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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第八章 疫病撲滅とクリミアーナ教国対決編
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第二百二話  眠り病撲滅の手がかり

翌日からメイは、ポーセハイたちと共にサンダンジ国に行くようになった。一旦、アガルタの研究所に顔を出してから、俺の執務室に顔を出し、そこで結界を張ってからサンダンジに向かう。そして、帰りは俺の執務室に寄り、結界を解除した後で再び研究所に戻り、帝都の屋敷に帰ってくるというスケジュールだ。


メイは子育てがあるために、当然、サンダンジへの出勤はローテーションを組んで行われる。なるべくメイの出勤を減らしてくれたチワンには、感謝しなければならないだろう。


メイたちがサンダンジに行き始めてから六日後、チワンたちポーセハイ三人から、サンダンジでキリスレイの患者が増加傾向にあるという報告を受けた。


「ここ一ヶ月の間に、キリスレイに罹患する患者が二十名を超えています」


「チワン、それは多い方なのか?」


「はい。サンダンジ国でキリスレイに罹患するのは、平均して年間三十人程度です。今年に入ったばかりで罹患者が二十名を超えるのは、数十年なかったことだと王は言っておられます」


「なるほど・・・。今のペースで患者が増えるとなると・・・二百名を超えるな。それは・・・ヤバイな」


「はい。患者がどこで罹患したのかを調べましたところ、ほぼ全員が、住んでいる場所も、職業も異なります。そして、発症した日時も、です。我々の力では感染経路を特定できません。そこでリノス様、恐れ入りますが、我々と共にサンダンジ国に赴いていただき、罹患した患者を鑑定していただけないでしょうか」


「私もぜひ、連れて行ってください」


メイが真剣な顔をして俺に願い出てくる。


「なるほどな。俺でよければ力になろう。メイも一緒に来るといい。ただ・・・ちょっと待ってくれ」


俺はチワンたちを待たせて、執務室の窓を開ける。そして、サダキチを呼び出す。


『お呼びでしょうか』


『ガルビーにいるクリミアーナ教の奴らはどうしている?』


『お待ちください』


しばらくすると、サダキチが現れる。


『ガルビーから次々と人が川を上っています』


『今、どの辺りだ?』


『先頭はまだ、ガルビーを出てすぐの所に居ました。道を作りながら移動しているようです』


『なるほどな。わかった。先頭の奴らがアガルタに入ったら、すぐ知らせてくれ』


『畏まりました』


そう言ってサダキチは再び姿を消した。


「おそらく、土魔法が使える奴らが先頭で道を作りながら来てやがるのか・・・」


そう呟く俺を、メイは心配そうな顔をして見ている。


「心配するなメイ。春になればイルベジ川の水は増水する。そうなれば、奴らの作った道も役に立たなくなる。どうするか・・・見ものだな。これをマトたちに教えてから、サンダンジに向かおう」


そう言って俺たちはマトカルたちのいる部屋に転移し、その後、メイに結界を張ってサンダンジに向かった。



転移した先は、病院のような施設だった。



「ここで、患者が収容されているのです」


「病院みたいなところか」


チワンの説明に思わず俺も声を漏らす。チワンたちは不要だと言っていたが、念のため全員に消毒用の結界を張ってやる。そして、チワンの案内で、俺は隔離された建物の中に入っていく。そこにはベッドが並べられ、こん睡状態に陥っている数十人の患者が並んでいた。


「この方々が、ここ数日間でキリスレイを発症した方です」


「なるほど・・・。まさしく老若男女、色んな年代の人がいるな。子供もいるじゃないか・・・」


「この全員の発症時の状況を調べましたが、家の中で発症したのが十一名、外で発症した者が十九名でした。中には突然倒れた者もおります」


「全員が眠っているのか・・・」


「はい。今のところは、ですが。中にはけいれんを起こしていた者もおりますが、今は落ち着いています」


「ちょっとよろしいでしょうか」


ローニが口を挟んでくる。


「私とメイ・・・いや、メイサーマさん、ラセースさんが調べましたところ、罹患した患者の家族構成はバラバラです。ちなみに、犬獣人と接触している人は五人いますが、あくまで近所に住んで居るというだけで、深い付き合いはないようです」


「なるほど。これだけでも、クリミアーナの説がガセだとわかろうってもんだな」


俺はそう言い捨てて、患者たちを見つめる。


「では、一人ずつ鑑定していくぞ?」


「はい、よろしくお願いします」


チワンが俺に一礼をする。それを見て、俺も頷く。まずは、目の前に寝ている壮年の男性を鑑定する。


「・・・幸せそうな家庭だな。宿屋の主か。・・・肉屋の前にいる犬の尾を踏んづけて・・・噛まれたのか。不運だな。酒が好きなんだな。・・・へぇ、働き者だな。・・・いつも買いに行く八百屋のオヤジが犬獣人か」


