表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女の末路は、死か、悪魔か。~壊れていく正義をたどって~  作者: mr.iwasi
第二章「再生編」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/19

電撃

 鉄の匂いがした。


 湿った空気。


 閉ざされた空間。


 地下収容所。


 高宮は、柵の前に立っていた。


 その向こう側。


 椅子に座る一人の男。


 000。


 ——榊原誠。


「……来たか」


 静かな声だった。


 高宮は答えない。


 ただ、睨む。


「……一つ聞く」


 低く言う。


「アカネは、何なんだ」


 間。


 わずかな沈黙。


 榊原は目を閉じる。


 そして——


「実験体だ」


 あまりにもあっさりと、答えた。


 空気が凍る。


「……は?」


「14年前」


 淡々と語り始める。


「私の妻、亜希子が子供を産んだ」


 高宮の眉が動く。


「それが——アカネだ」


 その事実に、言葉が詰まる。


「だが、その直後」


 声が少しだけ低くなる。


「組織が介入した」


 柵越しに、視線が交わる。


「人体実験だ」


 短く。


 冷たく。


「アカネの体内に、“悪魔”の因子が植え付けられた」


 沈黙。


「……悪魔?」


 高宮が絞り出す。


「そうだ」


 榊原は頷く。


「ディストラクションデビル——崩壊の悪魔」


 その言葉が、重く落ちる。


「そんなもの……なんで」


「必要だからだ」


 即答だった。


 感情はない。


 ただの事実。


「……ふざけんな」


 高宮の声が震える。


「子供だぞ……!」


「だからだ」


 言葉が被さる。


「悪魔は、どこから生まれると思う?」


 問い。


 高宮は答えない。


 榊原が続ける。


「子供の“悪夢”だ」


 静かな声。


 だが、その内容は重い。


「虐待」


「いじめ」


「戦争」


 一つずつ、言葉を落とす。


「そういったものを受けた子供の中で」


「悪夢が形になる」


「それが——悪魔だ」


 空気が、重く沈む。


「……そんなものが……」


「現実に出てくる」


 言い切る。


「人間が存在する限り、悪魔は消えない」


 高宮は何も言えない。


 理解が、追いつかない。


「それを制御するための計画が——」


 榊原は、ゆっくりと告げる。


「Project Cicadaだ」


 その名前が、響く。


「悪魔を取り込み」


「増幅し」


「制御する」


 一つ一つ、積み上げるように。


「その力を、人間側に持たせる」


 沈黙。


「……狂ってる」


 高宮が呟く。


「そうかもしれないな」


 榊原は否定しない。


「だが、それでも必要だ」


 視線が鋭くなる。


「世界を維持するためにはな」


 高宮は歯を食いしばる。


「じゃあ、魔法少女は……」


 声が低くなる。


「何なんだよ」


 その問いに。


 榊原は一切の迷いなく答えた。


「試作品だ」


 その一言で、全てが崩れる。


「量産型魔法戦士——トルーパーを完成させるための」


「データ取り」


 静寂。


「使い捨ての駒だ」


 完全な断言。


 そこに情はない。


「……っ」


 高宮の手が震える。


 理解したくない。


 でも——理解してしまう。


「アカネは」


 榊原が続ける。


「その中でも特殊だ」


「悪魔の因子を内包した“オリジナル”」


「言わば——核だ」


 その言葉に。


 高宮の目が変わる。


「……じゃあ、あいつは」


 掠れた声。


「最初から……」


「人間ではいられない」


 榊原が、静かに言った。


 沈黙。


 長い、長い沈黙。


 その中で。


 高宮の中で、何かが壊れていく。


「……そうかよ」


 ぽつりと呟く。


 顔を上げる。


 その目には、もう迷いはなかった。


「なら——」


 一歩、下がる。


「壊すしかないな」


 その言葉に。


 榊原の目が、ほんのわずかに揺れた。


---


 その頃。


 アカネは、自分自身と対峙していた。


 黒い自分。


 黒い悪魔。


 それは——


 誰でもない。


 自分の中から生まれたもの。


 恐怖も。


 絶望も。


 壊した記憶も。


 全部。


 そこにあった。

 黒と黒が、真正面からぶつかる。


 限界は、とっくに越えている。


 それでも——


「……まだ……!」


 アカネは立っていた。


 膝が震える。


 視界が滲む。


 呼吸も、まともにできない。


