第28話 要
「――――――じゃあ、俺は今からレーヴと買い物行ってくる。小春の事は任せた。」
「待ちなさい。」3人同時に引き留められた。
「・・・え?駄目?」
「駄目に決まっているでしょう。何でその子だけ特別扱いするのよ!?」
アイナが反対してきた。
「いやだって、レーヴは服持ってないし・・・。」
「いや私達も持ってないわよ。」セトラが胸を張って言った。
「・・・じゃあ、全員で行く・・・?」
・・・・・・穏便に済ませるには、どうやらこの選択肢しかないようだ。
――――――そこからは、なんか普通に楽しかった。
お互い似合う服を選びあったり、ちょっとした喫茶店で休憩したり。
それこそ街中を一緒に冒険しているような感覚だった。
レーヴも少しだが、俺たちの仲間に打ち解けてきたようだった。だから、それを見て安心していた。
だが、その日の終わり――――――――。
夕暮れが迫り、遊んで疲れた一行は、帰り道、しょうもない話に花を咲かせていた。
「―――――いや本当に、私の国は料理が不味いのよ。さっきの牛丼って言うのかしら?あれ凄く美味しかったわ。あの値段であのレベルの食べ物が食べられるのは奇跡に近いわよ。」
アイナが自国の食文化を貶しつつ、先程食べた牛丼を褒めていた。
「確かに不味かったよなぁ。料理っていうか、素材食ってるようなものばっかりだったし。」
幸助もその話には同意した。異世界には醤油や出汁、ブイヨンなど、調味料や料理の基礎となるベースのスープなどが概念として存在しなかった。だから幸助はそれを何とかしたかったので、昔テレビで見た魚醤の作り方を見様見真似でこっそりやっていたら、それを姫様に見つかって、幸助の仕事がまた一つ増えたのだった。それを思い出した。
「・・・ああ、そっからやった事も無い料理もする羽目に・・・。」
「最初は酷かったけど、コースケも段々料理が上手くなっていったわよね。」
「いや人がせっかく作った料理にあんだけ文句言われたら、嫌でも上手くなろうとするわい。アイナ姫は本当に容赦が無いからな。」
「姫って呼ぶのやめて。」
「あっ、ごめん。なかなか癖は抜けないもんだな。」
――――――陽が落ちていく。聞こえてくるのは川のせせらぎと蝉の鳴き声。広がる田園風景に、似合わないピリついた緊張感が走った。
そこから、魔力を伴った強い風が吹いた。一瞬で全員が戦闘態勢に入る。
何者かがいる。その気配を察知した瞬間に、そいつは空から現れた。
黒いローブを羽織り、金髪と蒼髪が入り混じったような頭に、右眼は蒼く、左目は緑というオッドアイをしている女性だった。今まで見た事の無いような、個性的な外見だった。
全身が黒いタイツのようなもので隠されている。
――――――そして、そいつは4人の前に現れると、会釈をした。
「皆さん、お初にお目にかかります。私は、マクガフィンというものです――――。」
優雅に、頭を下げてきた。
「・・・・・・誰だ?」
幸助は頭の中を駆け巡り、マクガフィンという人物を思い出そうとした。だが、そんな人物は記憶に無かった。魔王軍関係者にも、こんな特異な見た目をした者はいなかった筈だ。
「だから初めましてなのですよ、コースケさん。」
「・・・何故、俺の名前を知っている・・・?」
「私がそういう存在だからです。私はただの伝書鳩に過ぎませんよ。」
「・・・・・・攻撃しに来たって訳じゃなさそうだな。」
「勿論、攻撃の意思はありません。私はこれでも、アカシクの民の生き残り。礼節は弁えているつもりです。」
「・・・今、何て言った?」
「私は、そちらのアイナ姫様と同じく、アカシクの民なのですよ。私も、姫様と同じ位置に紋章があります。」
――――――アカシクの民。
異世界でかつて、古代に超高度な機械文明を築いたとされるアカシクの生き残り。その優秀さから常に命を狙われており、生き残りはアイナ姫一人になったとされている、今や伝説上の存在。
そんな人間が急に現れるなんて、おかしい。しかもこの世界に居る理由が無い。
「―――――疑うのなら、お見せしましょう。ほら、こちらに。」
そう言って、マクガフィンはローブをはだけさせて、タイツを脱いで、右肩を見せてきた。するとそこには、アイナ姫と全く同じ位置に、同じ紋章があった。円形の複雑怪奇な形の模様が、刺青のように入っていた。
「―――――マジかよ。アイナ以外に居たのかよ。」幸助は驚く。
「ま、でもこれはお飾りみたいなものですよ。私がここにやって来たのは理由があります。」
「理由?」
「それは、私が仕える愛すべき人、魔眼王様がこの世界を滅ぼすという事を、伝えに来たのです。」
「・・・・・・魔眼王・・・?」
「―――――異世界からの侵略者とでも、呼べばいいでしょうか。」
「―――――まさか、札幌の異変は―――――。」
「そこはご想像にお任せします。」
「その魔眼王とやらの目的は何だ。」
「この世界を滅ぼし、救済する事です。」
「・・・・・・死が救済、か。まるで魔王みたいな事を言うんだなそいつは。で、お前はそいつの部下でありながら、アカシクの民って訳か。」
「アカシクの民が迫害されてきた歴史をご存じでないのですか?私たちが人間に憎悪を持つのは当然だと思います。」
「―――――貴方と私を一緒にしないで欲しいわね。私は、無辜の人々を巻き込んでまで鬱憤晴らしがしたいなんて微塵も思わないわ。貴方は間違っている。」
それまでずっと黙っていたアイナが、我慢できないといった様子で攻め立てる。
「いい?私達アカシクの民はね、他の民族を見下したから崩壊したのよ。滅びたのは当然の結果だわ。私達がいつまでも被害者意識じゃ何も変わらない。」
「・・・ふふっ。真実は幾らあっても宜しいものね。」
「何よその返しは。会話になっていないわよ。本当にアカシクの民?」
「とにかく、貴方達が私の野望を叶えてくれる事を願います。是非、魔眼王様を殺して下さいませ。」
そう言って、突然現れたマクガフィンは、ローブを広げた瞬間に姿を消した。
「――――――魔眼王を殺して?・・・言っている事が矛盾してない・・・?」
アイナは、何処か継ぎ接ぎのように、一貫性の無いマクガフィンの様子がとても気味が悪く感じた。
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――――――マクガフィンは、暗く胎動する、主の元へと帰って来た。
「魔眼王様!言伝は終了しました!ミッションこんぷりーとです!!!」
マクガフィンはふざけた態度を取るが、威厳を放ち椅子に座る魔眼王の反応は無い。
「いやー、楽しみですね。これは開戦の狼煙が上がりますよ。矛盾なる異邦者、まず彼らに立ちはだかる壁です。これは魔眼王様が出る幕は無いのでは?」
「・・・抗生なる大地の英雄よ、少しは身を慎め。」
魔眼王は、しわがれた声でマクガフィンを窘めた。
「だって私達、魔眼軍の幹部は、誰もが貴方の死を望んでいるのです。そろそろお互いが殺し合いを始めるのも時間の問題ですよ?」
「元より世界は蟲毒。それもいい。」
「魔眼王様、早く死んで下さいね。」
無垢な少女の微笑で、マクガフィンは魔眼王に言い放つ。
魔眼王は、それを聞いて、満足げに笑った。
「―――――そうだな。誰でもいい、この私を殺してみせろ。」
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