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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第十章 ミーダイ国編
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第二百七十九話 ミーダイ・コンフィデンシャル

ふと見ると、帝様の前には三つの大きな箱が置かれており、その上には何やら珍しい品物が置かれていた。


俺から向かって左側の箱の上には、茶碗が三つ並べられていた。小さめのお椀、大きめのお椀、そして、湯飲みのようなお椀と三種類あり、どれも一部が茶色くくすんでいる部分もあるが、全体的に白で統一された高級そうな茶碗だった。


次に、真ん中に置かれた箱の上には、なにやら大きな石の塊が載っていた。これは確か、帝様に会った時に彼の側にあった獅子の置物に使われていた材質と同じもののようだ。そして、一番左端の箱の上には、巻物が三段に積まれて置かれていた。俺は視線を帝様に移すと同じタイミングで、彼はゆっくりと口を開いた。


「そこもとには、このオージンとサツキが失礼なことをした。それだけにとどまらず、この者たちの家来はそこもとを殺そうとさえした。知らぬこととはいえ、一国の王に恥辱を与えたことは、ミーダイ国を預かる者として詫びねばならぬ。これらはマロからのせめてもの詫びのしるしじゃ」


「いや、本当に結構ですよ」


「せっかくじゃ、受け取ってくれぬか。この碗はマロが精魂込めて焼いたものじゃ。どれも30ずつ持って参った。そして、この反物は、我が妻が精魂込めて機を織ったものじゃ。気に入らぬかもしれぬが、受け取ってくれめせ」


帝様はにこやかに笑いながら、三つの箱を眺めている。そのとき、隣のリコがゆっくりと立ち上がる。それと同時に、メイとシディーも同時に立ち上がった。三人は目配せをしながらゆっくりと帝様の許に近づいていく。余りに突拍子のない行動に、俺はキョトンとしてしまう。


「リノス様……」


マトカルが小声で話しかけてくる。どうやら俺たちも一緒に行こうと言いたいようだ。俺はマトとソレイユに目配せをして立ち上がり、リコたちの所に向かう。


「すばらしいですわ。このような見事なものを……。この布も……何と肌触りのいい……」


リコが箱の前にしゃがみこんで、茶碗と布を見ている。メイもシディーも興味津々のようだ。


「気に入ってもらえれば、僥倖じゃ」


「とんでもございませんわ。このようなすばらしい品々をわざわざ……。ね、あなた?」


リコが満面の笑みで俺に視線を向けてくる。俺には全くその価値はわからなかったが、取りあえず笑顔で頷いておく。


「妻たちもこのように喜んでおります。帝様、ほんとうにありがとうございます。ところで……この石は?」


俺は真ん中に置かれた、ほのかに青白い光を放っている、一抱えほどもある大きな石に目をやる。


「これはプリルの石じゃ」


「「プリルの石!?」」


メイとシディーが声を上げる。二人とも目を丸くして驚いている。一体どういうことだ?


「プリルの石は、別名、神の石と呼ばれている、とても希少価値の高い石です。魔法の効果を無くすことができると言われています。この石は……原石ですか? 石を精製して純度を上げれば上げる程、LVの高い魔法も防御できますし、また、その効果が持続する時間も長くなると言われています」


メイがものすごい目つきで石を凝視している。いつもながら、珍しいものや現象を見つけた時のメイの表情は怖い。せっかくの美女なのに……惜しい。そんなことを思っていると、リコが左手を俺に見せてくる。その薬指には、指輪が光っている。


「母の形見であるこの、メイメントの指輪……。これも、精製したプリルの石が使われているのですわ」


「なるほど……。と、すれば、これだけ大きな石であれば、使い方によっては……」


「その通りじゃ」


帝様が、ゆっくりと口を開く。


「我がミーダイ国では、このプリルの石の原石が採れるのじゃ。これはその中でも最大にして最高の品質を誇るのじゃ。そして、その精製ができるのがマロなのじゃ。精製にはこの原石を砕いたものを使うのじゃ」


「……なるほど。あの、御所でお目にかかったときに、帝様の側にあった……トラ? のような置物がありましたが、あれによく似た色をしていますね」


「あれは魂魄石じゃ。プリルの石を精製したときに出るニクス……こちらの国では、灰と言うのかの? それが冷えて固まったものじゃ。歴代の帝が石を精製するにあたり、ニクスをこの魂魄石に注ぎ続けてきた。プリルの石ほどの効果はないが、それでも、邪気や邪念、あらゆる災厄から石の周囲に居る者を守るとされておる。帝が継承し続けてきた、わが国唯一の宝なのじゃ。


聞けば、このミーダイ国は、このプリルの石のお陰で、小国ながらも生きながらえることが出来ていた。石の精製には数千度に及ぶ熱を何日も維持する必要があり、それには多大な魔力を必要とする。そのため、それに携わる帝は、命を削るようにしてコトにあたるのだという。