そんな、俺の独り言のように話す鑑定内容を、チワンやローニたちがメモしていく。


二十人すべての人生を鑑定すると、かなり時間がかかってしまうために、倒れる前後のところを重点的に見ていく。続いて中年のおばさん、若い青年、幼い子供・・・と次々と鑑定していく。


「ふぅぅぅぅぅー」


全ての患者を鑑定し終わったのは、昼をとっくに過ぎていた。約三時間もの間ぶっ通しで鑑定していたため、久しぶりにMPが減った。鑑定を終えると、俺は思わず大きく息を吐きながら、椅子に崩れ落ちていた。


「お疲れ様でした」


メイがすぐさま介抱してくれる。一瞬、このままメイの胸の中で眠りたいと思ったが、何とか自分を保つ。


「リノス様、ありがとうございました。大丈夫ですか?」


チワンが声を弾ませて礼を言ってくる。


「いいや。初めて長時間ぶっ通しで鑑定したので、頭がクラクラしているだけだ。しばらく休めば大丈夫だ。で、何かわかったか?」


「少々お待ちください」


チワンはローニとメイ、そしてラセースと共に、俺が鑑定の最中しゃべったことをメモした紙を、互いに見ながら何やら話をしている。


「ちょっと待ってください!」


ローニが声を上げる。


「ほら、この人と、この人、そして・・・この人、この人もです。ほら、ここです。一致します」


「ローニさん、この人と、この人、そしてこの女の子も・・・一致します」


メイがメモを指さしながら説明してく。そして、何やらブツブツと呟きながら紙を取り寄せて何やらカリカリと書き込んでいる。


「メイ、ローニ。何かわかったか?」


「リノス様、メイ様は素晴らしいです!よくぞそこに気が付かれました。まとめていただいたこの書類も、実に見やすい。素晴らしい!」


チワンが手放しでメイをほめている。メイは照れて両手を顔の前に出して小刻みに振っている。


「チワン・・・先に見つけたのはローニのような気がするんだが・・・」


「ああ、ローニは褒めすぎると調子に乗ります。医師なら、このくらいのことは当然、見抜けないといけません」


「厳しいな、チワン・・・」


ローニは耳をピクピクさせながらチワンに食って掛かる。


「チワンさん、私は褒められて伸びるのです。そのように貶されてばかりですと、向上心が削がれてしまいます!」


そんなローニをチワンは冷たい目で見ている。


「褒められて伸びる?そんなことを言っているから、お前はここ一番に弱いのだ」


「ぐはっ!」


あまりの返答に、ローニが悶絶している。


「ま、まあローニが先に見つけてくれたのは事実だ。ありがとう、礼を言う、ローニ。チワンもローニが憎くて言ってるんじゃないと思うぞ?人間には三つの評価があってな」


「三つの評価、ですか?」


ローニは涙目で俺を見ている。


「無視、賞賛、批判というヤツだ。見込みのないヤツは相手にされないから無視される。少し見込みのあるヤツは褒めてやる気を出させる。そして、コイツはモノになるなと思うヤツは、厳しく接して考えさせて、スキルを上げさせるってヤツだ。チワンに批判されているってことは、ローニはモノになると思われてるんだよ。な、チワン?」


チワンは一瞬の間をおいて、大きくうなずいた。その後、ローニに一週間、帝都の屋敷でメシを食わせるという条件を出して、やっと彼女は機嫌を直してくれた。




「これは、アガルタ王。来られるのであれば言っていただければ、歓迎の式典を催したものを・・・。わざわざのお越し、痛み入る」


サンダンジ国王ニケは、王宮にある謁見の間に俺が居るのを見て、ガチで驚いていた。ポーセハイに頼まれて、彼らとともに転移してきたと伝えると、一瞬ニケは鋭い目を見せた。


「彼らを使えば、一瞬で軍勢を運べるのだな・・・。これは、アガルタと敵対することは、絶対に出来ぬな・・・」


「いいえ王様、我々ポーセハイが一緒に転移できますのは、一人だけです。ご心配には及びません」


「いいや、チワン殿・・・謙遜されるな・・・いやいや・・・」


ニケは鋭い目をしながら、首を振っている。


「いやなに、サンダンジ王、今回お邪魔したのは、貴国を苦しめているキリスレイの感染経路を解明するヒントが掴めたのをお伝えするためです。この、我々の予測が正しいかどうかを証明するためには、貴国のお力添えが必須なのです。そのため、アガルタ国王として、あなたにお願いに上がりました」


「何を言われるアガルタ王、何もそのような。キリスレイの撲滅をお願いしているのは、我々だ。お願いに上がるのはむしろ私の方だ。なんなりと言ってくれ。協力は惜しまん」


「そういっていただけると助かります。実は・・・」


俺はキリスレイの感染経路の予測と、その対処策を伝える。その瞬間、ニケの顔が歪む。しばらくの間、沈黙が続く。そして、ニケは重々しく口を開く。


「それは・・・わが国では、協力できかねる・・・。すまぬ・・・」


謁見の間に再び、沈黙が訪れた。

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