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二度ある事は三度ある


「終わりました!」


 元気よく引越しの受領書を持ってきたミルちゃんに、私は笑顔で対応します。

 三十分以内の依頼達成も三回目となれば慣れたものです。何で三回とも私の受付は空いてたんだろう……ぐすん。


「お疲れさまでした。次は石材運びですか?」


 引越しの受領書を受け取り、交換で石材の依頼表を渡す流れも慣れました。どうせ、また三十分くらいで帰ってくるんでしょう。知ってる。


「はい。クリスはまだ帰ってきてませんよね?」

「ええ。まだお戻りではありませんよ」


 流石のクリスさんでも、治療院の依頼でこんな非常識な速度でGpt(ギルドポイント)を上げてはいないのでしょう。まだ戻ってきていません。


「そうですか、分かりました。もし入れ違いでクリスがランクアップに帰って来たら、すぐ終わらせて戻ってくるので先に食べてて。と伝えてください」


 ギルド員はメッセンジャーじゃないんですよ……まぁ可愛いミルちゃんのお願いなら聞くんですが。


「分かりました。ですが、治療院の依頼でそんなに早く戻ってくることは出来ないと思いますよ」


 純粋にクリスさんと入れ違いになるのを心配するミルノワールさんに、私は遠回しに教えてあげます。

 普通はそんなに早くGptを稼ぐことは出来ないんですよ、貴女が異常なんですよ、って。


 でも、ミルノワールさんは不思議そうに小首を傾げると、次にニッコリと笑いました。

 はうあ、可愛い!


「クリスは大丈夫です」


 何が大丈夫なんでしょうか。

 さっぱり分かりませんが、ミルちゃんがクリスさんに、素直に、純粋に、全幅の信頼を寄せていることは分かりました。

 あぁ、夫婦なんだなぁ。羨ましいなぁ……これ横恋慕とか無理じゃないかなぁ。クリスさんがミルちゃんを悲しませるとは思えませんし、ミルちゃんが悲しむところを私も見たくありません。


「……かなわないなぁ」


 二つの意味で漏れた私の言葉に、ミルちゃんはまた不思議そうに小首を傾げました。


「ミルノワールさんはクリスタールさんの事を、信頼しているんですね」


 私の言葉に、ミルちゃんは今までで一番の、輝くような笑顔を浮かべました。


「はい!」


 あぁ、やっぱり敵わないし叶わない。

 同じ人に二度恋をした私は、はじまる前に二度の失恋を経験するのでした。


「そうですか……いってらっしゃい。頑張ってくださいね!」

「? はい!」


 落ち込んだ後急に元気になった私に、ミルちゃんは一瞬またまた不思議そうにしましたが、元気よくそう返事すると、出入り口の扉に向かいました。


 はぁ…………よし、はじまる前に終わった恋にいじけていても仕方ありません。切り替えていきましょう。むしろ泥沼にハマる前に夫婦仲に粉砕されて良かったと思います。ポジティブシンキング。


 さぁ仕事の時間です。

 まずは、先ほどのミルちゃんの笑顔に撃沈された周囲の冒険者とギルド員の片付けからですね。

 直撃を受けた私が平然としているのに、周りで見ていただけでられるとは、ザコめ。


 恍惚の表情で失神している十数人の人々に、気付け薬(アンモニア)で喝をいれていると、ターチ=スピードスターさんが戻ってきました。


 あ、忘れてました。そういえばさっき見失ったので、今度は外で待機してもらってミルさんを追って貰う手はずにしていました。

 ミルさんが出て行ってから5分というところでしょうか。お早いお帰りですね。


「……見失った」


 予想通り見失ったようです。やっぱりこの人。


「使えない」


 あ、しまった声に出ちゃった。やっぱり私もまだ平静ではないようですね。


「い、いや、アレを追うとか無理だって! でも不正はしてないと思うぞ」


 私の言葉が聞こえたターチさんは、渋い顔を狼狽させて弁明します。


「というと?」

「途中までは何とか追ったんだがな……」


 私はターチさんに事情を聞きました。

 なるほど、大ジャンプからの屋根走りですか。それなら短時間での運搬も可能かもしれません。

 人間技とは思えませんが、ターチさんが嘘を吐いているとも思えませんし、笑顔一つで冒険者ギルドを機能不全にする少女なので、妙な説得力があります。


「分かりました。不正の可能性が低いと言う事さえ分かれば十分です。ありがとうございました」

「お、おう。俺はまだ自分の目で見たものが信じられないが……あれが現実なら、さらなる運搬の高みを見れて俺も満足だ。自分の才能に限界を感じていたが、俺もまだまだ早く届けられる!」


