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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第十二章 軍神編
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第三百二十一話 親バカ同士

「はあ~」


俺は大きなため息をつきながら、天を仰ぐ。疲れた。マジで疲れたのだ。


その俺の手には、分厚い書簡が握られていた。送り主は、フラディメ国のリボーン大上王だ。彼はその中で、俺に対して、以前メイから送られた論文に感動していることを述べ、それに触発されて自国でも研究を行ったところ、大発見があった。ついてはそれをアガルタに伝えたいと思ったが、こういう大発見は広く世界に公表するべきだと思う。ついては学会を開きたいと思うので、是非、賛同して欲しい……と、いう内容を実に丁寧かつ詳細に書いて寄こしたのだ。こんな長い手紙を見るのは久しぶり、というより、初めてだ。目が疲れてしまった。


さらに、その書簡には、メインティア王のお妃であるノレーンと、その子供のオンサールも一時的に帰国するのを認めるとあり、これまで二人の面倒を見てくれたことに対する感謝の意が添えられていた。


俺は早速メイを呼び、大上王の要請を伝える。彼女は大賛成で、むしろ、こうした学会は1年に1度くらいの割合で実施した方がいいですと目を輝かせた。問題は日程だが、それについては俺に一任するという。フラディメ国まで一週間だが、基本的に俺の転移結界を使えばいつでもアガルタに帰ってこられるために、特にメイたちがスケジュールの調整を行う必要はないようだ。


「さてと、大上王に返事を出す前に、あの人と打ち合わせをしておくか」


俺はそう呟いて立ち上がり、執務室を後にした。



「うん? もう来たのかい? 相変わらず早いね」


満面の笑みで俺を迎えたのは、フラディメ国のメインティア王だ。彼は政務の合間を縫って、一ヶ月に一度くらいの割合でアガルタにやって来ていた。ルアラを通じてポセイドン王の所に顔を出しつつ、愛息のオンサールの顔を見て帰るのだ。本当はもう少しアガルタに来る頻度を上げたいらしいのだが、国王という立場上そうもいかないらしい。


「大体、君のくれた結界石がいけないのだよ」


「どういうことです?」


「あれのMPを満タンにするのに、我が国の魔導士をもってしても5日はかかる。しかも、それが二個となれば、都合10日かかるのだよ。魔導士にしてもブッ続けでMPを注ぎ込むわけにはいかないからね。休み休みやっていると、どうしても一ヶ月近くかかってしまう。あれ、もう少し、何とかならないかな?」


「贅沢を言いなさんな。転移効果を持つ結界石なんて、世界中を探しても持っているのは、あなただけですよ?」


俺の言葉に彼は、ニコリと笑顔になり、その表情のままゆっくりと頷いた。


「ところで、今日はどうしたのかな?」


「いえ、大上王が言っている学会ですが、メインティア王のご意見も聞いておこうと思いましてね」


「あ、私はいつでも大丈夫だ。まあ、そういう難しい話には、あまり興味はないのだけれど」


「いえ、そういうことではなくてですね。お妃さまのノレーンとオンサール君のことについてです」


「ああ、それは私が父におねだりをしたのだ。ノレーンとオンサールの帰国を認めてくれれば、学会の開催に賛成するとね」


彼はフフフと笑い声を漏らしながら、顎の下に手を当て、ゆっくりと踵を返して、後ろで遊んでいる息子と、それを見守る妻の姿を見た。


「ノレーン、お前も、一度くらいは里帰りがしたいだろう?」


彼女はその、ノホホンとした表情のままゆっくりと首を振っている。


「無理をしなくていい。お前の両親は、いきなりアガルタに行ってしまったお前のことをとても心配している。一度くらい両親に元気な姿を見せてやれ。それに、オンサールの顔も見せてやるのだ」


