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おはよう世界、さよなら異世界  作者: キャピキャピ次郎☆珍矛
血飛沫なる運命
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第74話 Veil

 華はいつだって綺麗だ。最期まで裏切らない。人の一生も華で喩えられる。どんなに鮮やかな色をしていても、最後には枯れていく。

 その生命の刹那こそ美しいのである。耽美的であり、背徳的なのである。


 対して、神や龍、吸血鬼は華では喩えられない。あれは造華だ。一生姿形は変わらない。が、終わりが無いというのは、生きていない事と同義である。


 どちらも比べるべき話では無いのだが、私が好きなのは生華で、私が目指しているのは造華だ。矛盾しているのかもしれないが、美を感じない在り方に惹かれている。模した命とでも言うべきか。期限のない命だからこそ、その分の苦しみが待っている生というのも、ある意味では美しいのではないかと思うのだ。


 水を注いでも答えは返って来ない。現実には効果は現れない。何も起きはしない。土に還らないという事は、つまりこの世の在り方そのものを否定する事に他ならない。


 私はそれでいい。どんなに悪に堕ちても、理想の為に求め続ける。その過程でどれだけの生華を犠牲にしてでも、完璧な造華を造る為なら、全てを食い潰してやるのだ。


 ーーーだって、自分の知識を自分で開拓していくのって、とても気持ちがいいでしょう?


 

 「ーーー《烙印帰結術リングスティグマ》!!ーーー《憐華アカシア》!!!」


 AAの叫びに、華達は応える。新たな生命に変えられた生華は、再び姿を改えていく。元々人間だったモノを素体にしているせいか、魔力の消費もそんなに無くて便利だ。利用した命は徹底的に使い潰さないと、すぐに棄てるのは勿体無い。


 神殿内の蔓を更に、更に増やして、強化し、束を作った上で硬質化させていく。神殿の中を埋め尽くすまでに一瞬で成長した後、華を咲かせていく。

 そして、逃げ道を完全に植物で塞いでいった。


 龍王アークは速い。時間制御系の固有スキルを持っていて、速度を生かした超火力を生み出す怪物。


 勝負は一瞬で決まるーーーー。


 「ーーー《無時限アンピリオド》。」


 龍王アークの固有スキル《無時限アンピリオド》。その効果は自信の動きを倍速化し、その加速に際限を無くす事。一度使えば使う程倍速化し、限界無しに速くなっていく。その魔力が尽きるまで、速くなる。


 要は、最初の一発で仕留めなくてはいけない相手なのだ。ノッて来たら対応出来なくなる。


 だが、神殿内での戦闘ならば、AAには自信があった。籠の中にいる鳥を逃さずに潰すのは慣れている。


 ーーー華は咲き乱れ、やがて果実が成る。

 自然的帰結である。至極真っ当な論理である。土があれば草が生え、やがて木となり華が咲く。その行く末は、次世代へのバトンを繋ぐ為に、甘くて美味しい美味しい果実がなる。

 甘ったるい結末を迎えた先には、増殖し過ぎた結果の淘汰。栄えれば滅びるのも摂理。

 生命の輪廻は常に破滅と醜悪の揺らぎにある。その果実を食べるのは、命を貪る事でしか姿を保てない生華いきもの達。


 気持ちが悪い。全部消えればいい。


 果実として産み落とされていく次世代の命。

 だが、それは、AAが造り出す悲劇の序章に過ぎない。


 「《残影刀アフターグロウ》顕現、解放ーーーー。」


 龍王アークは、右手に大きな刀を顕現させる。空気圧で敵を切り裂ける程の更なる速度を生み出す。


 ーーーそして、勝負は一瞬でついた。アークが《残影刀アフターグロウ》を顕現させた瞬間に、目に見えぬ速度でAAに接近。その斬撃はAAの元に届いていた。


 瞬間移動に似た、圧倒的速度から生み出される斬撃により、AAの身体は真っ二つに裂けた。その衝撃で、神殿は割れ、爆風が巻き起こり、空の雲が割れる程の衝撃が走った。


 血が溢れる。分離していく身体を余所目に、AAは痛みを滲ませる様子も無く、悪意を含んだ笑いを浮かべる。


 「ーーーあらら、切られちゃ」


 言葉を紡ぐ暇も無く、アークはAAの首を刎ねた。斬首の音が響くより早く、斬撃が飛んだ。



 「あーあ、不死身ってつまらないわよね。ほんと、マキア叔母様も不憫よね。ざまぁみろって感じ。」


 AAは、嗤う。落ちながら、首だけになっても意識は平然として在り続ける。


 そして、AAは目を見開いて狂気の瞬きをした刹那ーーーーーー


 神殿を覆う植物がAAの頭、身体を食い破るように突き刺して飲み込み、同化した。


 

