第十八話 フードの男VS神速・スピード
場所は戻って再びVIP席。
ロンウィ、コフィ、ウィル、ライオネアスの四人が、次の試合開始まで待機中である。
「あの男はBブロックの代表ではないのか? 勇者と名乗った俺を前にしてあれほど自然体でいられる人間は久しぶりに見たぞ」
ライオネアスが一人愚痴る。
勇者、と聞けば一般市民は敬意を払い、崇める。
いつもどおりにしろと言ってもできないのが普通だ。
ライオネアス自身、何度もそういう場面に遭遇してきたからこそ、その異常さが身に染みて感じられた。
しかし常識が通用しないのがジンである。
ジンも本当は勇者である。敬意を払う側ではなく払われる側だ。
その上、強さで言えばライオネアスを上回る。
金銭面では不安しか無いものの、それ意外なら何も負けていない。
加えて勇者だ聖女だと言う前にジンは転生者である。転生のエキスパートである。
世界を救ったことは何度もあるし、勇者パーティーに入った経験ももちろんある。
直近の転生前の人生では、魔王となって勇者に倒されてすらいる。
今更”勇者”だと言われたところで、特に驚く要素は一つも無いのである。
ライオネアスにとっては完全に地雷となる男、それがジンだった。
「しかし、彼も事情があるのでは」
「ロンウィ、事情があっても彼の行動は解決すべき問題だ。あのままでは無駄に敵ができてしまう。俺たちは敵を倒すための存在だろう? 敵を作ってどうするんだ」
「敵を作ってでもなさねばならぬことが世の中には存在します」
「例えばなんだ?」
「信仰です。デウス神を信仰することは何よりも優先されます。神よりお告げがあれば、この身を裂いてでも成し遂げなければならないのです」
「そ、それはだな」
「まさかあなたは神を否定するのですか?」
途端、いつの間にか現れた光の金槌が、ロンウィの右手に握られる。
「いや、違う、言い方が悪かった。神を信じることは大事だから、それを優先しなければいけない者はパーティーに入れるべきではないとそう――だからそれを仕舞うんだ」
「……まあ、いいでしょう」
狂信者である。
現在は床に置かれているウィルも、金槌を目にして少々の恐怖を感じている様子。
「あの魚のことは今考えなくてもいいでしょ。今は、試合を見た方がいいと思うわ」
そう言うコフィは、なんとかジンを話題から離そうと必死だ。
「そう、だな。今は試合だ。次のメンバーが誰になるのかも、しっかり見届けなければならない」
ライオネアスはコフィの言いたいことを察したようで、適当に合わせる。
全員の視線が闘技場へ。
『よう! 観客席、盛り上がってるかー!』
実況席からの紹介が入る。
『早速紹介してくぜ! Cブロックを勝ち上がって来たのは謎に包まれたフードの男、デルモン!』
闘技場の片側から、フードを深くかぶった男が歩いてくる。
「……あの男か」
「あの人……」
ライオネアスとコフィがほぼ同時に呟く。
「分かるのか?」
「え、えっと、あの人、少し嫌な感じがして……」
「……そうか」
二人とも頭の中に思い浮かべるのは、フードの男がバトルロワイヤルで使った魔法。
普通の人間には速すぎて分からない、強力で無慈悲な闇魔法の存在。
『年齢不詳! 出身不明! 得意戦術は秘技! 天命は秘密だとよ! 何もかも謎に包まれてるな! だけど強けりゃ良い! 勝てばいい! 意気込みは「王のために」だそうだ! 意味不明だな!』
まさか、無いだろう。
と胸中で考えつつ、二人とも最悪なことが起きてしまうのではという不安が拭えないのである。
『そしてDブロック代表! 皆もご存知の二つ名持ち、神速・スピード! 二十一歳、迷宮都市クレイア出身の現役冒険者だ! 得意戦術は速攻! 天命は細剣士! 意気込みは「一瞬で勝利を掴む」だそうだ! 期待させてくれるぜ! 頑張れよ!』
コフィの不安は徐々に大きくなる。
ライオネアスはなんとなく腰の剣を握る。
しかし、何をしようと何を考えようと時は進み。
『それじゃあ……はじめえええっ!!』
試合が始まった。
直後、得意の細剣術でフードの男の太ももを狙い攻撃するスピード。
一瞬だった。
初撃にして必殺。
圧倒的不意打ち。
避けられるはずもない。
当たれば致命傷。動けずに、敗北宣言。
細剣は服を貫き、そして太ももに刺さった。
――勝った。
スピードが確信した次の瞬間、奇妙なことが起きた。
刺さった細剣が抜けないのである。
ならもう少し刺せば、と考え押し込もうとするも、動かない。
上下左右、どこにも全く動かないのだ。
焦るスピード。
すると、フードの男は口を少し開く。
「クッ……クハハハッ」
それは笑い声だった。
「クハハハハハハハッ!」
「な、何がおかしい!」
スピードは剣から手を離して距離を取る。
男は大声で笑い続ける。
異様な光景。
誰もが男の奇行に目が釘付けになっていた。
男は十秒以上笑い続けると、唐突に笑うのをやめた。
そしてスピードのことを凝視した。
感情が抜けてしまったような虚ろな表情で。
「ふざけているのか」
そう言った。
「お、お前こそ、試合中に何を」
「ふざけているわけではないのか」
男はゆっくりとフードを取った。
その頭には、禍々しい三本の角。
「あ、悪魔!?」
ざわめく会場に反応すること無く、男は口を動かす。
「これが冗談でハ無いとすレば、私は一つ学ンダことニなル」
その表情は――怒り。
「人間は恐るるニ足リナイ、ト」
瞬間、男の体が膨張した。
紫色のオーラがその体を包む。
地獄の門から出てくるような唸り声と共に変形。
バキバキと腕が太くなり、膨らんだ筋肉から血管が浮き出る。
吹き出る闘気は床にヒビを入れ、あふれる魔力は周囲に恐怖をもたらす。
少しして、男の体の変化は終わる。
紫色の肌。漆黒の翼。血の色に染まった目。
このような姿をした存在を人々は。
”悪魔”と呼ぶ。




