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結界師への転生  作者: 片岡直太郎
第三十四章 失敗からの創造編
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第千百三十一話 ヴィエイユがやり込められたゾ!

いえ、私どもがこの国に侵攻して手に入れてしまえば、自ずとこの建物は私の手に入りますわ、くらいの返しがあってもよさそうなものだが、さすがにそれは言いすぎだと思ったのか、ヴィエイユはそれから大人しくなった。


会議室に着くとすでに四人が着席している。ヴィエイユがいたのは予想外だったようで、ホルムが驚いた表情を浮かべていた。マトカル、クノゲン、ルファナは表情を変えなかった。ホルムはその点が今後の課題だが、こういう正直さは嫌いではない。むしろ、この性格が部下から慕われる要因となっているのだろう。


席に着くと、先ほどヴィエイユが話した内容を語って聞かせた。さすがに彼らはこの程度の話では狼狽えない。頼もしいなと心の中で呟きながら、ヴィエイユに補足をしろと促す。彼女は滔々としゃべりだした。


特に地図などは使っていないにもかかわらず、彼女の話は実にわかりやすかった。頭の中に地図が描かれているような、そんな感想を持つほどの話術だった。これは、参考にしたいが、なかなか難しいだろう。女性だが、噺家にすれば、相当のところまで行けるんじゃないかと下らぬことを考える。


「何か、質問などございますか」


喋り終えると彼女はそう言って俺たちを見回した。なるほど、美しい振る舞いと佇まいだ。惜しいな、これだけの美貌がありながら、彼氏の一つもできないとは。教皇という難しい立場である点を考慮しても、恋人くらいはできるだろうに、この小娘はそれすらもいない、というか、できないらしい。それはそうだろう。男の子をペットとしか考えていないし、逆に、アナタの奴隷になります、という男は興味がないときている。まともな、それこそ、それなりの男であれば、絶対に手を出さない女性だ。


一体、どうしてこんな風になってしまったのだろうね、と心の中で呟く。娘たちには、ゼッタイにこんな風になって欲しくはない。彼女たちにはいい男性に好かれ、いい男と結婚してほしいものだ。あ、エリルとピアは決まっているのか。


「アガルタ王様はいかがでございましょう」


突然指名されて、体が震える。


「特には、ない」


「それでは終わります」


そう言ってヴィエイユは席に着いた。なんだよ、学級委員みたいだ。


「あらかたの話はわかった。ヴィエイユにはこのまま迎賓館でしばらく滞在してもらう予定だ。追加で質問などある場合は、またよろしく頼む」


「承知しました」


「では、私が迎賓館まで送ろう」


そう言ってマトカルが立ちあがり、ヴィエイユの傍まで歩いてきた。


「いいえ、大丈夫でございます。こちらは何度もお邪魔しておりますから、一人で参ります。迎賓館に、私が逗留することだけをお伝えいただければ、結構でございます」


彼女はそう言ってテレたような表情を浮かべた。だが、マトカルはそれに取り合わなかった。


「さ、参られよ」


ヴィエイユは少し驚いた表情を浮かべたが、特に反論などすることはなく、唯々諾々と立ち上がり、彼女の後ろをついていく。俺たちはその様子を無言で見送った。


「イヤな女だこと」


ルファナちゃんが誰に言うともなく呟く。やっぱり、女子にはわかるんだなと、俺は思わず苦笑いを浮かべた。


◆ ◆ ◆


先導するマトカルは一言もしゃべらず、ただ、淡々と廊下を歩いていた。ヴィエイユはアガルタ王の妃の中で、このマトカルが苦手だった。喋らない、感情を表さないために、心の内を読むことが難しいのだ。加えて、この妃は雰囲気も変わらない。どこか冷たい雰囲気を醸し出し続けている。それは、下手に踏み込むと斬られかねない、そんな予感すらするのだ。


一体、アガルタ王はこの妃のどこを愛しているのだろうか。そんなことすら考えてしまう。ヴィエイユには、この妃とアガルタ王との房室を想像してみるものの、どうも確証が持てなかった。


