10話 最弱ステータス
ステータス。
それは己の能力等を表す絶対的指標。
古来より、人は数値の優劣によってその人自身の優劣を付けてきた。
試験成績しかり、営業成績しかり、競走成績しかり……って、全部成績がらみになってしまったが。
クリストファー宰相の話から推測するに、そのステータスとやらを確認すれば、俺が勇者である証明がなされてしまうのだろう。
しかし、ここで断っては余計に怪しまれてしまう。
ならば、ここはあえてそのステータスとやらを確認させてやろうじゃないか。
どうせ、確認したところで証明することは無駄なんだろうし……そうなんだろ? カヤナルミ様。
「いいだろう」
俺は了承の返事をする。
「で、どうやってそのステータスとやらを確認するんだ?」
「なぁに簡単なことだよ。ステータスを目の前に表示することを心に思い浮かべて『ステータスオープン』と唱えてくれればよい」
「んじゃ、『ステータスオープン』」
俺は宰相に言われた通り、ステータスを開示するための言葉を言う。
しかし、何も起こらない。
「「「「「……………………」」」」」
沈黙の時が流れる。
「……何も起こらないようだが?」
「そ、そんな筈は!?」
真っ先に狼狽の声を上げたのはクリストファー宰相であった。
「こんなことは初めてだ……」
「わざと開示させないようにしてるのでは?」
「ば、バカな!? そんな高度なことは、大魔道師でもないとできないぞ!」
そして、周りが徐々に騒がしくなる。
「すまん。もう少し、大きな声で『ステータスオープン』と言ってもらえないだろうか?」
声の大きさでどうにかなるもんなのかね?
俺は内心呆れながら、宰相のリクエスト通り、先程よりも大きな声で言われた言葉を発する。
「ステータスオープン!」
声だけむなしく響き渡るが、やはり何も起こらない。
「「「「「……………………」」」」」
再び沈黙の時が流れる。
「何も起きないな」
「……そ、その、なんだ。もっと心を込めて『ステータスオープン』と言ってくれないか?」
おいおい、今度は気持ちかよ。気持ちだけでどうにかなるってんなら、裁判なんかいらねーってんだよ。
そう思いながら、困惑する宰相のリクエストに三度お答えして、決まり文句を言う。
「ステェェェタス・オォォォォォォプンッッ!!」
歌舞伎のように緩急の動作を付けて、見得を切ってみる。
それでも、何も起こらなかった。
「「「「「……………………」」」」」
三度、沈黙の時が訪れる。
「何故だ!? 何故ステータス表示が行われない!?」
その沈黙を真っ先に破ったのは、これまたクリストファー宰相であった。
ステータスを開示させ、俺を勇者証明する事によほど自信があったのだろう。
想定していない事態に、酷く狼狽えている。
「まぁまぁ、落ち着いてくださいお義父さん」
俺はそんな宰相をおちょくるように声をかける。
途端に宰相は憤怒の表情を浮かべた。
「誰がお義父さんだ! 私は貴様の父ではない!」
「いやだなぁ。クリスティアにとって父親だったら、俺にとっても父親ですよ。お義父さん」
「だから父ではない! 貴様、クリスティアに何かしたんじゃないだろうな!?」
「何かとは何を指してるのか分かりませんが、娘さんは優しくてかわいいですね。寝顔とか」
「きき、貴様ぁぁぁぁぁっ!!」
「宰相! 落ち着いてください!」
宰相は俺につかみかかってこんとばかりに殺気をたぎらせるが、背後から近衛兵に羽交い締めにされて、その動作を止められる。
「公爵令嬢を手込めにしただと!?」
「なんと破廉恥な! 穢れた異世界人の分際で!」
「神をも恐れぬ所業だ! 今すぐ殺処分すべきだ!」
外野が途端にやかましくなる。
「静かにせぬか!!」
たまりかねたシードルフ王が一喝すると、途端に場が静かになる。
そして王は、まるで敵を見るかのような視線で俺のことを睨んだ。
「なぁ勇者ジョンよ。お主はそこまでステータスを見せたくないのか?」
「異議あり。見せたくないのではなく、表示されない、が正しい表現だな。そもそもステータス表示とやらは、俺に出来る物なのか? 後、勇者じゃないから」
