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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第十五章 黒龍編
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第四百七十七話 スイーツパーティー

とある孤島の森の中で、一匹の黒龍がただ一点を見据えていた。はぐれ黒龍の一人であるロイスだ。彼の視線の先には、帝都のリノスの屋敷があった。


「……」


一瞬、彼の眼がカッと赤く光る。そして、首をぐるりと廻し、再び同じ方向を睨みつける。


……龍王とあの精霊。まさか、あんなものを従えていたとは、完全にヤツの戦力の見積もりを誤っていた。さて、どうするかな。


ロイスはゆっくりと息を吐きながら、深く思考する。


……こういうことは、他の者に手伝わせるのが一番だ。


そのとき、彼の頭の中に、閃くものがあった。彼はニヤリと下卑た笑みを浮かべたかと思うと、背中の翼を大きく動かして、上空に浮かび上がった。そして、ゆっくり南の方向に向かって飛び去っていった。


一方、リノスの屋敷では、賑やかにお菓子パーティーが始まっていた。


リコ、シディー、ペーリスが中心となって、神龍様に食べていただくためのスイーツを大量に作っていた。また、子供たちは久しぶりに現れた神龍様を見て大喜びで、皆で仲良く遊んでいる。


龍王はダイニングの椅子に腰かけながら、神龍の様子を驚きの表情で眺めている。それはそうだろう。龍族の守り神にして、高いスキルを持つ彼が、ほっぺをつねられ、ペチペチと顔を叩かれるなどしているのだ。彼からしてみるとそれはあり得ない光景であった。とはいえ、神龍様自身が楽しそうにしているので、敢えて何かを言う必要もないと判断していたのだった。


そんな彼の隣にはアリリアが控えており、折に触れて彼に色んなものを与えようとしていた。彼は勧められるままにそれを口に入れる。特に美味しいものではなかったが、それでも、彼は一言の文句を言うことなく、彼女が持って来るものを口に運ぶ。


そんな様子を見ながらリノスは、ワーロフ帝国に残してきたクノゲン以下、一千のアガルタ軍の動きを気にしていた。特に大きな動きはない。何かあれば、そこに残してきたフェアリードラゴンがすぐさま彼に注進してくる手はずになっていて、今のところそうした動きは見られない。だが、彼の心の中には、ヴィエイユとワーロフ帝国軍のシーワのことが気がかりだった。


そんな空気を察したのか、マトカルが一旦様子を見に行くと言って、転移結界のある部屋に向かって行った。


「リノス様、鎧を脱ぎましょうか?」


マトカルが出かけたのを見計らっていたかのように、シディーが小声で話しかけてくる。確かに、このダイニングで鎧を着用して帯剣している姿はどう見ても異質だ。彼はゆっくり頷くと、シディーを伴って自室に戻っていった。


「……ふう。終わりました」


手早くリノスから鎧を脱がせたシディーは、最後に彼から兜を受け取り、それを鎧台に持って行く。リノスは首を左右に動かし、腕をグルグル回しながら、首と肩のコリをほぐす。


