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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第十五章 黒龍編
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第四百七十六話 神龍様、再び

「何だ貴様! 剣を我に向けるとは……。それにその殺気! いいだろう、かかってくるがいい!」


龍王が一歩前に出て俺と対峙する。コイツはブッ殺さねばならないが、その前に、確認しなければいけないことがある。


「お前、ウチの娘に何をした?」


「何を言っているのだ?」


「おいしゃさんごっこ……。お前、ウチの娘にどこまでしたんだ? ことと次第によっちゃ、ひと思いに倒してやらんこともない。正直に話せ」


「何もしていない」


「何ぃ?」


「はい、お薬ですよ~」


俺と龍王が対峙している中に、アリリアが割り込んでくる。彼女は手に草を持っていたが、それを龍王に差し出す。彼はそれを掴み取ると、ポイと口の中に入れた。


「えらいですね~。それは、お腹の痛みを取るお薬ですよ~。じゃあ、今度は元気になるお薬を上げましょうね~」


そう言ってアリリアは、パタパタと庭を走り回る。


「……おいしゃさんごっこって、それ?」


俺の言葉に、龍王はゆっくりと頷く。


「今食ったのって、雑草だよな?」


「そうだ」


「美味いか?」


「美味いわけはない」


「……」


思わず絶句してしまう。まさか、龍王はひたすら雑草を食べさせられているのか?


「はぁ~い、お薬ですよ~」


アリリアが走り寄ってくる。手には小さい泥団子が数個乗っている。龍王はそれを受け取ると、表情を一切変えることなく、口の中に放り込んだ。


「苦いのばっかりじゃお薬が嫌いになるから、たまには甘いお薬も出しましょうねー」


「……」


アリリアの言葉に、龍王はコクコクと頷いている。俺はゆっくりとホーリーソードを鞘に仕舞うと、丁寧に頭を下げた。


「うちの娘が……すまんかった」


「……」


チラリと頭を上げてみると、龍王はアリリアから渡されたタンポポを無表情のまま食べていた。


◆ ◆ ◆


「うむ、確かに黒龍だ」


アリリアとのお医者さんごっこが一息ついた頃、俺は龍王を馬小屋に案内した。既に少女の意識は回復していて、彼女は龍王を見るとギョッとした表情を浮かべた。


「貴様はツネの妹だな? 懐かしい顔だ」


「何だ、知り合いか?」


「ああ。昔、この女の兄たちと戦ったことがある」


「マジで?」


「そのときは兄たちの後ろに隠れていたのだが、まさかこんなことを仕出かすとはな」


そう言って龍王はクスクスと笑う。


「貴様、名前は何と言う?」


「……」


「我の質問に答えぬのか?」


「そなたたち兄弟とは、今一度戦わねばならぬようだな」


「殺せ」


「……」


「殺すがいい」


「いい覚悟だ」


龍王の右手が光り出した。彼は俺に視線を向ける。どうやら、張っている結界を解除しろと言っているようだ。


「本当に殺すのか?」


「この者は我が龍族の掟に叛いた。一度ならずも二度までもだ。そんな者を生かしておくわけにはいかぬ」


「……」


「りゅーおーくん、ダメよ!」


突然アリリアの声が聞こえる。見ると、アリリアが腕を組みながら何故か、ふんぞり返っていた。


「アリリア、危ないから家に入っていなさい」


「そのドラゴンはとってもいい子だから、乱暴しちゃダメ!」


そう言ってアリリアはパタパタと俺たちの許に走ってきたかと思うと、黒龍の少女の前に立ちはだかり、両手を大きく開いた。


「ダメ。このドラゴンを傷つけちゃダメ!」


「アリリア……」


彼女の瞳には、強い覚悟が見て取れた。それを目の前にして俺は、そこをどきなさいとは言えなかった。


「りゅーおーくん、わかった?」


「よし、いいだろう」


えっ、いいの? と思わず言ってしまいそうになるほどに、アッサリと龍王は引き下がった。だが、どうするこの黒龍? かなりのスキル持ちだし、このまま放置すると言うのも違う気がする。絶対俺たちには手を出さないと約束させて、解放する……か?


