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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第八章 疫病撲滅とクリミアーナ教国対決編
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第二百四話  クリミアーナの思惑と意地悪な対策会議

サンダンジ王、ニケの部屋から退出した俺たちは、すぐさまサンダンジ国の研究所に直行した。そして、俺の手で、相変わらず深い眠りについたままの白い犬を檻からそっと出し、机の上に置く。そして、メイが懐から黄色い粉を出し、その犬の鼻先に持っていって嗅がせた。


「もう大丈夫です。あと一時間は目が覚めませんから、その間にやってしまいましょう。ご主人様、結界の解除をお願いします」


メイの言葉を聞いて俺は結界を解除する。そして、メイとポーセハイたちの研究が始まった。


彼ら、彼女らは、とても手際よく犬から色々なものを採取していく。唾液、血液、毛・・・。歯の一部も削っていたようにも見える。そして、ものの数十分で完了させてしまった。


「あとは採取した、これらのものを調べたいと思います。ご主人様、ありがとうございました」


「うん?もういいの?」


「はい。本来は持ち帰りたいのですが、おそらくサンダンジ王がお許しにならないと思います。血液を始めとした体液が採取できたので、これでかなり研究は進むと思います」


「わかった、メイ。では、この犬を返しに行こうか」


「ただ、結界を解除してしまいますと、感染が広がる可能性があります。ですから・・・」


「結界はそのままにしておいた方がいいな」


そんな会話を交わしながら、俺たちは再びニケの下に戻ってきた。彼は別の謁見があるとかで会うことは出来なかったが、王宮の兵士に借りていた犬を返しておいた。その時に、この犬はキリスレイに感染している可能性が高いこと、結界に閉じ込めていることを説明しておいた。さすがに兵士は驚いていたが、結界の天井部分に穴をあけており、そこから食べ物などを入れることができると補足しておいた。


その後、メイたちとアガルタの研究所に転移して、短い打ち合わせを行った。彼女らは当面はアガルタの研究所を拠点に、折に触れてサンダンジ国の状況を見ながら、キリスレイの研究を行うことになった。




そして、その三日後。サダキチから、クリミアーナ教の連中がアガルタに入ったとの連絡があった。


「ずいぶん遅い進み具合だな。このペースで行くと、都に着くまでさらに三日くらいかかるんじゃないか?」


俺は地図を見ながら声を上げる。


「かなり大きな道を作っているのですよ」


クノゲンが苦笑いしながら答える。


「河原に、人が四人並んで通ることができるくらいの、まっすぐに伸びる道を作っていますな」


「なるほど。そりゃ時間はかかるよな」


「リノス殿、これは由々しき事態だ」


焦った声を出しているのは、ラファイエンスだ。


「これだけの広さの道を作られると、騎馬兵が自由に往来できてしまう。クリミアーナは、アガルタの都に一直線に通じる道を作ろうとしているのだ。物資も兵士も最短距離で運べるようにされてしまうと、厄介なことになる」


「うーん」


俺は腕を組んで考える。その様子を見てマトカルが口を開く。


「リノス様、いっそのこと、夜陰に紛れて道を壊してしまおうか?」


「いや、マト、その・・・何ていうかな?勿体なくない?」


「も・・・勿体ない?」


「いや、せっかく道を作ってくれてるんだからさー。後で使えそうじゃないか」


「す・・・すまない。リノス様の考えていることが・・・わからない」


「マト、考えてもみろ。確かに、アガルタからガルビーまでは船を使えば早く行ける。しかし、逆となるとなかなか大変だ。今は、腕っぷしの強い奴らがヨイヤサヨイヤサと船をアガルタまで引っ張り上げていくか、歩いてくるしかない。河原の上を歩くのは大変だぞ?馬もなかなか大変みたいだしな。そう考えると、道ができるってのは、旅人たちには助かるよな~」


