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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第三十四章 失敗からの創造編
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第千百三十五話 アガルタ軍がふたたび現れたゾ!

アガルタ軍五千は、村を出発すると、まっすぐに王都を目指した。国王ブレイはすぐさま兵士に戦闘態勢に入るよう指示し、王都内の緊張は一気に高まった。


すでに城門のすべては閉じられ、城壁には兵士たちが犇めいていた。まさかこの状態で王都を攻撃してくるとは思わないが、相手はあの、アガルタだ。何をしてくるのか分かったものではない。新たな新兵器を携えている可能性すらある。徹底した防御態勢をとるに越したことはなかった。


王都の民は外出を禁じられ、町はまるで無人のごとき有様となった。つい昨日まで多くの人が行きかっていた光景とは、全く別のものがそこにあった。


国王ブレイは幕僚たちを伴って、アガルタ軍が向かってくる南門に向かった。最前線で指揮を執り、兵たちを鼓舞するのだと勇んで城を出たブレイだが、町のあまりの変わりように、彼は思わず馬を止めた。南門に到着するとすぐにその上に登った。そこからは黒い豆粒のようなものがこちらに向かってきているのが見えた。言うまでもなく、アガルタ軍である。


ブレイら幕僚たちは、城門の隙間から、まるで隠れるようにしてアガルタ軍の動きを監視した。彼らは威風堂々とこちらに向かって行軍していた。まるで調練のごとく四列に整列した騎馬武者や兵士たちが馬首をそろえ、槍の先をそろえて行軍してきた。それはまるで、閲兵式を見ているかのような有様であった。


その軍勢の先頭には、兜もかぶらずに茶色い髪を靡かせながら悠然と馬を駆るマトカルの姿があった。ブレイはその姿を目にとめてから、じっと彼女をにらみ続けた。だがマトカルはその視線には気づかずに、悠々と馬を進めた。


いよいよ南門に到達しようとしたそのとき、マトカルは突然馬首をアルレの方向に向けた。後ろに控えた軍勢も彼女に倣ってアルレに向かって歩いていく。それはまるで、アガルタの強さを見せつけているかのようでもあった。


彼らの纏う漆黒の鎧と、カシャカシャと鉄が触れ合う音は、彼らにいやが上にも先の戦いでの苦い敗北を思い出させた。幕僚の中には、実際に彼らと手合わせをした者も多くいた。戦ってみるとアガルタ軍の兵士たちは想像以上に強く、とりわけ、歩兵たちは束になってかかっても、敵の兵士一人すら討ち取れないこともあった。デウスローダの歩兵は、徴兵された兵士たちであり、その大半が農民の出であった。先の戦いでは、軍勢は揃ってはいたものの。歩兵の訓練は十分ではなく、いわば新兵に近い彼らが、漆黒の鎧を装備し、槍を片手に何人もの兵士を切り倒していく姿を見ては、恐怖心を覚えるのも無理はないと言えた。


だが、今回は違う。新たに徴兵した兵士たちは十分に訓練が行き届いている。前回のような、敵兵を前にして逃げだすような醜態をさらすことはない。幕僚たちは一様に心の中でそう考えていた。


一方で国王ブレイは、これが敵の示威行為であると考えていた。敵の狙いは二つ。一つは、デウスローダに前回の戦いを思い出させること、もう一つが、挑発行為である。


敵の軍が戦いもせずに、王都を目の前にして進路を変える。普通では考えられないことであった。これが、敵の兵力が自軍の数倍以上の規模を誇っているのであれば話は分からなくはない。だが、現在の状況はあべこべだ。ブレイの号令一下、デウスローダ軍が総攻撃に移れば、彼らはたちまち囲まれ、首を取られるのだ。そんな大きなリスクを冒す必要がどこにあるだろうか。ブレイはそう考えていた。そのとき、彼の思考を遮るように金切り声が響いた。


