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おはよう世界、さよなら異世界  作者: キャピキャピ次郎☆珍矛
序章
8/125

第8話 少年の正体

 やっぱり、覚えていなかったか。

 小鳥遊小春は溜息をついた。入学当初から、もしかしたら彼はあの人では?と思っていた。

 忘れもしない。中学時代の頃の話だ。


 あれは肌寒い頃だった。

 小春は中学生の頃、街中で2人組でナンパに引っ掛けられた事があった。しつこかったので強めに反抗したら、相手は街中であるにも関わらずナイフを使って脅してきたのだ。

 襲われるかもしれない恐怖心で何も言葉が出てこなくなり、身体が固まったのを覚えている。


 その時。


 「どうしたんですか?」


 ネックウォーマーで顔の半分を覆っている、当時背丈が私より小さかった男の子が割って入ってきたのだ。


 「ああ、ガキは引っ込んでろ!!」

 「まぁまぁ。あ、思ったより早くパトカー来ましたね。おーい、こっちでーす。」

 「は!?」


 少年が手を振る先に、2台のパトカーが交差点の向かいにいたのだ。


 「やべぇ、サツだ!!」

 「逃げろ!!」


 どうやら少年が絡まれている私を見て警察を呼んだらしく、その時間稼ぎの為に会話に入ってきてくれたらしい。その後その2人は警察に現行犯で捕まった。その少年がナイフを持って私を脅す様子を撮影していたようで、それが決め手になったようだ。

 こうして、事態は収束した。


 「・・・本当に、ありがとう。」

 「謝る事じゃないよ。悪いのはあいつらだって。あーでも、僕の事恨んでたりしてないかなぁ・・・。まぁ顔隠してたし大丈夫だよね・・・。あー、やっぱり、こわいなぁー。・・・ああ、気にしないで!!つい本音が、漏れちゃった!!」

 「・・・プッ。あはは!!」


 少年が私を笑わせる為に、弱みを見せているフリをしているのがバレバレだった。


 そうして、それ以来少年とは一度も会っていなかった。

 この出来事は翌日に地元新聞にて報道された。素性を絶対に明かそうとしなかった少年の雄姿が事細かに書かれており、多少の脚色をもって一時期ヒーローのような扱いを受けていた。

 その、あの時の少年と、彼の雰囲気がなんとなく似ているのだ。


 彼が私の事を覚えていないのだとしたら、彼は普段の日常からああいう善行を当たり前のように積んでいたのだろう。だから、数が多過ぎて覚えていられないという理由なのかもしれない。もしそうだとしたら、私のあの出来事は、彼にとって特別でも何でもなかったという事になる。


 それに、彼の虐めを、私はどうする事も出来なかった。

 彼が伊藤に目をつけられたのは恐らくだが、そういった善行の中で恨みを買われたのかもしれない。それに、怖かったのも確かだ。伊藤を敵に回せば、学校はおろかこの町で生きていけるかどうか、分からない。

 だから、私と彼は、全く違う正反対の人間だ。

 彼は、私の為に危険を冒す事が出来た。でも私がやった事といえば、彼の虐めの負担をバレないように、最小限に留める事だけ。


 余りにも釣り合わない天秤だ。弓道部に入るよう誘ったのは、同じ仲間として一緒にいる事で、形だけでも同列になりたかったのかもしれない。


 あーもう、気持ちがモヤモヤする。ハッキリしろよ、私。


 彼はきっと前までの彼とは変わっている。何があったのかは分からないが、あの学校から飛び降りた日から、並々ならぬ事情があったに違いない。でないと、あんな傷だらけで痛々しい身体になっていない筈だ。どうしてあの彼が、あそこまで変貌を遂げなければいけなかったのか、気になって仕方がない。


