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測れぬ距離と縮む距離


 目の前の少女へ、剣を振り下ろす。


 その華奢な首筋へ向けて。


 少女は微笑を浮かべたまま動かない。


 このまま振り抜けば、白く美しい肌に吸い寄せられるように、僕の持つ愛剣は愛しい少女の細い首から胸を断ち切り、血しぶきが白い姿を赤く染めるだろう。


 だが、彼女は動かない。


 振り下ろした白刃が彼女の眼前に迫っても微笑んだまま、ただ全てを受け入れるように。


 寸止めするのならば、ここ。


 ここで止めねば、彼女は死ぬ。


 だが僕は迷うことなく、愛しい彼女へ剣を振り下ろした。



――― ベチン!



「ッァ!」


 尻に衝撃。


 首筋数センチまで迫った剣には何の手ごたえも無く、少女の姿が魔法の様に掻き消え、昨日から何度目か分からぬほど繰り返された衝撃に声が漏れる。

 所詮細めの木の棒の攻撃だ。多少痛いが、HPが削れるほどの物でもない。


 すでに幾度繰り返したか分からないほどの攻防。

 同じことの焼き増し。

 避けられるはずのない至近距離からの回避と、残像すら捉えることの困難な目にもとまらぬ移動。

 そして背後への攻撃。

 避けられる事は想定済みだ、初日こそ戸惑いもあったが、僕の全力の攻撃ですら軽々と避けて見せる彼女に手加減や躊躇など失礼でしかない。そしてそんな余裕は今の僕には全くない。


 繰り返したからこそ尻を撃たれた直後に、振り向きざまにそこに居るであろう彼女を切りつける。

 もし相手が真剣であればすでに僕は幾度となく死んでいるが、これは訓練だ。どんな方法でもとにかく彼女を捉えたい。


 我武者羅(がむしゃら)な僕の希望も虚しく、やはり空を切る剣。振り向いたころにはすでにその姿は無く、白い影が一瞬見えただけ。


 どこだ!?


 周囲を確認しようとした瞬間、首筋に感じる嫋《たお》やかな指先の感触、続いて耳に熱い吐息を吹きかけられた。


「んァ!?」


 訓練中だというのに思わず変な声が漏れた。息を吹きかけられた耳がこそばゆい。触れられた首筋が熱い。頬も。

 恐らく僕の尻に一撃を入れた後、バク宙するように宙返って振り向きざまの剣を躱し、僕の後ろに降り立つ寸前に耳に息を吹き掛けたのだろう。身長の低い彼女を捉えるために下に向いていた意識の逆手を取られた形だ。


 驚き振り向くと、数センチ先に彼女の顔が。

 刹那と呼ぶにも短い時間、至近距離でその紅眼と見つめ合い、その事実を認識するよりも先に胸をトンっと押され数歩たたらを踏んだ。


 その丁度真ん中を通り過ぎる別の白刃。


「チッ」


 エリーナさん!?


「訓練中に遊ばないの。メッ」


――― ベチンッ!


「あぁん」


 ミルさんの注意と共に、エリーナさんの大きな胸が揺れる。

 防御力よりも機動力を重視した可動部の多い軽鎧(ハーフメイル)は、胸の部分と胴体部分が別々のようで、撃たれるととてもよく弾む。

 頬を染めて甘い声に聞こえなくもない悲鳴を上げるエリーナさんから目を逸らし、再びミルさんに挑みかかる。


 ていうか今、何かエリーナさんの舌打ちが聞こえた気がしたが気のせいだろうか。あと、ミルさんに押されなかったら僕に攻撃が当たっていたような!?


 ……まぁいい、雑念は捨てろ。今は彼女に一撃当てる事だけを考えるんだ。

 彼女のキスを我が手に!!


 気合を入れて踏み込んでの横薙ぎ。しかし半歩下がって避けられる。


 切り上げ、からの切り落とし。右へ左へ、ひらりひらりと余裕で躱される。


 避けたところに、ミリアさんの矢が飛来した。その数三矢(さんし)、恐らく弓スキルの【三連射《トリプルショット》】。


 視界の端にエリーナさんが映る、あの溜めモーションは突進技の【突進突き(ペネトレイター)】か。


 一本は避けられ、二本目は手に持つ木の棒で叩き落された。

 丁度三本目の矢と同じタイミングでエリーナさんのスキルが発動する。この辺りは流石にパーティをしているだけあっていい連携だ。僕も負けていられない。


 合わせる!


