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おはよう世界、さよなら異世界  作者: キャピキャピ次郎☆珍矛
序章
14/125

第14話 ハッピークソメガネ


 ―――――――次の日。

 何事も無かったかのように、2人は学校に登校した。

 セトラは家でお留守番だ。いつ敵に見つかっても返り討ち出来るように、居てくれるのはとても有難かった。今後強大な敵がやって来た時、《防壁陣》だけでは心もとない。


 「・・・・・・昨日あんな事があったのに、いつも通り学校に行かなきゃいけないのは何だか変な気分。」


 小春が欠伸をしながら言った。セトラと長らく話した事で、単純に寝不足だった。


 「完全に、俺に巻き込まれた形だからな。すまなかった、小春。」

 「いや、うん、いいのよ。異世界の事も何となくだけど分かったし、自分が今どういう状況なのかも理解出来たから。」

 「・・・・・・弓道部、やっぱ入らなくちゃ駄目かなぁ・・・?」

 「それは絶対そう。入らないと許さない。」

 「・・・・・・はぁ。午後に時間取られたくないんだけどな・・・。」

 「幽霊部員でいいのよ。とにかく、所属しているってのが大事なだけ。別に来なくてもいいんだから。」

 「それ来ないと文句言う奴じゃん・・・。」


 今、幸助の頭の中には、クラスでうまくやっていけるかという不安でいっぱいになっていた。これから高校生活を頑張っていかなきゃいけないのに、あまり他の負担になるような事はしたくなかった。噂話とかになるの嫌だし。


 ――――幸助は、やけに視線を感じた。登校している他の生徒が、2人の姿を見ては、ひそひそ話あっているのが見える。昨日の朝礼に発し学校中に響き渡った「起立ッ!!」や、伊藤の骨を折ってしまった事、ニュースにもなった未確認生物の出現。そのどれもが、幸助が学校に通って始まった昨日の出来事である。噂話が立たない訳が無い。

 それに、あの美人で有名な小春と登校しているというのだ。

 もうなんか、目立たないようにしようとしても、無理があった。


 「・・・なんか、思ったより恥ずかしいな。女子と登校するとか。」

 「あらそう?結構純粋なのね。こういうの慣れているのかと思った。」

 「セトラとか、かつての仲間達と一緒に行動する事は多かったけど、周りの目を気にするような環境じゃなかったからなぁ。」


 今は学生だ。集団の中で煙たがられる存在になってしまえば、ずっと孤独な日々を過ごす事になる。それだけは避けたい。しっかりと、この人生をやり直したいのだ。

 あと数日を無為に過ごせば、あっという間に夏休みがやってくる。うかうかしていられない。夏休み前に学校復帰したのは、その焦りもあった。

 ただの虐められっ子が元通りに馴染めるようになるまでのハードルはとても高いのだ。


 「とりあえず、俺は自分が無害な人間だと周りにアピール出来ればいいんだけど・・・。」

 「逆じゃない?」

 「え?」

 「皆、虐めを見て見ぬフリしてたのよ。逆に、貴方に謝りたい人も多いんじゃないかしら。」

 「そんな訳ないって。それに、俺はなんとなく馴染めればいいだけなんだ。それで謝ろうとする奴は、自分が気持ちよくなりたいだけだろ。謝罪なんて求めてない。俺は、あくまで同列でいたいだけだよ。」


 幸助は担任の武田先生が謝ってきた事を思い出す。

 大人になるって事は、ああいう事なのかな、と少し寂しい気持ちになった。


 「―――――・・・あっ!!見つけた!!『Mr.神風』だ!!おーい!!」


 背後から、男子生徒の声が聞こえた。変な渾名だなぁと思った。

 だが、それが自分を意味する渾名だとすぐに幸助は気付く。かっこいい渾名だなぁと思った。異世界で自分がつけられた渾名と言えば、『姫様のモルモット』とか、『勇者のストーカー』とか、最悪なのが多かった。


 その男子生徒は、眼鏡を掛けており、理知的な雰囲気を放っていた。


 「君ィ!!昨日凄いスピードで走っていっただろう!?」

 「あ、あぁ」

 「君が走った瞬間に、女子生徒諸君のスカートが舞い上がってねぇ!!いやぁ、私の気分も舞い上がっちゃいましたよ!!あれを眼福と呼ばずに何と形容すべきやら・・・。おっと、自己紹介が遅れました。私は加賀明弘というものです。1-Cクラスに所属している、加賀です。よろしく!!」

 「あ、あぁ、宜しく・・・。」

 「おっと!!そろそろマドンナの高橋さんが、駅前で髪を掻き揚げてフローレンスな香りをバイオレンスにまき散らす時間だ。この機会を逃す訳には!!それでは『Mr.神風』失礼するよ!!」


