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オーク討伐依頼


 試験終了後の待ち時間、アルトの執拗な質問攻めを旅人設定でやり過ごし、クリスとミルはCランクの依頼掲示板を見ていた。すでにDランクの掲示板は見向きもしない効率厨っぷりである。

 隣でアルトが健気にもミルに必死に話しを振っているが、完全に右から左に聞き流していた。


「あっクリス、オークの討伐依頼がありますよ、定番ですね。村でもあればポイント稼ぎに良いんですが」

「Bランクに村の殲滅依頼あったぞ。5パーティのレイド依頼だったが」

「リーダーかネームドでも出たのでしょうか。厄介ですね」

「場所は、南に馬で二時間……50キロぐらい? 走れば30分切りますかね?」

「いやそれお前だけだから」

「ははは、ミルさんも冗談を言うのですね」

「クリス、担いで走りましょうか?」

「勘弁してくれ」

「しかし、オーク討伐を女性が受けるのはお勧めできません。捕まったら悲惨だと聞いたことがあります」

「オークって女を攫って孕ませ袋に~みたいな設定ありましたっけ?」

「全年齢対象だぞ。ただの飛ばねぇ豚だ。ちなみにハイオークは飛ばねぇゴリマッチョ豚だ」

「……ミルさんたちの故郷には飛ぶ豚もいるのですか? ちなみに一部のモンスターが人間の女性を使って繁殖するのは有名な話ですよ?」

「まぁそうですよねぇ……えっ、孕ませ袋ありなの!?」


 アルトの発言に驚愕の顔をするミル、ちょっと素が漏れた。

 そしてお気付きだろうか、ミルが反応するまでアルトの発言が無くても会話が成立していることに。


「ミルさん、孕ませ袋などと下品な言葉を使うのはどうかと思いますよ。そのような女性を卑下する言葉は慎むべきかと」


 眉根を寄せてミルをたしなめるアルト。とても常識的で良識のある対応であるだけに、空気さが哀れでしかたない。本人が気付いていないのが幸いである。


「どーしましょうクリス、うっかりオークの村で捕まってアヘ顔ダブルピースにされちゃったらどーしましょうクリス!」

「なんでちょっと嬉しそうなんだよ。わざと捕まったりすんじゃねぇぞ。まぁお前はぜってぇヤられる直前で日和って逃げるだろうが」

「大丈夫ですよミルさん! 貴女は絶対に、ぼ、僕が、ま、ま、護りますからっ」


 それに引き換え、妄想で頬を染めイヤイヤをするミルの何と非常識な事か。

 しかし絶賛(ブラインド)中のアルト君には、か弱い少女が恐怖と羞恥にイヤイヤしているようにでも見えたのか、顔を赤くして明後日の方向に誓いを立てる。勿論クリスの言葉は聞こえていない。盲目(ブラインド)状態異常デバフに加えて難聴(ディーフネス)にも掛かった模様。


「では、ランクアップ処理終わったらさっそく行きましょうか。うふふふふ……あわよくば捕まってドロドロでボロボロに傷ついた美少女冒険者とアレやコレや嬉し恥ずかし」

「お前最低通り越して最悪だな。一回捕まって女の気持ち知った方が世界のためじゃね」

「あらクリスさん何を勘違いしているのかしら、私は世の女性達の為に邪悪な女の敵を駆逐するだけですのよ? もし捕まっている方が居れば、お・な・じ・女である私が助けるのが当然ではなくて?」

「……うぜーわー。まじコイツうぜーわー。何よりホントに捕まってたらそうせざるを得ないのがハンパなくうぜぇわぁ」


 ミルが掲示板から依頼票をはぎ取った時、丁度カウンターからお呼びがかかった。


「クリスさんミルさん、お待たせしました。こちらのカウンターへどうぞ」


 アーシャの声に従い受付カウンターへ寄る二人。当然のように後に続くアルト。


「改めまして、ランクアップおめでとうございます。こちらが更新されたDランクのギルドカードです」

「ありがとう」

「これで晴れて半人前卒業だな」

「おめでとう。ようこそDランクへ」


 礼を言い更新されたギルドカードを受け取る二人。ゲームで何度も経験したことではあるが、昇格とは何回やってもうれしい物である。


「しかし、俺達にとっては通過点に過ぎない。引き続きこの依頼を頼む。と、クリスが言っています」

「俺の後ろから言わずに前で言ったらどうだ?」


 クリスの声真似をしてクリスの後ろから依頼票をこっそり出すミル。鈴を転がすような可愛らしい声なので全く似ていない。

 一人の時はそうでもないが、クリスと一緒だと人見知りに拍車がかかるようだ。壁があるのだから使わないと損な気でもするのだろうか。

 それに、三枚目のギースとは結構普通に喋れていたことから、顔が良い相手には男女問わず人見知りが顕著になるらしい。

 男性は嫉妬から、女性は緊張からという理由に違いはあるようだが。


「あ、では私もその依頼受けます。この二人とパーティで」

「「え?」」


 さらっと同行を申し出るアルトに、思わず二人が声を漏らす。

 後ろでミルの、「こういう自己中を当然のように許されるからイケメンは手に負えない」という悪態と舌打ちがクリスだけに聞こえた。が、自分もイケメン枠のクリスは聞こえない振りをした。


