第27話 ピリつきちゃん
お互い色の違うジャージ姿で、学校に向かった。幸助は同じ柄で色違いのジャージを何個も買う癖がある。そのせいで、お揃いみたいになっていた。
ついこの間まで、完全に敵対していた子と一緒に歩いて話すのは、変な感じだった。
仕草の一つ一つを気にしてしまう。あんなに怪物だったのに、普通に話していると、本当に年頃の少女そのものだった。この子に全ての責任を押し付けて祀り上げた大人達をぶん殴りたくなった。世界の命運を一人に託すという仕組みはやはりおかしかった。
何が魔王と勇者だ、と思った。そんな二極化した正義を振り翳さないと軋轢を生んでしまう社会構造そのものに問題があるというのに。結局、あの世界はその事実に気付かず平和になってしまった。これじゃあ、また、同じ事をいつか繰り返す。
・・・・・・まぁ、自分の都合で魔王を打倒した自分が考えていい事では無かった。
一番に歪んだ正義を執行したのは、他でもなく自分なのだから。
「――――俺は、ずっとお前という存在に嫉妬していた。」幸助は正直な気持ちを言った。
「・・・嫉妬?君が?冗談だろ?」
「いや、本当に眩しすぎた。レーヴはさ、世界にちゃんと選ばれた人間だ。その資質もあって、ちゃんとその通りの生き方が出来た。実際、俺がいなくても勝手に魔王を討伐して、英雄になれていたと思う。」
「・・・そんな事、あったのかな・・・。」
「あったあった。だってお前呆れる程強いもん。充分魔王越えてたよ、うん。」
「でも、この前は私に勝ったじゃない。」
「・・・いや、あれはマジで運が良かっただけなんだよな・・・。」
「嘘だぁ。」
「嘘じゃない嘘じゃない。何回か死にかけたし、《真創具顕現》ってマジで当たり外れがすげぇ激しいんだ。今回は当たり引いたから勝てただけ。だから、笑っちゃうんだよな、戦っていると。やっべぇこれ失敗したら死ぬじゃん!って。戦場でガチャ引いてる気分になるってバカみたいだろ?」
「・・・それで笑う方が怖いんだけど。」
「いやもう笑えねーとやってられない位追い込まれてんだよな。まぁそういう癖なんだよ。」
「・・・・・・そんな変な奴だったのね。」
レーヴがようやく笑顔を見せた。そうだ、これを見たかったんだ。
氷のように冷たく、恐ろしい程に強かった勇者を、いつか笑わせてみたいなと思っていた。
憧れは本当だった。俺は、彼女の立場、役割、その力すべてに嫉妬した。
だから、今こうして普通に喋れているのは、奇跡だと思う。
学校に着いたので、幸助は説明を始めた。この世界に関しては無知である彼女にあれこれ教えるのは楽しかった。。
「―――――で、今運動場にいるのが野球部だな。野球って知っているか?」
「知らない。でも、面白そう。君はするのか?」
「――――もう出来ないな。やったらバランスが崩壊する。」
「・・・ああ、そういう事。強くなり過ぎるのも問題ね。」
「そうだな。」
「―――――こっちは体育館。雨降った時とか、室内でやれる競技をする所だ。ほら、今はバスケットボールやってる。」
「また球を使ってるわね。」
「球を使う競技を、総称して球技って呼ぶんだ。他にもいっぱいあるぞ。バレーとか、サッカーとか。」
「何でそんなに種類があるの?全部球でしょ?」
「ルールが結構違うんだよ。全部球の筈なのに、人によって向き不向きも結構奇麗に分かれたりするんだぜ。」
「へぇ~。《ベータ》には無い多様性だ。」
「いや、異世界も結構凄かったけどな。よし次は―――――」
といった感じで、次々と説明をしていく。クラスだったり、科学実験室だったり、レーヴにとっては非日常そのものを紹介していく。余り表情には出してくれないが、なんとなく楽しそうだった。
「―――――あれ、君は弟じゃないか。」
職員室に向かう最中、ハッピークソメガネこと加賀に遭遇した。
「――――ああ、兄さん。」
「昨日休んでいたが・・・病院かい?」
「――――ああ、そうそう。病院に定期検診行ってたんだよ。」
「ふむ、健康そうなら良かった、君は逸材だからね――――って、後ろの子は?」
「―――ああ、中学時代は同じ学校だったんだけど、今他校に行ってる幼馴染だ。」
「へぇ、そうなのかい。てっきり彼女なのかと思ったよ。」
「んな訳ねーだろ。」
