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ELEMENTAL ZERO   作者: 翼
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第6話、交わる旅路

「……だ、大丈夫…」

 女性は短く答えた。女性の顔は緊張からか少しこわばっていた。

「そっか。ならよかった」

 カイルは安心したように息を吐いた。

「俺はカイル。こっちはレオンだ」

「レオン・ヴァルガだ。よろしく」

「……ミレイア…セレン…」

「ミレイアか。よろしくな!」

レオンが手を差し出すも、ミレイアがその手を取ることはなかった。代わりに小さく頷いた。

 それきり、会話が途切れた。

 カイルは彼女が何か言うのを待っていたが、ミレイアは黙ったまま、通りの向こうへ視線を向けている。

 「喋るのは苦手か?」

 レオンが顔を覗き込みながらそう問いかけると、ミレイアは小さく顔を上下に振った。

「まあ、無事だったならよかったよ。それじゃ、俺たちは行くから」

「……待って…」

 立ち去ろうとしたカイル達を、ミレイアが呼び止めた。

「何だ?」

「さっきは…ありがとう、ございました」

 ミレイアはカイルとレオンに向かって、静かに頭を下げた。

「助かり…ました…」

「気にするな。困ってる人がいたら、放っておけないだろ」

 ミレイアは少しだけ目を伏せた。

 その表情に変化はなかったが、先ほどよりもわずかに警戒が薄れたように見えた。

「ところで、君は一人で旅をしているのかい?」

 レオンが尋ねた。ミレイアはコクッと小さく頷く。

「どこへ向かっているんだ?」

「しゅ、首都…」

 ミレイアはぼそぼそっとそう答えた。その言葉に、カイルが反応した。

「セレナスか?」

ミレイアは小さく何回も頷いた。

「本当か! 僕たちもセレナスに向かってんだ!」

 レオンは思わず声を弾ませた。

「だったら、一緒に行かねえか?さっきみたいに絡まれることも少なくなるだろうし」

 レオンはそう提案した。しかし、彼女の顔には困惑の色が見受けられた。

 恐らく彼女は他人と共に行動することが苦手なんだろう。少なくとも初対面の男たちに簡単に心を開くような感じではなかった。

「俺たちだって、別に君のことを無理やり仲間にはしないよ。けど、同じ道を進むなら、一緒に行ったっていいだろ?」

 カイルはそう言う。ミレイアから言葉が返ってくることはなかった。それでもカイルは、急かすことなく返事を待っていた。

「……分かりました」

 やがて、ミレイアが小さく口を開いた。

「首都…一緒…行く…」

「よし、決まりだな!」 

レオンはもう一度手を差し出したが、その手が取られることもなかった。

「喋りたくなければ、喋らなくてもいいよ」

 カイルはミレイアの事を見つめ続けた。少し間をおいて、ミレイアは小さく頷く。レオンはその様子を笑顔で見つめていた。

「……あなたたちは、いつから…一緒に…?」

「昨日からだよ」

「……昨日?」

 ミレイアの視線が、レオンからカイルへ移った。その言葉に驚きを隠せない様子だった。

「ああ、昨日俺とレオンが戦って俺が勝ったんだ」

「余計な事言わなくていいんだよ」

「だが事実だろう?」

「まあ、それには違いねえな」

 レオンは楽しそうに笑った。ミレイアは二人を交互に見つめたあと、わずかに息を吐いた。

「……変わった、方々…ですね」

「よく言われるぜ」

「俺は初めていわれたぜ!」

「何?カイル。お前は自分が普通だと感じているのか?」

「どういう意味だよ!」

 レオンの笑い声が、夕暮れの街道に響いた。