「確かにそうだが、道ができてしまうと、クリミアーナの連中が・・・」


「わかっている。わかっているマト。それをわかったうえで言っているんだ」


俺とマトの会話を聞いていたクノゲンが口を開く。


「既にガルビーの沖合には十四隻もの船が待機しています。一隻に五百人乗っているとして、都合七千人がアガルタをめがけてやってくるのです。それに、ヒーデータや、その他の国から陸路でやってくることも考えますと、数万の信者がアガルタに流れ込んできます」


「もしや・・・奴らの狙いは、アガルタの食糧か!」


マトカルが声を上げる。俺はため息をつきながら答える。


「まあ、それもあるだろう。おそらく奴らの本当の狙いは、世論操作だろう」


「世論操作?」


「圧倒的多数の人間が集まって声を上げりゃ、俺を王の位から追い落とすなんざ簡単だろう」


「リノス様、リノス様はアガルタの国民から慕われている。たとえクリミアーナの連中がおかしなことをしたとしても、都の人々がそれを許さないだろう」


「クリミアーナは、そうやって都の人々に攻撃をさせることで、このアガルタに攻め込む口実を作ろうとしているのもあるだろうな」


「くそっ!忌々しい!」


「これマトカル。そのように怒るものではない。せっかくの美しい顔が台無しだ。さて、リノス殿・・・。いずれにしろ、クリミアーナをこのままにしては置かれぬと思うがな?」


「ええ。将軍の仰る通りです。易々とヤツらを全員、アガルタに入れてしまうのは、後々ややこしいことになりそうですね。しかし、策は考えてあります」


「ほう、それは?」


「まあ、この作戦はちょっと、タイミングが大切でね。まだやるかどうかわかりませんから、やる時になれば、すぐに将軍にお話ししましょう」


「うむむむ・・・」


ラファイエンスは両眼を閉じて唸っている。それをクノゲンは苦笑しながら見ている。


「それにしても、クリミアーナは上手いですな。この時期に移動を開始するとは・・・。イルベジ川の水が増水する前にアガルタに着くことができ、さらに、何か事が起こっても、しばらくはイルベジ川が増水しているので、簡単にヒーデータとラマロンから援軍は送ることができない。それを見越してのこの移動なのでしょうな」


「そうだな。まあ、排除しようと思えば排除できるんだがな。まあ、せっかく遠くから来たんだ。特にあの、教皇の書簡を携えてきた小娘と、その横についていた坊主くらいは、アガルタに入れてやらないといけないだろう?何てったって楽園を作ろうってんだからな」


「では・・・リノス様は、クリミアーナの信徒全員をアガルタに入れる気はないということか?」


「ああ。信徒と言っても、全員が悪いわけじゃないだろう。お仕置きされるのは、奴らだけでいい」


「その策は、いつ発令されるのだ?」


「うーん。それもまだ、未定なんだよな。マトにも協力してもらわなきゃならないから、その時は頼むぞ?」


「わ・・・わかった」


「まあ、何はともあれ、作戦はリノス殿の下知があってからということだ。それまでは、我々はいつでも出撃できる準備を怠らないことだ。クノゲン、マトカル、気を引き締めていかねばな」


ラファイエンスの言葉に、二人は力強く頷く。そして、三人は俺の部屋から出ていった。部屋から出る際、ラファイエンスがマトカルに何やら耳打ちしている。そして、マトカルは一人、俺の執務室に残っている。


「マト、どうした?・・・顔が真っ赤じゃないか?」


「ううううう・・・」


「・・・はああ、また、ラファイエンスに、エロいことを言われたな?」


マトカルの目が動いている。どうやら図星らしい。


「当ててみようか?リノス殿に、ベッドの中で教えてもらえ、だろ?」


マトカルは首を振る。


「うん?何て言われたんだ?」


マトカルは顔を真っ赤にして、言いにくそうに口を開く。


「一晩中リノス様を離すなと・・・。策を話すまで、一晩中リノス様の上に乗って攻め続けろと・・・」


俺は久しぶりに、腹を抱えて爆笑したのだった。

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