はじめてのりょうり
「ここからは私がやりましょう」
フランシスカが捌いた一羽を受け取ったミルは、手ごろな二股に分かれた枝を焚火の左右に突き刺した。
「クリス。何か串になる物持ってないですか?」
「串? マジで丸焼きにするのか。まぁ鉄板も何もないならしょうがないのかもしれんが……そうだな、ちょっと待ってろ」
しばらくインベントリと睨めっこをして、クリスは刃渡り30センチほどの諸刃の短剣を取り出した。
「これなんてどうだ。串は無いから槍だが」
「ちょっと短すぎ……あ、ジュウサンキロね。丁度いい」
「だろ」
フランシスカとアルトが理解できない会話にハテナマークを浮かべていると、ミルが受け取った短剣の柄が何の前ぶれも無しにいきなり伸びた。
「なっ、その短剣は一体!?」
白銀に輝く剣身と白い柄に精緻な装飾を施された美しい短剣に目を奪われていたアルトは、唐突に伸びた柄に驚愕した。
「これ短いと短剣に見えるけど、槍なんだわ。魔力を流すと柄が伸びて槍になるんだ」
「そんな機能のある槍など聞いたこと無いですが……どこで手に入れられたのですか?」
「俺が作った」
「えぇ!?」
「まぁ失敗作だがな。携帯に便利かと思って作ったんだが、考えてみればインベントリからクイックアクションで装備すれば、常時武器出しておく必要ってねぇんだよな。面白機能に力を入れ過ぎて攻撃力今一つだし」
「は、はぁ。いろいろとまた聞きたいことが増えましたが、まず一つ。クリスさんは鍛冶もできるのですか?」
「クリスはトップレベルの鍛冶師でもありますよ。無課金でトッププレイヤー張ってたのは伊達ではありません。ギースに渡した短剣や私のメイン武器も、クリスが作ったものです」
無課金? トッププレイヤー? というかクリスさんって回復役で壁役で魔法も凄まじいのに更に鍛冶まで? と、アルトがクリスの高すぎるスペックに口をあんぐりと開けている横で、ミルが1メートルほどに伸びた槍に、バーサークターキーを丸々一匹ぶっ刺した。
「あああああ! ミルさん何をしているんですか!」
白く美しい短槍が、脂の乗った鳥肉を貫いた結果、血やら肉片やら脂やらが精緻な象嵌にこびり付き、入り込み、どろどろに汚すのを目撃して、アルトは思わず叫ぶ。
「え? これから焼くから刺さないと始まらないでしょう。クリス、何か問題ある?」
「まぁ後で洗っといてくれれりゃ別にいいよ。元からそのつもりで貸したんだし」
「えぇぇ……こんなに白くて綺麗なのに、そんなドロドロにしてしまって……勿体ない」
「使わないより使われた方がアイツも幸せだろう。肉焼き棒だが」
「そうそう、ジュウサンキロも喜んでるよ」
「……そのジュウサンキロというのはその槍の銘なのですか? なぜ13キロ??」
「そのぐらい伸びればいいなぁと思って付けたんだが、実際には10メートルちょいしか伸びなかった」
「……十分凄まじい性能ですよ」
クリスは久々に見たこの槍を懐かしく思う。
この槍は、ギルドメンバーの槍使いに頼まれて作ったのだが、彼は対で作った3メートルほどの黒い槍を選んだ。
伸びない分、初期から攻撃力が凄まじく、別に伸びなくても槍の遠距離系スキルを使えば10メートルくらい余裕で届くので、普通に考えればそっちを選ぶよなぁとクリスも納得し、それ以来お蔵入りになっていた物だった。
どちらも穂先と柄の心金に、使用者と共に成長するヒヒイロガネという金属を使っており、最終的な攻撃力は似たり寄ったりだっただけに残念だ。まぁ育ち切るまでにウン十年かかるから、ゲームの方が先にサービス終了するだろうが。
クリスが昔を懐かしみ、アルトが呆然としているのを横目に、ミルはジュウサンキロに刺した肉を先ほど並べた枝に渡して簡易肉焼き機にすると、上機嫌に鼻歌を歌いながらくるくると回して焼き始めた。
「ふっふん♪ ふっふん♪ ふっふふ♪ ふふふ♪ ふっふふ♪ ふふふ♪ ふふふ、ふふふ、ふふふ、ふふふ、ふふふふふん♪ ………… ハッ!」
「上手に焼けましたー」
「はやっ! 明らかに生焼けですよね!?」
呆然としていたアルトも、十数秒で火から肉を上げてしまったミルと合いの手を入れるクリスに、我に返って思わず突っ込んだ。
フランシスカの方は、持ち前の洞察力と観察力で見る見るうちに肉がこんがりと焼けていく異様な現象に気付き、目を見を見開く。
