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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第十五章 黒龍編
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第四百五十七話 開戦の火ぶた

「さて、皆様よろしいでしょうか? それでは、各テーブルの代表となる方は、それぞれのご意見を発表願います」


よく晴れた冬空の下、シーワの機嫌の良さそうな声が響いていた。


ワーロフ帝国側からの要請で開かれた三回目となる軍議は、これまでに見たこともない形式で行われていた。通常、軍議はロの字型、もしくは、戦争当事国と援軍に赴いた国々の諸将が向かい合って行う形式で行われることが一般的だった。だが、今回に関しては、全ての諸将がチームごとに分けられ、少人数のグループが形成されていた。さらにそのグループには、必ずワーロフ帝国軍の司令官が入り、彼らの意見の取りまとめを担っていたのだった。


この日の軍議では、帝国側から提示されたドルガの地図や軍勢の配置図などをもとに議論がなされたが、集まった諸将たちは戸惑いのために、なかなか意見らしい意見を述べるものは少なかった。それでも、ワーロフ側の司令官たちは、巧みに質問を投げかけることで、諸将たちから意見を引き出していったのだった。


シーワの呼びかけに、ワーロフ側の司令官たちが意見をまとめた紙を片手に、彼女の許に集まっていく。そして、手際よく、それぞれのグループで出された意見を発表していくのだった。


◆ ◆ ◆


「総攻撃をかけるんか~い」


呆れたような表情で天を仰いでいるのは、リノスだった。その隣では、マトカルが一切表情を変えずに、目の前の男に視線を向けている。彼らの前にいるのは、ザルブというアガルタ軍の司令官の一人だった。


「まあ、ご苦労だった、ザルブ。随分とファンキーな軍議だったな」


「ふぁんきー?」


「いや、珍しい軍議だったな。まあ何だ。こんな軍議は金輪際経験することはないだろう。貴重な経験をしたと思っておくといい」


「は……はあ……」


「何なら、我がアガルタ軍でも、その手法を取り入れようか?」


「ご冗談を! 戦いにおいては、即断、即行動が肝要であると思っております。ダラダラと意見を交わしている暇など、ないものと愚考します。戦いは、指揮官の優劣で決まると考えます。作戦を立案するのは基本的に、戦いの前段階で行うべきものなのです。敵が眼前にいるときにするべきものではありません」


ザルブのその言葉に、リノスはフッと笑みを漏らす。


「そうだな。俺もその意見に概ね賛成だ。まあ、今回の軍議は戸惑っただろうし、やりにくかっただろう。しんどい仕事を押し付けて悪かったな。下がってゆっくりと休んでくれ」


ザルブは一礼して、彼らの前を辞していった。


「総攻撃……か」


「心配するな、マト」


「しかし……」


「大丈夫だ。ちゃんと策は考えてある」


「……」


心配そうな表情を浮かべるマトカルに、リノスはニコリと笑いながら、ウインクを投げかけた。


◆ ◆ ◆


「来ないな……」


一方、ドルガでは黒龍であるロイスが苛立っていた。その隣には、妹のシャリオが控えている。


ロイスの目論見では、ワーロフ帝国側は、援軍が集まればすぐにでも総攻撃をしかけてくると考えていた。その上、アガルタ王リノスがいるのならば、猶更、その攻撃は早まるものだと考えていたのだ。ともすれば、リノス一人でも、この街に攻撃を仕掛けてくるだろう……そんなことさえ考えていたのだった。


