独白
規則的な音だけが、響いていた。
ピッ、ピッ、と。
命がまだ繋がっていることを示す、機械の音。
白い天井。
白いシーツ。
その中央で——
アカネは、眠っていた。
動かない。
呼吸はある。
だが、目を覚ます気配はない。
「……」
ドアが、静かに開く。
入ってきたのは、一人の少女。
整った立ち姿。
落ち着いた足取り。
——ボルト。
ベッドの横に立つ。
アカネの顔を見る。
少しだけ、目を細めた。
「……思ったより、ひどいわね」
小さく呟く。
指先に、微かな電気が走る。
だが、それを当てることはしない。
ただ、見つめる。
「無理もないか」
静かな声。
「“自分”と殺し合ったんだもの」
椅子に腰掛ける。
足を組む。
しばらく、何も言わない。
ただ——見ている。
「……ねえ」
ぽつりと、話しかける。
「夢、覚えてる?」
返事はない。
当然だ。
それでも続ける。
「あの世界」
「あなたが“アカネ”って呼ばれてた世界」
わずかに、視線を落とす。
「あれ、全部——私よ」
静かに告げる。
まるで、告白のように。
「作ったの」
部屋の空気が、少しだけ重くなる。
「記憶も」
「流れも」
「名前も」
一つずつ、積み上げる。
「全部、私が書いた“警告”」
沈黙。
機械音だけが響く。
「あなたの記憶がないのも」
「000が、何気なくあなたの名前を呼んだのも」
指先に、再び電気が走る。
「全部、繋がってる」
目を細める。
「だって——そうしないと、気づかないでしょう?」
誰にともなく言う。
「この世界が、どれだけ歪んでるか」
立ち上がる。
ベッドに手を置く。
「……あなたは特別なのよ」
優しく。
でも、どこか冷たく。
「生まれたときから」
「“アカネ”って名前を与えられて」
「悪魔を埋め込まれて」
ほんの一瞬。
表情が揺れる。
「……ほんと、最悪よね」
小さく笑う。
自嘲のように。
「でも」
視線が鋭くなる。
「それでも、あんたは選んだ」
「壊す側じゃなくて」
「進む側を」
少しだけ、間。
「だから——」
顔を近づける。
囁くように。
「起きなさいよ」
返事はない。
ただ、機械音が続く。
ボルトはしばらく見つめて——
背を向けた。
「……まだ、時間はある」
そう言って、部屋を出ていった。
---
暗い部屋だった。
光は最低限。
機械の音だけが、規則的に響いている。
その中央に——高宮は立っていた。
「……来たか」
声がする。
振り向く。
そこにいたのは——村上。
穏やかな笑み。
だが、その目は冷たい。
「話は聞いているよ」
ゆっくりと歩み寄る。
「君はもう、“普通”には戻れない」
断言だった。
高宮は、何も言わない。
「でも」
村上は続ける。
「それは悪いことじゃない」
一歩、距離を詰める。
「むしろ——選ばれたということだ」
静かに、囁くように。
「力が欲しいんだろう?」
その言葉に。
高宮の指が、わずかに動く。
「全部、終わらせるための力」
沈黙。
やがて——
「……あるなら」
小さく呟く。
「寄越せ」
迷いはなかった。
村上は、満足そうに笑う。
「いいね」
手を上げる。
機械が作動する。
低い音。
空気が変わる。
「ただし」
その中で、村上が言う。
「一つだけ、忠告しておく」
視線が鋭くなる。
「人間では、いられなくなる」
間。
高宮は——
「……知ってる」
それだけ言った。
もう、引き返す気はない。
「なら問題ない」
村上が頷く。
「これは——」
装置が起動する。
黒い光が、高宮を包む。
「死神の魔法少女」
低く、告げる。
「死んでも動き続ける存在だ」
光が強くなる。
体が軋む。
骨が鳴る。
それでも——
高宮は叫ばない。
ただ、耐える。
「……いい顔だ」
村上が笑う。
「そのまま壊れていけ」
光が弾けた。
---
静寂。
煙の中から——一歩。
足音が響く。
現れたのは、高宮。
だが、その姿は——もう違う。
傷だらけの体。
だが、再生している。
ゆっくりと。
確実に。
「……これが」
自分の手を見る。
震えはない。
痛みも——ない。
「いいだろう?」
村上が言う。
「どれだけ壊れても、止まらない」
高宮は、何も言わない。
ただ——
一歩、踏み出した。