 夕焼けに染まる太陽が山に沈んでいく。流れる雲に逆らうように、空に黒い塊が動いているのが見えた。

 最初は、ヘリコプターか飛行機が飛んでいるものだと思った。

 だが、それが段々近づいて来るにつれ、普通の存在では無い事に気付く。


 それは、翼が生えていた。全長5メートル以上はある、伝説上の生き物。


 「ミツケタ!!ミツケタ!!!」


 拙い声で、それが遠くから叫んでいる。標的が自分だと気付くには遅過ぎた。

 そいつが速過ぎたのだ。

 そいつが目の前に立ち塞がると、爆音で叫ぶ。


 「オマエ!!コースケ、シッテル!!」


 ・・・何が起こっているのか、全く理解が出来ない。

 ・・・まただ。また、身体が動かない。


 龍の如き頭に、緑蒼の鱗を全身に纏った翼の生えた竜。右眼が深淵を覗くように黒く、左眼が獄火のように紅い。アシメトリーな配色で、気味が悪い。

 現実感の無い生々しい立体感に圧倒され、根源的な恐怖を掻き立てる。

 人智の及ばない生物を目にした時、逃げるよりも先に諦めがついてしまった。

 無理だ。どうしようもない。何の為に弓道をしていたんだ。強くなる為じゃなかったのか。


 竜が口に炎を溜める。向けられているのは、明らかな殺意だった。

 ――――――ナイフを出された時の事が、脳裏に浮かぶ。


 「――――――――トワノネムリニスクイアリ。シネ。」

 竜は、小春に向けて炎を放射した。



 「――――――――――――危ねぇっ!!!!」


 小春は突如、浮遊感に包まれた。誰かの声と共に、抱きかかえられる。

 一瞬の出来事だった。幸助が現れ、小春を抱きかかえると上空に跳躍した。


 何が起こったのか理解が及ばなかった。それらは一瞬の出来事だったからだ。


 「後ろに捕まって!!」


 小春を背中に乗せ、幸助は空中に滞空したままの状態で、口上を唱えた。


 「―――――《偽創具顕現フェイクリエイト星獣弓スターダスト》!!」


 ―――――瞬間、幸助の両手が光に包まれる。その光がやがて弓の形になった。この世のものとは思えない煌びやかな装飾が施されているその弓の弦を、幸助は上空から竜に向けて引いた。

 それは先程見たような、弓の引き方だった。弓道のような姿勢では無く、上半身だけで弾道を制御する狩人の如き構え。自分とはまるで違う、実践的な猛者の構え。

 小春は、その弓に矢が無い事に気付いた。だが―――――――――――――。


 「――――魔力装填・解放!!!」


 幸助の弓から、光が実体を帯びたような矢が降り注がれていく。無限に放たれる光の矢は、竜の身体を貫き、浄化していく。

 ――――――凄い。本当にあの海老原君なの?


 「―――――グググググウウウウウウ、オ、オマエ、ハ・・・!!!」

 竜が力無く倒れる。それら一連の動きは、僅か一瞬の出来事だった。


 幸助は、手に持つ《星獣弓(スターダスト)》を消滅させると、落下していく身体の体勢を整える。

 「おっとっと。・・・はぁ、危なかった。」

 そして安全に、小春を抱きかかえ地面に着地した。

 「怪我は無い?」


 この感覚は、見覚えがあった。あの時、語りかけてきた少年と、同じ。


 「・・うん。これ現実?」

 「夢であって欲しいけどね。力、見せちゃったし。それに――――――」


 幸助は、光に包まれ、穴だらけになった竜に振り向いた。

 苦しみながら、今にもその眩い光に吞み込まれ消えゆく竜が、悪意を隠さずに嗤う。


 「・・・クククッ。コノセカイハ、ヘイワナヨウダナ・・・。」

 竜が、不敵な笑みを零した。その邪悪な笑みは、虐めっ子の伊藤から感じるものと似ていた。混じり気の無い純粋な悪意。それが溢れ出ていた。


 「聞きたい事があるんだが、これは誰の差し金だ?」

 幸助は、平然と訊く。竜に恐れすら抱いていない。いつも通り、普段通り。小春には、違和感しかなかった。短期間で、こうまで人は変わってしまうものなのか。


 「・・・フフフ。ムダナコトヲ。」

 「どうやってこの世界にやってきた?理由は何だ?」

 「ワレワレマオウグンハ、フメツ・・・・・・。」

 「・・・・・・。」


 静寂が走る。

 竜は光に包まれ、完全に跡形も無く消滅した。

 一瞬の出来事だった故に、野次馬が集まってこなかったのも幸いした。目撃者は僅かしかおらず、それも人通りの少ない橋の上で起きた出来事だったので、交通事故なんかも起きずに済んだ。実際に見ていた人も、余りに一瞬の出来事だったので何が起きたか理解出来る人も少ないだろう。変な噂話は立つかもしれないが、事が大きくならずに済んだ。


 だがそんな事よりも、小春は、その時の幸助の表情を、一生忘れる事は無いだろう。

 竜の言った言葉に固まっていた幸助の表情が、とても悲しい顔に見えたのだ。

 まるで、取り返しのつかない事をしてしまったような。

 そんな顔に見えた。


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