第15話 来訪者の予感
「でも、今からすぐには無理だ、加賀。生徒会に入るのは前向きに検討しとく。でも、
夏休み明けくらいからで頼む。俺も俺で用事がある。」
「ああ、当然だ。これは未来を据えたスカウトだよ。どの道、選挙が無いと役員のメンバーも一新されない。共に覇道を歩むのはその後だ。これは、俺の電話番号だ。困った事があったらいつでも呼んでくれ。」
「あ、じゃあ俺も電話番号渡すわ。ラインの友達追加しとくから、よろしく。」
「おう!またな弟ォ!!」
―――――そうして、クソメガネと別れた後の幸助は、弓道場で弓を引いていた。
適当な弓を使って、適当に矢で打っているのだが、的にどんどん命中させていく。
「・・・もう帰っていい?」小春に懇願するよう言った。
「はぁ!?私にちゃんと教えるまで帰らないでよね!」
「俺が変に型を教えたせいで、フォームぐっちゃぐちゃじゃん・・・。」
「あのワイバーンにやったような感じ、私にも教えて!!」
「・・・魔法を教えろって事か?」小春が頷く。
「・・・それは出来ない。この世界の人間に、魔法を扱うのはかなり難しい。」
「何でよ。貴方は使えるじゃない。」
「それは使える状態に改造されたからなんだ。そんな俺だってかなり苦労した。なに、もしかして強くなりたいのか?」
「今後もああいう奴らが出てくるかもしれない。自分の身は、自分で守らないと。」
「・・・まず、残酷な事を言うけど、ワイバーンは異世界の冒険者でも10人がかりでようやく1匹倒せるかどうか、って所だ。短期で魔法を習得して倒せる相手じゃない。」
「・・・なら、どうすればいいのよ。」
「どうしようもない。普通ならな。」
「・・・・・・それは、どういう・・・。」
「俺の《偽創具顕現》ってスキルがある。これは、一時的に魔装具を顕現させるって力だ。あのワイバーンとの時に使った力だよ。一度使用すると消えてしまうけど、その魔装具の最大出力をぶっぱ出来る。回数に制限を設ける事で、たとえ偽物でも即席で最強の魔装具を使用出来る。魔力消費を極端に抑えているから、何度でも使いまわしが可能で、色んな武器を瞬間瞬間で使用出来る、俺の強みの一つ。」
そう言いながら、幸助は手のひらに色んな武器を顕現させていく。弓が、剣が、槍が、現れては消えていく。
「これらは全て一時的な再現に過ぎない。こうやって次々と違う武器を顕現させるのはかなり練度の必要な工程でさ。これを習得するのにはまぁ、普通にやれば10年以上は掛かる。それと再現する魔装具の構造理解も必要。強いけど、手間が掛かる上にコスパが悪い。それなら火の玉でも飛ばしている方が兵器として運用するには楽だ。だから、俺のような道を歩む必要は無い。」
「・・・どういう事?」
「ぶっちゃけよ、武器なんて一つあればいい訳よ。小春なら弓だけ使えれば問題ないって話。それだけを覚えるなら結構簡単かもしれない。」
「・・・本当に!?」
「ああ。緊急措置だ、命を狙われているんだから仕方が無い。他の誰にも魔力の使い方を教えないというのを約束出来るならいい。この世界に魔法が広がるのは、あまりに危険だ。」
「うん!!」
小春は嬉しくなった。
私だって守られているだけじゃない。何とか、対抗できる手段が無ければいけない。
じゃないと、幸助の隣にいていい資格が無い気がするのだ。
小春は、セトラとの対抗意識を、静かに燃やし始めていたのだった。
そう言うと、幸助は帰り支度を始めた。
「えっ、どこ行くのよ。」
「決まっているだろ。まず魔力を十分に扱えるようになるのなら、身体を鍛える所からだからな。」
「・・・えっ・・・。」
「いや本気で言ってるからな。さっ、そうと決まれば特訓。RPGでもレベルアップしたらMPも増えるだろ?健全な肉体にしか膨大な魔力は宿らない。そういう事!さ、筋トレしよう!!!」
と、笑顔でそう言って、幸助は小春をジムに連行していった。
なんか、思っていたのと全然違う、と小春は思うのだった。
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――――――今日、ようやく私は本懐を遂げる。
異世界からやって来た少女は微笑んだ。ここが今何処だか分からない。
でも、彼がいる事だけは分かる。この世界は《ベータ》世界とは違った形の平和を実現している。とても治安が良いし、よく彼が昔に話してくれた故郷の風景と似ている。
―――――これまで、思い出すだけでも、苛烈な日々だった。古城で半狂乱になった彼が女帝デスペラードを一方的に惨殺し助けてくれたあの夜から、私は彼の助けになりたいと思った。
只の冒険者の筈だった彼が、人間を辞めてまで目的を達成しようとする姿勢は、ただ言われるがまま受身に生きようとした私を大きく刺激した。
・・・・・・って、これを思い出すのも何回目だろうか。
セトラは無事うまくいっただろうか。
彼は、私の事を忘れていないだろうか。それが今は不安だ。
「――――お父様、私は旅立ちます。いつ帰ってくる事になるか分かりませんが、絶対に彼を連れ戻します。」
「――――そうだな。お前の想いが変わらないのなら、私はもう止めない。私の自慢の娘よ、行ってきなさい。」
父も許してくれたのだ。今更、後には戻れない。
もう守られるだけの私じゃない。人間としての彼を狂わせたのも私。
同時に人間としての彼を愛したのも私。
だからこれは、私の執念が齎した奇跡。
とにかく、彼に会ったらいっぱい甘えよう。異世界で彼とそうしたように、私も変わらない姿を見せるんだ。
ああ、楽しみだわコースケ。明日になればアイツもやって来るし、今日中に見つけて好き放題させてもらうしか無いわ。
――――――ひとしきりの妄想をした後、少女は涎を垂らして不気味に笑った。
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