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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第十五章 黒龍編
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第四百八十一話 まさかの提案

「は? お前、今、何て言った?」


俺は思わず目を見開いて固まった。それほど、予想だにしなかった提案だったのだ。


目の前には、にこやかな笑みを浮かべたヴィエイユがいた。チャンとワーカらがドルガとヒヤマに立てこもってから四日後、ヴィエイユが突然、アガルタの都に現れたのだ。


彼女はポーセハイと共に転移してきた。ヴィエイユ曰く、ドルガ出兵に際して、優秀な医師を乗船させたとのことで、その中で、新・クリミアーナの首都であるアフロディーテで共同研究をしているポーセハイも数名、乗船していたのだと言う。


「突然の無礼、お許しくださいませ」


兵士に案内されて謁見の間に現れたヴィエイユは白いボレロのような上着に、これまた白いスカートをはいて現れた。一見すると、どこかのシスターかと思われる佇まいだが、頭にベレー帽のようなものを載せているので、どちらかと言うと、神官のような格好と言ったところか。いつものエロさは、微塵もない。


「ずいぶんと忙しくしているようだな。そんなときに、よくアガルタに来られたな」


彼女がここにやってくる前に、俺はヴィエイユが船団を率いてバーリアル王国に向かったことを掴んでいた。てっきり大きな戦いになるだろうと思っていたが、意外にもそうした戦いにはならず、彼女ら一行は悠々とバーリアル王国の首都に入っていったのだった。


「いいえ。忙しくなどしておりません。逆に、暇を持て余しているのです」


しゃあしゃあとこの娘は心にもない事を言ってのける。鑑定スキルで覗き見てみたが、それこそ、彼女はほとんど寝ていない。次から次へと矢継ぎ早に指示を出し、上がってきた報告を分析しながら、さらに指示を出す……。わざわざワーロフに五日間も逗留した訳がようやくわかった。彼女はドルガにあって、着々とバーリアル王国侵略の戦略を立てていたのだ。それから約十日……。ヴィエイユの睡眠時間は二十四時間を下回っているのだ。俺には到底できないことだ。


「バーリアル王国の首都を陥落させたようだが、そこの統治をほったらかしにして大丈夫なのか?」


俺の言葉に、ピクリと彼女の肩が動く。だが、表情は全く変わらない。


「陥落……。何の話でございましょう? 我々はバーリアルに戦争をしに行ったわけではありませんわ。表敬訪問をしたのです」


「表敬訪問?」


「もともとあの国は、クリミアーナ教を信仰していた国でした。しかし、私の代になってからは、アフロディーテとの距離が遠かったこともありまして、疎遠になっておりました。せっかくワーロフまで出てきたのですから、そのついで……ではありませんが、バーリアルを訪問したのですわ。かの国の信仰の厚さを確認できて、安心いたしました」


「お前には呆れるほかはない」


彼女自身が直接手を下していないので事の詳細はわからないが、バーリアルでは皇帝が座っていたと思われる豪華な玉座に腰を下ろし、集まった人々に笑顔で命令するヴィエイユの姿が見えていた。察するに、皇帝以下、主だった者たちは粛清されたか、幽閉されているのだろう。


「で、突然やって来た理由を聞こうか」


「はい。折り入ってアガルタ王様にお願い申したいことがございます」


「何だい?」


「ドルガとヒヤマを、アガルタの領土としていただきたいのです」


「うん? 言っている意味がよくわからんが?」


「この度、私共は、ドルガとヒヤマの地を、ワーロフ帝国から割譲されたのです」


「え? 何の話だ?」


「事実でございます。ですが、私共では、あの地を統治することができないのです。そのため、ドルガとヒヤマをアガルタにお譲りしたく、お願いに上がった次第です」


「は? お前、今、何て言った?」


「ワーロフは、アフロディーテからは遠くございます。それに、バーリアル王国の中にも、信仰心の足りぬ者が多くございまして、我々はそちらの改善に注力したく思います。そうなりますと、ドルガとヒヤマの統治は疎かになります。そうなるよりは、アガルタ王様にお任せした方が、我々にとっても都合がよいのです。それに……」