 神を見た敬虔な信者のように、透明な目で虚空を見ながらつぶやくターチさん。

 そうですか。私には良くわからないジャンルの話ですが。頑張ってください。

 きびすを返してCランク依頼掲示板に向かう彼を見ながら、私は【ぶち猫宅走便(たくそうびん)】が【ぶち猫宅空便(たっくうびん)】になる日も近いかもしれないな。と思いました。



 激しくどうでもいいですが。



■◇■◇■◇■



 石材の依頼をさくっと三十分で終わらせたミルは、本日四回目の教会の上にいた。どれだけクリスの事が気になっているのかと思うところだが、今回は単純に昼食の相談である。


 何故か石焼料理店を副業でやっていた石材店の店主に、焼き鳥と石焼きステーキ串を、卸場の貴族の屋敷で高級そうな紅茶のお茶っ葉を貰った。

 ここまで来ると貢がれ属性というより、ホトトギスの雛に餌をあげてしまう他種の親鳥のような、生態に基づいた本能的な強制力を感じないでもない。

 

「なんか凄いことになってるなぁ」


 ミルが視線を落とすと、眼下に広がる、人、人、人。今回は兵士の方を見るのが怖いので、あえて前庭しか見ないようにした。

 さっき来た時から三十分しか経っていないのに、協会の前庭を埋め尽くすような人の波が、そこに出現していた。

 噂が噂を呼び、ネズミ算式に増えた人々が、教会の屋根の上に姿を表したミルを発見し、ざわめき立つ。


 跪き祈りを捧げる者、手を振り叫ぶ者、指差し驚愕する者。

 降臨した偶像の顕現に熱気が高まり、一種異様な雰囲気になりつつある教会前。


 ここに来てやっと、眼下の人々が自分に注目していることに気付いたミル。

 あれ、何か注目されてるな。えっと、手でも振ればいいのかな? と、大分注目される事に慣れてきたミルは特に深く考えず、愛想笑いを浮かべながら手を振ってみた。



―――ドッワアアアアアアアアアッ!



 ビビクゥ!!!



 膨れ上がる熱気。感嘆、歓喜、そして歓声。


 舞い上がった粉塵に火を付けたかのごとく、膨れ上がった熱気が爆発し、物理的な衝撃を感じるほどの大歓声が湧き上がる。オーディエンスの熱狂は怖いくらいだ。


 ミルはビビった。

 めちゃめちゃビビった。


 えっ、なにこのパーリーピーポー共怖いんだけど。ウェーイなの? 何でテンション↑↑(アゲアゲ)なの? 超ウケる感じにウェルカムなの? やばい意味わかんない。逃げよ。


 一秒でそう結論づけたミルは、フワリと屋根から飛び上がるフェイントを入れると、一気に【空転脚】で空中を蹴って落下し、裏からクリスの元に向かった。困った時のたっつん頼りである。あとご飯の相談。