 僕はあえて半テンポ遅らせて、四連撃【剛連四斬(ハイフォースエッジ)】を放つ。


 ミルさんは片手の木の棒で矢を打ち払っても、もう片手にも木の棒を持っている。所謂二刀流だ。

 昨日は縦横無尽に振るわれる二本の棒にいいようにやられたが、二日目にして大分エリーナさんとミリアさんの攻撃のタイミングも見えてきた。まだまだ完全にとはいかないが、二人の連携に合わせることが出来るようになってきている。


 恐らくミルさんは矢を打ち払ってエリーナさんを迎撃するだろう。両方とも避けるには難しいタイミングだ。そしてエリーナさんを迎撃している間に僕のスキルが入る。

 さぁどうするミルさん!


 ミルさんは矢を木の棒で打ち払った。


 そこまでは予想通り、だがその打ち払われた矢の軌道が予想外。

 弾き飛ばされた矢の向かう先は、僕!?


 偶然のはずがない。スキル効果で加速した矢を打ち払うだけでも相当な技量が居るのに、あろうことかミルさんは狙って僕の方に(・・・・・・・)撃ち返したのだ。


 回転しながら顔面に飛んできた矢を、首をかしげて避けたせいで半テンポ攻撃に入るのが遅れてしまう。

 だが必要最小限の動きで避けることが出来た。ミルさんが稼げた時間はほんの僅かだろう。


 その間にミルさんは、エリーナさんの突進突き(ペネトレイター)を躱すと、胸にベシベシベシと三連発。


 僕の立て直しを甘く見たのか、エリーナさんに三発も攻撃したせいで、ミルさんのこちらに対する迎撃態勢が整っていない。


 間に合った!


 横を向いたままのミルさんに僕のスキルが迫る。


 ミルさんが木の棒を振るう。


 それは悪手だ。ミルさんは無理にでも避けるべきだった。

 もし獲物が木の棒でなく剣であったなら、防御が間に合うだろう。だが木の棒ではそれもままならない。打ち合わせることも出来ず棒を切り裂いて、振ったことで崩れた体制のまま僕のスキルが入る。三人の連携に焦ったのか!?


 一撃目がミルさんの木の棒と接触した。


――― ふわり


 異様な手応え。

 棒を切るはずの僕の剣は、なぜか軌道が曲がり明後日の方向を切りつけた。


 はあ!?


 訳も分からぬまま、二撃目。流されて重心が不安定ながらも、スキル効果で剣が翻り刃がミルさんに迫る。

 またも棒を僕の剣にぶつけてくるミルさん。


――― ふわり


 一撃目と同じく、軌道を変えて変な方向へ向かう愛剣。

 混乱しながらも、今度はそれも予想して重心を残し、スキルを持続させる。

 いくらスキル効果があっても、あまりに態勢を崩し過ぎるとスキルがキャンセルされてしまう。

 その後は普通より長いスキル硬直という隙があるだけだ。スキルは最後まで発動したほうがスキル硬直は短い。


 三撃目。

 三度、木の棒を打ち合わせるように振るうミルさんを、よく見る。

 何をされているのか見逃さないように、体の制御はスキルに任せ、ただ接触する僕の愛剣とミルさんの木の棒を凝視した。


――― ふわり


 っ!?!?

 そんな事が可能なのか!?