 それでも、前を見る。


 目の前にいるのは——


 自分自身。


「……そこまでして」


 黒いアカネが、静かに言う。


「何を守るの?」


 問い。


 答えは、すぐには出ない。


 でも——


「……分からない」


 正直に言う。


「分からないけど……」


 一歩、踏み出す。


「それでも、ここで止まったら——」


 声が震える。


 でも、消えない。


「全部、終わる気がする」


 沈黙。


 黒いアカネが、わずかに目を細める。


「……やっと言ったね」


 小さく笑う。


「それでいい」


 空気が変わる。


 重圧が、一気に増す。


「じゃあ——終わらせようか」


 力が収束する。


 黒い渦。


 全てを飲み込むような圧。


 アカネも、力を集める。


 限界以上に。


 壊れる寸前まで。


「……っ!!」


 体が悲鳴を上げる。


 それでも止めない。


 止められない。


「いくよ」


 黒いアカネが呟く。


「——ダークカタストロフ・ジ・エンド」


 同時に。


「——オーバーディストラクションブレイク!!」


 衝突。


 世界が、白と黒に裂ける。


 音が消える。


 時間が止まる。


 全てが、引き裂かれる。


 そして——


 崩壊した。


---


 地面に、倒れていた。


 体が動かない。


 何も感じない。


 ただ——


 かすかに、息がある。


「……は……」


 視界が、ぼやける。


 目の前。


 黒いアカネが立っていた。


 だが——


 輪郭が崩れている。


 ノイズのように揺れる。


「……はは」


 小さく笑う。


「ここまでか」


 ゆっくりと、崩れていく。


「でもさ」


 最後に、こちらを見る。


「これで終わりじゃないよ」


 その言葉が、残る。


「私は——」


 指先が消える。


「ずっと、お前の中にいる」


 完全に、消滅した。


---


 静寂。


 風の音だけが残る。


 アカネは動けない。


 ただ、空を見ていた。


「……生きてる……のか……」


 意識が、遠のく。


 そのまま——


 闇に落ちた。


------------------------------


 警報が鳴り響く。


 警視庁。


「未確認生命体、多数出現!」


「各員、出動準備!」


 慌ただしく動き出す。


「対象地域——市街地全域!」


 その中で。


 上条は静かに装備を手に取る。


 黒い装甲。


 重量感のあるスーツ。


「……これが」


 小さく呟く。


「GHG3か」


 装着。


 ロック。


 機構が作動する。


 身体能力が引き上がる感覚。


 呼吸が、安定する。


「……行くぞ」


 短く言って、走り出す。


---


 街。


 既に戦場だった。


 異形の存在——未確認生命体が暴れ回る。


 破壊。


 悲鳴。


 混乱。


 上条は躊躇なく突っ込む。


 殴る。


 撃つ。


 倒す。


 一体。


 また一体。


 確実に処理していく。


「……まだいるか」


 息は乱れていない。


 だが——


 次の瞬間。


 気配が変わる。


「……っ!」


 振り向く。


 そこにいたのは——


 一体だけ、明らかに異質な存在。


 大きい。


 重い。


 圧が違う。


「……こいつは……」


 構える。


 だが。


 次の瞬間。


 見えなかった。


「——っ!?」


 衝撃。


 体が吹き飛ぶ。


 地面に叩きつけられる。


 装甲が軋む。


「……ぐ……っ」


 立ち上がる。


 だが、間に合わない。


 影が迫る。


 巨大な腕が振り下ろされる。


「……くそっ……!」


 防御が間に合わない。


 終わる。


 そう思った、その瞬間——


 閃光。


 電撃。


 視界が弾ける。


 轟音。


 未確認生命体が、吹き飛ぶ。


「……は……?」


 上条が顔を上げる。


 そこに立っていたのは——


 一人の少女。


 静かに、佇んでいる。


 整った姿。


 どこか気品のある立ち振る舞い。


 そして——


 指先に、残る電光。


「……間に合ったかしら」


 落ち着いた声。


 まるで状況を全て把握しているような。


 上条が、わずかに目を見開く。


「……誰だ」


 少女は、ゆっくりと振り向く。


 その瞳は、どこか懐かしさを含んでいた。


「元、魔法少女よ」


 小さく微笑む。


「——ボルト」


 その名が、静かに響いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