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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第十五章 黒龍編
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第四百八十話  驚きの展開

気だるそうな表情を浮かべながら、シーワは息を吐き出した。チラリと見た視線の先には、ゲシカナ将軍がイビキをかいて眠っている。


結局、妹のギギからは何の連絡もなかった。ドルガもヒヤマも、あれからは全くと言っていいほど、何の動きも見られなかった。


この三日間、兵士たちには休憩を取らせながら、いつでも出撃できるように準備をさせていたものの、シーワの腹の中では、少なくても一両日中には、ギギやトーイッツから何らかの報告があるものと確信していた。それが、見事に裏切られる形となった。


一方で、ゲシカナ将軍は焦燥を募らせていた。彼は、おそらくギギやトーイッツからの連絡はないだろうと断じた。むしろ、ドルガとヒヤマに対して一気に攻撃を加えるべきだと主張した。それは彼の軍人としての勘だったが、それに対して根拠を求めるシーワの質問には、答えることはできなかった。


結局、将軍の提案を実行したうえでのデメリットを理路整然と語るシーワに反論することができず、ワーロフ帝国軍はこの地に留まり続けることになったのだった。


ゲシカナ将軍は、心の底から湧き上がる、何とも言えないイヤな不安感に苛まれ続けた。その不安を解消するために、ゲシカナ将軍はシーワの体にそのはけ口を求めた。


彼は性の欲望が強い男だった。だが、若者のような体力はなく、すでに男性としての能力は衰えていた。そのために彼は、執拗にシーワの体を弄んだのだった。


これには、さすがのシーワも音を上げそうになった。何しろ、朝から晩まで、下手をすると、眠っている最中に起こされて求められるのだ。これまでに経験したことのない、何の喜びも感じられない行為は、彼女にとっては苦痛以外の何物でもなかった。


シーワは、絶対の自信を持つ理路整然とした説明能力を駆使して、将軍の説得を試みたが、彼の欲望を抑えることはできなかった。むしろそれは、彼をさらに苛立たせることにしかならず、その度に彼女は力づくで押し倒されることになった。


この二人の関係性も、すでに破綻しようとしていた。


「皆を召集してください」


疲れた体を引きずりながら、シーワは兵士に命令を下す。男はハッと畏まり、足早にその場を後にしていった。元いた部屋には、裸のままベッドで眠りこむゲシカナ将軍がいるはずだが、彼女は再びその部屋には戻らなかった。


しばらくして、幕僚たちが集められ、軍議が始まる。そのとき、突然伝令が飛び込んできた。


「ハッ、申し上げます! 帝都より、リーカン伯爵さまが……勅使としてお見えになりました」


「勅使?」


怪訝な表情を浮かべるシーワ。伝令はそんな彼女に一礼をすると、素早くその場を立ち去った。それと入れ替わるように、端正な顔立ちの男が現れた。彼は、シーワたち幕僚を一瞥すると、挨拶もなしに、ゲシカナ将軍を呼ぶようにと命令した。そして、全員がそろったことを確認すると、懐から一枚の紙を取り出して、大声で読みだした。


「全軍、すぐさま帝都に帰還せよ。ワーロフ帝国皇帝、ワーロフ・ガーワ・ミーシン」


キョトンとするゲシカナ将軍以下、幕僚たち。そんな彼らを満足げな表情で眺めていたリーカン伯爵は、早口でまくし立てる。


「国家の一大事が起こっています。一刻も早く帰還してください」


そう言って彼は、足早にその場を去っていった。


ゲシカナとシーワはしばらく顔を見合わせていたが、やがて、シーワが苛立ったようすで口を開いた。


「何なのですか、あれは? ドルガとヒヤマで反乱が起こっているのに、それを捨てて帰還しろとは……そんな命令を下すなど、間違っています」


「恐れながら副総司令官殿、勅命ですので、すぐさま帰還された方がよろしいかと……」


若い幕僚が、遠慮がちに進言してくる。そんな彼にシーワは冷たい視線を投げていたが、不機嫌な表情を崩そうともせずに、隣に座っていたゲシカナ将軍に視線を向けた。


彼は大きなため息をつくと、まるで吐き捨てるかのように、口を開いた。


「勅命である。全軍、引き上げだ」


「お待ちください。ドルガにはギギとトーイッツがまだおります。二人を救いだしてから、引き上げましょう」


「……」


将軍はしばらくシーワを眺めていたが、やがて、彼女に視線を向けたまま、ゆっくりと口を開く。


「シラウラス」


「ハッ」


「ドルガに向かえ。そして、ギギとトーイッツを引き取って来い」


「承知いたしました」


「全軍、帝都に向けて引き上げる。すぐに準備をするのだ!」


ゲシカナ将軍の言葉に、シーワ以外の全員が頭を下げた。


◆ ◆ ◆


帝都に戻ると、そこでは、勅使として訪れていたリーカン伯爵が出迎えに来ていた。彼はゲシカナとシーワが到着するとすぐに宮殿に来るようにと促した。


「それでは、衣服を改めて……」


「いえ、そのままで結構です」


「そうは申されましても……」


「皇帝陛下の火急のお召しです。そのままで結構ですから、まずは宮殿へ。私も同行いたします」


リーカン伯爵の言葉に、ゲシカナもシーワも顔を見合わせていたが、やがて彼の勧めに応じる形で、旅装のまま皇帝の住まう宮殿に向かった。


だが、リーカンが向かった先は宮殿ではなく、カーウンジ伯爵の邸宅だった。ゲシカナとシーワが伯爵家の屋敷に入った直後、屋敷の門が静かに閉じられたのを見て、二人はようやくおかしいと気が付いた。


