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おはよう世界、さよなら異世界  作者: キャピキャピ次郎☆珍矛
血飛沫なる運命
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第65話 薬中

 ―――――幸助は、師匠から離れた後、裏周りをしていた。

 爆心地となっている街の中心に戦力が集中している。周囲の丘陵付近にも魔王軍の手下達が待機している可能性は大いにあったが、十二幻将とさえかち合わなければ、幸助自身の力で対処出来る自身はあった。既にラビ・レイジネスと相打ち出来るだけの術はある。

 雑魚相手なら、まだ拙いが、師匠と同じように、《創具顕現クリエイト》を使って、対軍用の魔装具を作っていけばいい。


 そんな事よりも、重要な懸念が一つ。

 それは、幸助自身の吸血衝動である―――――――。


 幸助は、吸血鬼である。

 だが、何故そんな彼が太陽の元に出て活動出来るのかといえば、それは幸助の努力によるものであった。

 吸血鬼は、神が人々から祈りを集めて実態を帯びていくように、人々の血を身体に取り込まないと、自身が存続できない特性がある。


 これを、幸助は、やっていない。

 つまり、この世界に来てから、本当に死にそうになってきた時にしか、吸血行為をしていない。それも、師匠スレイヤーが幸助の身を案じて、他人の血を無理矢理飲み込ませて、今まで何とかやってきた。


 幸助が血を飲むのを拒む理由は様々だった。


 皆と一緒に、冒険したい。昼にも活動したい。

 人の血を飲みたくない。味覚が人間のままだから、飲むと吐き気がする。

 その一線を越えたら、自ら進む様に血を飲み始めたら、僕は終わる気がする。


 幸助はまだ、人間でいたかった。

 道を踏み外せば、完全な化物になる。そうすれば、師匠のように、人間界に居場所が無くなってしまう。

 パレットとも、友達でいられなくなるかもしれない。


 ―――――幸助は、森の中で身体を屈みこませ、葉巻に火を点ける。


 この葉巻には、ヘヴンズゲートと呼ばれる、覚醒型の薬物が入っている。燻らせて吸引する事で、脳が多幸感に襲われる。

 天国への入り口を呼ばれるそれは、異世界ベータに蔓延る違法薬物の中でも、最も中毒性が高く、効果もキツイ。ヘヴンズゲートに入っているある成分を100倍に水で希釈されたモノの一滴でさえ、大型の肉食動物が舐めてしまえば狂乱するとまで言われている、恐ろしく強い薬物である。


 かつて、衛生兵をしていた頃に、緊急の患者に対応する際に痛み止めとして支給されていた薬物ガージャを使ってしまった事から、幸助の薬物中毒は始まった。

 常に死と隣り合わせの世界で、現実を忘れる為には、生き延びる為には、薬物が手放せなかった。

 それは吸血鬼になっても同じで、今では吸血衝動に駆られる度に、薬物に頼るようになってしまっている。本末転倒である。そんな事は、幸助も理解していた。

 もう、薬物からは逃れられない。吸血衝動を何とかしても、次は薬物の禁断症状がやってくる。《自殺》による自傷で、身体もボロボロ。

 医者によると、何故生きていられるのか分からないらしい。


 それはまだ役目が終わっていないから、と幸助は煙を吸い込み、思った。

 師匠のいない所でしか薬物は使えない。禁断の果実だ。


 ・・・・・・終わっている。人として、生き物として。

 こんなの、緩慢的な自殺じゃないか。また誰かを泣かせるのか?

 いつまで、僕は生きられるだろうか・・・。


 ――――――と、そこにいきなりブラッドが現れた。


 「お楽しみの最中すまん。」ブラッドは、幸助が薬物中毒者だと知っているので、当たり前のような反応をした。

 「・・・・・・あれ、ブラッド?帰ってくるの早いね、ヤバいならやっぱりクエスト投げて逃げる?って・・・その子は・・・。」口に加えた葉巻を外し、眼をパチパチした。

 「幻覚じゃないぜ。」

 「・・・・・・勇者レーヴ・・・・・。」


 色んな妄念でふわついていた頭が一気に冴えた。ブラッドの腕に抱えられている者は、何度見ても勇者レーヴその人だったからだ。身体のあちこちが貫通し、出血多量で意識を失っている。危険な状態だ。背中にはパックリと刃物で切り裂かれた跡があった。背骨を真っ二つに切られており、そこから骨髄液が染み出していた。生きているのが奇跡だ。