俺の反論に、シードルフ王は悔しげな眼差しを送りながら拳を握りしめる。
「……やむを得ん。鑑定士、前へ」
「はっ!」
シードルフ王の声に応じるかのように、ローブを着た男が、俺の右側にいる野次馬の中から前へと歩み出て、俺を見る。
「鑑定! …………!?」
しかし男は、言葉を発した後は俺を見つめたまま震えるだけで、以降の言葉を発しようとはしない。
不審な様子に、シードルフ王は男に声をかけた。
「どうした?」
「…………」
しかし男は、無言のまま俺を見つめ続ける。
「一体何が見えたのだ!? 申して見よ!」
シードルフ王は先程よりも強い口調で男に命令する。
「……見えません」
はたして男の言葉は、王の期待するものではなかった。
「なんだと……?」
「ステータスが見えません! 私のスキルでは、この男のステータスを確認するのは不可能のようです!」
王の絶句に、男は繰り返し自分の鑑定結果を報告する。
「「「「「……………………」」」」」
4度目の沈黙が流れる。
「……もう満足か? それじゃあ俺は、そろそろ行かせて貰うとしよう。勇者ではない証明も出来たようだしな」
俺はシードルフ王に背を向けると、そのまま玉座の間を出て行こうとする。
「ま、待て! 待たぬか!」
シードルフ王の慌てた声に俺は動作を止め、王の方を振り向く。
王は苦虫をかみつぶしたかのような変顔を造っており、俺のことを睨んでいる。
「まだやるのか?」
俺は心底呆れたようにため息をついた。
いくらやっても無駄だと思うんだけどな……
しかし俺の願いもむなしく、王は声を荒げて、周りに指示を飛ばす。
「解析球を持ってこい!」
「は、はい! ただいま!」
今度は手に水晶玉を持ったローブ男が、俺の左に陣取っている野次馬の中から前へと歩み出る。
その後ろからは、簡易テーブルを持った甲冑男が現れ、俺の前にテーブルを置いた。
そして、ローブ男が水晶玉をその上へと置く。
「勇者ジョンよ。それは『解析球』と言って、我が国に伝わる秘宝だ。これを使って隠蔽しているお前のステータスを丸裸にしてくれる。さあ、その解析球に手を置くのだ!」
「はいはい。勇者じゃないんだけどな……」
王の言葉に俺は肩を竦めて、水晶玉の上に手を乗せる。
すると突然水晶玉が弱い光を放ち、上空に半透明なウィンドウが現れた。
「こ、これは……!」
この現象を見守っていた王も、空中に現れたウィンドウを凝視し、そのまま絶句する。
そのウィンドウには、俺のステータスが書かれていた。
しかし、そのステータスは――
<ステータス>
ジョン・スミス 男 Lv1
【種族】人間
【職業】村人
【HP】1
【MP】1
【攻撃力】1
【防御力】1
【魔攻力】1
【魔防力】1
【敏捷力】1
【知力】1
【運】1
【スキル】
【称号】異世界転移人
と、ツッコミどころ満載なモノであった。
まず名前。解析とは鑑定の上位スキルらしいが、偽名で表示されるのはどういうことだよ?
次に職業。確かに村人とは言ったが、何故それが固定で表示される? 検察官じゃねーのかよ。
そして、各ステータスのオール1。ちょっと転んだだけで死にそうな貧弱ステータスはどうなんだ?
あからさまに『偽装です!』と主張している数値の割り振りはまずいんじゃね? スキルも空欄だし。
どう見ても勇者のステータスじゃないな。
……俺がやったことではないし、無視しておくか。
そんなことを思いながらシードルフ王を見ると、彼はショックのあまり、顔面蒼白で口をパクパクさせている。
まぁ、王だけじゃなく、みんな無言なんだけども。
ふむ。とりあえずこれで勇者ではないことが証明されたが、少しはフォローしておくか。
俺はそう思いながら、先程テーブルを置いた甲冑男に近づいた。
「君のその引き締まった筋肉。何事にも動じない強靱な精神。君こそまさに勇者にふさわしい。君こそ真の勇者だ。世界を救うために、勇者として頑張れよ」
そしてポンと肩を叩き、今度こそ退場しようと入口に向かって歩き出す。
「待たんかコラアアアアアアアアアアアア!」
しかし、すぐさま王の絶叫が響き渡り、俺は行動の中断を余儀なくされた。