 ーーーー幻獣・ヴェイル。

 別名・生命変換器ライフチェンジャー

 その植物に似たナニカは、触れた全てを喰らいつくした。触手を生やした原始的な生命体のようでもあり、大きな寄生華が咲いているようにも見えた。

 初めて観測されたのは、遥か昔龍王アーク時代の全盛期。現在の宗教国家プライマルが分裂する前の統一国家が幅を利かせていた頃の話である。


 冒険者による公的調査隊が派遣された。旅団パーティ数15、構成人数5人の計70名を越える一団である。


 当時、未界域であった地に向かった調査隊は、一夜にして見るも無惨な形として帰ってくる事となった。


 唯一の生存者は、帰還した頃には人の形を留めておらず、その絶命の間際、語った。

 

 「ーーー奴に触れてはいけない。自分が変えられてしまう。」




 AAは、真正の怪物である。


 魔王軍隊長格十二幻将とは即ち、人では無い人の形をしたナニカである。

 十二幻将であり、アカシクの民であるAAもまた、例外に漏れず、人と幻獣が混ざり合った狭間の存在。


 幻獣ヴェイルとの混成生命体である。

 

 華が咲き乱れ、植物は肉食性としての現実味を帯びていく。表面的な擬態は解け、果実は血管に巻き込まれた胎動する卵へと変貌を遂げる。


 神殿を覆う無尽蔵の肉塊から、大量の口が生え、嗤い声を上げる。


 「ーーータスケテ。」

 「コロシテ」「セトラサマ」「コロシテヤル」「オモイダシタ」「シニタイ」「オカアサン」


 犠牲者の怨嗟の声が響き渡る。神殿内に避難していた、スルースヴィルの人達の救いを求める声である。


 「はいはい全員お口チャック!産まれ直して上げるわ!!」


 一際大きい目玉と口が大声で諫める。


 

 「ーーー何だ、これは。」


 スレイヤーは目を疑った。初めてAAの本性を見たからだ。幻獣ヴェイルとの混ざり物だとは聞いていた。だが、ここまで親和性が高く幻獣と混ざっているとは思わなかった。


 十二幻将の特徴として、人の形をしたモノに一部幻獣の性質が現れる、というのが普通だった。ラビやコンスも、素のスペックを底上げする為に、幻獣と混ざり合っているに過ぎない。いわば幻獣と混ざり合うメリットは副次的な強化である。

 それ以上混ざれば、自分が何者であるか認識出来なくなり、幻獣因子に支配される。含有率はせいぜい30%以下に収めないといけない。それ以上、幻獣因子に支配されてはいけないのだ。でないと、破滅する。


 今、目の前で起きている事は、幻獣ヴェイルそのものの厄災である。AAの身体は、そのほぼ全てが幻獣ヴェイルだという事になる。


 とんだ猫被りだ。

 もっと、もっと危険視すべきだった。あの姫様と何もかもが、違う。本気で世界を変え、終わらせる気概を感じる。


 同時に、スレイヤーは幸助の事が頭によぎった。コースケも、自制が効かなくなれば、いずれは・・・。


 「なぁスレイヤー、こいつを殺すという事は・・・。」アークが苦々しく口元を歪める。

 「ーーーどうせ助からない。」

 「・・・セトラを慕っていた者を殺すのか。相変わらずこの世界は、生きるとか死ぬとかばっかりだな。死人が言うのも癪だが、ほんと嫌になるぜ。蘇らなきゃ良かった。あーあ。」

 「減らず口を。来るわよ。」

 「分かってるよ、クソ。龍王アークを舐めるなよ。アカシクの小娘よ。」



 「ーーーー造華になれ、我が半身よ。」

 AAは、既に唱えていた。


 《烙印帰結術リングスティグマ》・《憐華アカシア》。

 その効果は、果実と化した命を孵化させ、新たな命として顕現させる。


 AAの通った道には、生物の痕跡すら残らない。


 その所以は、AAが無辜の人々を一瞬にして自らの配下にするからである。


 人ならざる都合のいい生命に作り替えるのだ。その際に、幻獣因子を混ぜ込む。十二幻将の誕生と、殆ど同じ方法を一瞬にして大量に行えてしまう。


 その結果、厄災が起こる。

 理性を失った獣の叛乱により、敵味方問わず喰らい尽くす。AAの通った後には、変わり果てた人間の残骸が新たな血肉を求めて分散する。二次災害が偶発的に起こり、統治国家に混乱を齎す。


 卵が一斉に割れていく。


 生命の神秘を勘違いした悲劇の産声を上げる。祝福されない命の誕生。


 痛ましき憎悪を孕んだ混成生物が、スルースヴィルに解き放たれるーーー!!

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