表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女の末路は、死か、悪魔か。~壊れていく正義をたどって~  作者: mr.iwasi
第二章「再生編」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/21

再生

——これまでのあらすじ


それは、“魔法少女”のはずだった。


正しく、強く、誰かを守る存在。

——そう信じられていた。


だが現実は違う。


その力は、守るものではない。

すべてを壊す、“崩壊”だった。


記憶を失った少女・アカネは、

その事実に触れてしまう。


そして——


物語は、取り返しのつかない領域へと進んでいく。

 白い天井だった。


 どこまでも、無機質な白。


 それを見ているはずなのに、どこか現実感がなかった。


 音が、遅れて届く。


 一定のリズムで鳴る電子音。遠くで誰かが話している声。


 けれど、それらはただの“音”でしかなく、意味を結ばない。


「……っ」


 息を吸おうとして、喉が詰まる。


 空気がうまく入ってこない。


 体が重い。まるで深い水の底に沈んでいるみたいだった。


 指先だけが、かすかに動く。


 震えている。


 どうして——?


 その疑問が浮かんだ瞬間。


 頭の奥で、何かが弾けた。


 黒。


 熱。


 叫び。


 壊れる音。


 そして——


 “終わる”感覚。


「——っ!!」


 体が跳ねる。


 呼吸が一気に乱れる。


 肺が焼けるように痛い。


 見た。


 今、確かに何かを見た。


 でも。


 掴めない。


 思い出せない。


「……ここ……」


 声がかすれる。


「どこ……」


 返事はない。


 ただ、胸の奥に。


 理由の分からない恐怖だけが残っていた。


---


 静かに、扉が開いた。


 足音が近づいてくる。


 規則的で、迷いのない歩き方。


 その音を聞いた瞬間。


 体が、勝手に強張った。


 理由は分からない。


 でも——嫌な予感がした。


「……目が覚めたか」


 低い声。


 落ち着いていて、穏やかで。


 本来なら安心できるはずの声だった。


 なのに。


「……っ」


 呼吸が浅くなる。


 視線を上げることができない。


 見たくない。


 見てはいけない気がする。


 それでも、ゆっくりと顔を向ける。


 そこに立っていたのは、一人の男。


 整った顔立ち。


 無駄のない立ち姿。


 感情を抑えた目。


「そんなに警戒しなくていい」


 男は静かに言う。


「ここは病院だ。君は重傷だった」


 言葉は、理屈としては正しい。


 でも——


 胸の奥がざわつく。


 納得できない。


 何かが引っかかる。


「……名前は」


 男が問いかける。


「覚えているか」


 一瞬、空白が生まれる。


 何も浮かばない。


 はずなのに。


「……アカネ」


 口が、勝手に動いた。


 自分で言っておきながら、驚く。


 その名前に、確信はない。


 でも——しっくりきた。


 男は、わずかに目を細める。


「そうか」


 そして。


「アカネ」


 当然のように、その名を呼んだ。


 心臓が強く跳ねる。


 ——なんで知ってるの?


