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第三十二話「羞恥心」です


 オリーブくんを見送ってしばらくして、私達はついに洞窟の入り口まで戻ってくることが出来た。 


 自然の光に愛しさを思い出しつつも、その懐かしさに浸る余裕はない。


 ソレイユ様が展開した小さな魔法壁がそこにあって、やっと戻ってきたのだと改めて実感する。


「これ、置いたままでいいのかな?」


 ソレイユ様を抱えたまま独り言を溢して、私はその魔法壁の中へと脚を踏み入れる。

 暖かさを感じるような空間で、溜息にも似た息を一息吐いた。


「これで王妃様の命を、達成したことになるのかな」

 

 ソレイユ様の話では、王妃様はこの龍穴という場所で、何が起こっていたのか分かっていたと推測出来る。


 そこに手負のソレイユ様が素人の私を連れていった場合に、どうなるか想定出来ない訳ではないだろう。


 どこまで見越して、私にこんな命を出したのか。

 どこまで見通して、この命を達成した際には聖女候補生として正式に推薦する、などと言ったのか。


 王妃様の思惑がどうであろうとも、私は「してやられた感」を隠し切れない。


 怖い思いも恥ずかしい思いもしたけれど、あんな風にソレイユ様と笑い合って、助け合って、達成感が芽生えていない訳がない。

 

「でも私には、無理かなぁ」


 それでも、この恥ずかしい魔法を曝け出すことが出来なかった。

 ソレイユ様になら見せる事が出来るかもと思ったけれど、仮に聖女候補生だなんて立場になった日には、人前で使わなければならない時が来る。


 そんな時に羞恥心に惑わされて、判断や詠唱が遅れて誰かを救えないシチュエーションがあり得る以上は、責任を持ってやりますと言えない以上は、請け負うべきではない。



「だからごめんなさい、私はシルヴァディア王国に戻りません」



 目を瞑ったソレイユ様に語り掛けてみても、当然ながら返事はない。

 それでも良い。自己満足でも、ソレイユ様には伝えておきたかった。


「ソレイユ様の魔法、とっても格好良くて暖かったです。貴方みたいな詠唱の魔法だったら、ソレイユ様達と何かを目指せたのかも知れないけど、私には無理でした」



「隠し事したままで、ごめんなさい。ソレイユ様にだけは言っておきたかったけど、結局言えずじまいで」


 笑っているつもりなのに、目の奥がじんわりと痛む。


「失礼な事ばっかり言っちゃった気がしますけど、ごめんなさい。でも同年代の友達が出来たみたいで楽しくて、もっと仲良くなりたかったです」


 こんな事なら、ソレイユ様が起きている間に言えば良かった。

 

「小さくても、誰かのために頑張る人。お洒落な格好や髪型を自信満々に見せられる人。暗闇でも誰かを照らす太陽みたいな人。そんなソレイユ様みたいな人に、私は憧れます」


 ――いや、そんな事は叶わないか。

 起きていると知っていたならば、こんな恥ずかしい事言える訳がない。


「だから、だいすきです」


 それは私の魔法の詠唱なんかよりもずっと恥ずかしい、魔法みたいな言葉。

 それを言うだけで心が満たされもし、空っぽになったりもする。


 顔を赤くした私は、ピクリとも動かないソレイユ様の吐息を確認して、ゆっくりと腰を下ろした。


 緑の草と赤い花が散りばめられたそこに、私はソレイユ様を寝かせる。


 ソレイユ様が私のために置いてくれた魔法壁に、ソレイユ様を置いて行くのだ。


 母と妹には、やっぱり駄目だったと伝えよう。そんなに期待もしていないはずだし。

 そもそもあの二人が軽はずみに聖女試験なんてものに応募するから、ソレイユ様がこんな目にあってしまった気さえする。


 王国の方から馬に乗った兵士達がこちらへ向かってくるのが見えた。

 オリーブくんが、助けを呼んでくれたのだろう。


 このままここに居ればこの先、龍穴と言う場所が調査されて、再び私は事情聴取を受ける事になるのだ。

 真実を語れないまま、色んな人を混乱させてしまう。


 だから、私なんてここに居ない方が良い。 

 聖女候補生様達の脚を引っ張ってはいけない。掻き乱してはいけない。


 私は赤い目を擦って、立ち上がる。

 既に橙色の光は薄れてきていて、ソレイユ様の魔法の制限時間が近い事を示していた。


「さよならです、ソレイユ様」


 だからこの魔法が続く限り、なるべくここから遠くへ。私の住んでいる村へと進もう。

 後の事はなんとかなる。私は、ソレイユ様に沢山の事を教えてもらった。


 ソレイユ様に背を向けて、私は北の方角に向けて歩き出す。

 王国を迂回していけば、誰にも見つからないはず。



 これはたった二日間の私の、恥ずかしくも壮絶な物語。



 こんな魔法が使えること、こんな体験をしたこと。

 いつか笑って、話せるようになるといいなと思う。






「あんた、つまんねぇ冗談はよせ」



 ソレイユ様に最初に掛けられた言葉もそうだった。

 最初は冷たい声に感じたけれど、今じゃ全然そうは感じないのはどうしてだろう。



「まだやり残した事、あるんだよ」



 そんな事、あったっけ。



「あんたにもこの髪型、やってやるから」



 ソレイユ様の片側だけ結った髪型。

 折角言ってくれたのに、あの時なんで断ってしまったんだろう。


 思い出作りにやって貰えば良かった。そんな経験、今後味わえないだろうし。


「って、えぇっ!?」


 その声が幻聴ではない事に気付いた私は振り向いて。



「自分だけしたい事して、言いたい事言って、勝手に行こうとしてんじゃねぇ」



 倒れたままそんな風に言うソレイユ様に、笑って言葉を返す。


「ということは、お揃いみたいにしたかったんですね?」

「ま、同じようにしたところであたしの方が可愛いけど」


 真顔でそんな事を言える度胸が、本当に羨ましい。

 ソレイユ様は私に持っていないものをいっぱい持ってて、素敵だ。


「あー、もう断ったりすんなよ」

 

 いつものように気だるそうに言うソレイユ様の声が、何だかくすぐったい。

 その気持ちを私は、なんと呼べばいいのか未だに分からなかった。



「はい。私のこと、ソレイユ様みたいに可愛くしてください」



 そんな恥ずかしい台詞を吐くと、心の中には羞恥心がとめどなく溢れる。



 でも、あなたと居ればちょっとだけ、紛れる気がします。



 だからもう少しだけ、一緒に居させてもらおう。

 

 私の「羞恥心」が許すまで、もう少しだけ。

 

 

これにて、本作は一旦の完結となります!


こうしてひとまずの完結まで描き続けられたのは、皆様のお陰です。物語とお別れするのが寂しく、続きもいつか書きたいと構想中です。


ここまでブランとソレイユを応援して下さり、本当にありがとうございました!


しばらくしましたら後日談を投稿致しますので、ブックマークは良ければそのままにしてくださいませ!


また、よろしければ最後に皆様への願いです!

少しでも「楽しかった」「応援したい」「ブランとソレイユが好き」と思って下さった方がいらっしゃいましたら、


ページ下部↓の広告の下にある

☆☆☆☆☆を★★★★★にして下さったら嬉しいです!


本当に本当に励みになります。

そして連載中にブクマや評価、各話の応援して下さった方に、改めてお礼を申し上げます。


また新しい物語や、いつかの続きでお会いできますように!

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