第千百五十二話 衝撃の光景を目にしたゾ!
軍船はテルアブという小さな港町で錨を下ろした。港町というよりも、漁村と言った方が適当か。漁村であるにもかかわらず、結構立派な港が整備されている。海上から見ても少々不自然な光景だ。大体、こうした整備された港には、それなりの建物が並んでいて、町を形成しているものなのだ。そうしないと荷揚げや荷だしの作業がやりにくくなるし、そこで取引をするとなると、それなりの規模の建物が必要になるはずなのだ。
本来、俺たちの目的地は、このテルアブという漁村ではなく、ここからさらにニ十キロほど離れたサルタという町だったのだが、そこはすでにダオラ帝国の軍船が数隻犇めいているという報告を受けていたために、一旦この村に停泊することにしたのだ。さすがに、敵の状況がわからないまま突っ込んでいくという芸当は危険すぎる。まずはここで相手の情報収集を行うことにしたのだ。
敵地なので、船を港に入れることはできずに、まずは沖で待機することにした。そうしておいて、小舟でテルアブの港に兵を上陸させて、様子をうかがうことにする。理想を言えば、ここで水や食料などを補給できれば最高なのだが、まあ、それはあまり期待しないでおく。
テルアブには誰もいないようだった。アガルタ軍が迫っているので、村をあげて避難したのだろうかと思ったが、様子を見に行った者たちが一様に口を揃えて報告してきたのは、村に荒らされた形跡があると言うことだった。しかもそれはかなり中途半端で、野盗の類に襲われたのであれば、建物に相当の被害が出ているだろうが、テルアブの村は、扉や窓が破壊された形跡があるくらいで、建物自体にはさしたる被害は見当たらない。ただ、部屋の中は荒らされた形跡が見られるが、何か物を取られたり、物色されたりした形跡は見当たらないのだと言う。
「……つまりは、ダオラ帝国軍が村人を強制的に避難させた。しかもそれはかなり性急に行われたと言うことかな」
俺は誰に言うともなく呟く。ということは、村人たちはそう遠くないところに匿われている可能性があるし、そこにはダオラ軍が駐屯している可能性もある。俺は人数を増やして、三百の兵を上陸させて、村の周囲を探索するように命じた。マップで見てみると、確かに村はずれに少数ではあるが人が固まっているのと、そのすぐ近くの森の中に、人が点在している。いずれも百人単位の規模ではあるが、これが村人なのは敵なのかは判断がつかない。殺気のようなものがないからだ。まずは、この辺を調べる必要があるだろう。
兵士が上陸してすぐ、報告があった。なんと、村はずれの丘の近くに、夥しい人々が首だけ出して埋められているのだと言う。しかもそこには男も女も、老いも若きもいて、子供までいたのだそうだ。その報告を聞いて俺は罠であることを確信した。きっとこれは、アガルタ軍をおびき出そうとしているに違いない。ただ、おびき出しておいて、敵は何をしようとしているのだろうか。マップで見てみても、アガルタ軍ほどの規模の軍勢は見当たらない。上陸をさせておいて、海から攻撃を仕掛けようと言うのか。ただ、そうであったとしても、ダオラ軍は逆流の中を進まねばならない。であれば、相当の時間がかかるはずだ。
試しに、この海に詳しい者に事情を聴いてみたが、潮の目が変わることはないのだと言う。ということは、敵の狙いはそれではなさそうだ。
一体、ダオラが、あのガノブが何を狙っているのか。何をしようとしているのかが、俺には読めなかった。とはいえ、埋められている人々はこのままでは全員が死んでしまう。さすがにそれは看過することはできない。
俺は軍勢を二手に分け、五千の軍勢を上陸させ、村人を救出することにした。むろん、指揮は俺が執る。そうしておいて、ヴィエイユには、この船に残るように命令した。
「そんなことは言わずに、私もお供させてくださいませ」
案の定、小娘はそんなこと言ってきたが、一応これでも客人であるし、クリミアーナ教国という気色の悪い国の教皇なのだ。万が一のことがあっては、ドえらいことになる。その点を嚙んで含めるようにして説明し、できるだけ貴賓室から出ないようにして欲しいとお願いをした。
「……わかりました。アガルタ王様がそのように言われるのでしたら、そのようにいたします」
彼女は不承不承ながらそう言ってくれた。
早速俺は船に乗り、テルアブに上陸した。報告で聞いた通り、村の建物に関しては大きな被害はない。確かに、ドアが破られ、窓が割れているのが散見されるくらいだ。村を出てしばらく行くと、高い丘が見えてきた。そのちょうど登り口あたりのところで、異様な光景が広がっていた。
確かに、村人と思われる人々が、首だけ出して埋められていた。全員、ぐったりしている。聞けば、衰弱はしているが、全員生きてはいるのだと言う。ただしは危険な状態であることは間違いなく、一刻も早い救助が必要な状態だった。俺はすぐさま兵士たちに村人の救出を命じた。
数百名の兵士がシャベルを持って救出作業に当たる。意外とこれがあまり役には立たず、掘り出すのに苦労していた。村人を傷つけてはいけないので、掘り出すにあたっては、手で土を掻いていく方が効率的だったからだ。
そんな様子を見ながら俺は、残りの兵士たちに、敵に動きがないかを警戒させた。森には数百の人間がいるが、おそらくこれはダオラの軍勢だろう。ただし、こいつらに一切の動きはない。どうも、俺たちの動きを監視しているような雰囲気だ。
俺は敵の動きに注意を払いながら、結界を張っていく。言うまでもなく、助かった人たちを休ませる場所作りだ。村まではそれなりの距離があるので、ここで救助活動をした方が早いと判断したためだ。
その後、ウォーターの魔法で水を出して、飲み水と湯を確保する。村人はどの人も泥だらけだ。その汚れを落とさねばならない。急ごしらえではあるけれど、土魔法で大きめの小屋を二つ作り、そこにそれぞれ浴槽を作って水を張り、火魔法で温めて風呂を作った。
そうした準備が終わろうとしたとき、ようやく村人たちが救出され始めた。助かった者たちは順次、担架に乗せられて結界村に運ばれてくる。そこで水を提供されて水分を補給し、クリーンの魔法をかけられて服などの汚れをきれいにしてもらう。衰弱が激しい者は、ポーセハイらが看病に当たって回復魔法をかけたり、薬を与えたりしている。
救助された者の中で、比較的衰弱の穏やかな者を呼んで事情を聴く。連れてこられたのは、ファルセという若い漁師だ。
彼曰く、突然ダオラ軍が村に現れて、これからアガルタが侵攻してくるので、村人を全員避難させろと言ってきたという。いきなりのことで戸惑う村人。ダオラの者はただ、早く避難しろの一点張りで、どこに行けとも何とも言わなかったのだそうだ。たまらず村長が、
「いきなりそんなことを言われても困ります。どこに避難しろというのでしょうか」
と聞いたところ、その指揮官はブチ切れたのだそうだ。その男曰く、避難する場所がなければ、我らが連れて行ってやると怒鳴り、村人全員を強制的にこの場所に連れてきたのだという。すでにそこには夥しい穴が掘られていて、男は村人にその穴に入るように命令した。抵抗する者は殴られ、強制的にそこに入れられた。そうしておいて彼らは、アガルタ軍が引き上げた後で助けてやると言って、撤退していったのだという。
その話を聞いて俺は呆れかえってしまった。そんなことをして、どうやって国を統治していくというのだろうか。民衆の支持なくして国家は成り立たないものなのにと、首を左右に振った。
俺は兵士たちに炊き出しをして村人たちに振舞うように、指示を出した。




