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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第九章 夢のかけ橋編
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第二百三十九話 困ったちゃんの対応

帝都の屋敷に転移すると、夕食はとっくに終わり、リコとマトカルは、既に子供たちと共に寝てしまっていた。ソレイユとフェリスは風呂に入っているという。ダイニングにはゴンとメイ、ペーリス、ルアラ、そしてシディーがリノスの帰りを待っていた。


「お帰りなさい、リノス様」


「ただいま、シディー」


「夕食は……何か召し上がりますか?」


ペーリスが立ち上がりながらリノスに話しかける。彼女の声を聞くと、何故か無性に腹が減ってくる。


「ああ、何か軽く食べたいな。そういえば、ペーリスはもうすぐ卒業だな。卒業できそうか?」


「問題ありません。では、何か作りますね」


そう言ってペーリスはキッチンに向かった。


「ペーリス殿は大学では成績優秀で、おそらく首席で卒業するでありますなー」


「マジで? そういえば、ペーリスは卒業してからどうするんだ?」


「ご主人、お忘れでありますな? 大学を作って、そこにペーリス殿を教師として迎えるというお話を」


「……いや? 覚えて? います、よ?」


メイもシディーもキョトンとしている。あれ? この話、誰にも言っていなかったっけ? ……えらいこっちゃ。どうしよう? このままではペーリスは、フリーターという名の無職になってしまう。早急に対策を考えねば。


しかし、今の俺の優先順位は、メインティア王のことだ。俺はゴンたちに、先ほど王と話した内容を伝え、どうしたらよいものか、アドバイスを求めた。


「よいのではありませぬかー。むしろ、人質としては、この上ない御方でありますー」


「人質って……。俺はそんなつもりはない。それにあの王を預かると、お守が大変だと思うぞ? 何せ女癖が悪いらしいからな」


「70人の子供がいるって言ってましたよね? 父と同じニオイがします」


「ああ、ルアラ。さすがに、お前の親父には劣るだろうがな」


「ただ、クリミアーナとのことや、我が国のことを考えると、あの国は捨て置けぬのでありますー」


「どういうことだ? ゴン?」


ゴンは人化し、紙に地図を書き始めた。そして、それを見せながらリノスたちに説明する。


「我が国と、ヒーデータ、ラマロン、ニザは強固な同盟関係があるでありますなー。そして、ニケ王がおわすサンダンジ国は、ちょうど我が国とクリミアーナの間にあるでありますー。そして、フラディメ国はサンダンジのちょうど北、西側が海に面した位置にあるでありますー」


「……と、いうことは?」


「フラディメ国と誼を通じておけば、クリミアーナが攻めて来た時に、背後から攻撃してもらえるでありますー。この国は言わば、クリミアーナの戦略上、重要な位置にあるのでありますなー。我が国の防波堤としては最適でありますー。それに、コメが豊富に獲れる国でありますし、軍事的技術力もなかなかでありますー。特に首長鳥を使役しての空中攻撃が有名でありますなー。大上王と国王に恩を売っておけば、損のない国でありますー」


リノスは目を閉じて天を仰ぐ。


「……米の産地か。それに、誼を通じておけば、俺たちがまだ確立できていない空中戦のノウハウも得られるかもしれんな。とすれば、大上王を無下には出来んな」


リノスは大きなため息をつく。無理もない、アガルタの泣き所は、まさしく空からの攻撃なのだ。


陸・海・空のうち、陸戦については相当な戦力をアガルタは有していた。歩兵、騎兵、魔法……どれをとっても高い質を備えており、加えて、リノスの結界による防御力とサダキチたちフェリードラゴンの優れた諜報能力は、寡兵でも十分に戦うことができる戦力だった。


だが一方で、空に目を向けてみれば、そこは必ずしも盤石とはいえない状況だった。


特にアガルタの西側に位置する山脈は、全く手つかずの状態だった。そこは標高が高く、断崖絶壁の多い山脈であるために、その山を超えて侵攻してくる敵は今のところ皆無であるが、しかし、もし、ここを超えて空中から攻撃を仕掛けられると、防戦一方にならざるを得ない状態にあったのだ。


リノスの結界は、都全体に張ることは可能であるが、アガルタの全ての街に、それを継続して張り続けることはさすがに難しかった。このことは、ジェネハにも相談してみたのだが、やはり彼女たちは一気に家族を増やすつもりはなく、アガルタ全土の空の防衛に関しては、物理的に難しいとの返事だった。


さらに、同盟国のラマロン皇国にまで目を向ければ、この国の海や空の防衛にまで注力することは、国内の復興を第一としている現在では難しかった。よって、ラマロンがクリミアーナに海や空から攻撃されると、すぐに蹂躙されてしまう危険性があった。既に、教国の首都、アフロディーテの港では数多くの軍船が停泊しており、さらには、そうした船が新たに複数建造されているという報告が、サダキチたちフェアリードラゴンからあったばかりだった。そうした意味で、同盟国も含めた防衛についても、検討の余地があったのだ。


リノス本人は、他国に侵略する気は毛頭なく、基本的に楽観主義であるために、そうしたことはゆっくりと対策を立てればよいという考えだったが、さすがにゴンやフェリス、ルアラたちからは窘められた。そこで、空についてはドラゴンに協力してもらうことを考え、海については、ルアラの父、ポセイドン王の協力を仰ごうと考えたのだった。


