮面が剥がれるように、肉の装いはボロボロと、グロテスクに崩れていく。


 そして、その全貌が顕になった途端、AAは言葉を失った。


 それは、紛れも無く、かつての弟・XAの顔だったからだ。

 



 アックス

 



 ーーーーだが、それが偽物だと、AAはすぐに思い直す。

 XAは死んだ。その事実は変わらない。


 そして、自分が今日まで生き延びた理由。

 

 それはーーーーーー


 「・・・出し惜しみはできないか。」


 AAはため息をつく。得体の知れない敵を相手に、全力を出さずに勝利は不可能。

 魔力で強化された銃弾の威力は馬鹿に出来ない。《破練師スランバー》として烙印を行使するには、保有する魔力では補い切れない。魔装具と化した生成物である鎧の外装も、いつまで持つか分からない。


 世界アルファで戦うのは、あまりにも向いていない。


 だが、まだ奥の手は存在する。その手を使えば、魔力は無限に生成される。自らが永久機関となり、スキルを無限に行使できる。


 これは、紛う事無き、純然たる愛の力だ。



 あの日、誓ったのだ。狂った文明、そして憎き母親の元から逃げ出した時。



 私達は、ずっと一緒だって。



 AAの身体から、夥しい数の無数の手が現れる。背中、顔、腹、脚の全てから、無限のように手が伸び、生えては避けてを繰り返し、距離を伸ばしていく。

 それは咲き誇る橤のようであった。無数の貌、黒く蠢く目の群生と重なり、血が流れていくように侵食していく。生命変換器たるヴェイルと、身体から無限の肉を培養する弟の力。

 無限に至る肉と黒が重なり、橤を形作っていく。あまりにも濃ゆい魔力を大気に満たし、その中で人形となった双貌の怪物が下卑た嗤いを上げ、混成された固有スキルを詠唱する。


 「《烙胤鬼結術スティグマエンド》」


 形成された巨大な橤から、器から水が溢れるようにヴェイルが落ちていく。地上に溢れる腕が黒を受け取り、融和し変生していく。


 まるで、死体に魂を入れ込むように、それは腕だけで型取られた人形となり、動き出した。


 生命の樹。全ての生命の原点である、始まりと輪廻、無限の再現である。橤から飛び出した種子を放ち、勝手に生命を混成していく。まさに無から命そのものを生み出す、神にも等しき力である。


 「さぁ!人擬き達よ!!蹂躙せよ!!!」


 腕だけで形成された、夥しい数の生命が、拙いながらも素早い動きで立ち歩き、加賀を襲う。命ある人形の無情なる行進は、加賀の放つヴェイルによる有機物利用能力は意味を為さない。

 何故なら、ヴェイルにより形作られた人形は、既に華としての改造が済まされている。管理者権限は絶対的なモノとなり、人擬きはAAの指令しか聞かない。


 いやーーーもはや、AAと呼ぶに値しない。


 まさに無限の可能性を持ったXAと、AA。

 この世でたった2人の兄弟が仲良く、一緒になった最終地点。


 2人の名前はAX(アザレア・ザナドゥ)

 生きる為に、誇りすら捨てた亡霊である。


 「な、なんだ、何なんだコイツらァ!!」

 XAの顔になった加賀が、狼狽える。銃で何度撃っても、無限に湧き出る人擬き。命絶える瞬間に起爆し、加賀のヴェイルの戦力を悉く削っていく。

 

 「Mr.加賀。もう一度訊くよ。貴方、何者?」

 「・・・それを訊くか。それは、私にも分からないネ。」

 「答えになってないわよ。」

 「ただ僕は、友達だった。今はそれしか、憶えていないーーーー」


 加賀の身体が、次第に透明化しているのにAXは気付く。既に屋上全域へ広げていたヴェイルは消失し、加賀は元の眼鏡の顔に戻っていた。

 

 「おい!!まだ何も聞いていないぞ!!勝手に消えるな!!」

 AXは近付き、触れようとしたが空を切る。思っていた通りだった。透明化し始めた途端、魔力を感じなくなったからだ。


 「君は自らの生まれを呪うかね?」

 加賀は問う。その問いにどんな意味が含まれているのか分からなかった。だが、考えて答えないといけないと、AXは思った。


 「もう呪わない。ただ、私の憎しみが消えないだけ。」

 

 「そうか。君も、そういう設定じゃない事を祈るよ。僕みたいな人間が、これ以上増えない為に。」

 「ーーーー待て。それはどういうーーー」

 「また新しい私に会ったら、よろしく伝えてくれ。お姉さんーーーー」


 ーーーーそう言って、加賀は消えていった。


 太陽が沈みかけていた。夕闇が迫る中、AXは放心状態となった。


 考えれば考える程に、最悪な想像が脳を走る。


 今まで、奴の能力を知らなかった。

 それは何故か。アカシクは、彼女の力を、過去の巫女と同等以上に危険視し、能力の使用を制限したからだ。


 そこで、考えついてしまった。


 彼女の能力は、命を創造する。しかも、自由に能力を設定可能で、把握する能力ならば付け加えることも可能。


 そんな、自由度の高い禁忌の能力を持っていたとしたならば、私は本当に、彼女が腹を痛めて生まれてきた、子供と言えるのだろうか?


 まるで、そうやって最初から作られた生命体なのでは無いかと。


 ・・・気のせいかな。まぁいいか。

 どうやって生まれたかなんてどうでもいい。自然分娩が良かったなんて贅沢な事は言わない。

 どちらにせよ、アイツを殺せたら満足だ。


 もう、永くは無い。タイムリミットは刻一刻と迫っている。


 私達は、この過去おもいでと、決着をつけられたら十分だ。



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