基本的に、プリルの石が精製されるのは、帝の生涯で2回から3回なのだという。それはつまり、父と共に精製し、その手法を学ぶ時に一度、その後、一人で精製する時に一度、そして最後に、自分の子供に精製方法を伝える時に一度、この3回程度なのだ。それだけに、その価値は天井知らずの値段が付く。それ故に、プリルの石はこの国における最高の褒章であり、その一方でミーダイ国では、帝が息子にその技術を伝える時に精製された石が販売されるのだという。この国は、この時販売された石で、数十年食いつなげる資金を手に入れていたのだった。


だが、約10年前。この石に目を付けたクリミアーナ教が、ミーダイ国に侵略を試みた。それまで何度かの干渉はあったようだが、この国は鉄壁の連携でそれらをことごとく跳ね返していた。だが、教皇、ジュヴァンセル・セインの老獪かつ巧妙な策は、この国の鉄の連携をも崩壊させてしまった。ミーダイ国では国を二分する大乱が発生し、国は焦土と化した。そしてクリミアーナ教は、大乱の直後にこの国に侵攻することはせず、およそ10年の歳月をかけて、まるで真綿で首を締めるかのように、徐々に国力を削いでいった。


「この石を持って参ったのは、リノス殿、そこもとを見込んでのことじゃ」


「どういうことでしょう?」


「そこもとは、クリミアーナ教国の干渉を退けたと言う。そして、その体からは邪念の類は感じなんだ。さらには、邪な者らを寄せ付けぬ雰囲気も感じたのじゃ。この石は邪念のある者が持てば、この世界に大いなる厄災を招くことになる。恥ずかしながら、マロには、ミーダイ国ではこの石は最早守り切られぬ。誠にあい済まぬが、貴国でこの石を守ってはもらえぬだろうか? ……この通りじゃ」


帝様はゆっくりと俺に向かって頭を下げた。


「おやめください、帝様。お手をお上げください」


俺の言葉に、帝は微笑みを湛えたままゆっくりと頭を上げる。そして、チラリと後ろに控えている女二人に視線を移す。


「サツキは、好いた男の頼みであったゆえに、断ることが出来なんだのじゃ。それに、オージンの暮らしが今よりも良くなると言われておったために、かどわかそうとしたのじゃ。巻き込まれてしまったリノス殿には申し訳ないことをしたが、これも、サツキが主人のためを思ってやったことなのじゃ。ゆめゆめ、かの者を責めないで欲しいのじゃ」


「どういうことです?」


「サツキには好いた男がおってな。その男が、タナ王国に参れば、オージンは今よりもさらに良い暮らしが約束されて、サツキとも幸せに暮らせると言っておったのだ」


サツキは体を震わせながら、恥ずかしそうに俯いている。そしてオージンもじっと下を向いて俯いている。


「オージンも、我が儘に見えておるが、実はとても気の優しい娘なのじゃ。サツキの話を聞きながら、マロに必死になってサツキを許してくれいと懇願しよった。二人とも、強がっておるが、こう見えて実はか弱き女子おなごなのじゃ」


帝の話を聞きながら、この二人の女はずっと頭を下げ続けている。俺はその姿を見ながらゆっくりと口を開く。


「このサツキという人は、その、惚れた男……黒い服を着た……クリミアーナの男でしょうか? その男は……どこに行ったのです?」


俺の話を聞いた瞬間に、サツキがガバッと顔を上げる。何故知っているんだ? という表情を浮かべたまま、その顔にはみるみる汗が噴き出してきていた。


「うえ……あう……ええ……おっ、おっ、オクタ様は……もう……国には……。国境で落ち合う……。全てはこの、サツキの浅はかさでございました。お許しくださいませ、お許しくださいませ」


サツキはペコペコと頭を下げている。俺は鑑定スキルで見た、これまでの経緯を帝に説明をする。彼は笑みを崩さぬまま、サツキを見ていた。


「サツキ、オージン。そなたらの気持ちもわからぬではないぞえ。しかし、やってよいことと悪いことがある。二人とも、わかるな?」


「「ハイ……」」


「二人とも、アガルタ王に、謝りゃ」


帝に促される形で、二人は顔を見合わせながらおずおずと口を開いた。


「この度のこと、私の浅はかな行いによりまして、アガルタ王様、帝様、皇后さまにおかれましては、多大なるご迷惑をおかけしましたこと、このサツキ、深く深くお詫び申し上げる次第でございます。この上は、いかなる罰も甘んじて受ける所存でございます……」


「こっ、この度のこと……妾も謝るぞよ。本当じゃ、悪いと思っておる。先ほどの……性格悪そうと言ったことも謝るぞよ。奥方が皆、奇麗だったので、ついイライラしたのじゃ。本当に、ごめんなさいだったのじゃ。お尻はぶたないで欲しいのじゃ」


「この二人については、我が国で閉門・蟄居させるつもりじゃ。しばらくは……な」


「この二人のことは、帝様にお任せしますよ。確かにこの二人は、頭を冷やした方がよさそうですね」


「ひゃっ! あれ! なにを……なさいます」


突然、女性の声が上がる。一体何事かと声のした方向に目を向けると、そこには、皇后さまの肩を抱いているメイの姿があった。


……メイ、一体どうした? 何があった?

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