第五百八話 見つけた!
「……なんじゃこりゃ」
俺は思わず声を漏らしていた。ロイスが潜んでいる場所が予想をはるかに超えた場所だったからだ。
今、目の前には、巨大なマグマ溜まりがあって、地底深くから真っ赤な液体がゆっくりと溢れてきているように見える。まさか、ヒヤマの砦の近くに、こんな火山があるなどとは思いもしなかった。
一見すると、小さな穴が開いているようにしか見えなかった。三メートルくらいだろうか……。その中に龍王が入っていったのを見たときは、休憩でもするのかと思った程だ。だが、中に入ってみると、意外に広く、しかも深い空間が広がっていた。ライトの呪文を唱えて周囲を明るくしてみたものの、底が全く見えない。しかも、龍王の姿も見当たらない。
間違いなく底に向かっていったのだろうと考えて、どんどん地下に進んでいく。だが、行けども行けども底に着かない。しかも、進むほどに穴が広がっていっている。そして、なにやら広い空間にたどり着いた。
「遅いではないか」
不意に龍王の声が聞こえる。暗くて姿が見えないので、さらにライトを出していく。すると、驚きの光景がそこには広がっていた。
……そこはまるで、中をくりぬいたかのような、巨大なドーム空間となっていた。ゴツゴツとした黒い山肌がとても不気味だ。そんな俺たちを、龍王は笑顔で見つめている。
「だから、後ろからくる俺たちに気を使えと言っただろう。一人で勝手に先に行きやがって……」
「何を言うか。遮るもののない一本道ではないか。我の姿を見失うことなどあるまい。現に貴様は我の後をついてきたではないか」
「あれは勘だ」
「フフフ。まあ、そんなことはどうでもよい。ロイスがいるのはここではない。この、さらに奥だ」
「はあ?」
まだ底があるのか? 不思議がる俺を横目で見ながら、龍王はゆっくりと下降を始めた。コイツを鑑定したときには、まさかここまで深い場所まで潜っているとは思わなかった。それだけヤツは高速で移動していたということなのだろうか。そう考えると、龍王はロイスの気配を探知して、最短距離でここまでたどり着いたのだろうか。で、あれば、ヤツの探知能力は俺を凌駕していることになる。単なるポンコツ野郎と思っていたが、もしそうであれば、龍王の評価を上方修正しなければならない。
龍王の姿がどんどん小さくなっていく。俺を乗せているツネも、彼を見失うまいと後を追って奥へ進んでいった。
徐々に空間が狭くなってくる。しばらく進んでいくと、再び何やら広い場所に出た。その遥か先は真っ赤に染まっていた。どうやら、マグマ溜まりに着いたようだ。
「まさか、二重構造になっていたのか、この火山は……」
思わず俺は声を漏らす。火山というと、火口があって、そのすぐ奥にマグマがあると思い込んでいたが、こんな火山もあったのだ。妙に感心してしまう。
マグマ溜まりからは、強風が吹き上げてきている。おそらくこの風もとんでもない温度なのだろう。生身の人間がこんなところに来たら、一瞬で死んでしまうのは容易に想像できる。温度もさることながら、火山には有毒ガスが発生すると聞いたことがある。そんな状況下では、最上位種のドラゴンクラスでなければ、近づくことさえ難しいだろう。こんな環境でも、龍王は涼しい顔をしているし、俺を乗せているツネも、全く動揺した様子はない。さすが、といったとこだろうか。
どうやら、あのマグマの奥にロイスがいるらしい。俺は精神を集中させて、このマグマ溜まり全体に鑑定スキルを発動させる。
「……」
ロイスの姿は、見えなかった。かなりの魔力を持っていかれたので、少し体がだるい。ゆっくりと息を吐きだしながら、呼吸を整える。
「まさか……この場所に鑑定スキルを?」