 その疑問が、言葉になる前に溢れる。


「どうして……」


 声が震える。


「どうして、知ってるの……」


 男は一瞬だけ沈黙した。


 ほんのわずかな間。


 だが、その“間”が——違和感を生む。


「君の記録にある」


 答えは簡潔だった。


 自然な説明。


 でも。


 違う。


 何かが、決定的に違う。


 頭の奥が、ざわつく。


 その瞬間。


 言葉が、溢れた。


「……嘘」


 自分でも分からない。


 なんでそう思ったのか。


 でも、止まらない。


「全部……嘘だ」


 男の表情が、ほんのわずかに動く。


「あなたたちが……」


 息が荒くなる。


 胸が苦しい。


「組織が……!」


 断片が、頭の中に浮かぶ。


 血。


 音。


 倒れる自分。


「……私を、殺した……!」


 静寂。


 空気が一瞬で冷えた。


 男は動かない。


 ただ、じっとこちらを見ている。


「……理解できないな」


 低い声。


「君は今、生きている」


 事実を突きつける言葉。


 否定できない。


 でも——


「……分からない……」


 震える声。


「分からないけど……」


 視線を上げる。


 男を見る。


 そして、確信する。


 ここにいたら、ダメだ。


「……ここ、危ない」


 呟く。


 次の瞬間。


 体が動いていた。


「待て」


 制止の声。


 でも、止まれない。


 点滴を引き抜く。


 痛みが走る。


 それでも——構わない。


 扉へ向かう。


「アカネ!」


 呼ばれる。


 その声に、一瞬だけ足が止まりかける。


 でも。


 振り切る。


 そのまま、外へ飛び出した。


ーーーーーーーーーーーー


 夜の空気が、肺に流れ込む。


 冷たい。


 現実の温度だった。


 足がもつれる。


 視界が揺れる。


 それでも、止まらない。


 止まったら、何かに追いつかれる気がした。


 理由は分からない。


 でも、怖い。


 ただ、それだけで十分だった。


「……っ」


 息が切れる。


 体が限界を訴える。


 その時。


 前方に、人影が立っているのに気づいた。


「……やっと見つけた」


 静かな声。


 初めて聞くはずなのに——


 どこかで聞いた気がした。


 顔を上げる。


 そこにいたのは、一人の少女。


 落ち着いた目。


 冷たい視線。


 そして。


 わずかに混じる——感情。


「……高宮……?」


 自然と、その名前が口をつく。


 少女の目が、わずかに揺れた。


「……覚えてるんだ」


 小さく呟く。


 だがすぐに、表情は消える。


 代わりに浮かんだのは——


 明確な、失望。


「でも」


 一歩、近づく。


「遅いよ」


 空気が張り詰める。


「……なんで」


 アカネの声が揺れる。


「その目……」


 違う。


 知っているはずなのに。


 まるで別人みたいだった。


「……壊れたんだよ」


 高宮は静かに言う。


「全部」


 その言葉に、何かが引っかかる。


 でも、理解できない。


「武装」


 短い言葉。


 次の瞬間、光が弾けた。


 少女の姿が変わる。


 魔法少女。


 だがその姿は——どこか歪んでいた。


 向かい合う。


 アカネと、高宮。


 距離は数メートル。


 それだけなのに——遠い。


「……来なよ」


 高宮が言う。


 その声は、あまりにも冷たかった。


 かつて隣にいたはずの人間の声とは思えないほどに。


 アカネは動けない。


 胸の奥がざわつく。


 目の前にいるのは、高宮のはずなのに。


 知っているはずなのに。


 知らない。


「……なんで」


 かすれた声が漏れる。


「そんな目、してるの……」


 高宮は一瞬だけ、目を細めた。


 だがすぐに、興味を失ったように視線を外す。


「逆に聞くけど」


 一歩、踏み出す。


「なんでそんな顔してるの?」


 風が揺れる。


「何も分かってない顔」


 その言葉が、刺さる。


「……私は——」


 言葉が続かない。


 何も分からない。


 自分のことも。


 この状況も。


 全部。


「やっぱりダメだね」


 高宮が呟く。


「話にならない」


 その瞬間。


 空気が変わった。


 踏み込み。


 一瞬で距離が消える。


「——っ!」


 反応が遅れる。


 衝撃。


 体が吹き飛ぶ。


 地面に叩きつけられる。


 息が抜ける。


「……弱い」


 高宮が静かに言う。


 見下ろす視線には、迷いがなかった。


「これで、よく今まで生きてたね」


 立ち上がろうとする。


 体が重い。


 でも、止まれない。


