↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第十五章 黒龍編
467/1195

第四百六十七話 天女か悪女か

にこやかな笑みを浮かべて登場したヴィエイユは、ゆっくりと周囲を見廻す。白いチャイナ服のような衣装を纏っているので、体のラインがもろに見える。乳房の形はもちろん、よく見ると突起も見え……るのだろう。俺は素早く視線を逸らせていたために、よくは見えなかったが。


傍に控えているチャンとワーカは、ヴィエイユの姿にポカンと口を開けている。トーイッツは、俯いてはいるが、その視線はガッチリとヴィエイユを捕えている。瞳孔が開き切っているように見えるが、大丈夫だろうか。


一方のシーワはそんなヴィエイユに軽蔑の眼差しを向けている。その隣に控えるギギは、鋭い視線を彼女に投げかけている。昨日のことを、よほど根に持っているらしい。


そんな様子に、満足そうな表情を浮かべながら彼女は、あろうことか、トーイッツの隣に座った。俺から見ると、すぐ右側にチャンとワーカが控え、テーブルにはヴィエイユと、少し離れたところにトーイッツが座っている。そして、正面に視線を移せば、不機嫌そうな表情を浮かべるシーワがいて、その左隣には、相変わらずヴィエイユを睨んでいるギギがいる。そのまま視線を移していくと、ルファナちゃんの姿が目に入る。その左隣がクノゲン、そして、俺の隣がマトカルという並びだ。


「で、お前は何をしに来た?」


俺の問いかけに、ヴィエイユは嬉しそうな表情を浮かべながら、言葉を返す。


「ホホホ、何とご挨拶ですこと。決まっています。次のご指示をいただくために参りました」


「そうか……」


「こちらの御方は?」


俺の言葉を遮るようにしてシーワが口を開く。俺が喋っている途中でしょうが……。


「ホホホ、名乗るほどの者ではございません」


「私は、ワーロフ帝国軍副総司令官のシーワと申します。あなた様の所属は?」


「ホホホ」


「無礼ではありませんか? 私はこうして名乗っているのです。名も名乗らずに、突然押しかけてきてこの場に座り込むなど……」


「私は、あなた様の指図を受ける者ではございません。それに、あなた様には、興味はございませんわ」


ヴィエイユの言葉に、シーワの表情がさらに強張る。彼女は視線をスッと俺たちに向けた。怖いよ……。てゆうかヴィエイユ、あまり怒らせるんじゃないよ……。


「ところで、今はどのようなお話をなさっておいでだったのですか? 何やら、突撃するとかしないとか、そんな言葉が聞こえていたようですけれど?」


「あなたには、関係のないことでしょう? 今は作戦会議中です、関係のない方は、退出していただけませんか?」


シーワがヴィエイユに絡んでいくが、彼女は歯牙にもかけずに、俺に視線を向けている。


「こちらのワーロフ側の方々は、俺たちがドルガに向けて突撃をすると言ったと言われるのだ。だが、俺はそうは言った覚えがない。まあ、言った、言わないの水掛け論をしていたというわけだ」


「そのお話でしたら、私、よく覚えておりますわ。確か……そちらのワーロフの御方、昨日おいででしたわね? そのときは確か……『我らアガルタ軍は、確かに明日、突撃を行う』と言っておいででしたわ。ドルガに突撃するとは一言も言っておいでではありませんでした。そうですわね?」


突然話を振られたギギは、顔を真っ赤にしている。


「どうだったでしょうかぁ? そこまで詳しくは、覚えていませぇん」


「おや、これはこれは。国同士の戦略を決める話し合いにもかかわらず、その内容を覚えていないとは、それでよく司令官が勤まりますわね? それとも、自分の都合の悪いことはすぐに忘れるか、都合のいいように解釈するのが、お国のスタイルなのかしら?」


「しっ、失礼な……」


「そもそも、この話し合いの時間が、とても無駄ですわ」


「……」


シーワが殺意を込めた目でヴィエイユを睨んでいる。だが、彼女はそんなことは全く意に介さずに、言葉を続ける。


「せっかくこの砦を占領できたのに、どうして総攻撃をかけなかったのでしょうか。千載一遇の機会でしたのに。砦の引き取りなど、戦いが済んでからでも十分に間に合うことでしょう。総攻撃は今からでも遅くはありませんでしょ? それを実行せず、副総司令官たるあなたが幕僚たちを率いてこの砦を受け取りに来ている……。随分と悠長なことをなさるのですね? ワーロフ帝国は、この戦いに本気で勝つ気があるのですか? ドルガを奪還する気があるのですか?」


