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神僕検察官  作者: 杠葉 湖
2章 ブリガランド騒乱
11/12

10話 最弱ステータス

 ステータス。

 それは己の能力等を表す絶対的指標。


 古来より、人は数値の優劣によってその人自身の優劣を付けてきた。

 試験成績しかり、営業成績しかり、競走成績しかり……って、全部成績がらみになってしまったが。

 クリストファー宰相の話から推測するに、そのステータスとやらを確認すれば、俺が勇者である証明がなされてしまうのだろう。


 しかし、ここで断っては余計に怪しまれてしまう。

 ならば、ここはあえてそのステータスとやらを確認させてやろうじゃないか。

 どうせ、確認したところで証明することは無駄なんだろうし……そうなんだろ? カヤナルミ様。


「いいだろう」


 俺は了承の返事をする。


「で、どうやってそのステータスとやらを確認するんだ?」

「なぁに簡単なことだよ。ステータスを目の前に表示することを心に思い浮かべて『ステータスオープン』と唱えてくれればよい」

「んじゃ、『ステータスオープン』」


 俺は宰相に言われた通り、ステータスを開示するための言葉を言う。

 しかし、何も起こらない。


「「「「「……………………」」」」」


 沈黙の時が流れる。


「……何も起こらないようだが?」

「そ、そんな筈は!?」


 真っ先に狼狽の声を上げたのはクリストファー宰相であった。


「こんなことは初めてだ……」

「わざと開示させないようにしてるのでは?」

「ば、バカな!? そんな高度なことは、大魔道師でもないとできないぞ!」


 そして、周りが徐々に騒がしくなる。


「すまん。もう少し、大きな声で『ステータスオープン』と言ってもらえないだろうか?」


 声の大きさでどうにかなるもんなのかね?