「それに、何だ?」


「ドルガ、ヒヤマに立てこもる者たちは、アガルタ王様に心酔しております。あの、チャンとワーカの司令官、およびバーリアルの捕虜たち……。そうした方々を、我々の手で統治することは、かなりの困難を伴いますわ。ですから、アガルタ王様に、かの地の統治をお願いする次第でございます」


「そんなことをしたら、あのシーワとかいう司令官が黙っていないだろう?」


「その心配には及びませんわ。すでにあの女は、終わっておりますわ」


「殺したのか?」


「いいえ。命までは奪っておりません。ただ、相応の罰を与えただけでございます」


「何をした?」


「あの女は、アガルタ王様と私に対して無礼な振舞いを致しました。相応の辱めを受けさせたのですわ。……ホホホ、アガルタ王様が想像されるようなことはしておりませんから、どうぞ安心くださいませ」


そう言って彼女は機嫌よくカラカラと笑った。


「ドルガとヒヤマの統治、お願いしてもよろしゅうございますか?」


「……」


「アガルタ王様が首を縦に振っていただきませんと、あそこにいる者たちは遠からず死を迎えることになりますわ」


「どういう意味だ?」


「ドルガとヒヤマだけで、あそこに詰める兵士たちはもとより、民衆の食料を十分に供給できるとは思えませんわ。そうなれば、遠からず反乱が起こり……」


「わかった。皆まで言うな。要は、お前は、ドルガとヒヤマの面倒を見る気はない、そう言いたいのだな?」


「その通りでございます」


「イヤな女だな、お前は」


「嬉しゅうございます」


「嬉しい?」


「良きにつけ、悪しきにつけ、私と言う存在が、アガルタ王様の脳裏に刻み込まれたのです。これを喜ばずして、何と申しましょうか」


「もういい。下がっていいぞ。あ、その前に……メイのところに、行け」


「お妃さまのところへ、でしょうか?」


「ああ。これは、俺からの命令だ」


「承知しました」


ヴィエイユは満面の笑みを浮かべて、部屋を後にしていった。俺は念話を通じてメイに連絡を取り、ヴィエイユによく眠れる薬を処方するように頼んでおいた。


「もうすぐクノゲンたちが帰ってくる……。また、アイツらをワーロフに行かせるのか? バカバカしい。ああ~どうしてこうも、厄介ごとを持ち込むかね……」


俺は、頭をガリガリと掻き毟りながら、思わず天を仰いだ。


◆ ◆ ◆


一方、ルワザン島のツネの許には、一匹の黒龍がゆっくりと舞い降りてきていた。言うまでもなく、弟のロイスだ。


「兄者、大変だ。シャリオが捕らえられた」


「何? シャリオが?」


「ああ。アガルタ王リノスと戦闘になった。そのとき、シャリオがヤツに捕らえられたのだ」


ツネは気配探知を駆使してシャリオの気配を感じようと努めた。だが、彼の力をもってしても、妹の行方を掴むことはできなかった。


「まさか、シャリオが……」


「いいや兄者。シャリオは生きている」


「なぜ、そう言い切れる?」


「見えたのだ。人化した状態のままで運ばれていくシャリオの姿を。おそらく、奴らは龍王にシャリオを引き渡すはずだ」


「……」


「龍王はシャリオを詰問するだろうが、妹のことだ。喋るまい。それの状態が数日に及ぶと……」


「もういい」


「兄者、一人で助けに向かおうとしているな?」


「……」


「水臭いぞ。今こそ我ら兄弟が力を合わせるときではないか。シャリオの居場所は俺が知っている」


「案内しろ」


「待て兄者。俺に、いい考えがある」


ニヤリと笑うロイス。そんな弟の様子を、ツネは鋭い視線で眺めるのだった……。

黒龍編、ここで一旦終了します。間話を三つほど挟みまして、黒龍編~激闘編~を開始する予定です。どうぞ、お楽しみに!

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― 新着の感想 ―
[良い点] トロイの木馬感半端ない アガルタにしても飛び地であり負担になると思われますが人命をたてに領土化を押しつけるなんて何か仕込んでますと言ってるようなもの どこまでが小娘の策なのか実に読みにくい…
[一言] 更新有り難う御座います。 ヤリヤガッタナ……ヴェイユ嬢……。 流石のヤンデレ?ちゃんですね……。 ヴェイユ「喜びの 喜びの 涙にくれて~♪」
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