しかし、これらの作戦は結果的に失敗していた。ドラゴンについては、ソレイユを通じて神龍様に打診してみたが、基本的にドラゴン族は自分たちの縄張りから出ることはなく、フェリスのクルルカンが修行のため縄張りを出るのは、かなり特殊な例であると教えてくれた。そのクルルカンも、一族を率いて縄張りを出ることはなく、修行に出しているのは、あくまで自分の縄張りを守ることに主眼を置いているためなのだそうだ。


リノスに仕えているサダキチたちフェアリードラゴンは、かなりのレアケースになるらしい。フェアリというシンジョが逃げ出し、しかも、その彼女を連れたリノスが、たまたま縄張り近くを通るという偶然が重なったことで、あの襲撃が起こったのだ。しかも、そのドラゴンを完封し、一族全員が人間の配下になるなど、誰も予想し得ない、ドラゴン族始まって以来の椿事と言ってよかった。


それもこれも、フェアリが逃亡した段階で竜王が適正に対処しておけば、このような事態は防ぐことが出来たのだが、それについては、ここでは言及しない。竜王も実は反省しているのだ。


当初リノスは、ジュカ王国のカルギ元帥のワイバーンを用いた手法を模索したが、それには、膨大な手間暇がかかるのだ。神龍様によると、ワイバーンは厳密にいえばドラゴン族ではなく、いわゆる亜種になるのだそうだ。つまり、トカゲやコウモリ、ワシ、ヘビなどがら進化したドラゴンは言葉を持たず、言葉や念話で意思疎通することが出来ない。そのため、亜種族については犬や猫のように躾けることが必要なのだという。


成龍を躾けるのにはかなり困難を伴うため、必然的に仔竜の段階から躾ける必要がある。ただ、その手間暇は膨大なものになる。カルギの、ワイバーンの卵から孵化させて自分の僕となるように調教するという手法は、かなりの特殊例なのだという。そうした点から、ドラゴンを活用した空軍については、有効な打開策を見いだせずにいたのだった。


さらに、ポセイドン王との協力体制については、まずもって王のスケジュールが合わず、面会すらできなかった。実の娘のルアラでさえも、会えるのは早くて2年後になるのだという。当然それは、千を超える側室たちと過ごす時間を優先しているからに他ならない。こちらについては、書簡を送ることしかできず、しかも、その返事は未だに返ってきていない。


こうしたことから、海の対策については当面は、ガルビーの海深くに住む、ポセイドン王の正室であるトリちゃんにお願いをして、もし敵がガルビーに襲来した時に限って、海を荒れさせるという対策にとどまっていた。



「王が賢ければ迷わないんだがな。何と言っても、あの感じだ。首長鳥の活用方法を知っているとは思えないし、預かったら預かったで、どんな騒動を起こすのかわかったもんじゃない。先行きが不安で仕方がないよ」


「それでは、リボーン大上王に、メインティア王は留学ということで世話はするが、万が一のことがあっても責任は持たない、あと、アガルタの女性に手を出したり、その他、ご主人が問題であると感じたりする行為があった場合は、すぐさまお引き取りを願うという条件を付けてはいかがでありますかー?」


「そうですね。私も、ゴンさんの意見に賛成です。我が国の脅威が少なくなるのであれば、それもよしだと思います。ただ、好色な男は、一人で満足することはなく、際限なく女性を求めます。おそらく……その点で問題を起こす可能性が極めて高いので、常に厳しく監視する必要がありますが、その点は私とフェリス姉さまとで上手くやりたいと思います」


「それがいいでありますなー。首長鳥の件は、王の様子を見ながら、徐々に話をする方がよいでありましょうなー。最初から首長鳥の活用方法を聞いてもよいではありましょうが、もし、王に変化が見られぬ場合は、後々ややこしいことになるかもしれぬでありますからなー」


「わかった。俺もゴンの意見に賛成だ。あの国とはなるべく距離を置きたいんだ。それと、王のことは……ルアラにお願いしようか。メイ、シディー。二人も、ゴンとルアラの意見で賛成か?」


二人はコクリと頷いた。


「リコとマトには……明日の朝に相談してみるよ。きっと反対はしないと思う」


「ハイ、できました~。お待たせしました~」


ちょうどいいタイミングでペーリスが食事を運んでくる。彼女は手際よく、モヤシを使って作ったオムレツとサラダ、そして豆腐とフルーツを食卓に並べていく。


「おお! 美味そうだな! それに、胃にも優しそうだ」


「うわっ! 美味しそう! 師匠、私にもちょっと下さい」


「お前はメシ食ったんじゃねぇのかよ~」


「いいじゃないですか~」


「ルアラちゃん、余っているオムレツがあるから、それを食べますか?」


「さすが、ペーリス姉さま! いただきます!」


「ルアラ殿は食いしん坊でありますなー。……吾輩も小腹がすいてきたでありますー」


「ゴンさん、梨があまっていますけど、食べますか?」


「ペーリス殿、かたじけないでありますー」


「みんな、食いすぎだろ。太っても知らんからな」


そこには、いつもの笑顔に包まれたリノス家の食卓があった。しかし、リノスをはじめとして、ゴンとルアラはこの後、メインティア王と深く関わっていくことになるのだが……。


そんなことは露知らないこの三人は、呑気に目の前の食事に舌鼓を打つのだった。

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