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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第十二章 軍神編
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第三百三十二話 お互い様

「あれ? ここって?」


案内された部屋は、迎賓館の中に作られたメイの私室だった。てっきり医療研究所かと思っていたために、思わず声が出てしまった。


「メイ、入るぞ」


ドアをノックして部屋に入ると、そこにはメイの他にシディーもいて、その隣には三人のドワーフが控えていた。


「お忙しい中、お呼びだてして申し訳ありません」


メイがスッと立ち上がり、いかにも申し訳なさそうな表情を浮かべて頭を下げる。俺は問題ないと言って、彼女を座らせようとする。


「ありがとうございます。ですがご主人様、すぐにお目にかけたいものがあります」


そう言って彼女はシディーたちドワーフに目配せをした。顔じゅうが髭で覆われているため、人相はよくわからないが、おそらく初老と思われる三人のドワーフが部屋の隅に移動していく。そこには、白い布がかけられた物体が置かれており、彼らはそれを大儀そうに持ち上げて、ゆっくりと俺の許に持ってきた。


「気に入っていただけると、嬉しいのですが……」


そう言ってメイはゆっくりと布を取った。


「こ……これは……」


予想外の物が現れたために俺は絶句してしまう。そこには、銀色に輝く、巨大なヤギのような姿をした置物が置かれていたのだ。ポカンと口を開けて固まる俺を気遣いながらメイはゆっくりと口を開く。


「ご主人様専用の鎧です。持ち運びがしやすいようにこのような形に作っていますが、パーツを分解しますと、プレートアーマーになります。シディーちゃんたちドワーフの方々に作っていただいたのです」


「リノス様」


シディーが一歩前に進み出て、真剣な眼差しで俺を凝視している。俺はシディーに視線を向ける。


「リノス様には結界魔法がありますが、タナ軍はその魔力を無効化する術を持っています。おそらくそれは、プリルの石と魔吸石を組み合わせることで、魔力を無効化し、さらに魔術師のMPを奪うというものだと我々は考えています。リノス様の魔力総量は相当なものだと推察しますが、いかにそのリノス様とはいえ、タナ軍に集中的に攻撃を仕掛けられては、魔力が尽きてしまう可能性があります。そこで我々は、リノス様の魔力の回復速度を劇的に上げる効果を付与した鎧を作りました。一見すると重そうに見えますが、ブラックスコーピオンの殻を、その強度が堕ちないギリギリのところまで薄くしていますから、とても軽いものです。総重量は5㎏程度ですので、普段と同じように動くことができます。単に魔力の回復力を上げるだけでなく、物質的攻撃の防御力も、オリハルコンの鎧と何ら遜色はありません。最悪、リノス様の魔力が枯渇しても、弓矢の攻撃は問題なく防ぐことが可能です。……リノス様? リノス様? ……ちょっと、リノス様?」


「懐かしい!」


思わず俺は声を上げる。その様子にそこにいた全員が目を丸くして驚いている。


「これ、聖闘〇星矢だろ? うわぁ、懐かしいな~。これってあれだろ? カプ〇コーンだろ? なかなかマニアックだな。普通はアク〇リアスとか、ア〇エスとか、バ〇ゴとかが人気があったんだけれどな。いや、これは嫌いじゃない。嫌いじゃないぞ~。なかなかツボを押さえているじゃないか~。俺は好きだぞ? いや~どこで調べたんだ? こっちの世界にも同じような話があるのか? これ、金色だったら、それそのものだぞ? うわぁ、カッコええ~。あ、ちなみに聞くが、これ、ジジイの方じゃないよな?」


俺の言葉に全員が固まっている。そんな中、メイが申し訳なさそうに、振り絞るようにして声をかけてきた。


「あの……お話が……わかりかねます……せいん……と? かぷ? あの……もう一度、お話をいただければありがたいのですが……」


……ゴメン。知らんよね。知っているわけはないよね。うん。知っていたとしても、まさかカプ〇コーンが好きっていう人も少数派だよね。すまん、悪かった。いきなりツボを突かれてしまったので、我を忘れてしまったのだ。俺はオホンと咳払いをして、小さな声で申し訳なさそうに呟く。


