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ブラック給食室の監獄。〜2人きりでモラハラを繰り返す新人潰しチーフに負けず、異動先で幸せを掴むまで〜  作者: S@Y@


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第23話:27センチの救世主と、新しい仲間たち


会社から支給されるエプロンは、全部で3枚。

そのうち2枚をローテーションで使っていて、残りの1枚は新品の袋に入ったまま、一度も使わずにロッカーの奥へ大切にしまっていたのだ。

けれど、この目の前の段ボールに入っているのは、他人の名前が書かれたクタクタの1枚だけ。


そして、靴。私の足のサイズは25センチなのに、段ボールの中から出てきたのは、どう見ても24センチ以下の、つま先が擦り切れたボロボロの長靴だった。

調理用の安全靴も同じように薄汚れてボロボロ。そもそも24センチなんて、足を押し込もうとしたって入るわけがない。


(……こんな形になっても、あのチーフは私を攻撃してくるんだ……)


底知れない悪意に、胸が締め付けられるように悲しかった。今すぐ涙が溢れ出しそうだった。

自分の大切な新品の道具たちを奪われた悔しさ。それなのに、新しい環境に飛び込んだばかりの私は、まだここで誰も頼れる人がいない。

せっかく「最強の布陣」に背中を押してもらってここまで来たのに、スタートラインに立つ寸前で、私の心はまたペシャリと折れそうになっていた。


マネージャー「……野崎さん、どうかしましたか?」

野崎「えーっと……エプロンと……靴が……どうやら私のものじゃないみたいなんです……」

マネージャー「えっ!? 僕が前の学校に引き取りに行くまでに、野崎さんのロッカーの荷物は全部段ボールに詰めて置いておくように、確かにチーフへお願いしてあったはずなんですが……」

野崎「エプロンも、2枚とも私の『〇』っていうサインじゃなくて、全く違う方の名前が書かれています。でも、前の学校にいた調理員さんたちの名前でもないので、おそらく過去に辞めた方か異動した方の古いエプロンを詰められたんだと思います……」

マネージャー「ええっ……。じゃあ、靴の方は大丈夫ですか?」

野崎「靴も私のものではなくて……。サイズも全く違っていて、履くことすらできません……」

マネージャー「……はぁ。どうしよう……」


マネージャーはほとほと困り果てたように眉を下げ、段ボールの中身を見つめて立ち尽くした。


するとその時、それまでずっと横で気だるそうに黙って成り行きを見ていた男のチーフが、突然ガタッと椅子を蹴立てて立ち上がった。そして、会社支給のスマホを引っ掴むと、もの凄い勢いでどこかへ電話をかけ始めたのだ。


チーフ「もしもしぃ。〇〇中学校給食室の〇〇(チーフの名前)ですけどぉ。あーはいはい、どーも。あのさぁ、そっちにいた野崎さん、今日からウチで働くことになったんだけど。マネージャーが引き取ってきた荷物、これ野崎さんのじゃないんだわ。全部、違う人のゴミみたいな荷物になってんだけど。……え? エプロンも靴も、サイズから何から全部違うよ、うん。野崎さんが使ってたやつ、どれか分かんないって? 本人はポケットの裏に『〇』ってサインしてたらしいんだけどさ? あー、ちょっと探してみてくれる?」


空気がピリッと張り詰める。チーフは電話の向こうの相手――あの前学校の女チーフに向かって、気だるげなトーンのまま、けれど一切怯むことなく淡々と詰め寄っていた。


チーフ「あー、はいはい。……ある? エプロン。『〇』って書いてあんだよ? ……へー、そんなの無いって言い張るんだ。アンタの学校、やってることが本当におっかしいなぁ。……まぁいいわ、分かった。こっちで何とかするからもういいわ。じゃ」


ブツッと一方的に電話を切り終えたチーフは、そのまま自分のロッカーへと向かった。

ゴソゴソと奥の方を弄り回して何かを取り出したかと思うと、それを私の目の前にポイと差し出した。


チーフ「はい、これ。俺の予備だけど、まだ袋から出してない新品だからさ。とりあえず今日はこれ使ってくれる? 1枚あれば、今日の調理は何とかなるから。……あの学校のチーフなぁ、昔から本当に意地悪ババアで有名なんだよ。お前、何も気にすんな」

野崎「え……っ、でも、これチーフの大切な予備じゃ……。私が使っちゃったら、チーフが困りませんか……?」

チーフ「あぁ? 俺は今日、午後に事務所へ行く用事があるからさ、そこで新品のエプロン2枚分、会社に直接ガメて貰ってくるからよぉ。何の問題もない、大丈夫だ」


この時点で、私の目頭は熱くなって、本気でボロリと涙がこぼれ落ちそうだった。

「気にすんな」なんて。こんなに真っ直ぐに私の味方をして、優しく守って貰えたのなんて、この会社に入ってから本当に初めてのことだった。


チーフ「あとは、問題は靴だなぁ……。俺の新品の長靴をあげてもいいんだけど、俺の足27センチだからなぁ。野崎さん、足何センチ?」

野崎「私は25センチです……」

チーフ「床が濡れてる調理室で、2センチもブカブカな靴履いて動くのは滑って危ねえからなぁ……。これ、どうすっかなぁ」


チーフが頭を抱えて悩んでいる、まさにその時だった。

休憩室の扉がガラガラと開き、他の調理員たちが一気に出勤してきた。


「おはようございまーす!」と入ってきたのは、総勢5人のお姉さんたち。

私はハッとして背筋を伸ばし、一歩前に出て頭を下げた。


野崎「今日からこちらでお世話になります、野崎です。一生懸命頑張りますので、よろしくお願いいたします……!」


調理員(27歳)「あ、〇〇でーす! よろしくお願いします!」

調理員(28歳)「〇〇です! よろしくねー!」

調理員(23歳)

調理員(23歳)「〇〇です。よろしくです」

調理員(28歳)「〇〇と言います。分からないことあったら何でも聞いてね」

調理員(31歳)「〇〇って言いますー! やー! また若い人が入ってきてくれて超嬉しいねー!」


――心底、びっくりした。

前の学校の厨房は、周りを見渡しても50代から60代以上の、お局感漂うおばさんたちばかりだった。

なのに、この〇〇中学校のメンバーは、全員が20代から30代前半という、驚くほどの若さだったのだ。

しかも、全員が眩しいくらいの満面のニコニコ笑顔で、快く私を迎え入れてくれた。


(あったかい……。みんな、すごく優しい……)


それだけのことで、また目頭が熱くなって泣きそうになっている自分は、やっぱり前の職場で心が弱りすぎていたのだろうか。


調理員(31歳)「あれー? チーフ、朝からなんかもの凄く難しい顔してますけどー、一体どうしたんすかー?」

チーフ「あー。前の学校のチーフの奴がさぁ、野崎さんの荷物を全部、意地悪して違う人のボロい私物と送ってきやがってなー。エプロンは俺の予備でどうにかなるけど、靴のサイズが合わなくて困ってんだよ」


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