「料理スキルで【高速調理】という物があります。料理アイテム一つ作るのに30分とか掛けていられませんからね。これが種も仕掛けも無い、ホントの三分クッキング」
「途中の物をスタッフが美味しくいただく必要のない、自然に優しいスキルだな」
「お二人が何を言っているのか殆ど理解出来ませんが、お二人を理解できない事はとてもよく理解できました」
軽く目のハイライトを失いつつあるアルトとは逆に、目を輝かせてミルを見つめるフランシスカ。未知に対しての知的好奇心を刺激されたようだ。
「ミルさん、それ私にも出来ますか?」
「ほほう、フラン。貴女も出来るようになりたいですか? 料理の道は辛く険しいですよ」
アルトから借りた皿に鳥肉を手際よく切り分けつつ、スキルで出したハーブと塩コショウで味付けするミル。手から調味料が湧き出しているのだが、インベントリを使っても同じように出来るため、そこには突っ込みは入らなかった。
しかしこの【調味料生成】、実は料理人系の五次職【総料理長】のスキルであり、この世界では使える者はミル以外一人もいないレアスキルだったりする。
「なりたいです!」
「ふふふ、良いでしょう! これからご飯の時は手伝って下さいね」
「はい! 今からでも何か手伝えることはありますか?」
出合ってからずっとフランシスカに距離を置かれている気がしていたミルは、降って湧いたこの好機に歓喜した。
ゲームの料理などアイテム作りの単純作業で楽しくも何ともなかった。
今回も他に手が無いため最初は渋々していたのだが、思った通りに、いや思った以上に勝手に動き手際よく調理していく体と、想像以上に美味しそうに焼けた肉に、楽しさを覚えていた。
そこへ来て、まさかのフランシスカとのキャッキャウフフのクッキングタイム。やる気が上がらない訳が無い。
「いいえ、今日はもう終わりましたから、明日からお願いします。はいこれフランシスカの分、クリスとアルトもどうぞ。味は……多分大丈夫だと思いますよ」
「最後の最後で不安になる事言うんじゃねぇよ」
「ありがとうございます。ミルさんの作ったものなら例え炭でも完食しますとも」
「アハハハ、アルトったら、喧嘩売ってる?」
「い、いえ何でもありません! では冷めないうちに頂きましょう」
失言を悟ったアルトが強引に話を替え、四人は焚火を囲んで座ると手を合わせ、一緒に唱えた。
「「「「いただきます」」」」
頂きますとご馳走様はやっぱアリアリさんが広めたのかな。とクリスは手に持つ鳥肉とは別の事を考えながら、ひと口食べた瞬間固まった。
アルトとフランシスカも同様に、凍り付いたように動きを止め、何となく皆の反応が気になって食べずに見ていたミルだけ取り残される。
「え、あれ?」
まさかそんなに不味かったのかな? 料理スキルは普通に発動していたし、切る時に確認して生焼けでもなかったはずだけど……と、固まる三人を不安そうに見つめるミル。
最初に再起動したのはクリスだった。
「……う」
「う?」
「うめえ! 何だこれ超うめえ!」
「すごい! すごいですよミルさん! 僕こんなに美味しい鳥肉初めて食べました」
「もぐもぐもぐもぐ」
鳥肉なのに溢れるほど滲みだす濃厚な肉汁。柔らかな肉の触感と、カリっと香ばしい皮のコントラストが楽しく。絶妙な塩コショウの加減と、食べ進めるとくどくなりそうな濃厚な肉汁の後味を、ハーブが爽やかに洗い流してくれいくらでも食べられそうだ。
10秒クッキングのくせに驚異の完成度を見せるミルの手料理に、クリスは目を見開き呆然と鳥肉を見つめ、アルトは饒舌にいかに美味しいかと食レポを始め、フランシスカは一心不乱に肉を口に運んだ。
そんな三人の様子に、ミルはほっと胸を撫でおろす。
こんなに喜んでもらえるなら、料理を作るのもいいかなと思いながらミルも鳥肉にかぶりつき。
「んーー! おいしい!!」
満面の笑みで肉を頬張り、足をパタパタとさせて見た目相応に喜ぶミルに他の三人もほっこりし。
「って違う、可愛くない。可愛くないから」
「どうしたんですか?」
「い、いや。なんでもない」
我に返って自分に言い聞かせるようにぶつぶつと呟くクリスに、アルトは不思議そうな顔をするのだった。