「我が帝国の戦略に、あなたの指図を受ける覚えはありません。先程から、我々に対しての罵詈雑言……これにつきましては、帝国軍総司令官のゲシカナを始めとして、皇帝陛下、および、援軍をいただいた各国、ひいては、ヒーデータ帝国皇帝陛下、そして、アガルタ国王様にも報告させていただきます。我が軍はおめおめと手をこまねいているわけではございません。これから、そこに控えるチャンとワーカの二人が、一万の軍勢を率いてドルガに突撃いたします。我が帝国軍の戦いぶり、とくとご覧ください!」


「ええと……シーワさんと言われましたか? それは、正気で言っておいでなのでしょうか?」


「どういう意味でしょうか?」


怒りをあらわにするシーワに対して、ヴィエイユは突然笑い声をあげる。手を口にかざしながら笑うその姿までもが、実に洗練されている。


「ホホホホホホ! これは面白いですね!」


ヴィエイユは満面の笑みを浮かべながら、周囲の者を見廻し、そして、さらに言葉を続ける。


「今のお話を聞かれましたでしょうか。何と浅はかな話でございましょうか。無知……無知なるが故の振る舞いと行動でございますわ。しかし……仮にも司令官を名乗るのであれば、無知と言うのは寧ろ、罪となるかと存じます。これはあくまで私からの助言ですが……そういうことは、あまり、なさらない方が、よろしくてよ?」


ヴィエイユの言葉に、シーワの瞳孔がキュッと縮んだ。そんな彼女を一瞥した彼女は再び俺に笑みを向け、その直後、スッとチャンとワーカの二人に視線を向ける。


「あなた方も、大変ですわね。あのハリネズミのような要塞に、僅か一万の兵で突撃するのですから。あなた方は、ご自身の命を落とすことより、一万の兵士たちの命を心配されているのではありませんか? わかりますわ。誰が好き好んで、一万の兵士……言ってみれば、家族も同然の部下たちを犬死させることができましょうか。その悔しさと苦しみ、よくわかりますわ」


彼女の声に、チャンは俯き、肩を震わせている。その様子を満足げな表情を浮かべながら彼女は再び、シーワに向き直る。


「察するに、あなたはこの二人がお嫌いなのですね? そのために、この二人を亡き者にするために、一万もの兵士を犬死させるのですね? 随分と、優秀な司令官なのでしょう。ある意味では、尊敬しますわ。うふふ」


ヴィエイユの言葉に、シーワは体を震わせている。


「確かに私は、あなたの言われる通り、この場にいるべきではございませんでしたわ。こんな愚かな作戦を聞かねばならなかったのですから。それがわかっていたら、すぐにこの部屋から出ましたものを。ね、そうは思いませんか?」


彼女はスッと隣のトーイッツとの距離を詰める。予想外のことに、彼は体をピクンと震わせて、首をすくめながら俯いてしまった。


「で、確実に全滅する突撃作戦は、いつ決行されるのですか?」


「全滅するかどうかわぁ、やってみなければ、わからないと思いますぅ。チャン司令官と、ワーカ司令官は、歴戦の軍人ですぅ。間違っても、兵士を犬死させることは、ないと思いますっ!」


「ホホホ。随分おめでたい頭脳をしておいでなのですね? そう思っているのは、あなただけですわ。ここにいる全員が、この作戦は確実に失敗すると思っておりますわ」


そう言って、ヴィエイユは俺たちに視線を向ける。それを受けて、クノゲンとルファナはゆっくりと頷いている。俺も、同意見だ。


「ですわよね。あなた様も、そう思われますでしょ?」


ヴィエイユがトーイッツの顔を覗き込むように、同意を求めている。よく見ると、彼女の胸が彼の腕に密着していて、手が握られている。彼はオドオドとした様子で、小刻みに頭を動かしている。


「あなた様は、お優しい方なのですね。ご自身の思いはさておいて、ワーロフ帝国の威信を第一に考えておいでなのですね? 素晴らしいわぁ。私、そんな男性が大好き、ですわ」


大好きという言葉を、彼の耳元で囁くように呟いている。やめなさいよ、男子の心を弄ぶのは。


「いや、そうとも限るまい。やり方によっては、犬死どころか、ドルガを奪還できるかもしれないぞ」


声の主は何と、マトカルだった。マト、一体、何を言い出すんだ……?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。