ツネが驚いたような声で話しかけてくる。俺の魔力の流れを感じたのだろうか。気配を消す結界を張っている……ということは、必然的に魔力の流れも消しているのだが、そんな状況下でも俺の鑑定スキルの発動を感知したとすれば、コイツのスキルも相当高いことになる。
「ああ。だが、ロイスの姿は見えなかった」
「相変わらず、器用なことをする奴だ」
龍王がふんぞり返りながら話しかけてくる。俺は無言でヤツを眺める。
「ずいぶんと膨大な魔力を使ったのだろうな。貴様が鑑定スキルを発動していたのが、我にもわかったぞ」
……マジか。龍王にも俺の鑑定がバレたということは、もしかしたら、ロイスに俺の存在がバレたのかもしれないな。そんなことを思っていると、突然、龍王が大きな笑い声をあげた。
「ハアッハッハッハ! 心配することはない。おそらく、ロイスはまだ、貴様の存在には気づいていない」
どういうことだと、首を傾げる。そんな俺に、龍王はさらに言葉を続ける。
「ロイスがいるのは、この奥深くだ。そこで貴様の魔力を感じるのは不可能だろう。この我でさえ、この距離にいてやっと貴様の鑑定スキルを認識できたのだ。ここからさらに深いところに隠れているロイスには、貴様を感じることはできまい」
「……それを聞いて安心した。だが、龍王。お前、そんなに大声を出して大丈夫か? その声で、ロイスに俺たちの存在がバレはしないか?」
「そんなわけはないだろう……」
龍王はさも、残念そうな表情を浮かべる。俺としてはちょっとした皮肉を言ったつもりなのだが、ヤツには通じていないようだ。
……少し、魔力が回復してきたようだ。俺は再びマグマ溜まりに視線を向け、そこに気配探知と魔力探知を発動させる。イメージとしては、マグマ溜まりに気配を探知する縦の線を描きながら、魔力を探知する横の線を描くというものだ。それを上下左右にゆっくり動かしながら、底の方に移動させていく。
額にねばい汗がジワジワと浮かび上がってくるのがわかる。ズルズルと魔力が削られていくのも感じる。だが、そんなことは一切構わずにさらに精神を研ぎ澄ませる。
「……捉えた」
俺は思わず呟く。マグマ溜まりの奥……ほぼ、地底に近い場所でわずかな反応があった。どうやら、巨大な正方形の箱があるようだ。その中には、巨大な魔力が内包されているのを感じる。いた。ロイスだ。ロイスに違いない。……だが、待てよ? 何だ、この感覚は?
「……水?」
どうやらロイスは、巨大な正方形の空間の中に、水を張っているようだ。一体、何のために水などを張っているのだろう。まさか、熱さから逃れるためだろうか?
魔力探知と気配探知を終わらせる。目を開けてみると、龍王がドヤ顔を浮かべている。
「いたであろう、ロイスの奴が」
俺はゆっくりと頷く。
「ああ、ただ、よくわからないことがある。ロイスがいることは確認したが、どうやらヤツは空間の中に水を張っているみたいなんだ。これはどういうことだ?」
「水?」
声を上げたのはツネだ。彼はしばらく沈黙していたが、やがて、呆れたような声を上げる。
「ロイスの奴、考えたな」
「どういうことだ?」
「水を張ることで、己を攻撃されないようにしている」
「どういうことだ?」
「ロイスの空間が破壊されれば、その瞬間、中の水が噴き出す。そうすれば、爆発する。下手をすると、この山自体が一瞬で消し飛ぶだろう」
「何だ、それ? それってヤバくないか?」
俺は思わず龍王に視線を向ける。ヤツは相変わらず笑みを浮かべている。
「龍王、お前もしかして、そのことをわかっていて、敢えてロイスを攻撃しなかったのか?」
「……何の話だ?」
「え?」
「わけのわからぬことを言っていないで、攻撃するがいい。まずはヤツの空間を切り裂くのだ」
俺は思わず、天を仰いだ。




