表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブラック給食室の監獄。〜2人きりでモラハラを繰り返す新人潰しチーフに負けず、異動先で幸せを掴むまで〜  作者: S@Y@


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/24

第14話:暴露のノートと、マネージャーと涙


マネージャーへ伝えるべき言葉を頭の中で整理するのにいっぱいいっぱいで、野崎の意識は完全に現場から乖離していた。

熱湯の張られたシンクに何度も不注意で腕を突っ込んでしまい、ジリジリと焼けるような火傷を負う。調理台の角に思い切り膝を強打し、その場にうずくまって悶絶する。


(痛い……。でも、それどころじゃない……)


完全に集中力を欠いた状態だった。

生きた心地のしないまま、なんとか気力だけで施設の清掃作業までをやり切った、その時。約束通り、救世主のようにマネージャーが厨房へと姿を現した。


マネージャー「お疲れ様です! すみません、ちょっとお渡ししたい書類があるので、野崎さんを少し休憩室にお借りしてもいいですか?」

サブチーフ「あ、どうぞどうぞ〜!」

調理員「こっちの残りの作業はやっておくから、行っておいで〜」

野崎「ありがとうございます……!」


ついに、ついに、この時が来た。


押し寄せる強烈な緊張と不安が混ざり合い、胸の奥からせり上がるような吐き気が野崎を襲う。「心臓が口から飛び出そう」という表現があるけれど、今の状態はまさにそれそのものだった。


誰もいない休憩室に入り、マネージャーと向かい合わせでパイプ椅子に座る。


マネージャー「えーっと。お話というのは、一体……?」


野崎はゴクリと唾を飲み込み、震える拳を握りしめて真っ直ぐにマネージャーを見つめた。


野崎「……単刀直入に言います。チーフからの執拗なイジメに耐えきれず、私はこの職場でこれ以上、仕事を続けることができません」

マネージャー「イジメ……。それは、どのような……?」


野崎はカバンから、昨夜涙を流しながら書き殴った一冊のノートを取り出し、机の上に静かに滑らせた。


野崎「このノートを見てください。入社してから今まで、チーフから浴びせられた暴言や、私がされてきた理不尽な仕打ちが、日付と共にすべて書いてあります」

マネージャー「……では、お借りしますね」

野崎「……っ」


マネージャーがノートの表紙をめくる。その紙の擦れる音が響くたび、野崎の心臓が物理的に雑巾のように絞られるみたいに痛んだ。

1ページ、また1ページと読み進めるにつれ、マネージャーの顔つきがみるみる険しく、深刻なものへと変わっていく。その張り詰めた表情を見ていられなくて、野崎はたまらず視線を落とし、俯いてしまった。


やがて、すべてのページを読み終えたマネージャーが、ゆっくりとノートを閉じ、野崎の肩にそっと温かい手を置いた。


マネージャー「……本当によく、頑張りましたね……」


野崎「……っ。はい……でも、もう私……あのチーフに会うのが、本当に怖いです……っ」

マネージャー「これは、あまりにも酷すぎる。許されることじゃありません」

野崎「一人で最後までやれと言われて、ミスなく完璧にやり遂げても『新人のくせに驕るな』と難癖をつけられたり……。それに、マネージャーのように役職が上の方の悪口を平然と言い放って、周りに賛同を求めるような人なんです。人間として、もう限界です……」


マネージャーの前で泣き崩れたらダメだ。涙で言葉が詰まって、伝えたいことが伝えられなくなったら困る――。そう自分に言い聞かせ、野崎はスカートの上から自分の膝を、ちぎれんばかりの力でギュッとつねり続けた。

声はどうしても震えてしまったけれど、マネージャーは遮ることなく、野崎の悲痛な叫びをしっかりと受け止めてくれた。


マネージャー「……実はあのチーフ、これまでも新人の派遣さんや社員さんを、何人も言葉巧みに退職に追い込んでいましてね……。過去には、最短2日で来なくなってしまった新人さんもいるんです。僕たち管理職の間でも、かなり問題視されているというか……非常に扱いにくいチーフでして……」

野崎「……そう、だったんですね」

マネージャー「野崎さんが毎日どれだけ一生懸命頑張っているか、僕は何度もこの学校に巡回に来ていたのでちゃんと知っていますよ。本当に頑張り屋さんな子だな、とずっと思っていました」

野崎「……ありがとう、ございま……す、っ」


マネージャーは一呼吸置き、静かに、けれど真剣なトーンで問いかけてきた。


マネージャー「野崎さんは……これから、どうしたいですか? あなたはまだ20歳になったばかりで本当に若い。この給食という職業に決して縛られなくても、他に何だってできると思います。そのための『退職』という選択をすることを、僕は決して逃げだなんて思いません。……ですが。あなたのように、真面目に仕事と向き合ってくれる素晴らしい新人さんには、会社としては絶対に辞めてほしくない。これが僕の本音です」


その言葉を聞いた瞬間、野崎の胸の奥にくすぶっていた「一番やりたかったこと」の火種が、猛烈に燃え上がった。


野崎「……私は、この給食を作る仕事自体が、本当に好きなんです。給食を届けに行った時の中学生たちの笑顔が、すごくキラキラしていて……。『いつもありがとう』『今日の給食めっちゃ美味しいです』って言葉をかけてもらえるのが、心の底から嬉しくて……! 続けられるなら、私はこれからも給食を作り続けたいです……! でも、あのチーフがいるこの職場では、どうしてもやっていけないんです……。私は、どうしたら……っ!」


溢れそうになる涙を堪える野崎の肩を、マネージャーは両手でしっかりと掴み、その目を真っ直ぐに見つめ返した。


マネージャー「僕が今、野崎さんに提案できる道は2つです。一つは、このまま会社を『退職』すること。そしてもう一つは、別の学校への『異動』です。――僕は、野崎さんのその温かい想いを、あんな理不尽な人間のせいで潰してしまいたくない。僕はあなたに、違う学校へ異動して、もう一度笑って頑張ってほしい!」


閉ざされていた監獄の壁に、目も眩むような光が差し込んだ瞬間だった。


野崎「私……まだ、頑張りたいです。そのための異動なら……ぜひ、お願いしたいです!」

マネージャー「分かりました。その方針で進めましょう。丁度、明日からゴールデンウィーク(GW)が始まります。まずはこの連休の間、精神的にも体調的にも、お家で何もかも忘れてゆっくりと体を休めてください。事務所が連休に入ってしまうので、具体的な異動先の調整には少しだけお時間をいただきますが……」


マネージャーの力強い言葉に、野崎は何度も何度も深く頷いた。

長かった暗闇のトンネルの向こうに、ついに確かな出口が見えたのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