 ブラッドが地面に身体を寝かせてやると、幸助はレーヴに近付いた。


 「・・・・・・酷い怪我だな。」レーヴの身体に触れる。


 幸助の回復魔法は、常軌を逸した性能だった。

 どんな怪我も、毒も、病気さえも一瞬で治癒してしまう。これは、幸助が持つ《魔眼》による作用であり、ある意味では転生者の特権ともいえる能力だった。


 ―――――そして、すぐに治癒が終わると、幸助は再び葉巻を口に咥えた。


 「もうだいひょうぶだひょ、ぶらっど。で、そのこどうしりゅの?」葉巻をぷかぷかと口に咥えながら言う。

 「一緒に行動してくれ。」

 「え!?」葉巻を口から吐き出した。「何で!?いやいやほぼ初対面なんだけど!!」


 「象徴がいた方が説得は有利だろ。どう説得するかは知らねーけど。」

 「いや説得っていうか・・・いない方が俺としてはいいんだけど・・・。」

 「・・・・・・そうか。なら実行するのはお前だけでいい。それまでは一緒に行動させてやってくれ。」

 「・・・ブラッド。もしかしてだけど・・・。」

 「あ、やめてくれ。それ以上は言うな。言いたい事は分かっている、分かっているんだ。」

 「・・・・・・いや、言うよ。この子は、強いよ、ブラッド。今回はこうなったけど、過保護になるのは、違うよ。それは優しさじゃないって。絶対、ブラッドと一緒に行動した方が、この子にとってはいいって・・・。」


 幸助は、単独でセトラと対決するつもりだった。

 確かに、レーヴがいれば、もっと事は簡単に進むかもしれない。

 が、ブラッドの行為は、レーヴの成長を奪っているに等しい。

 勇者の先輩として、道を示すのもOBの役目では無いだろうか。

 ブラッドは強い。恐らく、人間の中では一番くらいには強い。パレットでも敵わないのだから猶更だ。レーヴは、ブラッドから学ぶ事は多い筈。


 ブラッドは事あるごとに、レーヴから距離を置きたがっていた。それは自身の負い目からだろう。自分を優先し、役目を降りてしまったが故に抱いた、勇者に対しての罪悪感。

 ブラッドは、バツが悪そうに頭を掻きながら、続ける。


 「・・・・・・それはそうだ、分かっているさ。でもな、トリオンが死んだのも、この子が勇者をやるハメになってしまったのも、俺が降りてしまったせいだ。叶いもしない願いの為に聖杯なんかに手を出して、全てを間違えた。今更そんな俺に何が出来る?」

 「・・・・・・そうだね。きっと僕がこの子の立場なら、この人が勇者をやめたせいで、何で、私がこんな目に遭わなくちゃいけないのかって、呪うかもしれない。」

 「・・・だろ?」

 「仕方ない。今回は、有事だから君の要求を飲むよ。君の事だから一人の方が動きやすいだろうし、最終的には象徴が居た方がセトラの説得には効くかもしれない。でも、僕は、これを正しいなんて思わないよ、ブラッド。帰ったら、ちゃんと導いてあげてやってよ。お願いだから。」

 「・・・分かったよ。」

 「男の約束だからね?」

 「ああ。・・・仕方ない。じゃ、頼むわ・・・。俺はコンパイラを殺してくる。」


 ―――――決意に満ちた表情を見せると、ブラッドはすぐに走り去っていった。


 ――――――――さて。これからどうしたものか・・・・。

 幸助は、困った。いつ眼を醒ましてくれるんだろう、この子・・・・・・。

 初対面だしなぁ・・・年下だし、うーん・・・困った。

 今日は本当に死ぬ覚悟で龍王セトラと話し合いに来たのに、なんか余計なモノ背負いこんじゃったなぁ・・・。

 まだ10歳とかだっけ、この子・・・。なんだかなぁ、何度も思うけど、本当に、こんな子に勇者やらせるなんて、頭どうかしてるよなぁ・・・。

 あー、葉巻うめぇ・・・・・・。


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん?」


 勇者レーヴが眼を醒ましたので、急いで葉巻をポーチにしまった。


 「・・・・・・・・ここは・・・?」

 「初めまして。知らないと思うけど、ブラッドの友達の幸助です。」

 「・・・・・・・・あ、知ってる人だ。」


 え?



 え?あ、焦ってポーチの葉巻また落としちゃった。



 この子、俺の事知ってるって言った?

 え何で?

 


 勇者レーヴは、立ち上がる。怪我が治っている事に驚いたのか、自らの全身を見まわしていた。

 身体を覆う魔装防具がボロボロになっていて、所々が貫通しているから、幸助は目のやり場に困った。これも治した方が良さそうだ。


 「・・・・・・ラビを追い詰めた人ですよね。有名人じゃないですか。」

 「いやいや、俺まだA級冒険者だよ?」

 「A級だから有名なんですよ。何でも治せる回復魔法を使えるって話は眉唾でしたけど、私の身体を見るに、本物なんですね。私なんかより、全然凄い人じゃないですか。」

 「・・・・・・絶対にそんな事は無い。君は、今から俺がやろうとしている事を知れば、きっと幻滅するさ。」

 「・・・・・・どういう事ですか?」

 「かの龍王セトラにね、今日は握手しに来たんだ。」


 幸助は、笑顔で答えた。


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