 信者たちには浮き上がった天使が霞のように消えたように見え、その神秘により一層天使の存在を確信して、大地を揺るがす大歓声を上げるのだった。



■◇■◇■◇■



「あらホントにいい男じゃない! 右手の指を切っちゃったから治してほしいn」

「おうそうか。もう治療はしといたから帰っていいぞ。あと切り傷くらい舐めときゃ治る」

「えええ!?」


 時刻十二時前、今日何度目かになる会話を外来で来た二十歳すぎの女性と交わし、クリスは速攻患者を追い返した。


「まだ何にもしてないじゃない! 腕もいいって聞いてたけど嘘だったの!?」

「お前の目は節穴か、椅子に座った時に体が光っただろう。医療はアレで終わりだ。嘘だと思うなら悪いところを確認して見ろ」

「そんなわけ……直ってる!? 切り傷どころか昔の火傷のあとまで消えてるし!」

「はいはい後がつっかえてるから帰った帰った」


 難癖をつけて居座ろうとする女性を、シッシとぞんざいに追い払い、次の患者に掛かる。

 続いて大柄で巌のような騎士が、入れ替わりで入って来た。


「すまぬな。回復役ヒーラー殿、隊長に右腕と肋骨を数本やられた」

「よく平然と並んでられたなお前。骨折以上は次から優先するからマリアに声を掛けろ。他の騎士にもそう伝えてくれ。はい、直ったぞ。次の人!」


 十秒で治療が終了し、右腕と肋骨の調子を確認した聖騎士が目を剥くか、お構いなしで追い返す。

 それからも続々と来る患者を一人十秒も掛けずに捌いていく。


「先生、足を挫いてしまって……」

「治した、次!」

「先生、熱が……」

「治した、次!」

「先生、おなかが痛くて……」

「仮病の相手をしている暇は無い! あぁでも左耳に炎症があるな、治した。次」

「先生、両足逝っちまった」

「重傷は先に来いと言っているだろう! 治した。次!」

「先生、私失恋しちゃって……」

「懺悔室に行け。次!」

「天使様を見たんです!」

「見間違いだ。次!」

「俺の鷹の目が潰れたあああああああ!!」

「騎士団はどんな訓練してんだよ! 直した。次!」


 女、女、女、ゴリマッチョ、女、男、細マッチョ、女、女、ゴリマッチョ、女、女、女、細マッチョ……


 まさに戦場である。

 途中、冒険者ギルドからもう一人回復役(ヒーラー)がやってきたので、別室で手分けをしてやっていたのだが、開始三十分で早々とMPが切れてしまい、今は外で外来患者の整理をしている。

 エマと名乗ったその回復役(ヒーラー)は偶然にも、昨日ミルが世話になったらしい美人三人組の一人だったのだが、ろくに話も出来ていなかった。

 

 マリアに治療した患者数のカウンティングをやって貰っているが、開始一時間ほどでランクアップに必要なGpt(ギルドポイント)はとっくに稼いでいる。

 続々と来訪する患者を置いて冒険者ギルドに戻るわけにもいかず、グレア大司教に掛け合って特例としてランクアップ後もカウントを続行し、次のランクアップに反映するよう冒険者ギルド宛てに一筆書いて貰ったが、これではギルドカードの更新もままならない。


 と言うか、男女比おかしくね? 騎士(マッチョ)抜かしたら、九対一くらいの割合なんだが。と片手間に患者を捌きながら考えるクリス。

 原因は最初の患者であるナーベルが、下町おばちゃんネットワークに“治療院に腕のいい超絶イケメンな回復役ヒーラーがいる”という情報を流したせいである。

 グレア大司教も御触れを出そうとしたが、出す前にこの状況になってしまった為、これ以上はキャパシティオーバーだろうと結局出さず仕舞いになっている。恐るべきおばちゃんネットワーク。


 騎士マッチョの方は、ラウディがはっちゃけた結果なのだが、どんな怪我をしても五分もせずケロリと全快して戻ってくる部下に、だんだんと手加減が減ってきてこのありさまであった。

 途中からどの程度の怪我を何人まで治せるのか、ということを探る為に、だんだんと怪我の程度を重くしていたが、―――うっかり手加減を誤り部下(クロッソ)の片目を潰してしまった時は、流石にやっちまったと思ったが―――、どんな怪我をしても何事も無く帰って来る部下に、『死んでいなければ何人でも』と言う言葉は大言壮語では無かったのだと、改めて驚嘆していた。

 余談だが、格上である隊長とかなり本気で戦った部下の騎士たちが、メキメキとレベル上げたのは思わぬ副産物と言えよう。心もメキメキと折れたが。


 そんな事になっているとは知らないクリスは、この野戦病院のような忙しさは患者達が口々に噂する天使の影響と考えていた。

 何故かと言えば、ミニマップに表示されるミルのアイコンが、ちょいちょい教会の上に現れるのを確認し、その度に患者数が膨れ上がっているのだから、そう考えるのも無理はない。