 僕は見た。剣と木の棒が打ち合う瞬間、ミルさんの木の棒は僕の諸刃の剣に触れると、そ(・)の(・)ま(・)ま(・)同(・)じ(・)速(・)度(・)で(・)移(・)動(・)し(・)、少しずつ僕の剣の軌道を捻じ曲げて三度明後日の方向へ逸らしてしまう。 


 何という事だ。

 基本的に叩き切ることが前提で切れ味の鈍い諸刃の長剣(ロングソード)。

 だがこの剣は、アリスト様に頂いた魔獣の素材を使った逸品だ。そこらの市販品に比べ並外れて高い切れ味を持つ。


 それなのに、ただの木の棒に数ミリ食い込ませるだけで、同じ方向、同じ速度で僕の剣と平衡に振り、別のベクトルに少し力を加えるだけで剣の勢いを歪ませ流すなど、完全に僕の剣が見えていなければ出来はしない


 それこそ僕の動きなど止まって見えるほどに。


 僕は呆然と四撃目のモーションに入りながら思う。

 これほどの差があるのかと。

 剣聖と名高いブルクハルト卿ですら、最近はここまでの差を感じたことは無い。

 いや、昔はあったか。剣を習い始めたばかりの頃、あの頃のブルクハルト卿に感じた距離も分からぬほどの圧倒的差。それを今、僕は感じている。


 そう正に、大人と子供。


 四撃目もあっさりと流され、スキル硬直が発生した。

 すれ違いざまに見た彼女の表情は、変わらぬ微笑。

 三日目の朝も、結局その微笑を一度も崩すことは叶わなかったな。


 覚悟を決めて目を閉じる僕の尻に、ミルさんの棒が撃ち付けられる。


――― スッパパパパパパパパパパパパパパパパパァン!


「んなはぁん!」


 いつもより激しい攻めに、僕は情けない声を上げるしかなかった。




■◇■◇■◇■




「ぅ……ぅん……」


 馬車の揺れと悲鳴を上げる体に、僕の意識が浮上する。

 体は悲鳴を上げているのに、不思議と心は落ち着いていた。

 清々しいほどボコボコにされたからからだろうか。

 いやぁ二日目も手も足も出なかった。一日目より大分動けていたと思うんだけどなぁ。

 仰向けに寝ているが妙に頭の位置が高く寝にくいので、まどろみの中寝返りを打つ。

 この枕柔らかさはいいのだが高さが合わないな。横向きになって丁度いいくらいだ。

 柔らかいくて暖かい枕に顔を押し付ける。とても落ち着く。

 僕の心が落ち着いているのは、この枕のせいかもしれない。


「おはよう。もう昼前だよ」

「ん? んん?? んんんん???」


 頭の上から降ってきた声に、横を向いたまま薄目を開けて上を見上げれば、そこにフランシスカの顔があった。

 はっきりしない頭で、そのまま視線を下ろしていき、彼女の頭と繋がった枕を改めて見る。


 この枕、彼女の足だ。というか、膝枕だ。

 そしてさっきまで僕が顔を押し当てていたのは、彼女の―――


「ッ!?!? ウガッ」


 状況を理解して慌てて仰向けになり起き上がろうとした僕の体が、僕の意志に全力で抵抗して激痛が走った。

 そこに丁度、追い打ちをかけるように、道の段差でも乗り越えたのか馬車の揺れがカウンターで決まり僕の尻を強かに打ち上げる。


「アォ!?」


 奇声を上げて再び横向きになる僕。一撃が微々たるダメージでも数百回と叩かれれば相当なモノだ。

 きっと僕の尻は腫れあがっているのだろう。床に尻をつけるだけで辛い。


「ひゃ」


 上から可愛らしい悲鳴が聞こえた。

 そうだった! フランシスカの膝枕の上だった! そして横を向いたせいでまたもフランシスカの下腹部に顔を埋める形に!


「ご、ごめんすぐ離れるから」

「あー。いいよもうそのままで、くすぐったいから喋らないで」

「しかしこの体勢はいくらなんでも―――」

「喋るな!」


 ペシリと頭を叩かれ沈黙するしかない僕、頭を叩かれたのなどいつ以来だろうか。父さんにも叩かれたことないのに。


「これだけ寝ても回復しない程ダメージ負っているとは思わなかったよ。今治療してあげるからちょっとまって」


 主に無理に体を動かし過ぎたせいなのだが、ダメージであることには変わりない。

 筋肉痛は治療(ヒール)するより自然回復の方が力が強くなりやすいのだが、護衛任務中に筋肉痛で動けないなどダメにもほどがあるだろう。


「癒しの力よ、彼の者に祝福を与えたまえ。再び立ち上がる力をその身に―――【中級治癒《ミディアムヒール》】」


 尻が痛いのは自業自得だ。無理してスキルを振り回し、盛大な隙を作りまくったのだ。ミルさんからの有難い教訓であろう。実戦であれほど後ろを取られたら万回死んでもお釣りがくる。