「すまん、このところ、ちょっと疲れていてな……」


「そ……そうでしたか……難しいとは思いますが、ゆっくりお風呂に入られて、今日は早くお休みになられては……」


「うん、なるべく善処しようと思う」


ちょっと微妙な空気になってしまったが、シディーの一度着用してみてはという声に、俺は早速鎧の試着にかかった。着てみると全てが俺の体にピッタリで、スムーズに動くことができ、違和感などは微塵もなかった。


「これ、スゲェな。こんなに俺の体に合って、しかも軽い。鎧を付けているとは思えないくらいに動きも普段とそう変わらない。よくこんな見事な鎧を作れたな?」


「そりゃ、リノス様の体はいつも見ていますし、直接触ってもいますから、大体の寸法はわかりますよ。ね、メイちゃん?」


「は……はい……」


シディーの問いかけにメイは顔を真っ赤にしている。やばい、かわいい。


俺は雑念を振り払うようにして、ドワーフたちに視線を向ける。彼らは、じっと俺の動きを観察していて、何か問題がないかをチェックしているようだった。


「いや、素晴らしい鎧だ。感謝する。ところで、この鎧を身に付けていると、どのくらい魔力が回復するんだ?」


俺の問いかけに、ドワーフの一人が一歩前に進み出てきた。


「オージン1に対して3のツワンクルドを混ぜているので、ライアガーの7%ほどです」


「え?」


言っている意味が全く分からん。目を丸くしている俺に、メイはくすくすと笑い、シディーはヤレヤレといった表情を浮かべている。


「ザンジ、あなたの説明ではリノス様は理解できないわ。もっと、子供でも分かるように、かみ砕いて説明しないと……」


シディーの言葉に、ドワーフは面目ないと言わんばかりに頭を下げている。


「では、私からその鎧について詳しく説明させていただきますね」


メイが笑顔で話しかけてきた。俺たちは彼女に視線を向ける。


「先日、オージンさんの凝固した吐瀉物……我々はそれをオージンと呼んでいます。そこに7つの鉱石……ユーヨ、コーヨ、ソージ、サンサク、ミト、並びにビゼ、シブ……を混ぜようとしたのですが、これは合金配合が異なりましたので、ウキを用いました。これだけ属性が異なりますので、念のため、その点をお断りいたします。次にノン、オウバ、ギリノ……これは『降る雨は、天から落ちて地を濡らし、やがては池となりゆく』と言われていますので、それに従いまして、シヒツをかけものにしまして、タク、モウクをイゼしました。それをダン鷲の骨をすりつぶしたものを溶かして混ぜ、それらをご主人様の体に合わせてヒーグをして、コノスを丁寧に行いながら、仕上げています。そのため、魔力の回復は通常であれば毎秒1.1298765%の上昇ですので、魔力量に比例してそれは拡大していきます。ですが、注意点としてハリマゼノンをコビョージンしますとその比率が大きく異なってきますので、ご注意ください。おそらくそうしたことは稀であるとは思いますが、これらも念のためお伝えしておきます。ちなみに、ライツワンダをするときは、それぞれを近づけていただければ、自然とクリッチゲートしますので、特に難しいことはありません」


「あ……ああ……」


「わかりやすい! さすがメイちゃん!」


固まる俺に、シディーが満面の笑みで声を上げている。彼女は傍に控えているドワーフに体を向ける。


「説明というのは、こうやってするよ! とても分かりやすかったでしょ? あなたたちは自分の頭の中にある言葉で話をしているでしょ? そうではなくて、相手の言葉で話をしてあげないと……。そうでなければ伝わる者も伝わらないわ。ね、リノス様?」


振り返るシディーに俺は苦笑いを浮かべる。そして、メイとシディーの二人を見比べながら、力なく口を開いた。


「まあ、お互い様、というところだな」

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― 新着の感想 ―
[良い点] オージンの吐瀉物が堆肥の如く活用されていくのに吹きました。 [気になる点] オージンは量産されているのでしょうか? されていたとしたら、製法は……
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