屋敷の広間には、宰相であるサンマルコ・ローゼンハイムが待っていた。驚く二人に、ローゼンハイムは冷たい視線を向け、手に持っていた書簡をゆっくりと読み上げた。


「余は、汝らが逆心を抱きしことを承知す。この上は、両名に対し、その身を捕え、カルコロム牢獄への幽閉を命ず。ワーロフ帝国皇帝、ワーロフ・ガーワ・ミーシン」


皇帝の命令に驚く二人に、ローゼンハイムは一切の情を感じさせない声で、淡々と説明を始めた。


「まず、我が国に侵略してきた、バーリアル王国が滅亡したのは……。その顔は全く知らぬと言った感じだな。ちょうど二日前、新・クリミアーナ教国軍によってバーリアルは占領された。そして、その教皇から親書が届いたのが、昨日の朝のことだ。そこには、新・クリミアーナ軍は、我が国を攻撃すると書いてあった」


ゲシカナとシーワは目を丸くして驚いている。そんな二人を一瞥したローゼンハイムは、さらに言葉を続ける。


「我が国を攻撃する理由は、先のドルガ、ヒヤマでの戦いにおいて、シーワ副総司令官に、教皇自身が、アガルタ王と共に大層な無礼を働かれた。その恥を雪ぐため、我が国を根絶やしにするのだと言う……」


「お待ちください! 私は別に無礼など……」


「おだまりなさい」


ローゼンハイムの目に殺意が宿っていた。そのあまりの迫力に、シーワは言葉を失う。


「そして、クリミアーナからの書簡が届いたのと同時に、ヒーデータ帝国より、皇帝の親書が届けられた。そこには、アガルタ王、バーサーム・ダーケ・リノス陛下が大層心を痛めておいでだと書かれてあった。何でも、ヒヤマを奪還し、ドルガを奪還したにもかかわらず、我が軍から何の労いもなく、占領した砦から追い出されたと言うではないか。アガルタ王自身は気にしていないと言うが、アガルタ国内で、我が国に対する不満が大いに高まっているそうだ」


「お待ちください。その……無礼を働いたことが、どうして、私やゲシカナ将軍に逆心があるということになるのです! お言葉の意味がわかりかねます!」


必死に言葉を絞り出すシーワに、ローゼンハイムは再び言葉を続ける。


「ゲシカナ総司令官、シーワ副総司令官。この度の戦いで、我が国の信用は地に落ちている。自軍の将兵は犠牲にせず、徒に他国の軍勢を犠牲にした……。それだけではない。アガルタ、クリミアーナ両国の国王に無礼を働き、さらに、せっかく奪還したドルガとヒヤマを、己が部下に裏切られて……」


「ですから、ドルガとヒヤマは、私とゲシカナ将軍で奪還してご覧に入れますわ! この度は、我が帝国軍で奪還いたします。ですから……」


「無駄だ」


「無駄、ですって?」


「新・クリミアーナが、我が国を攻めない条件が、ドルガとヒヤマの割譲なのだ」


「何ですって?」


「今の我が帝国では、新・クリミアーナ教国と事を構えて勝てる見込みはない。かの国に対抗できるのはアガルタのみ。だが、そのアガルタの我が国に対する心証は著しく悪い。もし、クリミアーナと事を構えたとしても、アガルタが我らの側に立つとは思えない。従って……苦渋の決断ではあるが、我らは、新・クリミアーナ教国の条件を受け入れることとした」


「そんな……。でも、でも、それが、私とゲシカナ将軍の反逆の理由にはならないでしょう! 作戦失敗の責任は負えど、国家に対する反逆には……」


必死で弁明するシーワを憎々し気に眺めていたローゼンハイムは、まるで彼女を黙らせるように、突然パンパンと手を二回叩いた。


「ちょうど、新・クリミアーナ教国の使者が、この屋敷に来ている。会ってみるといい」


「……失礼します」


ローゼンハイムの隣に現れたのは、一組の男女だった。その姿を見て、シーワは驚愕のあまり言葉を失った。


何と、新・クリミアーナ教国の使者として現れたのは、トーイッツとギギだった……。

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[一言] 更新有り難う御座います。 ……ヴェイユさ~ん!? 何しちゃってんの!?(洗脳?)
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