兄と妹の暴かれた関係
「月が綺麗ですね」
ボクの前には大人の女性が立っていた。全裸で。
ここは修善寺の一泊一人二十万円する高級三つ星ホテル"修善寺ホテル"のスイートルーム。その室内にある露天風呂にボクはいた。
お風呂なんだから全裸は当たり前。なんだけど相手が付き合っている彼女のお姉さんなら話は別だ。
目が奪われる。はじめてみた母親以外の女性の裸。月あかりに照らされてとても綺麗だった。もちろんアニメや漫画の裸なんてオタクのボクは腐るほどみてきた。
だが現実の迫力は想像以上だった。具体的にいえばレーシングゲームで操るイタリアのスポーツカー"跳ね馬"とホンモノに乗るくらいの差があった。
「なんだ。家族以外の女の裸をみるのは初めてか」
「あ、当たり前じゃないですか」
顔をそむけながらなんとか答える。
「てっきり妹とそういう関係になっていると思っていたのだが」
「そんなわけないじゃないですか」
そういえば彼は純情童貞くんだったな。今度はわたしがハジメテを手にする番か。なんだか胸がときめく。死んだ旦那と結ばれた夜を思い出して体の芯がジュンとした。
「キミの子どもが産みたい」
「!?」
「キミが望むなら美少女フィギュアだろうが跳ね馬だろうが猛牛だろうが好きなだけ買ってやる」
「だから、わたしと生きてくれ」
彼との年の差は九つ。寿命ならおそらく先に逝くのは自分。もう最愛の人に置いていかれるのは御免だ。
「ボクには心に決めた人がいます」
「わかっている妹だろう」
「ええ」
たぶん店長は勘違いしている。彼女は自分の妹のことを言っている。ボクが言っているのは贋作の妹なのに。
「まあいい」
「わかってくれましたか」
「それなら奪うまでだ」
「え」
抱きっ
次の瞬間、彼女に抱きしめられていた。そして濃厚な口づけをされる。彼女にされる三度目のベロチューだ。
「好きだ。キミが欲しい」
「むーっ」
凄い力だ。なんでボクの周りには怪力ウーマンしかいないのだろう。
けれどそれだけでは終わらなかった。唇を離した彼女はボクの顔を自分の豊かな胸に沈めた。
(デッッツ)
「どうだ大きいだろう。好きにしていいんだぞ」
「むーむー!!」
苦しい。押しつけられた柔らかな肉の塊で息ができない。あまりの苦しさであげた右手が彼女の左胸をつかむ。
「あん」
(なんて柔らかいんだろう)
長湯でのぼせたうえに息ができないボクはそのまま意識を失った。
こより・・・
「妹です。姉に取り次いでください」
パイセンの運転する国産高級スポーツカー"オッサンNTRオスモ"は修善寺ホテルに到着する。
パイセンの予想はドンピシャだった。駐車場には横幅が大型トラックほどもある猛牛社の白い悪魔が鎮座していた。
確かにこのサイズは置く場所を選ぶ。
その隣に車を止め、ホテルのカウンターに飛び込む。
「はい妹様が到着されております」
「わかりました。ご案内いたします」
姉とホテルマンのやり取りの後、最上階のスイートルームに案内される。
コンコン
ガチャ
五秒とおかずにドアが開いた。
白いガウンを着た店長がいた。ガウンの胸元からは豊かなふくらみが見える。
「やあ恋敵たち」
「これが姉さんの正々堂々なのかしら」
「失敗した。彼は純潔なまま」
「お兄ちゃん!!」
わたしたちの横を彼の妹のこよりちゃんが部屋の奥に駆け抜ける。
普通の倍はあるふかふかなベッドにガウンを着た兄は寝かされていた。規則正しい寝息をたてている。
こよりは躊躇なく兄にルパン・ダイブをかました。お兄ちゃん、お兄ちゃんと泣きながら兄に抱きつく。
「お風呂でのぼせてしまったらしくてね」
「どうせお風呂で彼に迫ったんでしょう」
「ああ、でも"妹"が好きだとふられてしまった」
そのときだった。
「わたしを!?」
「ボクを!?」
妹と彼の妹の声が重なる。
おかしい。なにかおかしい。このボタンのかけちがえはなんだ。いや待てよ、妹には二種類ある。
わたしこと店長の妹であるパイセン。
家族である妹のこよりちゃん。
彼は一体、どちらのことを好きだといったんだ。
「そっか、ボクたち両思いだったんだね」
「「!!」」
「いただきまぁす」
姉と妹が振り返る。
こよりは寝ている兄に大人のキス(ベロチュー)をかましていた。
はい異世界シニアです。
さらって修善寺の続編となります。
なんとかR15でおさまる内容になったと思います。いかがでしたでしょうか。
とうとう二人の恋敵の前で強烈な宣戦布告をかましたこより。
けれど二人はまだこよりの秘密を知りません。ここらで暴露するのもいいタイミングでしょう。
次回サイドジョブ。三人寄れば姦しい。
修善寺逃避行はもう少し後になりそうです。