「……っ」


 力が、漏れる。


 黒い。


 内側から滲み出るように。


 それを見た瞬間。


 高宮の目が、わずかに変わる。


「……それ」


 興味。


 あるいは——警戒。


「やっぱり、持ってるんだ」


 一歩、下がる。


 距離を取る。


 判断が早い。


「……来いよ」


 アカネは、息を整えながら言う。


 怖い。


 でも。


 逃げたくない。


「壊すかもしれないけど……」


 視線を上げる。


「それでも——止める」


 一瞬。


 沈黙。


 高宮の表情が、ほんのわずかに揺れる。


 だが。


「……遅いよ」


 その感情は、すぐに消えた。


「もう、とっくに」


 構える。


「終わってる」


 衝突。


 黒い力と、鋭い一撃がぶつかる。


 拮抗。


 だが、次第に押される。


「……っ!」


 重い。


 速い。


 迷いがない。


 それが——差だった。


「それで守るつもり?」


 高宮の声が届く。


「そんな力で?」


 弾き飛ばされる。


 転がる。


 視界が揺れる。


「……やめろ」


 アカネは呟く。


「それ以上……」


 立ち上がる。


 足が震える。


「壊れる……」


 その言葉に。


 高宮は、ほんの一瞬だけ止まる。


「……壊れる?」


 小さく、繰り返す。


 そして。


 笑った。


「もう壊れてるよ」


 その言葉は——確定だった。


ーーーーーーーーーーーーーー


 暗い部屋。


 通信が繋がる。


 映し出されるのは、顔の見えない“本部”。


「魔法戦士が完成した」


 000が淡々と言う。


「だが一つ、問題が発生した」


 わずかな間。


「オリジナルの魔法少女、アカネが反乱分子となった」


 沈黙。


「ほう」


 本部の声が返る。


「Project Cicadaに支障は?」


「問題ない」


 即答だった。


「この件は、私が対処する」


 その時。


「その必要はない」


 別の声が割り込んだ。


 室内の空気が変わる。


 一人の男が、ゆっくりと歩み出る。


「彼女が何かを知っている理由は明白だ」


 穏やかな声。


 だが冷たい。


「彼女の中の“悪魔”が影響している」


 視線が、000へ向く。


「つまり、放置すれば不確定要素になる」


 微笑む。


「排除、あるいは利用」


「どちらかだ」


 その男の名は——村上。


ーーーーーーーーーーーーー


 高宮は、一人で立っていた。


 夜の街。


 戦いの余韻が残る場所。


「……弱い」


 呟く。


 それが誰に向けた言葉かは、分かっている。


 その時。


「強くなりたくないか?」


 背後から声。


 振り向く。


 そこにいたのは——村上。


「アカネを倒すために」


 一歩、近づく。


「そして、それ以上の“何か”に対抗するために」


 高宮は黙る。


 否定しない。


「ただし」


 村上は続ける。


「条件がある」


 視線が、真っ直ぐ向けられる。


「組織に服従すること」


 そして。


「人間ではいられなくなる」


 沈黙。


 風が吹く。


 長い、長い間。


 その後。


「……関係ない」


 高宮は答えた。


「勝てるなら」


 それだけだった。


ーーーーーーーーーーー


 アカネは歩いていた。


 知らない街。


 知らない景色。


 でも——どこかで見た気がする。


「……私……」


 立ち止まる。


 分からない。


 夢以外、何もない。


 自分が誰かも。


 何をしてきたのかも。


 その時。


 すれ違う。


 一人の男と。


 足が止まる。


 振り返る。


 そこにいたのは——


 000。


「……」


 男は、一瞬だけこちらを見る。


 そして。


「You've grown so big.」


「組織を裏切った君は」


 静かな声。


「まもなく削除対象となる」


 空気が凍る。


「……っ」


 言葉が出ない。


 その時。


 背後から、気配。


 振り向く。


 そこにいたのは——


 黒い影。


 デビルアカネに似た、異形。


「……また……!」


 反射的に、力が溢れる。


 変身。


 黒い力が体を包む。


 衝突。


 互角。


 いや——


「……くっ!」


 押し切れない。


 同じ。


 いや、それ以上。


「……逃げるのか」


 視線の先。


 000が、離れていく。


 その背中に向かって。


 アカネは叫ぶ。


「それでも父親かよ!!」


000は答えない。


鮮明な声が、夜に響いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