 ミレイアは相変わらず表情を変えなかったが、二人のやり取りを見つめるその瞳には、先ほどとは異なる柔らかさが見受けられた。

 こうして、三人の旅が始まった。


     *


 翌朝。

 朝日が山々の向こうから顔を出す頃、三人は宿場町を出発した。

 首都セレナスまでは、まだ結構な距離があった。

 街道は緩やかな丘陵地帯を抜け、広い平原へと続いていた。道路脇には通信設備が設置され、一定間隔で立つ監視カメラが通行車両を記録している。

 上空を飛ぶ輸送機の影が、草原を横切っていく。

「この道、思ったより整備されてるんだな」

 カイルが周囲を見渡しながら言った。

「首都に近くなってきてるからな。近くなるほど設備が整ってきやがる。」

 レオンは言った。

「特に軍備は外れとは比べ物にならねえぜ」

「軍備か……」

 カイルの表情が少し曇る。

 セレナが連れていかれた理由は、いまだはっきりしていない。兄ちゃんは元素神として連れていかれたと言っていたが、それが本当なのかは分からない。

 ただ確かなのは、彼女が最上級守護騎士に連れていかれて、国にとってとても大切な人であるということだった。

 国が彼女を守ろうとしているのか。それとも、別の目的があるのか。

 カイルにそこはわからなかった。

「……セレナ」

 拳を握りしめ、小さく名前を呟く。

「心配か?」

 レオンが尋ねた。

「ああ。あいつが今どうなってるか分からない。焦る気持ちはあるさ」

「そうだな、ペースを上げるか」

 レオンは前を向いた。

「でも、焦ってもいいことはない。相手は国の守護騎士、それも最上級だ。昨日の僕たちみたいに、簡単に勝ち負けが決まる相手ではないだろう」

「分かってる」

「だから、俺はもっと強くなる」

 その言葉を聞いて、レオンは満足そうに笑った。

「いいね。その調子だよ」

「……二人……いつも……こんな話……?」

 少し後ろを歩いていたミレイアが、口を開いた。

「ん?まあ、そうだな。特にカイルは四六時中強くなることを考えてるからな」

「おめえはどうなんだよ!」

「僕?もちろん考えているさ。次戦ったらもう負けないとな」

「……勝手にしろ」

 カイルは呆れたように肩をすくめた。

 ミレイアは二人の様子を見ながら、再び口を閉ざした。

 彼女にも、首都へ向かわなければならない理由がある。それは師匠に会うこと。

 そして、自分がどこまで成長したのかを、その目で確かめてもらうこと。そして、なぜ急にいなくなったのか教えてもらう。それが彼女の目的だった。

 しかし、その思いを初対面の相手に話すつもりはなかった。

 師匠は上級守護騎士として首都に仕えている。

 剣を教わり始めた頃、ミレイアは自分の未熟さを思い知らされてばかりだった。何度挑んでも触れることすらできず、当たったとしても簡単に受け流される。それでも、彼女は師匠に剣を振り続けた。

 強さとはどういうもので、剣を振るう意味とは何か。

 その答えはまだ見つかっていない。だからこそ、もう一度師匠に会いたかった。

「……ミレイア?」

 カイルの声で、彼女は我に返った。

「何……?」

「いや、ずっと下を向いているからさ。疲れてないか?」

「問題……ない……」

「そっか」

 カイルはそれ以上、何も尋ねなかった。ミレイアはほんの少しだけ、彼の横顔を覗き込んだ。彼は無表情で、ミレイアの事を何とも思っていないようだった。

 初めはもっとおしゃべりな人で、色々話しかけてくると思っていた。しかし彼らは、他人の事情を無理に聞き出そうとはしない。

 そんなところは、悪くないのかもしれない。

 ミレイアはそう感じていた。

 

