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第五話 魚

 教会本部とやらに到着し、でかい神殿みたいな建物の中へと入った俺達は、貴族とか王族とかが招待されるであろう豪華な応接間に通された。


「ここで待っていてください、少しだけですので」


 そう言ってロンウィは部屋を出ていく。

 部屋には俺とコフィだけ。


 コフィが落ち着かない様子で言った。


「なんて豪華な部屋……こんなところに来て怒られたりしない、よね」


「部屋に案内してくれたのはロンウィだし、別に大丈夫だと思うけど」


「そうかな」


「それにコフィは聖女だし。実際これぐらいのもてなしを受けるのが普通なんじゃないか?」


「そうね。確かに。でも、その通りなら魚はこの部屋に入れないはずだけど?」


「まあ魚は入れないだろうな……ってもしかしてそれ俺の事言ってるのか」


「ジン以外に誰がいるのよ」


「ちょっと待て、流石にそろそろ訂正させてもらうぞ、俺は魚じゃないからな。俺の天命は――」


「待って言わないで」


「なんでだよ」


「勘違いしてるならそれでいいじゃない」


「いやダメだろ」


 するとコフィは、少し言いにくそうに言う。


「だって……魔王討伐って危険なんでしょ?」


「まあ、そりゃあな」


「でも、勇者って強制参加だよね」


「参加しないとロンウィに燃やされるな」


 多分どんな事情があろうと、あいつは容赦しなさそうだしな。


 と、コフィがぽつりと言葉をこぼした。


「じゃあ……いいよ」


「いいって何が」


「今のままで……勘違いしたままでいい」


「ええ、よくないだろ」


「私はその方がいいの!」


「なんでだよ。コフィは結局勇者パーティに入らなきゃならないんだぞ? 結局同じじゃないか。危険なのは」


「ジンだって危険じゃない」


「それはそうだけど、そしたらコフィは俺と会えなくなるかもしれないんだぞ」


「分かってる。でも……その方が心配しなくていい」


「俺が心配するって」


「いいからどっか行っててよ」


「そんな言い方――」


 することないだろ、と言おうとしてコフィを見て、俺は口が止まった。


 コフィの目に、少し涙が溜まっていた。


「お願い……心配させないで」


「…………」


 これは分かっていたことだ。

 記憶の中では、俺は昔から弱かった。

 体力もなく、筋力もなく。

 人と話すのも下手で、何か特技があるわけでもない。

 その割に自分の身をあまり大事にせず、危険なことがあればいつも飛び出して。


 勇気ある行動だが、逆に言えばその行動には勇気しか無い。

 俺は勇気以外何も持っていない、そんな人物だった。


 それをいつもそばで見ていたコフィには、何度心配をかけたことか。


 でも、今まではそれで良かった。勇気と努力でどうにかなる問題だったから。

 しかし、魔王討伐というのは違う。

 勇気があっても、努力しても、それで万事解決、というふうにはならないだろう。


 俺が一人飛び出した時に、コフィは何も出来ない。

 それが辛いのだろう。それが何よりも耐え難いのだろう。


 コフィは頭がいい。だから、そうなることを事前に分かってしまう。

 俺と一緒にいれば、俺が危険にさらされる。

 だから、嫌でも、離れる。離れるしか無い。

 誰でもない俺のために。


「……コフィ」


「なによ」


 ちょっと強気で時々毒舌なコフィは、本当は誰よりも優しいのだ。


 俺はコフィの頭をぎゅっと抱きかかえた。


「っ!? ジン、えっ……」


「わかったよ。今回はコフィの言う通りにする」


「……うん」


「けど」


 下から涙目で見上げてくるコフィの目をしっかり見る。


「何かあったら、ちゃんと俺を頼ってくれよ。俺も心配するんだから」


 むぅ、と不満げなコフィ。


「……いっつも私が頼られてるのに、こういう時にそういうことを言うのはずるいわよ」


「そうか?」


「でも……」


 コフィはにひっと笑って言った。


「……ありがとう」


 その笑顔が綺麗で、一瞬見惚れそうになったけど、俺はそれを顔に出さないようにして言う。


「どうたしまして」


 俺の腕の中で笑う少女は、今まで出会った中でも一二を争う美少女で、そしていい子だった。


 まったく、俺には過ぎた幼馴染だな。


 と、その時部屋のドアが開いた。

 いつの間にかコフィは俺の腕から抜けて椅子に座っていた。

 素早い。


 扉からは優しげな目つきの修道服を来た初老の男性と、その後ろからロンウィが入ってきた。


 部屋に入って早々に、初老の男性は感嘆の声を上げる。


「おお、これが今代の聖女様で間違い無いのか、ロンウィよ」


「そうです、大司祭様」


 コフィが困惑気味の表情で言う。


「えっと、誰ですか?」


「おお、申し遅れましたな」


 初老の男性は優しげな表情で自己紹介する。


「私はリンネル。デウス教の大司祭と言えば良いですかな?」


「だい、しさい……」


 リンネルは優しげに笑った。


「ハハ、難しいのであれば、ロンウィの上司だと覚えておいていただければ」


「そうね、そうするわ。それで、何をしに来たの?」


「簡単なことです。貴方が聖女であることの確認と、勇者パーティへの登録、だけですなあ。すぐ終わることです」


「そう……」


 その時、ロンウィが驚きの表情を浮かべて俺を指さした。


「なんで魚がまだここにいるのですか!?」


「は? 俺?」


 怒りの表情で俺に近づくと、ロンウィは俺の腕を引っ張る。


「魚はここにいてはいけませんさっさと外に行きなさい!」


「ちょっと、ジン!?」


 コフィの声が聞こえてくるがロンウィは完全に無視。


 あれよあれよという間に、俺は神殿の外、人々で賑わう大通りへとほっぽりだされてしまった。


「ちょ、コフィは?」


「彼女は私達が保護した上で様々な事務処理をしていただくので安心してください」


「え、じゃあ勇者パーティは?」


「魚は一般枠でも受けていてくださいこっちは忙しいのでそれでは!」


 嵐のような勢いでそう言って、ロンウィはさっと姿を消す。


 そして一人、人々で賑わう大通りにぽつりと、俺だけ。


「……どうするか」


 なんだか面倒なことになった気がした。


 その時、遠くから一人の男が近づいてくるのが見えた。


「おーい!」


 それはいつぞやのイケメン変態ウィル。

 俺は早速逃げる準備を始めた。


「ち、ちょっと逃げないで!」


「嫌だね」


「昼飯奢るから!」


 俺は逃げるのを瞬時に止めた。


「それを先に言えよウィル」


「お、おおう、そうだったかい」


 若干動揺しているウィルに、俺は質問した。


「なあ」


「うん? なんだい?」


「勇者パーティの一般枠って、どうやったら入れるんだ?」


「おお、まさか君も勇者パーティに?」


「まあ」


「それなら、昼飯を食べてから僕も行こうと思っていたところなんだ! 一緒に行くかい?」


「頼む」


「やった! 一人で行くの寂しくて、だけど誰に声をかけても一緒に来てくれるって人が一人も居なくて困ってたんだよ!」


 悲しいやつだな。


「なんでだろう、女の子に声をかけてパンツ見せてほしいなって言ったのが間違いだったのか?」


「いやそれしかないだろ。どうして今まで疑問に思わなかった」


「僕はこれでも一応イケメンだからね」


 キリッ、とキメ顔で言ってくるウィル。今すぐぶん殴りたい。


「よし、行くか」


「ええ、スルー!?」


 そうして俺は、ウィルと一緒に歩き始めた。

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