 勿論、天使(ミル)の噂も少なからずこの惨状に影響を与えているが、男女比を見れば天使とイケメンどっちの影響が色濃いか分かろうというものだ。


 しかしクリスは、自分の影響(イケメン)力が天使の噂に匹敵すると思っていなかった。

 クリスは元の世界でも美形だった為、自覚のないミルとは違った意味で、自分を過小評価して、普通の美形がかなりの美形に進化した、くらいに思っていた。

 だが実際は、この世の物とは思えない天上の造形美に進化、というか神化と言っていいほど変わっている事に、気付いていない。


 だが幸か不幸か、軽く微笑みかけるだけで老若男女問わず落とせるテロレベルのかんばせも、眉根を寄せてイライラと不機嫌に貧乏揺すりしながら、眼鏡をクイクイ神経質に上げる姿に相殺され、何とか超絶イケメンレベルに収まっている。

 それでも診察の為に対面で座り真っ直ぐ見つめ合うと、男のノンケでもぐらりと来るほど魅力的なのだが。


 そんなクリスの視界の端、ミニマップにミルのアイコンが表示された。

 時刻は十二時過ぎの、丁度お昼時。

 あぁそう言えば昼飯の話を忘れてた。一緒に食う約束してたな。と思い出す。

 

 マリア以外の修道女と、診察役のはずだったヘテロやエマやまで総動員して外来対応している現状で、昼に抜けるなど出来るはずもなく、飯抜きを覚悟していたクリスは、イライラも相まって恨めし気にミニマップのアイコンを凝視する。

 突然黙って難しい顔で虚空を凝視し始めたクリスに、目の前の患者が自分はそんなに重病なのかと戦々恐々としたが、彼女はただの風邪だった。



―――ドッワアアアアアアアアアッ!



「うぉ!?」


 治療院全体が震えるほどの大歓声に、困惑する室内の三人……いや二人。


 クリスだけは、ミルがまた何かやらかしたな、とほぼ確信していた。


 ちょっと時間を貰って、窓から出て裏から声をかけるか、表から出たら目立ってしょうがない。

 飯の買出しとギルドカードの更新も頼まないといけないし、あとついでにこの惨状の報復チョップもくれてやろう。と思い、大勢の患者の熱気で蒸し暑くなったため開け放っていた大窓に歩み寄る。と、その願いを聞き届けたようにミルのアイコンがこちらに移動してきた。


「ほほう。いい心がけだ」


 そっとチョップの準備をして更に窓に近づくクリス。

 クリスの不審な行動に、室内にいたマリアと患者の女性も不思議そうに窓に目を向ける。


―――ドシンッ!


 その時、診察室に突風が吹き思わず目を閉じる二人。腹に響く重低音。

 不意の突風(高速移動の弊害)の後に目を開けると、目の前に光り輝く(逆光)純白の天使(勘違い)が舞い降りていた。


 そして、その前で天使の降臨を祝福するように胸に手を当て、跪き頭を垂れるクリス。


 一枚の絵画のようなその光景に、マリアと患者の女性は奇跡を見たかのように、硬直し驚愕に目を見開いた。


 実際は飛び込んできたミルの頭が左胸の心臓のあたりを直撃し、あまりの痛みにそこを抑えて蹲ったクリスと、跳ね返ったミルが窓辺に着地しただけなのだが。


「順調のようですね。クリス」

「あぁ、お陰様でな」


 じゅじゅじゅ順調のようですね。クリス(汗)

 ……あぁ、お陰様でな(怒)