「おっと、失礼。それじゃ、私は色々と業務が立て込んでいるんでここでお別れだ。夏休みが明けたら宜しく頼むよ!」
加賀が階段を登って消えていった所で、レーヴに話しかけられる。
「今の人、友達?」
「まぁ、そんなとこ。優秀だけど馬鹿っていう、どこぞの姫様の男版みたいな感じだな。」
「・・・彼女、か。」
「いやいや、あいつの冗談だから気にしなくていいぞ。」
「・・・・・・そうだね。コースケは、他にもいっぱいいるもんね・・・。」
「・・・え?それってどういう・・・。」
「いい!!早く案内して!!」
「すまん、職員室は俺個人の用事なんだ。ちょっと廊下で待っておいてくれ、課題をもらってくるから。」
「はぁ!?・・・もしかして、そのついででここに来た訳!?」
「ついでっていうか・・・でも、学校の後は普通に街中も案内したいんだが・・・。」
「何でよ。」
「・・・あのな。お前くらい可愛い奴がこれからジャージでうろうろすると目立つだろ。服買ってあげるから一緒に行こう。」
「・・・かわっ、いい・・・・?」
「お前もこの世界にこれから居るんなら、なるべく目立たない普通の恰好というのをやってくれ。この前みたく勇者の恰好で俺んちの前で突っ立ってるみたいなのを見るの嫌なんだよ。・・・・・・何だよ、黙って。もしかして俺と行くの嫌か?セトラとかの方がいいか?」
「・・・いや、文句は無いわよ。ついてってあげるわよ。」
「そっか、良かった。じゃあちょっとだけ待っててくれ。この後最後によるところあるから――――。」
そう言って、幸助は職員室へ入っていった。
勇者レーヴは、待っている間、今まで抱いた事の無い感情を抱いた。
何故、私は彼と一緒にいる事を、こんなに喜んでしまっているのだろう――――?
―――――弓道場に近付くにつれ、ガタガタと大きな音がしているのが聞こえた。まるで機材を動かしているかのような音だった。慌てた様子だったので、中に入るか躊躇したが、夏休みに入るし暫く来る事は無いだろうと思ったので、お邪魔した。
そこには、セトラと小春、そして何故かアイナまでいた。
様子を見ると、どうやらセトラが髪の毛から作った小さな竜・ワイバーンを動かして、魔装具で当てるように練習しているみたいだった。ていうかワイバーン小さく出来るのか、便利だなぁ。
「――――――ハッ!!!」
小春の構える弓型の魔装具から、弱弱しい光が漏れ出た。魔力装填まではいいけど、発射がうまくいかないようだ。というか、魔力を扱えるようになるだけでも十分早すぎるスピードだ。これはもしかしたら、小春は凄い才能の持ち主なのかもしれない、と幸助は思った。
「あとちょっとで出来るじゃん。凄いよ小春。マジで凄い!!」
「あ、ありがとう。でも、その、ニュースでグランドキャニオンの映像を見た後だと、私はまだまだ過ぎて・・・。」
「・・・これ自分で言うの嫌だけど、一応、俺達異世界でも最強クラスだから、あんまり参考にしない方がいいと思うよ・・・?でも、俺は今の小春の域に達するまで10日くらい掛かったから、才能は俺よりあるよ。この調子で頑張れ!」
「うん!頑張ってみる。」小春が頷いた。
「――――という感じだ、レーヴ。本来はここ、ただの弓を撃つ施設なんだけど、誰もこないから小春の練習場所にしているんだ。」
レーヴは、施設の全体を見渡していた。郷愁を憂うような表情で、呟く。
「・・・私が育てられた修練場と、似ているな。」
「そうなのか。じゃあ、時々ここに来ればいい。ていうか、レーヴは知っていないんだっけか、今俺達が置かれている状況の事――――――」
「――――――どういう事?」
「色々あって説明するの忘れていた、すまん。実はな―――――――」
そして、俺がこの世界に戻ってきてから起きている異変をレーヴに伝えた。
急にワイバーンが襲ってきた事、北海道の札幌市で不可解な出来事が起きている事を。
レーヴはそれを聞くと、何故か少し嬉しそうだった。
「――――成程ね。だから小春さんに魔装具の扱いを教えている、と。」
「そうなんだ。いつ何が起こるか分からない。」
「じゃあ、グランドキャニオンで事を起こしたの、かなりまずかったわね。そのよく分からない敵に知られるだろうし・・・ごめんなさい。」