そんなことを考えていると、龍王が突然、とんでもないことを言い出した。


「神龍様におすがりしてみよう。アリリア、神龍様を呼びだしてもらえぬか?」


「うん、いいよ~。マミーに頼んでみる」


そう言って彼女は再び、パタパタと屋敷に向かって走っていった。俺は思わず大きなため息をつく。


「龍王」


「何だ?」


「ウチの娘を呼び捨てにするの、やめてくれない? 姫様……せめて、アリリアさんと呼んでくれないかな?」


「何を言っておるのだ、貴様は……」


龍王が呆れているような、怒っているような、何とも言えない表情で俺を眺めている。そんな彼を俺は、ちょっと怒りを込めた目で睨み続けた。


しばらくすると、アリリアの手を引きながらソレイユがやって来た。その後ろからリコとシディーがやって来た。マトカルは……ペーリスたちと子守をしているらしい。


怪訝な表情で黒龍を見るリコ。一方でシディーは何やら頷きながら黒龍を眺めている。何となく、だが、彼女の直感で、このドラゴンの優秀さを感じ取ったらしい。そんな中、ソレイユは神龍様を呼びだすべく、詠唱を始めた。


「……マミーの歌、すごい」


思わずアリリアが感嘆の声を上げる。俺にはただ、ブツブツと呪文を唱えているようにしか聞こえないのだが、彼女には独特の音感で、何やら感じるものがあるらしい。ふと龍王に視線を向けると、彼は目を閉じて、気持ちよさそうな表情を浮かべながらソレイユの詠唱に聞き入っていた。キメぇという言葉を、必死で飲みこむ。


「我の前に出でよ!」


ソレイユの声と共に、静寂が訪れる。そのとき、龍王がゆっくりと目を開けたかと思うと、片膝をついて、頭を下げた。どうやら、神龍様が現れるらしい。


「お~う、久しぶりなのらー」


甲高い声が聞こえたかと思うと、神龍様が俺の隣に立っていた。全く気配探知にもかからずに、ここまで俺に近づくのだ。そのスキルたるや、完全に俺を凌駕している。


「神龍くーん!」


アリリアが大喜びで神龍様に駆け寄っていって、ギュッと抱きしめる。神龍様もうれしそうだ。


「あのね、神龍君。りゅーおーくんが、お願いがあるんだって。聞いてくれる?」


「おーう、なんらー? 言うてみるのらー」


アリリアに抱きしめられている……というより、完全にガッチリと腰を決められているように見えるが、神龍様はご機嫌な様子で、龍王に話しかけている。


「恐れながら、この黒龍のスキルを封じていただきたく存じます」


「う~ん、黒龍?」


神龍様は黒龍の少女に視線を向ける。彼女は顔を歪ませながら、神龍様を見つめている。


「ほほう、我がわかるのか? よいセンスをしているのらー。……うーん? お主に興味があったようじゃな?」


神龍様はスッと俺に視線を向ける。


「龍王と互角に戦うことのできる男に、興味を持ったのらな。そして、アガルタという都にも興味を持ったのらー。うんうん。元々は頭の良い、純粋なドラゴンなのらー。……兄にそそのかされたのらな? 可哀想なドラゴンなのらー。だが、犯した罪は償わねばならぬのらー。よいよい。しばらくはこのドラゴンのスキルを封じることとするのらー」


神龍様は人差し指を天に向ける。すると、黒龍の少女の体が真っ白に光った。


「そなたの純粋さに免じて、最低限のスキルだけは残してやるのらー。しばらくは、罪を償うのらー」


「神龍様、罪を償うと仰りましたが、どのようにして?」


「うーん。そうらな……」


「家にいればいいよ! お家のお手伝いをすればいいのよ」


アリリアが神龍様に話しかける。その声に、彼も機嫌の良さそうな笑みを浮かべる。


「そなたに、任せるのらー」


「わぁい!」


思わず俺はリコに視線を向ける。彼女は顎に手をやった状態で、黒龍を眺めている。そして、何かを決めたように、大きく頷いた。


「取りあえず、こちらの方の処遇については、考えますわ。それより、せっかくお出ましいただいたのです。是非、食事でも召し上がっていってくださいませ、神龍様」


「おーう。久しぶりに、甘いものを食べたいのらー」


「承知しました」


リコは恭しく一礼をする。そして、ゆっくりと黒龍の少女の許に向かう。


「聞いた通りですわ。あなたの処遇についてはこれから考えますが……。まずは、食事でも召し上がりなさいな。今朝から何も食べていないのではなくて?」


黒龍はしばらくリコを眺めていたが、やがて、視線をゆっくりと外した。その様子を見てリコは、俺に目配せをした。どうやら、この少女を連れてくるようにと言っているようだ。


神龍様と龍王を従えて屋敷に向かうリコの背中が、とても神々しいものに見えた。

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