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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第十二章 軍神編
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第三百十九話  軍事演習 

雪に覆われたアガルタの平原に、巨大なドームが出現していた。それは一目見てはわからない程に外観とよく似せられている。そして、その中には、アガルタ軍の精鋭5000の兵士たちが、秘密の演習を行っていた。


兵士たちは二手に分かれ、クノゲンとマトカルがそれぞれ指揮を執りながら、模擬戦を行っていた。それを小高い丘の上から見守っているのはリノスとラファイエンス、そして、メイとシディーと数名のドワーフたちがいた。


メイやシディーがこのような戦闘訓練に顔を出すのは珍しい。というより、このようなことは初めてだと言えた。特にメイは、実戦さながらに展開される訓練に驚いたらしく、彼女はリノスの後ろに下がって、肩越しに恐々とそれを眺めていた。そんなメイにリノスは、笑みを浮かべつつやさしく声をかける。


「そこに居て、見えるかい? メイが作った武器なのだ。ちゃんと見てくれよ?」


メイはオドオドとした様子で頷く。リノスは笑みを浮かべながら再び訓練に目を向ける。今回は、クノゲンが率いる軍勢に対して、マトカル率いる部隊が攻撃を仕掛けているという図式だ。


「降参! 降参です!」


クノゲンの声が響き渡る。彼の声を合図として、二つの部隊は再びゆっくりと離れ、距離を取った。


「……一方的にやられましたな。脱帽です」


ニコニコと笑みを浮かべながらクノゲンはリノスたちの前で口を開く。それを見ていた老将軍は驚いた表情を隠そうともせず、前に控えているクノゲンとマトカルに向けて口を開く。


「クノゲンが手も足も出ぬとは……正直驚いたな。いや、クノゲン、お前が年を取っただけか?」


その言葉にクノゲンは苦笑いを浮かべる。


「否定は致しません。私ももうすぐ50歳になりますからな」


「何を言うか! 50歳など、男盛りではないか! まだまだしっかりせねばならん!」


「そうは仰いますが将軍、マトカル様の統率力もさることながら、この武器の威力もすさまじいものがありますぞ」


「大バカ者! そうした状況を何とかするのが指揮官の役目だろう」


「まあまあ将軍」


俺はラファイエンスを手で制しながら、マトカルに視線を向ける。


「マト、見事だった。実際に見て、初めてお前が言っていた意味が理解できた。なるほど、これなら確かに効率的に戦えるな。逆にマト、何か気付いたことはあるか? 要望があれば言ってくれ」


彼女はスッと顔を上げ、しばらく沈黙した後、ゆっくりと口を開く。


「出来れば武器は、もう少し小型化した方がいいな。できれば、腰に差す剣ぐらいがちょうどいい」


その声を受けてドワーフたちがカリカリとメモを取っている。その様子をチラリと見ながら、マトカルはさらに言葉を続ける。


「それに、鎧も軽量化した方がいいかもしれない。特に歩兵はいかに早く動くかが勝負になってくる。そう考えると、今、彼らが身に着けている鎧は重過ぎる。体力の消耗が激しいのだ。今回は一回きりの戦闘だから問題ないが、何度も戦闘を、しかも長期間に渡るとなると、かなり負担が大きくなりそうだ」


その言葉を聞きながら、シディーが人差し指を顎の下に当てながら、天を仰いでいる。これは何かを推理しているポーズだが、その最中にドワーフの一人が声を上げる。


「これ以上の軽い鎧と言われるが、軽さを追求すると強度が減る。軽い鎧はいくらもできるが、そうすれば、弓矢や魔法からは身を守れない。当然、剣や槍の攻撃からも身を守れない。今の鎧がギリギリなのだ」


その言葉にドワーフたちは一様に頷く。


「別に、いらないんじゃないかしら?」


突然シディーが口を開く。彼女の言葉の意味が呑み込めず、俺たちは黙って次の言葉を待つ。


「機動性を重視するなら、鎧などない方がいいわ。中途半端に鎧を装備しても、弓矢の攻撃で急所を突かれれば同じだし、むしろその攻撃に遭わないように、指揮官が戦況を見極めればいいんじゃないかしら。魔法の攻撃は、リノス様の結界石を活用すればいいのよ」


「いや、いくらなんでもそれは……」


「兵たちの負担を考えれば、それもいいかもしれないな」


ラファイエンスが口を開こうとしたところに、マトカルが口を挟む。老将軍は一瞬驚いた表情を浮かべたが、やがてニコリと笑い、ゆっくりと頷いた。


「ではマト、ご苦労だが、鎧を装備しないとして、歩兵がどんな運用をすればいいのか、一度考えてみてくれ。メイやシディー、そしてみんな、何かいい案があればどんどん出してくれ。今日の演習は、収穫大だった。クノゲン、マト、ご苦労だった!」