     *


 昼を過ぎた頃、三人は街道沿いの休憩所に立ち寄った。

 そこには小さな食堂と売店だけが並んでおり、旅人や運送業者の者たちが休憩として立ち寄る場所だった。

 店先では、商人が小型端末を操作しながら商品の在庫を確認している。壁に設置された大型画面には、各地の交通情報や天候が表示されていた。

「ハイテクだな」

「ここはセレナスから色んなとこに行っても通る道だからな。あーゆーのが助かんだよ」

「確かにな」

 カイルはモニターのセレナスのところを凝視しながら答える。

「次の街までは、あとどれくらいだ?」

 カイルが売店の店員の方に振り向いた。

「歩きなら、三時間ぐらいだ。日が暮れる前には着けるだろう」

「ありがとな」

 レオンが手を挙げ、代わりに礼を言った。三人は食事を済ませると、再び街道へ戻った。

 途中、数台の軍用車両とすれ違った。

 車両にはサンドラ共和国の国旗が掲げられてる。装甲の厚い輸送車の後ろには、守護騎士を乗せた車両が続いている。

 カイルはその一団を見送った。

「……最近、軍の動きが多いのか?」

「さあな。少なくとも、平時の移動には見えねえけどな」

 レオンが答えた。

「首都……警備……厳しい……」

 ミレイアが静かに付け加えた。

「何か知っているのか?」

「街……聞いた……」

「なるほどな…」

 カイルは再び首都の方角を見た。

 セレナを連れ去った守護騎士。

 厳しくなる警備。

 偶然なのか、それとも何かつながりがあるのかは今は分からない。

「……とにかく、行こう」

 カイルは歩き始めた。レオンとミレイアもカイルの背中を見つめ、その後に続いた。


      *


 夕方。

 遠くに街の輪郭が見え始めた。

 街を囲む防壁は高く、入口には車両用のゲートと歩行者用のゲートが別々に設けられている。壁の上には監視設備が並び、街の外周を警備する兵士たちの姿もあった。

 首都へ向かう街道沿いにある、今までで一番大きな街だった。

「着いたな」

 カイルは額の汗を拭った。

「今日はここで休もう。さすがに疲れたぜ」

 レオンが大きく伸びをする。

「……賛成…」

 ミレイアも短く答えた。

 三人が入口へ近づくと、門の脇に設置されたゲートの前で、兵士が通行人の身分証を確認していた。

 カイルたちも簡単な確認を受け、街の中へ入る。

 通りには商店が並び、食料品や衣服、機械部品などを扱う店が軒を連ねていた。道の中央を小型の電動車両が走り、その脇を買い物帰りの住民が歩いている。

 街は活気に満ちていた。

「まずは宿を探そうぜ」

 カイルが言った。

「だな。荷物を置いて、飯にしようぜ」

「……その前……街……見たい……」

 ミレイアがぼそっと言った。

「何か用事でもあるのか?」

「物……買う……」

「なら、みんなで行こうぜ!」

「……一人……大丈夫……」

「そうか?じゃあ、宿で合流しようぜ」

 カイルはあっさり引き下がった。レオンが横から口を挟む。

「君、もう少し警戒心を持ったほうがいいんじゃないかい?彼女が一人で行くと言っているのに、何の心配もしないのか?」

「ミレイアが一人で大丈夫だって言ってるんだから、いいだろ」

「……そういうとこだぜ」

「何がだよ!」

 二人が言い合いを始める。それを見て、ミレイアは小さく息を吐いた。

「……後で…」

 そう言い残し、彼女は人混みの中へ消えていった。カイルはその背中を見送った。

「……変わった奴だな」

「お前がそれを言うか?」

「だから、どういう意味だよ!」

 レオンの笑い声が、街の喧騒に混じった。

 そのとき

 通りの向こう側で、宙に人が舞っていた。それと同時に男たちの悲鳴が聞こえる。

 カイル達が悲鳴の方向へ行こうとすると、人混みを避けながら、大柄な男がゆっくりとこちらへ歩いてくる。

 その表情は穏やかだったが、どこか近寄りがたい雰囲気をまとっていた。

 カイルは、なぜか目を離せなかった。

「……何者だ?」

 カイルが呟く。レオンも男に気づき、興味深そうに目を細めた。

「さあな。だが、ただ者じゃなさそうだ」

 男は二人の存在に気づいたのか、ふと顔を上げ、目を合わせた。

 


 第6話終了

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