 どもりまくりで焦りまくりのミルに、青筋を浮かべるクリスも、なんちゃって神秘オーラに当てられたその他二人には神聖な儀式のように見えた。

 攻撃(ミルの頭突き)をくらい、クリスの【気配遮断】の効果が切れたのもそれに拍車をかける。


「えっと、これを(あげるので勘弁してください)」

「ふむ(ミルのくせに気が利くじゃないか)。……ではこれを(冒険者ギルドへ)」

「もう(Gtp(ギルドポイント)は)いいのですか?」

「問題ない」

「分かりました。頑張って下さいね」

「うむ……あぁちょっと待て」


 ギルドカードとグレア大司教の口添えの手紙を受け取ると、雷が落ちる前にとっとと逃げようとするミルの腕をガシっと掴み引き寄せたクリスは、そっとミルの耳元で囁く。


 お前あとで覚えてろよ、と。


 ビクリと肩を震わせクリスの腕を振り払うと、脱兎のごとく逃げていくミルを見送り、貰った紙袋から漂ういい匂いに鳴く腹の虫をなだめながら室内を振り返るクリス。

 ここでやっと、マリアが茫然自失から回復した。


「あ、あの。今のは?」


 意を決して口を開くマリア。患者の女性は未だに呆然としている。


「ん? あー。まぁ何というか……ちょっと恥ずかしいから周りには黙っていてくれないか」


 嫁さんが飯を届けてくれた。とも言えず、言葉を濁すクリス。

 そんなクリスに、マリアは答えを得たりと納得の表情になった。


「天使様とあれほど深く交流をするとは……よほど徳を積まれたのですね」


 アリア教においての天使とは、アリアがこの世界に来た時に、天使に導かれてこの地に降り立った。と証言したものが元になっている。

 転じて、未完の大器の前に姿を現し道を指し示す。また、徳を積んだ聖職者を真理に導くとも言われる。

 歴史を紐解けば、過去に大成した人物の数人が、天使を見たという証言を残しているが、真偽の程は定かではない。


 実際は、転移当時に宗教観を把握しきれていなかったアリアが、ゲーム時のチュートリアル用NPC【導きの女神ルーティア】が羽の生えた女神の姿だったので、それを天使と言い換えて曖昧に話したのが広まってしまっただけだ。

 下手に神の名前を出してしまっては、後々問題になるかもしれない、と警戒したうえでの苦肉の策が、後世にまで残ってしまったのだった。

 なので、現状実在しないものが見えるのは、妄想か病気か大嘘である。


「ええ? いや“アレ”はそんなんじゃないぞ」


 そんな事情は知らないクリスは、あれ? 天使ってそんなにサラっと受け入れられるもんなの? と疑問に思う。

 意外とこの世界特有の、身近な精霊とか妖精とかを天使と呼んでるんだろうか、でもさっきヘテロが見た事ないって言ってたしなぁ。

 大体そういった存在があったとしても、それをミルと一緒にするのは、いささか先方に失礼だろう。と思うクリス。


 ミル(アレ)は天使なんかじゃない、ただのネカマのロリコンです。と言いたかったのだが、マリアはクリスの言う“アレ”は“天使様との交流”の事だと解釈した。


「なるほど……天使様に下賜(かし)を賜わり。直接献上(けんじょう)の栄誉を与えられるほど心を開かれていると教会に知れれば、一気に司教、いえ大司教も夢ではないでしょう。治療の腕も考えれば、未来の枢機卿も確実なはず。それを隠していると言うことは、何か事情がお有りなのですね」


 訳知り顔で一人納得し、尊敬の念を瞳に宿しキラキラと擬音が付きそうな雰囲気でクリスを見つめるマリア。と、流されて同じ雰囲気になる患者の女性。

 クリスはこのって意外と電波なのか? と失礼なことを考えるが、純粋に敬虔なだけなのだ。現代日本の宗教観で考えてはいけない。


「いや、そんな上等なモンじゃないんだが……」

「天使様を抱き寄せて愛を囁くなど、徒人ただびとに出来ようはずがありません」


 何かとてつもない勘違いをしている二人に、これは誤魔化さないほうが傷が浅くなりそうだ、とクリスは判断した。


「いや、あれはそんな甘酸っぱいもんじゃない」


 覚悟を決めて言おうとしたが、やはり恥ずかしさが先に立ち、照れた顔をそむけながら、ぶっきらぼうに言い放った。



「つ、妻が飯を届けてくれただけだ」


「「あ、甘酸っぱい!」」



 その希少(レア)なクリスの姿にハートを撃ち抜かれたマリアと患者の女性が、後にロア双神教を立ち上げ、その正式な最敬礼の作法が、胸に手を当てて跪く姿になるとは、この時のクリスは思いもしなかったのだった。








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― 新着の感想 ―
[一言] 10日後の夫婦がそれぞれこの光景を見たらどう思うのかという妄想が。 パンモロを衆生に見せつけても隠しもしないミルに、 女性陣(おばちゃんズとはいえ)にモッテモテのクリス……、 お互い滅茶苦茶…
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