彼女は堂々とアガルタ軍本部を出ると、市民たちがひしめく道を歩き始めた。軍本部の建物と迎賓館までは指呼の間だ。とはいえ、建物同士が通路などでつながっているわけではないため、どうしても一旦建物の外に出て迎賓館まで進まねばならない。大抵は馬車などを仕立ててそこに向かうし、これまでもそうやって送迎されていた。今回のように、市民が行き交う中を歩かされるとは、思いもよらなかった。


マトカルはこちらを振り返ることなく、淡々と歩き続けている。このまま自分が立ち止まると彼女はそのまま行ってしまうのではないか。そして、振り返ると自分がいない。そうなればどうなるだろう。狼狽える姿を見てみたいという欲求が沸き上がった。


そのとき、彼女は不思議な光景を目にした。マトカルの姿を目撃した市民が足を止め、ある者は小さく会釈し、ある者は帽子を取って挨拶をしている。彼女はそれに対して視線を送るだけだ。


挨拶をした者はそれが終わると再び歩き出す。道行く人はそう多くはないが、常にそんな光景が見られるのは、ヴィエイユにとって初めてのことであった。


考えてみれば、アガルタ王の妃が街を護衛も付けずに普通に歩いているというのも奇妙なことだ。もし、自分がアフロディーテの街を護衛も付けずに歩いたならば――それが実現する可能性は極めて低いが――道行く者はみな、恐懼して平伏するだろう。それは、教皇たる自分の顔を知らぬ者などいないからだ。ところが、ここアガルタではどうだ。マトカルの顔を知っている者でさえ、小さく挨拶する程度だ。それは、王と市民との距離が近いことを意味している。


王と市民との距離がここまで近いのは、アガルタ独自のものと言える。通常であれば、王は基本的に市民に姿を見せないことをよしとする。そうしておいて、想像の中で王を神格化させる方が、操りやすいからだ。ところが、アガルタはそうではない。そのメリットは何だろうか。それは「親しみ」ではないか。彼女はそんなことを考えた。


親しみを持って市民と接することによって、両者には信頼関係が生まれる。むろんそこには、王は市民に利益を与えるという行為が不可欠だろうが、現在のアガルタはそれが為されている。これは、クリミアーナで言うと、司教と市民との関係性に似ている。各世界に散らばった司教たちは、クリミアーナ教の教えを説くことを通じて、その地域の人々との間に信頼関係を築いてゆく。アガルタはそれを国単位でやっていると言える。


両者の間で信頼関係が構築できると、メリットは大きい。ただし、それが破綻すると、再構築は不可能となるし、下手をすると破滅になることさえある。言わば、アガルタはハイリスクハイリターンの手法を取っていると言える。


アガルタ王と、市民との信頼関係を崩せば、この国は放っておいても瓦解する。


ヴィエイユの中にそんな考えが頭をもたげてきた。どうすれば、信頼関係を破綻させることができるか。答えは簡単だ。市民への利益をとどめればいい。資金不足にしてしまえば、それはすぐに発生する。そうなれば、市民が、国民が王を見限るのは早い。反乱分子が跋扈して国内は疲弊し、最後に国自体が倒れるのだ。


そのとき、マトカルが不意に立ち止まった。どうやら迎賓館の入り口に着いたようだった。考え事をしていたヴィエイユは思わずマトカルにぶつかりそうになる。彼女はゆっくりとこちらに振り向いて口を開いた。


「どうか、なされたか」


「いえ。……ついつい、お腰の剣に見とれておりました。こちらは、新調されたのでしょうか」


「……まあ、そんなところだ」


「宝石を散りばめられた見事な鞘でございますね。きっと、剣自体も鋭い切れ味をお持ちなのでしょうね。もう、雰囲気がそんな感じを醸し出しております。それはアガルタでお作りになされたものでしょうか。あ、メイリアス様やコンシディー様がお作りになったのでしょうか。でしたら、その剣は天下第一のものでございますわね」


「ヴィエイユ殿」


「はい?」


「いくら褒めても、この剣は、そこもとのものにはならない」


マトカルの冷たい視線に、ヴィエイユは黙るしかなかった……。

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― 新着の感想 ―
両者の間で信頼関係が構築できると、メリットは大きい。 そこまで解ってるのにリノス達との間にソレが無い事を不思議に思わないコノ方w それとも破綻してるから再構築は不可能と思ってるからかね?
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