「それは別にいい。お前の心がスッキリする為には必要だった。世界遺産は無くなったけど、それより危険なお前と敵対せずに済んだ時点でプラマイゼロだろ。」
「私の事、分別のつかない危険人物みたいな扱いしないでくれる?」
「すまんすまん。だから、何が起こるか分からない。充分、レーヴも気を付けて欲しい。」
「・・・・・気を付けるも何も、私達より強い存在がこの世界に現れる事の方が考えられないけど・・・。だって、北海道の件も、魔王軍幹部の宵闇龍ゼノンじゃないかって見立てでしょう?」
「確定した訳じゃないけどな。」
「ワイバーンって言ったら、セトラ以外にあいつしかいないでしょう。・・・ハッ。もしや、セトラって可能性は?」
「私がそんな事する訳ねーだろ、お飾り勇者。」
セトラが怒りながらレーヴに反論した。
「でも、この世界にやって来たタイミング、小春さんを襲ったタイミングがドンピシャ過ぎるわ。」
「じゃあ私が小春に魔装具の扱いを教える意味は何だよ。私が小春を殺そうとしたなら、何でこの前2人っきりになった時点で殺さなかったんだよ。つーか、人間殺して何が楽しいんだ。――――ああ、勇者様は罪のある人しか殺してないから、人を疑える資格がおありでしょうけど。」
セトラが最大級の煽りをぶつける。余程腹に来たんだろうなと幸助は思った。
この場にいる人間で、小春以外に手を汚していない人間はいないのだ。何かしら自分の勝手で人を殺している過去がある。人を殺していい理由があるのなら、善悪に基づいた罪の話になってくる。だが、突き詰めるとそもそも罪って何だ?って話になる。
戦場では、いちいち相手の立場を考えながら命の選別をする余裕はない。誰もが善良だった人間を殺したかもしれない過去があるし、その逆も然りだ。
だからこそセトラは言ったのだ。お前にそれを言う資格があるのか?と。
人を疑うという行為が、ここ日本よりも異世界の方がシビアなのは当然なのである。
だが、勇者にその論理は通用しない。レーヴはただ可能性を述べただけなのだ。
一方、セトラは感情的になり過ぎている。自分が人間じゃないから、人を殺そうとしたという疑いを掛けられる事が過去に多くあった為に、こういう事に過敏に反応してしまう。
結論、どちらも悪い。セトラは怒りのあまり善悪論を持ってきて、論点がズレた事を言っているし、レーヴの方も本人の背景を考えないで、ずかずかと喋り過ぎだ。幸助が見ても、レーヴはデリカシーが無い。
「もういいだろ喧嘩するな。レーヴ、俺の仲間を疑うなんて正気なのか?セトラに限ってそれはあり得ないし、言い過ぎだ。可能性があるにしても、勝手に決めつけるのは失礼だと思うぞ。」
「そうそう!!」セトラが頷くが、幸助はそれを見て溜息をついた。
「セトラも言い過ぎだ。言いたくなる気持ちは分かるけど、言葉の刃が鋭すぎる。今の状況考えても、喧嘩している場合じゃないんだから、あんまり煽らないでやってくれ。」
「・・・コースケ、レーヴに肩持ちすぎじゃない?」セトラはまだ納得がいっていない様子だった。
「いや俺だって元々敵視してた側だし、レーヴに対しては思いつく限りの悪口が浮かんでくるけど、私情抜きにしても言葉強かったぞ。火を点けたのは明らかにレーヴだけど、何十倍にして返し過ぎ。」
――――――こうして、幸助はピリついた局面を何とか収めた。お互いが反省する余地を与え、穏便に終わらせたのだった。―――――と、思っていたが・・・。
「―――――結局、人の事ばっかりなのよね、コースケは。本当、生き辛い性格してるわよねぇ・・・。あれ内心ドッキドキでやってるわよ絶対。怒り慣れてないのに怒ったふりしながら窘める姿、本当に面白いわ。《ベータ》で何度見た事か。あっ、見て小春さん!レーヴとセトラが今、余計な口出ししたコースケに同時タイミングで腹パンしたわ!!取り越し苦労になってるわ!!あー、笑える。あ、でもなんか仲直りしてるみたいだわ、良かった。」
そのやり取りを遠くから見ていたアイナは、からかうように笑った。
「――――でも、彼らしいですね。本当に幸助君は、何も変わっていない。」
小春はその言葉に同意しつつ、ずっと変わらない幸助の姿に安心した。
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