「どうする?」

「(チッ、付いてこなくて)いいです」

「本当ですか!? やったぁ! 足を引っ張らないように頑張りますね!」


 絶賛難聴(ディーフネス)中の彼には勿論都合の悪い部分は聞こえない。まぁ今回は、クリスの後ろでぼそぼそ言ったミルが悪い。

 思い人と臨時ながらパーティを組めることになったアルトに思わず笑顔が零れる。

 クリスと違ったまだ幼さを残す美少年の輝かんばかりの笑顔に、思わずアーシャもニッコリ。


「……ハッ! いけない、クリスさんに伝えなければならないことがありました。

 先日受けて頂いた治療院の依頼ですが、ランクアップ後の余剰Gpt(ギルドポイント)の判定が終了しました。

 軽傷者726名分で248Gpt、重傷者94名分で94Gpt、重体者1名分で5Gpt、計347Gptです。……どこの戦場に行ってきたんですか? あと魔力……いえ、昨日今日であなた方が非常識なのはよく分かりましたので突っ込みません。ええ突っ込みませんとも。

 それで、Cランクへのランクアップに必要なGptは300Gptですので、クリスさんだけでもランクアップできますが、いかがいたしますか?」


 諦めたように淡々と説明するアーシャ。先ほどの笑顔が段々と消えていき、終わるころには目のハイライトも消えてしまったが。


 ちなみに上記の数字にはEランクへのランクアップ分は含まれないので、実数は更に多い。元気な重病人(中程度の癌や脳卒中寸前の動脈瘤など)も治しているため、実Gptはもっとずっと多いのだが、それは神のみぞ知るというやつだ。


「ふむ、ランクアップに必要な300Gptを引いても47Gpt残るが、それをパーティメンバーに譲渡することは可能だろうか?」

「可能です。均等割りもできますよ」

「どうするミル? 俺も木こりに乗っかる気あったし、半々でもいいぞ」

「んー、流石に半分貰うのは気が引けるので、余った分だけ下さい。クリスが頑張った結果ですし」


 顎に指をあてて答えるミル。意外なところで律儀である。


「そうか。ところでCランクの試験ってどういったものなんだ?」

「Cランクの試験は、実際にCランク依頼の5Gpt以上のものを達成すれば昇格となります。5Gpt以上の依頼ですと、長距離の輸送や護衛、中難易度のモンスター討伐、高難易度のレイド討伐などですね。3Gptの依頼を二回分してもダメですので注意してください」

「分かった。オークの討伐数のカウントはどうすればいいんだ?」

「カウンティングはギルドカードが得た経験値から自動で行います。モンスターの経験値は種族によって固有ですので、カウンティングするモンスターを事前に登録しておけば、その経験値が入った時だけカウントが行われます」


 妙にシステマチックなところに、クリスは思案顔になる。

 インベントリやステータスもそうだが、ゲームっぽい要素が多いわりに、モンスターを倒しても自動で消滅したりドロップアイテム化したりしないのが、何と言うかチグハグな感じだ。

 そして、インベントリ内にあるゴブリンの死体の使い道が無くなった。持ち込んでも使える部分が無く現金化できないと言われたのだ。どーしよコレ、インベントリ圧迫したら山に捨ててもいいのか? と困るクリス。今のところは大丈夫だが処分に困る。この世界の廃棄物処理法が気になるところだ。

 

 クリスがそんな事を考えていると、ここでミルが後ろからひょっこりと顔を出し、手を上げた。


「質問です。Bランクにオーク村の殲滅依頼がありましたが、うっかり殲滅してもかまわないでしょうか?」

「その依頼には、ハイオーク数体とオークリーダーの存在が確認されています。うっかりで殲滅してしまう様な戦力ではないと思いますが……あなた方はうっかりしそうですね……。

 通常2ランク上の依頼は受けられませんし、レイド依頼なのでCランクでも1パーティでは受けることが出来ませんが、思いがけず達成されたものは事後報告でもちゃんと達成扱いになります。ただ事後報告ですと真偽を確認するのにまた時間がかかるので、あくまで念のためハイオークとオークリーダーの討伐対象登録もしておきます。念のためですからね? 絶対に無理にしようとしないで下さいね?」


 言いながらも、この二人なら何食わぬ顔で殲滅してきて、また私が驚く流れになるんだろうなぁと思うアーシャ。たった数日で二人の事がかなりの精度で把握できているあたり、極めて優秀といえた。

 ちなみに、二人を把握するために支払ったコストは彼女の常識である。彼女が当たり前のように行ったハイオークとオークリーダーの討伐対象登録を、隣の受付嬢が「何してるのこの娘」と信じられないものを見るかのように見ている事を、彼女は気付いていない。


「無理はしません、無理はしませんが―――別に駆逐してしまってもかまわないのでしょう?」

「だからそう言ってるじゃないですか。あ、でもホントに無理はしないでね。捕まったら大変なんだから」

「いやこいつは言いたいだけだから放っといていい。その村に捕まった冒険者はいるのか?」

「現在そう言った報告は聞いておりません。街道からも距離があるので恐らく大丈夫だとは思いますが……そこそこ規模の大きな集落ですし、絶対とは言い切れません。もし捕まっている人が居れば救助もお願いします」

「分かった。任せてくれ」


  いつの間にかオークの討伐依頼からオーク村の殲滅依頼に重点が置かれているような気がするが、結局アーシャがそれに気づいたのは、馬のレンタルの話が終わり、二人が戻るまでは念のためBランクの掲示板からオーク村殲滅依頼の依頼票を剥がそうと思った時だった。

 達成のめどがついた依頼は重複を避けるため掲示板から剥がすのだが、無意識に正式に受注されても達成されてもいない依頼の依頼票を剥がそうとするなんて、毒されてるなぁと改めて思うアーシャ。


 でも逡巡の末、結局剥がした。






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