「……」


 我ながら自己嫌悪しかないな。

 ミルさんにキスして貰いたいが為に、己の限界を考えもせず動き、挙句このざま。

 こうしてミルさんやクリスさん、フランシスカにも迷惑をかけてしまっている。


「……」


 今確認してみればMPすらカツカツじゃないか。僕だって下級治癒(レッサーヒール)なら使えるのに、これじゃ自己回復も出来やしない。

 師匠であるブルクハルト卿にもMP管理はしっかりするように言われ続けていたというのに、下心に頭がいっぱいでそんな事も気付かないとは、自分が情けなさ過ぎて溜息しか出ない。


「……はあ」

「回復して貰った身分で、人のお腹に盛大な溜息つくな。いい加減離れて」

「わわわごごごごめん!」


 彼女に顔を埋めたまま自己嫌悪の海に沈んでいた僕は、その言葉に飛び起きると四つん這いになって頭を床に擦りつけて平謝りした。


 恐らく僕の人生で最初で最後になるであろう、華麗なるジャンピング土下座だった。




「え、ええっと。フランって回復魔法も使えたんだね」


 明らかに不機嫌にそっぽを向くフランに、僕は恐る恐る声を掛けた。


「……下級は前から使えたけど、中級はクリスさんとの訓練のおかげで今日使えるようになった。自分以外の人に使ったの初めてだったのに」


 あぁ、初めて使えるようになったスキルで回復した相手に、感謝どころか溜息吐かれたらそりゃ怒るよね。

 というか回復魔法って適性を持ってる人少ないんだけど、初めから使えたんだ。流石フランだ。


 後で知ったのだが、フランは生い立ちが酷く殆ど人と交流が無かった為に、本当の意味で自分以外で初めて治療した人が僕だったらしい。人以外だったら治療することもあったようだが……重ね重ね申し訳ない。


「ホントにごめんよ。体はすっかり治った。ありがとう」

「……どいたま」


 どいたま? あぁどういたしましてって事かな?

 それから先もフランに何度か言葉を掛けたけど、帰ってくるのは沈黙か短い返事のみ。

 か、会話が続かない、これは完全に怒らせてしまっただろうか……気まずい。


 僕が何と声を掛けたものかと迷っていると、フランの方から口を開いた。


「ねぇアルト」

「は、はい! 何でしょうか!」

「……別に怒ってないからそんなに畏まらなくていい」

「え? あ、うん。そ、そうかな?」


 僕があまりに挙動不審なせいか、フランは呆れ顔でこちらを見た後、またプイッと横を向いた。

 やっぱり怒っているんじゃ、と思った僕のを置き去りにして、フランシスカがは小さな声で言った。


「私、臭くなかった?」

「え?」


 その呟きをしっかり拾った僕の戸惑いに、彼女は目を逸らしたまま続ける。


「今日もクリスさんの訓練で結構汗かいたし……それに村じゃ、よく言われてたから」


 どういう事か聞けば、村でたまたま誰かとすれ違うたび、臭うから寄るなと追い払われていたらしい。

 フランが幼少から酷い扱いを受けて育っているのは聞いていたが、年端もいかぬ少女に誰もやりたがらない仕事を押し付け、何度も死ぬような目に合わせた挙句、報酬もろくに与えず搾取するばかりで、しかもそれでも頑張るフランにそんな仕打ちをするとは……村の事情はあるのだろうが、それにしたってその村の住人に僕は怒りを禁じえなかった。


「――臭くなんかないよ」 

「……ほんとに?」


 僕が沸き上がる怒りを抑え、搾り出す様に言った言葉に、フランが疑いの目でこちらを見る。瓶底メガネに隠されていてもそれくらいなら分る。

 しまった、これは気を使って言っているとでも思われてしまったかな。

 今までひどい目に合ってきた彼女には、これからはできるだけ笑顔でいて欲しい。そう思った僕は、怒りを鎮めて即座に肯定した。


「本当だよ」

「……アダムヘルでお風呂に入ったし、今は毎日体を拭いてるから昔よりはマシだと思うけど、普通に汗臭いと思う」


 悲し気、というより諦めたように言うフランを、僕は何とか励まし笑顔にしたくて、つい言わなくてもいい事を口走ってしまう。


「そんなこと無い。むしろ、良い匂いだった」


 言ってから、自分の発言の危うさに気付く。

 運動した後の女の子に対して良い匂いって、なんか変態的じゃないか!?