「父上! 何をしているのです! 敵は寡兵ではありませんか! 今すぐ全軍で攻撃すればよいではありませぬか! あなたたちも、何をしているのです!」


声の主はニーシャだった。彼女は父・ブレイとその周囲の幕僚たち交互に視線を向けながら口を開いている。顔が紅潮していた。


……以前の儂ならば、ああなっていたであろうな。


ブレイは心の中でそう呟いた。確かに、一見すると、全軍で攻撃を仕掛ければ、彼らを押し包み、殲滅することができるように見える。しかし、よく見ると、彼らの近くには森がある。おそらくこれは、城門が開かれると知るや、すぐさま彼らは周囲の森に逃げ込む算段なのだろう。そうなっては、敵を追い落とすのに時間がかかる。彼らは巧みに森の中を逃げ回り、デウスローダ軍をおびき寄せて、その隙をついて、開かれた南門から王都に攻め入るつもりなのだろう。


「小賢しい」


「は?」


思わず声が出てしまった。ニーシャは驚いた表情を浮かべている。


「いや、お前のこと言ったのではない、ニーシャ。小賢しいとは、アガルタ軍のことよ。われらをおびき寄せて、その隙をついて王都に攻め入ろうというのであろう」


「ならば、攻め入った敵は城内にいる兵士たちに討伐させればよろしいのです」


「そうなると、王都に被害が出よう。場合によっては王都の民にも被害が出るやもしれぬ」


「……」


「ニーシャ。この戦いは、われらが優勢なのである。アガルタは、わが軍が最も軽微な被害において倒さねばならぬ。そのために、幾通りもの作戦を考えたのではないか」


「国王様の言われる通りでございます」


幕僚の中で最も若いデアイゼルが片膝をついた。彼は先の戦いの後で幕僚に任命された男だった。


「アガルタがアルレに方向を変えたおかげで、われらは、最も被害が軽微となる作戦を実行することが可能となりました。お気持ちは痛いほどお察ししますが、王女様にあらせられては、ここは辛抱のしどころかと存じます」


久しぶりに王女様と呼ばれて、ニーシャはうれしさを隠そうと口ごもった。その様子を見たデアイゼルが再びブレイに視線を向けた。


「国王様、それでは、作戦通りにコトを進めるにあたり、まずは斥候をさらに放ってアガルタの軍勢を監視する必要があるかと愚考します」


その言葉に、ブレイは大きく頷くと、


「デアイゼルの言うとおりである。これから先は、アガルタ軍の一挙手一投足をも見逃すな。われらは一気呵成に敵をたたき、殲滅する。あの軍を率いるマトカルを捕らえたものは、望みのままの褒美を取らせる」


ブレイの声に、幕僚たちは大声で返答を返した。


◆ ◆ ◆


森を抜けるとアガルタ軍は陣を三段に変化させた。敵は部隊を五つに分け、先頭には相変わらずマトカルが率いているが、その後ろには二隊に分けた軍勢を二段に配置していた。


「押すも引くも自由、というわけか」


アガルタ軍の陣立てを聞いたブレイは、思わずそう呟いた。彼らの作戦は、アガルタ軍が広い草原に出る頃を見計らって数を頼んで押し包み、殲滅させるというものであった。だが、敵は陣を構えながらアルレに向かっている。いわば、組織的に撤退をしているのと同じ意味であった。ということは、こちらもそれなりに陣立てを考えてかからねば、大きな被害を受けることになる。各国の援軍が到着する前に、デウスローダ軍本隊の軍勢が半減していては、それこそ、顔向けのできないほどの恥をかくことになる。


こうなると、取るべき道は二つであった。軍を編成して城から打って出るか、アガルタ軍のアルレ入場を許すか、である。彼らのもともとの作戦は、数を頼んでアルレを包囲し、兵糧切れを待って開城させるというものであった。しかし、ブレイの心は揺れていた。彼もまた、武人である。華々しく戦場を駆けて敵の首を討ち取りたかった。興奮で自分の顔が紅潮しているのが自分でもよくわかった。


「父上! 頃合いではございませんか! 討って出ましょう」


声を上げたのはニーシャだった。彼女の顔もまた、紅潮していた……。

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