 そう言って、ビューンと凄い勢いで走り去っていった。

 言っている意味の1割も理解出来なかった。何だったんだ今の・・・。


 「・・・え今の何?」俺は横にいる小春に聞く。

 「ただの犯罪者予備軍よ。」呆れたように言った。

 「加賀、か。どんな奴なんだろ。」

 「あ、知らないんだ。ちなみに、彼の渾名は『ハッピークソメガネ』よ。」

 「誰がつけたんだよそんな渾名・・・。」

 「知らないわよ。まぁ、性欲の権化として有名ね。ゆくゆくは生徒会長になって、女子の体操服をブルマにする公約を掲げるって噂よね。マジで最悪だわ。」

 「今の時代に、そんな英雄がいたんだな。」

 「はぁ!?何言ってんの!?馬鹿じゃない!?」

 「かっこいいじゃん。何より信念がある。周りから理解されなくても、そういう奴は好きだな。生徒会長になるっていうなら、それなりに優秀なんだろ?」

 「・・・・・・ずっと、学年1位らしいわ。」

 「クソかっこいい奴じゃねぇか。努力の天才かよ。」


 ていうか、あんな変な奴いたんだ・・・。知らなかったな。

 一緒のクラスだったら、もしかしたら自殺なんてせずに済んだのかな、と何となくセンチな気持ちになった。だが、異世界の人々と交流した経験は何にも変えられない代物だったので、何ともいえない。そうした、ちょっとした事で、運命は変わっていたかもしれない。



 クラスの中に入っても、教室内の空気を乱れる事は無かった。小春と一緒に、2人で一緒に登校してきた事が功を奏したかもしれない。俺がどんなに変わり果てた姿になろうと、小春と共にいる事が無害な人間の証明となった。普通に話しかけられる機会も増えた。そうやって話しかけてくる人の誰もが、少し申し訳なさそうだった。これも時間さえ経てば何事も無くなる確信があった。もっと他の人と協調して、俺は別に恨んでもいないし気にしなくていいと、態度で示していかなければいけない。それが世渡りの基本だ。求めるばかりじゃ何も与えられない。


 伊藤は休んでいた。ざまぁみろ、という気持ちには不思議とならなかった。

 異世界で経験してきた理不尽な経験に比べれば、伊藤の悪事は可愛いものだ。もはや何とも思わない。ただ俺は、普通の高校生をやって、お母さんにもお父さんにも、ちゃんと出来る姿を見せたい。それが出来れば十分なのだ。


 あっという間に放課後になる。


 「部活行くでしょ?」小春が言う。窓から差し込む陽光に照らされる姿が奇麗だった。

 「行きたくねぇ~・・・。」

 「一緒に行動した方が安全なんだし、付き合ってよ。それに、君の弓の扱い方も教えて欲しいなぁ。」

 「ジム行きてぇよ・・・。」


 ―――――その時、教室の廊下から声がした。

 「待ちたまえ。彼は生徒会に必要な人間だ。」

 ハッピークソメガネこと、加賀が現れた。図々しく幸助の隣の席に座る。


 「神風久しぶり。」

 「Mr.消えてる・・・。」

 「神風の方がかっこいいじゃないか。まぁとりあえず、今回の学校側の対応、私の方から謝罪させてくれ。本当に私は知らなかったんだ、まさか裏でそんな事が起きていたなんて。」

 「・・・いや、いい。お前が謝る必要はないよ。」

 「隣のクラスにいながら、何とも情けない。話は変わるが、生徒会に入らないか?」

 「話変わりすぎだろ!どうなったらそうなるんだよ!!!」

 「マジな話だ。私と一緒にこの学校を変えようじゃないか。」

 「別に変わらなくてもいい。忙しいんだ。」

 「・・・汚い話だが、交換条件としよう。私と共に歩めば、有名大学への推薦入学も視野に入る。内申点は校長にこの件を問い詰めれば何とかなる。君はこの腐った学校に弱みを持っている。そこを突ける。この虐めの事実は闇に消えるだろうが、君はどうやら目立つのが嫌いなようだ。悪くない話だと思うが?」


 ――――ハッピークソメガネの条件は、確かに幸助に都合が良過ぎた。極めて合理的な計画である。この男、只者ではないと思った。幸助は普通よりは勉強が出来るが、異世界生活を経てかなりのブランクがあった。青柳高校は進学校ではあるので、ゆくゆくは大学受験の時期がやってくる。

 その時に、このカードが使えるというのは、とても魅力的に思えた。

 幸助は、異世界こそ自らの手で救ったが、その過程であらゆる手段を選ばなかった。正々堂々・正義といった価値観は存在せず、使える有効な手は使いたい側の人間なのだ。


 大学受験をしなくてすむのなら、両親はきっと喜ぶだろう。生徒会で活躍しているとなれば、安心できるのではないか。


 「・・・中々卑怯な手を思いつくな、加賀。」幸助は嗤う。

 「卑怯?違うな、私は女子の体操服をブルマにするという夢を実現したいだけだ。私の願望実現に君の力が必要だと感じたまで。私と覇道を歩みたくないか、神風よ。」


 そう言い、クソメガネは幸助に手を差し伸べた。差し込む逆光に当たるクソメガネの姿は何処か神々しささえ感じた。

 幸助は、無言で手を繋いだ。


 「ふっ。神風か。面白い。ならば俺は貴様に立ちはだかる障壁をなぎ倒す神風となろう。女子の体操服をブルマにするという理想、立派だ。今、革命の狼煙は上がった。これより我らは義兄弟。」

 「・・・よろしくな、弟よ。」

 「・・・ああ、兄さん・・・!!」

 男達は熱い結束を誓った。何故か弟にされている幸助の様子を見て、小春は呟いた。


 「こいつらただの馬鹿じゃん・・・。」


ありがとうございます!

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