 案の定、フランは驚いたようにこちらを見ると、またもぷいっと顔を逸らした。


「…………変態」

「ぐふあ! い、いや違うんだ。ホントに不快になるような匂いでは無かったと言いたかっただけで」


 フランの呟きが胸に突き刺さる。

 だよね。いや実際不快に思うような匂いではなかったけれど、それでもあれはないよね!


「汗臭いのが好きとか、やっぱり変態」

「違うんだ! 汗臭いのが好きなんじゃなくて、フランの汗の匂いは不快じゃなかったというだけで」

「……変態」

「ぐはぁ!」


 僕の発言に三度フランがトドメを刺す。

 やばい、この話題は不味い。墓穴を掘る気しかしない! 何か話題を替えなければ!


「ええっと、何でフランは僕に膝枕してくれていたんだい?」


 僕の苦し紛れの問いに、フランは眼鏡越しにまたじっとこちらを見てきた。

 あ、やば。これはまた地雷を踏んだか?


「……今日は魔獣が多くて整備状況の悪い道を通った。揺れる馬車の床に頭をぶつけ続けるアルトが見てられなかった」 


 ……あぁ言葉も無い。

 純粋に僕を心配してくれたのか。

 これまでも僕に優しくしてくれる女性は多かったけれど、これまでの僕の立場を考えれば素直に受け取ることが出来なかった。


 だが、今の僕はただの冒険者のアルトだ。フランシスカは僕の正体を知らない。


「心配してくれてくれたんだね。回復してくれたことも、本当に感謝している。ありがとう」


 打算も何もなく、僕の事を心配してくれたフランに、心からの感謝を贈る。

 そして、あれほどひどい生い立ちを抱えて、それでも他人を思いやる心を忘れなかったフランに、敬意の念を覚えた。


「別に、貴方にも恩があるから。これくらいで返せたとは思っていない」


 そんな僕の心情を知るはずもないフランは、そんな事を言ってくる。

 恩? 何の事だろう。


「服の事かい? それなら気にしなくてもいいのに」

「違う。この旅に誘ってくれたこと。アタシは意固地なところがあるから、アルトが強引にでも誘ってくれなければ、今頃アダムヘルで路頭に迷っていたかもしれない。それにクリスさんやミルさんとの縁も切れていたと思う。ミルさん達への恩は離れ離れになってもいつか必ず返すつもりだけど、やっぱり近くに居る方が返しやすい。まぁ現状、返す恩より積もっていく方が多いんだけど」


 あぁなるほど、そういう事か。

 それこそ僕にも、ミルさんの約束という打算と下心があったのだから、こちらの方こそ気にしなくてもいいんだけど。


「ほら、もうすぐ予定通り中継点の町に着くよ。私たちは買い出しを頼まれているから、準備して」


 何となく後ろめたくて頬を掻く僕に、珍しく長く話したフランは恥ずかしくなったのか、頬を染めて早口でそう言ってそっぽを向いた。

 荷物はインベントリに全部入れているのだから、降りる準備なんて必要ないのは知っているだろうに。


「うん、分かった。……そうだ、町では何か贈らせて欲しい。心配してくれたことと、回復してくれたことに対しての感謝の気持ちとして」

「いらない」


 即答するフランに、僕は苦笑を浮かべながらも、何かプレゼントを贈ることを心に決めるのだった。







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― 新着の感想 ―
[一言] つまり女の子のお腹に顔を押し付けて臭いを嗅ぎながらケツを撫でてもらったんだな
[良い点] ミル&クリスも好きだけど、フラン&アルトも好きなんじゃぁ なんという尊さ……
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