 俺は内心呆れながら、宰相のリクエスト通り、先程よりも大きな声で言われた言葉を発する。


「ステータスオープン!」


 声だけむなしく響き渡るが、やはり何も起こらない。


「「「「「……………………」」」」」


 再び沈黙の時が流れる。


「何も起きないな」

「……そ、その、なんだ。もっと心を込めて『ステータスオープン』と言ってくれないか?」


 おいおい、今度は気持ちかよ。気持ちだけでどうにかなるってんなら、裁判なんかいらねーってんだよ。

 そう思いながら、困惑する宰相のリクエストに三度お答えして、決まり文句を言う。


「ステェェェタス・オォォォォォォプンッッ!!」


 歌舞伎のように緩急の動作を付けて、見得を切ってみる。

 それでも、何も起こらなかった。


「「「「「……………………」」」」」


 三度、沈黙の時が訪れる。


「何故だ!? 何故ステータス表示が行われない!?」


 その沈黙を真っ先に破ったのは、これまたクリストファー宰相であった。

 ステータスを開示させ、俺を勇者証明する事によほど自信があったのだろう。

 想定していない事態に、酷く狼狽えている。


「まぁまぁ、落ち着いてくださいお義父さん」


 俺はそんな宰相をおちょくるように声をかける。

 途端に宰相は憤怒の表情を浮かべた。


「誰がお義父さんだ! 私は貴様の父ではない!」

「いやだなぁ。クリスティアにとって父親だったら、俺にとっても父親ですよ。お義父さん」

「だから父ではない! 貴様、クリスティアに何かしたんじゃないだろうな!?」

「何かとは何を指してるのか分かりませんが、娘さんは優しくてかわいいですね。寝顔とか」

「きき、貴様ぁぁぁぁぁっ!!」

「宰相! 落ち着いてください!」


 宰相は俺につかみかかってこんとばかりに殺気をたぎらせるが、背後から近衛兵に羽交い締めにされて、その動作を止められる。


「公爵令嬢を手込めにしただと!?」

「なんと破廉恥な! 穢れた異世界人の分際で!」

「神をも恐れぬ所業だ! 今すぐ殺処分すべきだ!」


 外野が途端にやかましくなる。


「静かにせぬか!!」


 たまりかねたシードルフ王が一喝すると、途端に場が静かになる。

 そして王は、まるで敵を見るかのような視線で俺のことを睨んだ。


「なぁ勇者ジョンよ。お主はそこまでステータスを見せたくないのか?」

「異議あり。見せたくないのではなく、表示されない、が正しい表現だな。そもそもステータス表示とやらは、俺に出来る物なのか? 後、勇者じゃないから」


 俺の反論に、シードルフ王は悔しげな眼差しを送りながら拳を握りしめる。


「……やむを得ん。鑑定士、前へ」

「はっ!」


 シードルフ王の声に応じるかのように、ローブを着た男が、俺の右側にいる野次馬の中から前へと歩み出て、俺を見る。


「鑑定! …………!?」


 しかし男は、言葉を発した後は俺を見つめたまま震えるだけで、以降の言葉を発しようとはしない。

 不審な様子に、シードルフ王は男に声をかけた。


「どうした?」

「…………」


 しかし男は、無言のまま俺を見つめ続ける。


「一体何が見えたのだ!? 申して見よ!」


 シードルフ王は先程よりも強い口調で男に命令する。


「……見えません」


 はたして男の言葉は、王の期待するものではなかった。


「なんだと……?」

「ステータスが見えません! 私のスキルでは、この男のステータスを確認するのは不可能のようです!」


 王の絶句に、男は繰り返し自分の鑑定結果を報告する。


「「「「「……………………」」」」」


 4度目の沈黙が流れる。


「……もう満足か? それじゃあ俺は、そろそろ行かせて貰うとしよう。勇者ではない証明も出来たようだしな」


 俺はシードルフ王に背を向けると、そのまま玉座の間を出て行こうとする。


「ま、待て! 待たぬか!」


 シードルフ王の慌てた声に俺は動作を止め、王の方を振り向く。

 王は苦虫をかみつぶしたかのような変顔を造っており、俺のことを睨んでいる。


「まだやるのか?」


 俺は心底呆れたようにため息をついた。

 いくらやっても無駄だと思うんだけどな……

 しかし俺の願いもむなしく、王は声を荒げて、周りに指示を飛ばす。


「解析球を持ってこい!」

「は、はい! ただいま!」


 今度は手に水晶玉を持ったローブ男が、俺の左に陣取っている野次馬の中から前へと歩み出る。

 その後ろからは、簡易テーブルを持った甲冑男が現れ、俺の前にテーブルを置いた。

 そして、ローブ男が水晶玉をその上へと置く。


「勇者ジョンよ。それは『解析球』と言って、我が国に伝わる秘宝だ。これを使って隠蔽しているお前のステータスを丸裸にしてくれる。さあ、その解析球に手を置くのだ!」

「はいはい。勇者じゃないんだけどな……」


 王の言葉に俺は肩を竦めて、水晶玉の上に手を乗せる。

 すると突然水晶玉が弱い光を放ち、上空に半透明なウィンドウが現れた。


「こ、これは……!」


 この現象を見守っていた王も、空中に現れたウィンドウを凝視し、そのまま絶句する。

 そのウィンドウには、俺のステータスが書かれていた。

 しかし、そのステータスは――




 <ステータス>

 ジョン・スミス 男 Lv1

 【種族】人間

 【職業】村人

 【HP】1

 【MP】1

 【攻撃力】1

 【防御力】1

 【魔攻力】1

 【魔防力】1

 【敏捷力】1

 【知力】1

 【運】1


 【スキル】

 【称号】異世界転移人




 と、ツッコミどころ満載なモノであった。


 まず名前。解析とは鑑定の上位スキルらしいが、偽名で表示されるのはどういうことだよ?

 次に職業。確かに村人とは言ったが、何故それが固定で表示される? 検察官じゃねーのかよ。


 そして、各ステータスのオール1。ちょっと転んだだけで死にそうな貧弱ステータスはどうなんだ?

 あからさまに『偽装です!』と主張している数値の割り振りはまずいんじゃね? スキルも空欄だし。

 どう見ても勇者のステータスじゃないな。


 ……俺がやったことではないし、無視しておくか。


 そんなことを思いながらシードルフ王を見ると、彼はショックのあまり、顔面蒼白で口をパクパクさせている。

 まぁ、王だけじゃなく、みんな無言なんだけども。

 ふむ。とりあえずこれで勇者ではないことが証明されたが、少しはフォローしておくか。

 俺はそう思いながら、先程テーブルを置いた甲冑男に近づいた。


「君のその引き締まった筋肉。何事にも動じない強靱な精神。君こそまさに勇者にふさわしい。君こそ真の勇者だ。世界を救うために、勇者として頑張れよ」


 そしてポンと肩を叩き、今度こそ退場しようと入口に向かって歩き出す。


「待たんかコラアアアアアアアアアアアア!」


 しかし、すぐさま王の絶叫が響き渡り、俺は行動の中断を余儀なくされた。

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