「リノス様、おかえりなさい……」


彼の胸にシディーがスッと顔をうずめる。彼は反射的に、両手をシディーの背中に廻す。


「昨日は風呂に入っていなかったから、汗臭いだろう」


「いいえ。リノス様のことです。今朝、屋敷に戻る前に顔と首……肌が出ている部分を濡れた布で拭かれましたね? ですから……そんなに汗臭くはないです」


「シディーは何でもお見通しだな」


「エヘヘ」


「ところで、あの黒龍の少女、どう思う?」


「う~ん」


彼女は人差し指を顎の下に持っていって、小首をかしげる。


「イヤな予感は拭えません。いえ、あの少女が何かを起こす……そんな予感はしませんが、あの子がきっかけで、何かイヤなことが起こる気がします」


「なるほど。どうすればいいかな?」


「う~ん」


シディーは目をギュッと閉じて悩みだしてしまった。こうなると長いのだ。


「まあ、月並みだが、結界を強化して邪念のある者を排除することにしようか。また、何かいい考えが思い浮かんだら、是非教えてくれ」


「わかりました」


「……ぜんざいが、できましたわ。落ち着いたら、降りてらっしゃいな」


部屋の外でリコの声がする。リノスはシディーと顔を見合わせる。


「取りあえず、ダイニングに、行こうか」


「そ……そうですね」


何となく気恥ずかしい雰囲気から逃れるように、二人は寝室を出た。


ダイニングに降りると、お菓子パーティーが始まっていた。神龍様がものすごい勢いでケーキを食べている。1ホールくらいの大きさがあるのだが、それを二口くらいで食べている。同時に、丼鉢に盛られたぜんざいを、まるで水を飲むような勢いで食べている。その食いっぷりは、見ているだけで爽快感さえ感じる。


その隣では龍王が、アリリアに勧められるままにお菓子を食べている。コクコクと頷きながら食べているところを見ると、美味しいのだろう。


子供たちも、ソレイユやペーリスたちと共に大喜びでお菓子を食べている。テーブルの上ではフェアリがパタパタと飛び回り、何とも騒々しい限りだ。そんな中、ポツンと黒龍の少女が、その様子を眺めている。リノスは彼女の隣にゆっくりと腰を掛ける。


「よかったら食え。美味いぞ?」


「……」


彼はテーブルの上に載っているカステラに手を伸ばして、彼女に差し出す。シャリオはしばらくそれを眺めていたが、やがてゆっくりと手に取り、ポイと口の中に放り込んだ。


「……ううう!?」


「どうした?」


「美味しい!」


「だろ? もっと食え」


リノスはそう言って、腰にぶら下げている無限収納を手に取り、そこからカステラを出していく。山と積まれたカステラ……。それを少女は無我夢中で食べていく。と同時に、神龍様もカステラに手を伸ばす。数十本はあったカステラが、瞬く間になくなってしまった。


リノスはその様子を満足げに眺めながら、次々と無限収納から食べ物を出していく。ぜんざい、あんぱん、ケーキ、クッキー……。それらが出されるたびに子供たちから歓声が上がり、と同時に、神龍様とシャリオがそれらを片っ端から食べていく。


「美味いのらー」


「うん、うん、うん」


幸せそうに頷きながらスイーツを頬張るシャリオ。その姿は一見すると、ただのあどけない少女そのものだった。


「……リノス」


「何だい、リコ?」


突然リコがリノスに耳打ちをする。彼は訝し気にリコに視線を移す。


「この黒龍、とても賢いですわ」


「え?」


「ご覧になって下さいませ。誰にも教えてもらわずに、フォークを使ってケーキを食べていますわ」


確かに、少女はいつの間にか右手に皿を、左手でフォークを持ち、器用にフォークを使ってケーキを食べていた。


「エリルやアリリアの様子を見て覚えたのですわ。最初は手づかみで食べていましたが……。手をペロペロと舐めていたのが、手が汚れるのを嫌ったのですわね。いつしかああやって食べるようになりましたわ。これは……きちんと教育をすれば、相当の人物になりますわ」


リコの話に、シディーも深く頷いている。


「メイとシディーに預けてはどうでしょうか。きっと、二人ならば、彼女に良い刺激を与えられると思いますわ」


「わかった。リコがそう言うのなら」


俺の言葉に、リコは深く頷いた。そして、後ろに控えていたシディーに目配せをすると、さりげなく少女の側に近づき、何やらボソボソと話を始めた。シャリオは最初こそ、鳩が豆鉄砲を食ったような表情を浮かべていたが、やがて、彼女らの話に真剣に耳を傾けた。


「……わかった」


シャリオが大きく頷く。その彼女の手を、リコとメイがギュッと握った。


シャリオが正式に屋敷の住人になることが発表されたのは、その夜のことだった。


だが、俺は知らなかった。このとき、ヴィエイユが驚きの戦略を、着々と進めていたことを……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 次男はまだ諦めていませんね……。 今ならまだ後戻り……は無理そうですね。 それに、ヴェイユ嬢も怪しい(妖しい?)動きを?
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