俺のその声で、全員が頭を下げた。



一方、タナ王国においても、雪の積もる平原で、アガルタと同じような軍事訓練が行われていた。


平原の真ん中に数千の兵士たちが一か所に集められており、その周囲を軍勢が囲んでいる。さらに、四方の小高い丘の上にも軍が配置されており、その様子を山の頂上から、国王であるヴィルが豪華な玉座に座り、多くの部下を伴いながらその様子を見つめていた。


やがて、真ん中の一団に向かって、周囲の兵士たちが突撃を開始した。皆、槍を真っすぐに構えて突撃していっている。だが、中央に居る部隊は、一瞬のうちに持っていた盾を使って、巨大な壁を作り出した。その瞬間、金属がはじけ飛ぶような音が響き渡る。


攻撃隊は真槍を装備しているにもかかわらず、防御隊の態勢を全く崩せてはいなかった。そんなことが数度繰り返されたが、防御隊はびくともせず、鉄がぶつかり合う音が響き渡るのみだった。


攻撃隊が元の位置に退却した直後、今度は丘の上に配置された部隊が攻撃に移った。これらの部隊は、魔導士を含む魔法使いが中心であり、そこから、火・水・風・雷の攻撃が行われた。だが、守備隊はさらに肩を寄せ合うようにして集まっていく。まるでおしくらまんじゅうをしているような状況だが、その直後、スッと盾が構えられ、まるで一つの巨大な岩のような形になった。そこに、あらゆる属性の魔法が降り注いでいく。だが、その岩はびくともせず、雨のような魔法攻撃に耐え続けた。


その後、地上の部隊と魔法使いとの連携攻撃が数度行われたが、それでも守備隊が崩れることはなく、約2時間にわたる戦闘訓練は一旦休憩となった。


しばらくすると、ヴィルの前に、三人の男たちが現れ、片膝をついて恭しく頭を下げた。彼はその様子を満足そうに眺めながら、一人一人に視線を向ける。


「なかなか、攻めあぐねていたようだな」


国王の言葉だが、誰も反応する者がいない。彼はそれでも、笑みを崩さぬまま、ローブ姿の男に視線を向け、さらに言葉を続けた。


「ジェラニウス、どうだ?」


名前を呼ばれた男がゆっくりと頭を上げる。その顔には笑みが浮かんでいた。


「お見事でございました。兵たちの装備やジョニク殿の采配も見事でありましたが、この戦術をお考えになった陛下に、脱帽でございます」


「ホンシュ、貴様はどうだ?」


「ハッ、ジェラニウス卿の申される通り、我らの歩兵と騎兵では全く歯が立ちませんでした。実にお見事かと思います」


その言葉に国王は大きく頷く。そして、頭を下げ続けている男にゆっくりと視線を向ける。


「ジョニク、見事であった」


男はゆっくりと顔を上げ、再び頭を下げる。


「クリミアーナの技術は大したものだな。アガルタから取り寄せたほとんど役に立たぬツワンクルドの力をここまで引き出すとはな。ジェラニウスが率いる魔導士たちの全力の攻撃をここまで防御できるとは思わなんだぞ。この物質的攻撃にも、魔法攻撃にも耐えうる盾は、いかなる攻撃をも通すことはあるまい。ジョニク、そなたは、さらにこの盾の活用方法を研究せよ。今回は行わなかったが、次回は弓隊の攻撃も試さねばならぬ。……念には念を入れるのだ。そして余は今ここに、この見事な盾を全兵に配布することを命ずる。すぐに用意を致せ!」


国王の言葉に、傍に控えていた全員が頭を下げる。


「ジョニク」


「ハッ」


「先ほどの攻撃で、兵たちの損害はどのくらい出た?」


「ハッ、およそ……」


「いや、余が当ててみよう。……北側の部隊におよそ300。その中での死亡が100名。どうじゃ?」


「ご……ご推察の通りでございます」


「北側の隊だけ、盾の隙間が広く空いておった。盾と盾の間は隙間なく、そして高さも均一になるようにせよ。次回は……余も中に入って見分しようぞ! 軍神を守る部隊じゃ、その出来栄えには一点のミスも許されぬぞ!」


国王の言葉にジョニクは驚きの表情を浮かべながら、ゆっくりと頭を下げるのだった。


タナ王国の雪原に、国王の笑い声が響き渡っていた……。

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