その言葉を聞いたノレーンは、ゆっくりと頭を下げた。


「……なるほど、お妃さまのために。愛妻家じゃないですか」


「ハッハッハ、アガルタ王はノレーンのために私が大上王に掛け合ったと思っているのかい? だとしたら、とんだ思い違いだ」


「え? どういうことです?」


「私の本当の狙いは、息子のオンサールを父に会わせることだ」


「どういうことです?」


「私には70人を超える息子と娘がいるが、誰一人として父は気に入っていないんだ。王太子のサレハは12歳になるが、父はその息子でさえ、二度しか目通りを許していない。その他の息子や娘は、一度会えばいい方で、ここ最近生まれた子供たちについては、全く会おうともしない」


「自分の孫なのに? 一体なぜ?」


「母親の身分が低いことと、顔立ちが気に入らないのだろうね」


「どういうこと?」


「私は息子や娘たちは可愛いと思っているのだが、父の好みではないようでね」


「あー、確かに、あなたはB専びーせんですものね」


「びーせん? よくわからないが……。ともあれ、父はどうやら、背が高く、体の大きな者が好きらしいのだ。まあ、父はあの通り小柄な人だ。キャバレットの叔父上のような、筋骨隆々とした大男に憧れがあるのだろうね」


「それが、お妃さまとオンサールに何の関係が?」


「わからないかな、アガルタ王ともある人が!? オンサールは、同じ2歳児の中ではかなり大きい体をしている。そして、頭もいい。父が気に入ると思ったのだ」


「……そうですかね?」


「君の娘であるピアトリスと比べてみたまえ。オンサールの方がはるかに大きいだろう?」


「まあ、男の子と女の子の違いがありますから」


「それに、オンサールは賢い。彼は私やノレーンの言っている言葉を理解している。従って、大人しい。しかも、大人しいだけでなく、それなりに言葉も喋れる。こんな子供は、私の子供たちの中ではオンサールくらいなものだ。きっと、大上王は気に入るだろう。あの父が気に入るのであれば、今後、私の国王としての仕事がしやすくなる」


「そんなものですか?」


「父の一番の懸念は、私の後を継ぐ者のことだ。一族の中で誰一人として父の目に適う者がいないからね。そのために父は、自分が死んだ後のフラディメ国の行く末を、心から心配しているのだ。父の目に適う者が一人いれば、その者が国を補佐していくことができる。父も安心できるというものだ」


「まあ、それがうまくいくのであれば、俺としてはそれで構いませんが……。ただ、ウチのピアトリスもかなり大人しい、手のかからない子供ですよ? それに言葉は少ないですが、きちんと、おはようございます、いただきます、ごちそうさま、ありがとう、ごめんなさい、おやすみなさい……といった言葉は喋れます。親バカかもしれませんが、ウチのピアトリスとオンサールを比べてみると、彼が飛びぬけて優秀……と言ってしまうのは、どうでしょう?」


メインティア王は、ほう、と頷きながら、何度も頷く。その彼にノレーンが、ピアトリスさまはとてもお行儀のよい姫様でございます、と言ってくれる。そりゃそうだ。我が家ではリコの厳しくも温かい躾けと、メイやシディーからの英才教育、そして、マトカルとソレイユのフォローという盤石の態勢で子育てをしているのだ。そのお蔭で、エリルはお姉ちゃんらしくなったし、アリリアは色々なことに興味を持って、ソレイユやメイを質問攻めにしている。イデアもかなり好奇心旺盛な男の子で、屋敷の中と外を走り回っているが、決してお行儀の悪いことはしない。ウチの子供たちは、完璧なのだ。


そんな話をしていると、メインティア王も負けてはいない。私の子供たちもかわいいと言って譲らない。


「いいえ、普通ですよ、普通。俺も妻たちから男前だの、かわいいだのと言われますが、どうです? メインティア王から見て。普通の男でしょ?」


「確かにそうだ」


そんな話をしながら、俺たちは笑い合った。だがその直後、メインティア王の口からとんでもない提案が出され、そのあまりの内容に俺は、しばし言葉を忘れるのだった……。

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