第47話 竜という非人道兵器
吸血鬼は、目の前の光景が信じられなかった。
肉の塊と化した人間が、竜へと変成していく様子が、とてもグロテスクで見ていられなかった。
人間性の否定。尊厳破壊。ただ本能に身を任せるだけの理性無き獣になっていく。
それは、まず人通りの多い札幌駅東口にて起こった。
ただでさえ時間が停止し、パニックになっている最中の出来事だ。更にパニックになり、逃げ惑う。辺りの人肉を食い荒らす竜が、広場を地で染め上げていく。
余りにも突発的だ。これじゃまるで、いつでも可能なタイミングで、こうなる事が予定されていたみたいじゃないか。
ここで幸助は理解する。《虚無病》とは、竜を生み出す病気。
竜そのものへと身体を作り変える。恐らく、あの飛蝗にとりつかれる際に、何らかの魔術的な作用をもたらすという事だ。そう考えれば、全ての辻褄が合う気がした。
クソが。何なんだよ、次から次へと。
どうして、俺の周りにはいつも不幸が起きないと気が済まないんだ・・・?
また、人を殺すのか。・・・クソが。結局、強くなっても、何も守れないじゃねぇか。
「――――最悪の気分だ。偽創具顕現・卍堕羅ァ!!!!!」
師匠スレイヤーのトレードマーク・逆十字のような形をした鎌を顕現させ、竜に向かって一方的に切りかかっていく。切られた頭部から噴き出る血の色は赤かった。人死に祈りを捧げる暇も無く、逆十字の鎌で元人間の竜達を切り裂いていく。
だが、竜の数が多過ぎる。いつの間にか、空を覆う程の数にまでなっている。
今の一瞬の間に、どれだけの人間が竜に成り果てたのだ・・・?
周囲は騒然としている。警察官が必死に統制を取ろうと、安全に避難出来るように拡声器で指示を仰いでいる。そして、銃を構えた。その銃口は、幸助にも向いていた。
そりゃ、そうだよな。溜息さえ出ない。余りにも当然の摂理だからだ。
「《偽創具顕現・蒼炎外套》。」
魔力を放出する外套を羽織り、ジェット機の如き速さで、逃げるように上空へ一気に駆け上がりながら、吸血鬼は更なる処置を加える。
「《偽創具顕現・卍堕羅》――――――」
「《偽創具顕現・神滅銃剣》――――――――」
「―――――《融合》。《真創具顕現・堕神羅卍小刀》―――――。」
即席で創り出す神秘の再現。
神を屠る銃剣と、悠久の祖スレイヤーの魔装具の混成。
その結果、生まれ落ちたのは小刀。果物の皮を剥くくらいにしか使えない代物。
はっきり言って失敗作だ。師匠の魔装具を使って、《真創具顕現》が成功したのは、ただの一度きり。この代物を、現世に残す必要性を感じられなかった。
その小刀を竜のいる場所へ投げ、手拍子をした後、小刀が爆裂し、そこに小さな虚空の洞穴が現れた。その空間に出来た穴に、大量の竜達が急激な勢いで吸い込まれていく。
思わぬ副反応だった。成程、この魔装具はこうして使うのか。
出来るまでどんな能力が現れるか分からないのが、真創具顕現の真骨頂である。あの穴の先に何があるのか、幸助自身も知る由もない。
そう、これから大量に人を殺さなければいけない。まだ人間の犠牲者を減らさなければいけない。
まだ目の前には、無数の竜が飛び交っている。指数関数的に増加の一途を辿る竜の群れは、もはや人の数を超えている気さえする程だった。
「―――――魔王軍!!我ら魔王軍の僕!!コースケ、アレ、コースケ!!!」
たどたどしく竜が喋っては、幸助の元へ攻撃を仕掛けようとする。
小春と一緒に倒した時の竜と同じだ。竜は何故か、今は無き魔王軍に忠誠を誓っている。
だが、それではマクガフィンの言っていた事と矛盾する。相手は魔眼王だ、魔王は既に死んでいる筈。しかも、魔王軍に仕えていた龍なんて、宵闇龍ゼノンしかいない。
――――――だが、一体の竜が、幸助に猛スピードで近付き、不穏な言葉を呟いた。
「――――《爆撃》。」
竜が幸助に向かい、自爆する。それは、セトラのよく使うスキル《爆撃》だった。
爆炎が空に広がった。
人一人を意思の無い竜に作り変えた後、敵に向かって《爆撃》で自爆する。この行為がどんなに非道か、邪悪か・・・。
「・・・・・・クソがァ・・・・!!」
幸助は爆発を耐えながら、恐ろしい事に気付く。
目の前にいる竜全員は、この《爆撃》の為に用意されたのではないか?と。
龍が竜を生み出す数には限りがある。だから、人間そのものを利用して竜にしてしまえば、自分の支配下に置きつつ、大量の爆弾を作る事が出来る。
札幌は、大量の兵器を生み出す為に利用されたのでは?
それこそ、魔眼王とやらを殺す為に。
ようやく、納得が出来た。
場所なんてどうでもいいのだ。人が多ければどこでもよかった。
札幌である必要さえない。ただ、この世界にやってきた時、人が多かったからそこで《虚無病》を蔓延させたに過ぎない。その大本である龍は、無差別に人間を竜に作り変えられさえすれば、それで良かったのだ。
―――――――胸糞が悪い。自分の力の為に、そこまでするか?
魔眼王を殺すだけの理由で、そこまでするのか・・・・・・?
迷っている暇なんかなかった。全員、《爆撃》が出来るのなら、それより先に全員を殺す必要が出来た。虚しいがやるしかない。
所詮、俺は、人殺しだ。
吸血鬼は嗤う。どうしようもない現実に嗤うしかない。
目の前の犠牲者を助ける事さえ出来ない。見捨て殺さなければいけない状況に、嗤う事しか出来ない。だが、吸血鬼はそれでも嗤い、全てを肯定し、進まなければいけない。
絶望すら生ぬるい、果てしなく広がる悲劇の根源を潰す為に。
「―――――《偽創具顕現・虚夢幻槍ファントム》―――――」
魔王の槍を振るい、闇を更なる闇で塗りつぶすしか、殺しあう事でしか、もう意味はないのだ。