「……完璧に作りすぎて、気後れしたか?」


ロイスは誰に言うともなく呟く。それを見たシャリオは無表情のまま、ゆっくりと息を吐き出している。


「お前の言いたいことはわかっている。あれだけ働かせておいて、その言い草はないだろう……。そう考えているな?」


「当たらずとも、遠からず、です」


「フハハハ」


ロイスは空を見上げながら、カラカラと笑う。彼はフワリと浮き上がると、ゆっくりと周囲を見廻し始めた。


「中の兄さま、あまり動かれますな。人化しているとはいえ、そのような姿を見られれば、我々の存在が疑われる」


シャリオの声を受けてロイスはゆっくりと地上に降りてくる。


「見えんな」


「中の兄さま?」


「アガルタ王リノスらしき者が見当たらん」


「……」


「龍王と対峙する程の男だ。その魔力たるや我らに勝るとも劣らぬものであるはずだ。しかしながら、そんな膨大な魔力は一切感じられない。これはどういうことだ?」


「フフフ」


「何がおかしい、シャリオ」


「中の兄さまとしたことが」


「何?」


「我々と勝るとも劣らぬ能力を持っていれば、己が能力を隠すスキルを持っていても、何の不思議もないはずだわ」


「この俺の眼でさえも……欺くか?」


「龍王と互角に対峙する男と言ったではありませんか。中の兄さまは、龍王の気配を感じることはできますか?」


「何を言うか! 近くにいれば、たとえ龍王と言えど、俺の眼を欺くことはできぬはずだ」


「……」


「まあいい。アガルタ王リノスがいればそれでよし。いなければいないなりに、楽しみ方はある」


そう言ってロイスは、ニヤリと笑みを漏らした。


◆ ◆ ◆


それは、突然のことだった。


ワーロフ帝国に援軍に来ていた国の一つである、マーダー王国軍。その彼らの前に、一人の兵士が忽然と現れたのだ。敵……であることは認識できたものの、その男が一体何のためにここに現れたのか……彼らはその真意を測りかねていた。


男の手には石が握られていた。彼はそれをポンポンと投げては掴み、投げては掴みと弄んでいたが、やがてフッとマーダー側の陣地に向けて投げ入れた。それはとんでもない速度で兵士の一人に向かって行く。


「ぐわっ!」


マーダー王国軍の兵士の一人が、突然倒れる。見ると、男の投げた石は、正確に兵士の眉間を割っていた。騒然とする王国軍を尻目に、男は再び石を拾って、マーダー側に投げる。


「ガッ!」


再び兵士の叫び声が聞こえたかと思うと、まるで人形のように兵士の体が宙を舞った。


「おのれ! 我らを舐めるな! かかれ!」


指揮官の命令一下、男に向けて魔法と弓矢が雨あられと降り注ぐ。男の命はここで潰えたかに見えた。


「みっ、見ろ!」


男の周囲には無数の矢が刺さっており、魔法での攻撃のためか、周囲には大きな穴も開いている。だが男はニヤニヤと笑みを浮かべながら立ち尽くしている。そして、先程と同じく、無造作に石を投げる。


「ガハッ!」


指揮官の男のすぐ隣にいた兵士が、眉間を割られて倒れる。その様子を見た男は、満足げな表情を浮かべる。そして、マーダー王国軍を指さして、人差し指をクイクイと曲げ、かかって来いと言わんばかりに挑発する。


「おっ……おのれ……」


指揮官の声が聞こえたのか、彼は再びニヤリと笑い。踵を返してゆっくりと歩き始めた。


「我々をここまでコケにするとは……許さん! 全軍、打って出よ! あの男の首を獲れ!」


指揮官の号令一下、マーダー王国軍四千が突撃を始めた。


◆ ◆ ◆


「何? 突撃が始まっただと?」


驚きの表情を浮かべているのは、ワーロフ帝国のゲシカナ将軍だった。彼は眉間に皺を寄せながら舌打ちをする。その様子を見ながら、伝令は言葉を続ける。


「ハッ、どうやら、マーダー王国軍が敵の挑発に乗ったようです。それを見て、隣に在陣しているマダイラ帝国軍も、ドルガに向かって突撃を始めました」


「すぐに兵を引かせるのだ!」


「お待ちください」


声を上げたのは、シーワ副司令官だった。彼女は幕僚たちに視線を向けながら、ゆっくりと口を開く。


「どうせ、遅かれ早かれ、総攻撃を行うのです。いい機会ではありませんか。これを機に、総攻撃を仕掛けましょう」


「しっ、しかし……」


「皆さん」


ゲシカナ将軍の声を遮るように、シーワは声を上げる。彼女はスッと立ち上がり、まるで宣言するかのように声を上げる。


「総攻撃に移ります。皆さんは、ヒーデータをはじめとする各国に総攻撃に移るよう伝えてください。くれぐれも、使者などを立てずに、できるだけあなた方が赴いてください。いいですね?」


「ちょっと待て、何故、我々が直接赴かねばならんのだ? 伝令を飛ばせばいいではないか?」


「チャン司令官、わかっていませんね? 総攻撃を仕掛けるのですよ? 兵士の命が少なからず失われるのですよ? そんなお願いに上がるのです。相応の者が行って頭を下げるのが礼儀と言うものではないのですか?」


「それでは、我々が総攻撃に移るのが遅れるかと思いますが?」


「ワーカさん。その心配には及びません。あなた方が帰陣したら、そのまま総攻撃に移っていただいて結構です」


「そ、それでは……」


「ギギ」


「はぁい」


シーワは言葉を続けようとするワーカ司令官の言葉を遮り、妹のギギに視線を向けた。


「アガルタには、あなたが行きなさい。わかるわね?」


「承知しましたぁ」


にこやかに返事をするギギ。そんな二人のやり取りを、チャンとワーカの二人は、呆れた表情で眺め続けていた。

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